すぐに補給を済ませ、二回目が始まった。電は依然余裕を持っていたが、霞の目と気迫は全く変わっていて、沈めてしまうんじゃないかと思うほどだった。私も同意したとはいえルールが突拍子もなく決められるとなれば、穏やかではいられない。そんなもの、すぐに変更されて仕舞えばそれまで積み上げたものは無意味になるのだから。
「なあ、霞は大丈夫なのか?」
「いえ。穏やかではいられませんよ。あの子は。」
「随分落ち着いているな君は。」
「電が羨ましいくらいですよ。今の彼女は実に美しい。」
「君は変わっているな。」
「お褒めいただき光栄です。」
軍曹殿がため息を吐き、再び二人に目を移した。私も素晴らしい光景を見逃さないため、改めて見直した。霞の攻めは依然として丁寧で、かつ繊細だった。しかし、内に秘める荒々しさは隠しきれず、まるで深海棲艦のような憎悪に巻かれたオーラを放っている。電はそれを、ギリギリではあるが受け流す。しかし反撃の余地はない。
「電が一方的になるなど彼以来だな。」
「彼とは…?」
「柳田だよ。ほら、わたしたちが君のところに攻め入ったことがあっただろう。そのとき大量の駆逐艦を足止めしたのが彼。電は全く歯が立たなかったらしい。」
「ああ…彼は強いですかね。」
「君も大概…いや。いいか。」
なぜか歯切れが悪くなった軍曹を見て、ふと疑問が湧いた。
「見たところ三十代ですが、一体いくつで海軍に入隊されたのですか?」
「それか。前も話したと思うが、わたしには仲のよかった同期が何人かいたんだ。それまでは普通の農家だったりをしていたんだが、彼らに誘われてしまってな。提督なんて面白そうなもの、やらないわけにはいかんと。ある程度稼げていたから畑も家庭も手放すのは惜しかったが、結局は押し切られてしまってな。」
「家庭?ご結婚なされていたのですか?」
「そうだな。今はバツイチというやつだ。女房は軍というやつを毛嫌いしていたから、子供と家を持っていかれてしまった。まだ小さかったが、芯のある子達だった。今はどこかで元気にしているだろう。」
その目は特段気にする様子もなく、未練もないとでも言いたげな、淡白な目だった。てっきり独身のまま…ケッコンカッコカリ止まりでいる珍しい老人だとばかり思っていた。
「なるほど。」
「そうだ。それに、今は電と結婚もしている。寂しい男ではない。」
「カッコカリのシステムはそこから?」
「そうだなぁ。着想は確かにそこからだが、実際、君のように艦娘に心酔して肉体関係を持ちたがる者もいる。仰々しい名前にしておけば、提督自身も気が引き締まると思ってな。それに、わたしはカッコカリではない。」
「…はい?」
「何か質問でもあるのかね?」
一言だけ信じられないような、とんでもないことを聞いた気がしたが、一旦置いておく。
「…ええと…なぜ軍曹なのですか?今までは確かに『軍曹殿』とは呼んでいましたが、実際軍の一番上の存在が軍曹とは…」
「だめか?別に、わたしが一番偉いんだ。階級なんてものは、好きに変えればいいんだ。軍曹という響き。これが気に入った。永遠にわたしの階級としたい。なら、制度を変えてしまえばいいんだよ。わかったかい?」
そう話す男の目には何も映っていなかった。どこまでも黒く暗く、なぜそうなったのかもわからないようなその目に、それ以上の言及はいけないと警鐘を鳴らす本能に従う他なかった。
「ふん。それに、今はいないが、当時のジジイ連中が勝手にわたしを押し上げたんだ。好き勝手させてもらわんとな。」
気づけば異常な目は光を取り戻し、文句を垂れ流しながら地団駄を踏み、訳がわからない。一先ずは怒らせては危険だと言うことはわかった。
「ん?終わったようだな。お、霞の勝ちらしい。よかったな。」
二人に目を向けると、未だ闘志の尽きない霞の目と現状を理解できていなさそうな電が並んで帰ってくるのが見えた。素晴らしいタイミングに助けられた。
「おめでとう。一枚プレゼントだ。」
「…このまま二枚目も貰います。」
「言うじゃないか。」