「どうかしら。あの子たち、喜んでくれるかしら…」
現在妹たち…厳密にいえば複数の同一した存在である妹たちからあらぬ疑いをかけられてしまっている扶桑は、その妹への贈り物を用意していた。彼女は誤魔化すのが絶望的に下手で、そのせいで面倒が伊勢と金剛に降りかかっている。しかし、そんなことが起きているとは知る由もない彼女は、尚もせっせと用意を進める。
「うふふ。これでみんなお揃いね。」
彼女が用意しているもの。別段特別というものでもない。重要なのは、彼女たちが真に喜んでくれるもの。何を渡しても絶対に喜んでくれるという確信があるが、やはり心の底から、忖度なしで喜んでくれるものが欲しい。そうなると少し条件は絞られるが、扶桑にとっては、これは何にも変え難い素晴らしい品だった。そして、用意する物品の数は、自分と妹たちを含めた四つに、今後新たに迎え入れられるであろう仲間たちに向けての五つ。かつてともに戦場へ赴いた彼女らと数が同じだった。
「まだあの子には見せられないけれど…楽しみね。」
部屋の中は少し息苦しく、しかし心地よく、何者も邪魔を許さない特有の空間が出来上がった。未だ見えぬ仲間たちを想い、見上げた空は蒼く澄み渡り、あの時のような重く暗く打ち付ける雨ではなかった。
「ん、ねえ提督さん。」
「なんです?」
「工廠裏に人影だって。二つ。」
「どうせ曙と誰かでしょう。加賀はあり得ませんが。」
「へえ、詳しいんだね。」
「何度か見てますし。」
やはり未だ出て行かない瑞鶴と話をしつつ、同時進行で進める書類は多い。霞は加賀と共に弓道場にいる。少し寂しいが、彼女が見つけた趣味に文句はつけない。寧ろ、素晴らしいじゃないか。立派な趣味を持ったのだ。これほど喜ばしいことはない。
「しかし、無闇に艦載機を飛ばしてはいけませんよ。誤操作で万が一のことが起こったらどうするんです?」
「大丈夫だって!私の艦載機はそんな練度低くないしね。」
どこから来るのかわからない自信を胸を張って教えられる。そういうわけではないのだが、このタイミングで何かあれば、それこそ取り返しがつかなくなる。気を引き締めてもらいたい。工廠とは、鎮守府にとってある種核のようなものだと思っている。弾薬も燃料も、艤装を修理するためのものなどが詰め込まれている。それを、うっかりで失うのは避けたい。
「提督、失礼します。」
「ええ。どうぞ。」
珍しくノックの音が響き、航空戦艦になった大和が入室してきた。一体何事か。後ろが何やら騒がしい気がする。
「その…大変言いにくいことなのですが…」
「提督さん、私なんとなくわかったかも。」
「言霊ってやつですかねぇ。」
大和の後ろから、ゾロゾロと艦娘が出てくる。重巡、軽空母、そして駆逐艦が最も多い。理由は知らないが、通常の建造ではあり得ない艦娘もいる。もっと具体的に言えば、建造では絶対に生まれないはずの子がいるのだ。
「その…大丈夫ですか…?」
「…もういいですよそれくらいは。賑やかになりますしね。戦力の偏りも気になりましたし。」
右から最上、時雨、満潮、朝雲、山雲。そして潮と、その後ろで静かに微笑む鳳翔。瑞鶴の目は輝いている。鳳翔と潮以外はみんな西村艦隊の艦娘である。そして、妖精さんには一つ聞きたいことがあるが、そこはグッと堪えた。
「やあ、僕が最上さ。よろしくね。」
「皆さんのことは存じています。取り敢えずは部屋を用意させてもらいますから、取り敢えず、あなたたちには会ってもらいたい方がいます。」
「わかり〜ました〜。」
山雲の雰囲気は、とにかく掴みづらい。しかし、雰囲気をなんとなく和らげてくれるような感じはする。放送で扶桑と山城を呼び出し、そしてそれを聞いた西村艦隊のメンバーはパッと顔を明るくした。最上は足をバタバタと鳴らし、時雨はどこかを見つめ、嬉しそうに頬を掻く。朝雲と山雲はキャアキャアとはしゃぎ、満潮はどこか物憂げにしている。皆それぞれ、思うところがあるらしい。
「えー…鳳翔さんと潮は、一旦瑞鶴と行動してください。この鎮守府内の案内を頼みます。」
「わかったよ。」
「鳳翔です。ふつつか者ですが、よろしくお願いします。」
「潮…です。よ、よろしくお願いします!」
かつての随伴艦との再会がよほど嬉しいのか、口角は見たことがないくらいに上がっている。うちの中でもかなり強くなったはずの彼女も、やはりこういうところは変わっていない。
「じゃあ行こっか。」
「はい。」
「は、はい!」
潮も鳳翔も、この鎮守府でははそっくりそのまま"潮"と"鳳翔"という艦娘を書き出したようなもので、ここでよく起こる少し違った性格をしているわけではないらしい。
「戦艦扶桑、参りました。」
「戦艦山城。同じく参りました。」
「どうぞ。」
声が二つ分少ないような気がするが、まあ、それだけいたら大変なことになるのはわかっているので、彼女らなりの配慮だろう。そして、その名を聞いた彼女らは、更に興奮を隠せないような熱気を帯びた。