結局空が暗くなってから終わった二人の演習は電の勝ち越しで終わり、霞は疲労困憊だった。帰ってくるなり一言も喋らずにこちらに寄りかかって来るとは。
「お疲れ様でした…」
「ええ!とっても楽しかったのです!」
「ん…ああ。終わったのか。お疲れ様。」
と、眠っていた軍曹殿も目を覚まし、背筋を伸ばした。
「提督さん。カタパルトと設計図と戦闘詳報。それに、各兵装資材をありったけ用意して欲しいのです。」
「…どうしてだ?」
あたりは真っ暗で霞の探照灯の明かり以外は殆ど何も見えていないが、声色的にきっと真っ青になっていることだろう。
「この鎮守府にカタパルトは何枚もいらないのです。それに、霞ちゃんは私に何度も勝ったのです。それ相応のお礼は必要なのです。」
「いえ…あの、そんなには…」
「送らないと私、離婚しちゃうのです!」
「それ…は…」
思い切り膝をついたであろう音が聞こえ、同時に絶望を孕んだ声で弱々しく唸っている軍曹殿は完全に尻に敷かれた旦那のそれだった。しかし、軍のトップとして、そんな暴挙に出れば反感を買ってしまうので、どうするかを思案している。
「そうだな。うむ。ここに所属する艦娘の分だけ送らせてもらおう。なに、遠慮はいらんさ。だから受け取ってくれたのむ。」
「わかりました。しかし大和型の二人も…」
「いやぁ!構わんよなあ電!なあ!」
「ふふふ。遠慮なんていらないのです。提督さんもこうおっしゃっているのです!」
どうしようか。受け取りを拒否すれば軍曹殿が撃沈してしまう。しかし、受け取るのも気が引ける。そもそも一番最初に出されたカタパルト自体そう簡単に手に入る代物ではなく、面倒な任務をこなしてからでないと手に入れることはほぼできない。しかし…
「返答が遅いのです。」
「っ…!頼む…」
こう頼まれると受け取らざるを得ない。昔の自分が必死で任務をこなして手に入れたものが簡単に手に入る罪悪感はあるが、大の大人に頭を下げさせている事実で了承してしまう。
「わかりました…わかりましたから。」
「そ、そうか。では明日、郵送させてもらう。」
「OKなのです。では、私たちはお暇するのです。霞ちゃん、またやりたいのです。」
「…また今度。」
昼食も食べずに戦い続けていた霞にとって夕飯は格別なものだろう。勢いこそないが、食べる量は若干いつもより多い。
「えー…今後は気をつけましょうね。」
「…うん。」
今の彼女に怒る気にはなれない。それに、もう身をもって理解しただろう。頭を撫でても特に反応が返ってこない辺り、相当参っているらしい。
「Heyテートクー。窓から見てたけどサー、何事ネー。」
「霞が負けるのは初めて見たぞ。」
「それに可哀想なくらい疲れているじゃない。」
いつもの戦艦トリオがやってきて、事情を聞きに来る。演習自体は暇さえあれば頻繁に行なっているが、それでも霞が負けたことはないらしい。それだけにインパクトも相当なものだろう。私自身、改二を済ませた霞が負けているところは一度も見たことがない。
「ええと…あまり聞かないであげてください。あと…霞のおかげでみなさんにはいいことがありますよ。」
「いいこと?」
「指輪デスカー!?」
「多分違うわよ。」