「今日はもう帰るのかい?」
「ええ。元々は先ほどの話の事実確認と顔を出しに来ただけですから。ところで、若返った件はどのように説明するおつもりですか?」
「そうだな…わたしがそのまま若返ったことにするより、私の後継とした方が受け入れやすいだろう。実際はわたしのままだから指揮に関しては変化ないがね。後、ここに所属する人間には公害しないよう釘を刺しているよ。」
やっぱり事務手続きなんかも面倒そうで、やはり他にはこういった事例はないから色々と難しいだろう。電は今さら焦ったような表情を見せているけれど、時すでに遅し。別に軍曹も気にしていないようだし、結果オーライというやつだろうか。
「ところでだな…」
「はい?どうかしましたか?」
軍曹が含み笑いを浮かべながら座っていたソファの裏から板状の何かを取り出した。それには翔鶴や瑞鶴に似た妖精さんがついている、飛行甲板のようなものだった。
「試製甲板カタパルト…それがどうかしたんですか?」
「ふふふ。これを君にやろうと思ってな。もちろん、ただというわけじゃない。うちの電と君の霞で三回勝負をしてもらう。霞が一勝する毎に一枚だ。三回無事に勝ち切った場合、君の鎮守府に所属している空母全員を第二改装できる分だけ資材をあげよう。どうだ?楽しそうだろう?」
突然何を言い出すんだろうか。目の前の老人…元老人は快活に笑い、まるでおもちゃで遊ぶかのような無邪気さを見せる。艤装は向こうに置いてきてしまったし、今すぐなんて無理だ。司令官は逆に、軍曹と同じような笑みを浮かべて、楽しそうにしている。
「霞が負けた場合、こちらがするべきことは?」
「もちろんないさ。わたしの我儘なんだからな。」
「いつやりますか?」
「今日だ。私の気が変わらないうちに、さっさと終わらせてしまおう。」
「では、車を出してもらっても?」
「ああもちろんだとも。」
「頑張るのです!」
「え…本当にやるの?」
勝手に決定してしまった演習?は私の理解の追いつかないまま、開始が決定事項になってしまった。なんというか、負けたら私に責任があるような気がしてプレッシャーになる。
「ここらにしておくか?」
「ええ…どうもありがとうございました〜。」
「荒潮も強くなったもんねぇ。ね、加賀。」
「ええ。あの長門に喰らいつくとは、駆逐艦としては、相当です。あなたや霞と比べればまだまだですが。」
「あたしらと比べたらそりゃ差も作ってものよ。」
実際、荒潮は相当強くなった。と言っても艦隊を組んで演習したわけではないから本当の強さはあまり正確にはわからないけれど、少なくとも以前とは格段に、それも著しく練度も能力も向上している。
「疲れたわぁ。」
「大丈夫か?」
それと、性能とは関係ないけれど、甘え上手になったような…そう、愛嬌?が増した。構ってしまいたくなるような感じの雰囲気が漂っている。
「加賀は、霞より強くなったあんたから見て、荒潮の伸び代はどう?」
「私はその気はありませんが…しかし、荒潮にこれ以上とは…なんとも言えませんね。細かいところを詰めればより強くはなりますが、やはり霞や曙の方が脅威としては大きいです。何よりケッコンカッコカリによる性能向上が見られない彼女は厳しいものがあるのではと。」
「そりゃケッコンカッコカリがある私たちに比べればアレだけど…他の子と比べたとき。青葉とかいるじゃない。」
「青葉と比べても仕方ありませんが…まあ、あの子も頑張っています。熱意を写真や武蔵以外に向けられれば更に上を目指せるはずです。」
「二人とも〜。何をお話ししてあるのかしら〜?」
「そうだぞ。私たちにも聞かせてもらおう。」
息を整えた二人が艤装を足元に置き、堤防の上に座り込む。釣りをしつつ見ていたあたしにとっては波で魚が逃げてしまう懸念があったから正直いい思いはしない。まあ、待っていればいずれはかかるからいいけど。
「別に。あんたの話。まあ、少しは強くなったんじゃない?あたしに比べたら全然だけど。」
「あらあら…嬉しいわね〜。」
改めて戦争中とは思えないような雰囲気の会話の後、一台の大きな車が鎮守府正門に停まったのが見えた。中からクソ提督と霞。それから歳の割には貫禄のある男と見覚えのある電が降りて、四人で鎮守府に入って行った。霞がいるなら別におかしな輩ではないと思い、また海に目を下ろした。