海上に立ち、改めてこれから目の前の電と戦闘することを理解する。電が実際どれくらいの強さか知らない以上、下手な動きは返って状況を悪くするだけ。なら、一旦は様子見をするのがいい。それと、この演習に開始の合図はない。お互いが動き始めたら開始の合図。
「では、よろしくなのです。」
電の一番最初の動きは、深いお辞儀だった。あまりに拍子抜けな行動に一瞬面食らったものの、こちらも礼で返す。電は、私が顔を上げるまでじっと立って待っていて、それからゆっくりと砲を構え、動き出した。おそらくはあまり最近戦闘をしていなかったであろう動きに、若干の怪しさを感じつつ、やはり主砲の撃ち合いから始まる。確実に当たるような正確な射撃は、しかし冷静に避ければ問題ない。そして、相手が弾薬の装填を行なっている間に、私も撃ち込む。これも、やはり避けられる。お互いに付かず離れずの距離感のまま睨み合いが続く。痺れを切らして動き出した方が狩られることは分かり切っているので、どちらも下手には動かない。かと言って自由に走らせるのは面白くないので、主砲による牽制は止めない。ふと、雲の切れ目から一瞬。ほんの一瞬だけ差し込んだ光が海を反射し、私の目に入り込んだ。思わず目を閉じ、速力が若干下がって、バランスが崩れかけた。そして、主砲の音が一つだけ響いた。その少し後、右肩に衝撃が走った。被弾。それも、かなりいいところに。
「っつ…やるじゃないの。」
「霞ちゃんもなのです。」
電は、天気まで味方につけて戦闘してくるらしい。それか、私の隙を窺っているとき、偶々偶然そうなったのかは知らないけれど、取り敢えず長時間戦うのはおそらく不利になる。早期決着をつけなければ。そう思った瞬間、無線が入った。
『そこまで。まず、こちらの一勝だ。長くなりそうだからな。二本目までは一度攻撃を当てれば勝ちとし、最終戦は轟沈判定までやってもらう。』
「んな…そんなの聞いてないわよ!」
『おっと、口の聞き方には気をつけたまえよ。私は気にしないが、他のものにすれば、とんでもないことになる。それに、このルールは君の提督も同意したんだ。』
無性に悔しさが湧いてくる。なぜ、目の前の駆逐艦程度に様子見なんてしたのだろう。最初から本気で沈める気で行けばよかったと、今更後悔している。上官の気を立てるなんて偶然であっても絶対に嫌だ。早く、早くアレを潰してこんな茶番を終わらせよう。
「霞の雰囲気が変わっていないか?」
「あの子は負けず嫌いですからね。今ので火がついたんでしょう。下手したら電、沈みますよ。」
「そうなれば君も霞もどうなるかわからんが?」
「別に…霞が原因で起こることなら本望ですから。さ、始まりますよ。」
「…まったく。君も相当だな。」