目の前の邪魔なモノをまず潰す。負けることと彼を悲しませることは最も嫌いだ。自分で自分を許せなくなる。どんな手を使っても電を倒し、彼に勝利を届ける。勝つ。勝つ。勝つ。それ以外は、何もいらない。それに、徹底的にやって仕舞えばいい。誰の艦娘だろうと関係ない。動けなくなるまで完膚なきまで叩き伏せれば誰も起き上がらない。文句のつけようのない勝利が。ただそれだけのために海に立っている。開始の合図なんていらない。動き出せばそれが合図。弾薬は貴重。だけどそんなものを考えていてはやつを叩きのめすことはできない。主砲だろうと魚雷だろうと爆雷だろうと。そのどれも無くなってしまっても戦えばいい。特攻を仕掛けてでも勝たねば。それ以外に望むものはない。まずは爆雷をあれの目の前に投げつけ、主砲で撃ち抜く。簡単な目眩し程度だが、ないよりはマシ。あわよくば目でも閉じれば万々歳。その隙に潜水し、海の中から追い詰める。上はよく見えないけれど、影としては辺りを見回しているのが見える。ある程度深いところを潜っているから見えないのは当然。すぐに近寄り、履いている艤装を片方魚雷で爆破する。すぐに体勢を崩し、膝をついたのが見え、その時に目があった…ような気がする。でも、そんなのは関係ない。演習用なのだから、沈むことは万が一にもあり得ない。もし怪我をしてもうちの入渠ドックに入ればすぐに治る。こちらに爆雷を投げようとした手が見え、すぐにもう一本魚雷を放って離れた。電もそうしようと試みているのはわかったけれど、やはり機関がやられているからか動けないようで、爆雷を投げて魚雷と誘爆させ、勢いを相殺させた。なかなかやるんじゃないか?そろそろ息も苦しいので、浮上する。髪から滴り落ちる塩水が鬱陶しいが、放っておく。どんな動きをするかわからないものから、そう易々と視線を離せる訳がない。そして、電が、私に一言言おうとした。だから、主砲で背負っている機関部を撃ち抜いた。当然大破判定となり、倒れた。だが、まだ終わっていない。魚雷を取り出し、直接当たるように投げた。見事命中し、完全に沈黙した電を担ぎ、司令官と軍曹の元へ帰る。私の勝ち。その事実は変えようがない。
「…おい。どう言うことだ。」
「流石にやりすぎです。」
帰ったら、二人から相当な剣幕で怒られた。電は偶々釣りをしていた曙たちに任せて、私は艤装を下ろして二人の前で体を一つも動かさずに立っている。
「なぜ、動かなくなった電に追撃した。」
「…」
「言え。」
軍曹からの怒りは尤もであり、私に反郎の余地はなく、当然司令官も擁護はしない。ただカッとなったからと言えばそれまでだが、それで納得してもらえるような甘い問題ではない。子供のケンカとは訳が違う。そう言う、軽いものではない。
「どうなんだ?」
「…頭に血が登りすぎて、引き際を考えられませんでした。」
以降、軍曹も司令官も、何も言わなかった。ただ私のことを見つめるだけ。海水に濡れ、無様に立ち尽くす私のことを無言で、圧力すらもかけずに静かに見つめるだけ。
「ああ。わかる。突然勝ち負けの判定を決められては、君も納得いかんだろう。しかし、これは引き際以前の問題なんだ。まして、血が登ったなどと言う君個人の理由で、彼女を害したと言う事実にわたしは怒っているんだ。」
「…はい。」
改めて、ことの重大さを知る。もちろん許されることではない。下手をすれば軍曹によって始末されていただろう。それでもこうして説教止まりで済んでいるのは、軍曹の温情なのだろうと思う。次はない。
「提督さん。電。戻ったのです。」
「おお。大事ないか?」
「はい。それより、もう一回…」
「…は?」
「久しぶりに…ふふ。血が滾ったのです。そして、なぜお二人は霞ちゃんのことを怒っているのです?さっさと次に行くのです。」
そう言って、電が私の手を引く。いつの間にか直った艤装を抱え、再び海に立つ。
「待て電…」
「またないのです。それと、提督さん。手出しは無用なのです。久しぶりに全力でやるのです。カタパルト以外も…用意しておくのです。」
「少しは休憩をしてはいかがですか?あなたが良いとしても、霞も疲労は溜まっています。それと、軍曹殿の話も、まだ終わっていません。」
電が小さく舌打ちをし、振り返った。一瞬だけ見えた目が、どこか恐ろしかった。
「いいから黙って私の言うことを聞いておけばいいのです。わかったら…二度と口開くんじゃねえ。」
「さ、霞ちゃん。もう一回やるのです!」
怖い。切り替えが早すぎて、先ほどの気迫はとうに消えて、無邪気に笑って私の手を引いてくる。二人の方を見たら、司令官はすっかり萎縮して、軍曹は顔を手で覆っていた。いつの間にか立たされた海上で、満面の笑みで宣言される。
「さっきみたいに、全力でかかってくるのです!もう油断はしないのです!」
本気で、頭に『死』という字が浮かんだ。
「…どうしたんです電は。」
「わたしにもわからん…あんな顔、一度も見たことがないぞ。」
「ええと…霞の処遇はどうなさいますか?」
「そんなのもあったな…不問にしておこう。電がいいと言ったんだ。本人が納得したなら、もういいだろう。これ以上問題にしたら、今度はこちらの命がなさそうだ。」
「そうですねぇ。」