あきつ丸は微動だにせず霞のことをじっと見つめ続けている。どれだけ眠るのかが気になっているのだろうか。二度寝した霞は大体夜まで起きず、更に演習の疲労もあるので滅多なことでは起きないだろう。
「時間がかかりそうでありますな。」
「日を改めてみては?明日ならきっと大丈夫ですよ。」
「それはできかねるであります。自分にも面子というものがあるのであります。」
相当面倒だ。相手が引くことは絶対ないだろう。もう夕方なのだが、霞も起きず、あきつ丸は仕事を放棄して帰るような艦娘ではないため、心を休める時間はこちらにはない。
「ん…」
「む?」
一回声を上げた霞に反応し、少し身を乗り出す。しかし、目を開くことはなくゆっくりと身体を引く。
「一応お聞きするでありますが、霞はこんなにも眠る艦娘でありましたかな?」
「うちの霞はよく寝るんです。」
「失礼を承知で言うでありますが、起こしていただいても?」
「起きるかは分かりませんけど…まあやってみますよ。」
霞の顔の前にしゃがみ、頬を突く。顔を顰め始め、不機嫌そうな声を出して寝返りを打たれた。こちらとしては起きてもらわないと困る。可哀想なのであまりやりたくはないが、いつまでも霞の寝顔を見続けられるのもいい気はしない。
「霞、お客さんですよ。」
そう声をかけても、毛布を引っ張り、更に寝続けようとする。
「…本気で起こすので一旦退室してもらえますか?」
「お盛んでありますな。」
「な訳ないでしょう。いいから出てください。」
顔色一つ変えずにデリカシーのない発言をされ、少し苛つく。風紀を乱しているのは、この瞬間に限り彼女なのではないか?しかし、そんなどうでもいいことを考えている暇はない。今は霞を起こさなければ。毛布を思い切り剥ぎ取り、ぎゅうと頬をつねりあげる。
「いた…あれ、司令官。」
「お客様がきていますよ。」
しばらく硬直してからじわりじわりと現実に意識を戻している。そして、ようやく意識をはっきりさせ、飛び起きた。
「えっ!だ、だれ!?今待たせてるの!?」
「もちろんですよ。大体一、二時間ですかね。」
「そんな…やだ、失礼なことしちゃった。なんで起こしてくれなかったのよ…」
「起こしても起きなかったのはあなたですから…」
しっかり起きれたならもう呼んでもいいだろう。
「どうぞ。起きましたよ。」
「ドアの前にいたの!?な、え!?」
「失礼するでありますよ。霞殿とお話ししたいと思ったのであります。」
「あ…えと、私でよければ…?」
いまいち状況は読めていないようだ。一応この場からは離れた方が、あきつ丸にも何か騙されているなどとは疑われないだろう。
「終わったら呼んでもらえますか?」
「了解したであります。」
「えっと…?」
「では。」
部屋から出た瞬間に呼ばれたような気はしないでもないが、一旦無視して司令室に行く。霞に構えない間に仕事をするのが一番いいだろう。
「私にお話しって…一体なんのこと…ですか?」
「普通にしてもらって構わないでありますよ。現在各鎮守府の風紀調査をしているので、艦娘や、そこで指揮しておられる提督殿にこうして調査をしているわけであります。」
「なるほど…」
大体わかった。司令官が出て行ったということは、きっと私が司令官に入れ知恵されていないかと疑われないか、若しくは脅されていないと言うことを自然にわかってもらおうという試みか。
「早速でありますが、霞は提督殿とケッコンカッコカリをされているのでありますな。」
「そうだけど。」
「普段の生活に、支障が出るようなことはありますかな?例えば演習や、それ以外の日常生活において、提督殿との過剰なスキンシップがあったりは?」
いきなり踏み込んだことを聞かれる。あまり意識はしていないけれど、別の人から見れば私たちは過剰なスキンシップとやらをしているのだろうか。瑞鶴からはたまにやんややんやと野次を飛ばされるけれど、私はあまり気にしていない。
「特に何も…」
「なるほど…では、質問を変えるであります。曙と加賀のはめていたケッコンカッコカリの指輪は、提督殿と結ばれたものでありますか?」
「いえ…あの二人のもので…」
そんなことを聞いてどうするつもりなんだろう。意図が読めないし、感情の変化がわかりづらい顔をしているからどうにもやりづらい。返答を聞いたら無表情でメモを取るだけだし、何がしたいんだろうか。
「なかなか類を見ない例でありますな。艦娘同士でのケッコンカッコカリとは…正常に機能しているのであれば問題はないでありますが。」
やっぱりわからない。それを聞いたから、風紀に何か影響でもあるのかと思う。
「ふむ…。」
バインダーを閉じ、一つ頷く。もう終わったのかもしれないけれど、不安は残る。私の答えで司令官に何か問題ありと言われたらどうしよう。
「問題はなさそうでありますな。では、自分はこれにて失礼するであります。」
「あ、そうなの?」
「…聞かれてやましいことでもありますかな?それとも、本当は何かされているでありますか?」
「や、そうじゃなくて…」
「ともかく、自分の仕事はこれで終わりであります。」
そう言って、さっさと帰ってしまった。