少し広めの部屋だったから、机を囲むようにして全員が座れた。山城二人は遠慮していたけれど、無理矢理扶桑が座らせた。
「で?何を用意してるわけ?」
「満潮…少し、待っていて?」
そう言って、収納から長方形の薄めな木箱が出てきた。蓋を開けた中には白色で少し長めな鉢巻が入っていた。それを、一本一本丁寧に並べていく。みんなが静かにそれを見守る中、三人の山城はどこか納得したような、しかし疑問が残るような複雑な顔をしていた。
「これは?」
「私たち、西村艦隊の印よ。別に、絶対にこれを巻いてというつもりはないの。ただ、持っていて欲しい。これで、離れ離れになっても、私たちは一緒ということよ。」
朝雲と山雲は少し首を傾げて、満潮は小さく「意味わかんない…」と溢すし、最上は反対に目を輝かせて喜んでいる。僕は、少し気恥ずかしい気もしたけど、嬉しかった。
「いいねこれ!僕気に入っちゃった!」
「姉さま…もしかしてこれを…」
「そうよ山城。あなたに秘密にしてたのはごめんなさい。」
「朝ちゃん、山雲に〜巻いてくれる〜?」
「もちろんよ。あとで私にもお願いね!」
「…嬉しいかい?満潮。」
「嬉しいとか…そんなんじゃないし。」
みんなそれぞれ反応を示して、それを見た扶桑はにっこりと笑ってくれる。やっぱり、こういう特別なものをもらうと嬉しいな。
「ね、ここ、探検しようよ!」
「あ、私たちも行く!」
「楽しそうね〜。満姉さんも〜行きましょ〜。」
「えっ!ちょっと!」
最上たちがはしゃいで、急いでこの部屋を出て行った。部屋に残された僕たちは、少しゆっくりすることにした。それに、積もる話もある。
「改めて、久しぶりだね。ただいま。」
「お帰りなさい。時雨。」
「山城も、待たせたね。」
「別に待ってなんか…いえ、また会えてよかった。」
「…私たち、お茶を淹れてきますね。」
そう言うと、艦娘でない山城二人は奥に消えた。少し焦っているような、複雑な雰囲気を醸し出していた。
「ところで、ここの鎮守府の提督は綺麗な人だね。」
「そうねぇ。本当、男の人とは思えないわ。」
「え、提督は男の人なのかい?」
「そうよ?」
「気づかなかったの?」
「いや…髪が長かったし、それに、随分華奢だったから…」
「なら、これも驚くんじゃないかしら。あの人、左腕がないのよ?」
「…え?」
あんまり突拍子もないことを言われたものだから、思考が停止する。全然気づかなかった。本物の腕みたいな動き方だったのに。あの人は、何者なんだろう。
「えっと…まあいいや。また今度、ゆっくり話してみるよ。」
「それがいいわ。」
「姉さま、少し、来ていただけますか?」
「あら、どうしたの?」
山城に呼ばれて扶桑が奥に行く。扶桑の笑みとは対照的な二人の暗く重い雰囲気に妙な哀愁があった。
「時雨、少し来てくれるかしら。」
「あ、うん。いいよ。」
呼ばれるとは思っていなかったから、少し驚いた。隣に座ると、膝をぽすぽすと叩いて、何かを催促された。しばらくなんのことかわからなかったけれど、痺れを切らしたのか体を無理矢理持ち上げられて座らされた。
「ん?山城?何を…」
「いいの。少し、こうさせて。姉さまが見ていないうちに、あなたを労ってあげたいの。」
そう言って、頭を撫でられる。山城から言われると思わなかった言葉がたくさん出てきて、それに少しくすぐったい。山城の匂いと背中に当たる柔らかいもののおかげか、少し緊張もする。
「…改めて、会えて嬉しいわ。あの時は、一人にしてごめんなさい。」
「ううん…気にしないでよ。こうしてまた、会えたんだ。だから…」
山城の撫でる手は止まって、僕のことを強く抱きしめた。気丈に振る舞っていた彼女らしからぬ行動は、山城本来の性格なんだろうか。静かに山城の手に触れると、少ししてから啜り泣く声が聞こえるのに気づいた。きっと山城も、どこかで辛い思いを蓄積させていたんだ。そう思うと、僕もなんだか、込み上げてくるものがあった。
「姉さま…その…言い難いのですが…。」
「いいのよ。ゆっくり深呼吸して…?」
やっぱり、姉さまは優しいお方。私たちのことを心配してくれて、落ち着けてくれる。でも、こう優しくされると、決心も揺らぎそうになる。
「…姉さま。私たち、ここを出ます。」
「…そう。そんな気がしていたわ。」
「もう、提督にもお話はしています。援助も出してくれるそうですし、ここにも自由に立ち入って良いらしいので…」
そこまで言うと、姉さまが私たちのことを抱きしめた。少し痛いような、けれど優しさに溢れるものがある。
「…大丈夫。大丈夫。私は、ずっとあなたたちの姉さまだから…大丈夫よ。」
「ええ…」
「ありがとうございます…」
しばらく抱き合い、そして少し経ってから姉さまが離れ、明るい表情を作った。どこか無理をしている顔は、必死に振る舞っていて、痛々しく見えた。
「さあ、運びましょう。ここを出ると言っても、まだ数日はあるんでしょう?それまでは、一緒にいられるんだもの。」