先ほどまで各々が思うように会話していたところ、それが全て中断され、歓迎モードに移る。ガヤガヤとした雰囲気に、少し遅れて到着した小鳥遊提督がピシャリと遮る。
「お前たち。まずは補給や艤装の点検をしてこい。大丈夫。この人は逃げないから。」
文句を垂れながらも皆がその一言に従う。
「彼女たち、元気はいいんですがこういうところがあるんですよね。興味が出たものに真っ直ぐというかなんというか…。」
「私が勤めていたときもこんな感じでした。ところで、私とあなたは今血縁者の設定なんですよね?敬語を使ったら怪しまれてしまうのでは?」
「ああ、確かに。」
「吹雪に接していたようにしてください。別に私はあなたの直接的な上司でもありませんし。なんなら同僚ですからね。」
「なら遠慮なくいかせてもらおう。正直、こんな堅苦しい喋り方は苦手だからな。」
「ふむ。やはりお互い素で会話するのが一番です。」
「あんたは素でも丁寧なんだな…。疲れたりしないのか?」
「疲れるなんて、そんなことありません。ただこういう喋り方に慣れただけですから。」
「提督。用事は済ませたからその人とお話ししてもいいでしょ!?」
「ああ。構わん。ただ、あまり意地悪してはいかんぞ。」
「わかってるわよ!」
「ふむ。なら安心だな。じゃあ執務に戻るから何かあったら呼ぶといい。」
「はーい!」
「さて、少し邪魔されちゃったけど私は暁よ!」
「はい。よろしくお願いしますね。」
胸を張っているその姿は、彼女の言うレディーというよりも、子犬のようなそれを感じる。勝手に手が動いて、頭を撫でてしまう。
「ちょっと!子供扱いしないで!私は立派なレディーなのよ!」
「あ、すみません。つい。」
「落ち着きなさいよ。立派なレディーなら怒ったりしないんじゃないの?」
「だってぇ。」
「はあ。よろしく。私は叢雲。」
「はい。よろしくお願いします。」
見知った顔が多く、しばらく見ないうちに、みんなが成長していることがよくわかる。
「?あなたどこ見て…ああ。霞〜!ご指名よ!」
「私が!?」
無意識に目で追っていたようで、不機嫌そうに霞が向かってくる。
「もう。何怒ってんのよ。」
「別に怒ってないわよ!ただちょっと虫のいどころが悪いのよ!」
「ごめんなさいね。悪い子じゃないの。ちょっと遠征でうまくいかなかったみたいで…。」
「別に気に構いませんよ。元気がいいんですね。みなさん。」
「気にしてないならいいんだけど。」
今目の前にいる霞は、私が好いている霞とは別人であるが、知っている。ただ、目が離せない。邪な感情があるわけではない。彼女と、似ても似つかないその態度に、衝撃を受けているだけである。しかし、すぐにこれが本来の霞ということも理解する。
「霞。気分転換にこの人にここ案内してあげなさいよ。」
「はあ?なんで私が…。」
「ほら、行ってきなさい。」
「わ、ちょ!姉さんまで!」
「…行ってらっしゃい霞さん。」
「霰まで!」
そのまま朝潮と叢雲の2人に押され、再び鎮守府内へ戻る。後ろが何やら騒がしいものの、気にしないことにした。
「…さっきは見苦しいとこ見せちゃったわね。」
「いえ?みなさん、仲がすごくよろしいんですね。」
それほど会話が続かないものの、静かにここを歩き回るのもなかなか乙なものだと思う。
「そういえば、なんで港に来たの?しかも、あんなみんながちょうどいるタイミングに。提督と一緒だったわけじゃないわよね?」
「それは、時雨って子から言われて…。」
「そうなの?じゃあ、なんで一緒じゃなかったの?」
言えない。トラウマを再発させてしまったからなどと。
「いや、急用ができたみたいで…。」
「そう。まあいいわ。なら、それまでにこの辺の説明もされてるはずよね?」
「まあ…」
「じゃあ私の仕事はここまでよ。ここを歩いていけば、軽巡、重巡寮だから。」
「はい。お気遣いどうも。」
少し、ほんの些細な違和感が、身体を這っていった。霞は、上官である私たちを呼ぶときは、『司令官』と呼ぶはずだ。しかし、今の霞は『提督』と呼んだ。心境の変化なのか、それとも私に関することなのか。いずれもわからないが、モヤモヤする。