「今日は曙と一緒に寝るんですね…。」
「何よ。文句でもある?」
「ないですけど…。」
「じゃあいいでしょ。ほら、早く来なさいよ。」
「まさか2人の部屋で寝るとは思わないですよ。」
「2人ともうるさいわよ。さっさと寝なさい。」
「「はい…」」
やはり艦娘用のベッドは2人が入るには厳しく、体がはみ出そうになっている。
「ちょっと、何離れてんの。もっと近づきなさいよ。」
「え、そう言われましても…」
「ほら、こうすればいいでしょ。」
そういうと曙は腕を体に回し、無理矢理収まるようにした。
「曙?わざわざそんなことしなくてもいいのですが…」
「うるさいわね。大人しく抱かれてなさい。今日のアンタは抱き枕だからね。」
艦娘の力でぐいと向きを変えられ、互いが向き合うような体制になる。曙は顔を胸のあたりに置く。顔が向き合うことはないが、密着度が高すぎる故か落ち着かない。なんだか視線を感じたものの、無視することとした。
眠れないまま数分経ち、曙からすうすうと静かな寝息を聞いた。
(この状況で眠れるとは大した胆力ですね。私がその気になれば襲われるかもしれないというのに…まあそれだけ信頼されていると考えれば悪い気はしませんが。)
暫く眠れず、その間も思考は巡り続ける。あそこから離れて久しい私が尚も彼女らの心に残り続けているとの事実を目の当たりにし、それを忘れて日常生活を送れと言うのは無理な話だ。突然、向こうにいる艦娘でなく、こちらに所属する霞と曙の2人がもし似たような景色を目撃したらどうなるだろうか。考えていても、実践したこともなければ、2人に聞いたわけでもない。試すつもりもなければ、無駄に不安にさせるつもりもない。ただ、気になる。見てみたい。その欲求は全て理性によって押さえつけられ、考えるなと命じられる。頭からそのことを排除すると、トクン…トクンと定期的に伝わる振動がとても大きな音に感じた。いつもならば確実に気がつかないそれを、今の無音に等しい空間で制限された感覚のせいかとてつもなく強く感じられ、同時に曙の髪飾りの鈴がチリンと鳴った。今日は月も出ず、真っ暗な視界で確かに体に感じる曙の感覚が極度に安心感を高め、次第にゆっくりと瞼が下がっていく。
「クソ提督。早く起きなさいよ。」
目を覚ますとそこには昨日と変わらぬ姿勢で抱きついている曙がいる。
「失礼。なんとも心地良かったもので。」
「あっそ。」
ギュッと顔を体に押し付けられる。
「曙。ベッドから出られないんですけど。」
「よく考えたら、まだ起きなくても大丈夫だった。それに、今日もどうせ仕事なんてないでしょ。」
「まあいいでしょう。あと10分だけですよ。」
そのまま寝るわけでもなくじっと密着している。曙の頭を撫でると、突っかかることはせず大人しくしている。ほのかに耳が赤くなっているのは気づかないことにする。
「そろそろいいのでは?早く起きないと霞にも怒られてしまいますし。」
「わかった。もういいわよ。満足したし。」
ベッドを這い出て自室へ足を運ぶ。曙から渡された義手は使い心地が良く、服を着るのにも何不自由なくスムーズに済ませられる。義手を外し、間宮さんのところへ朝食をいただきにいく。既に霞が食事を済ませており、食器の返却を始めていた。
「起きたのね。あんまり気持ち良さそうだったから起こせなかった。」
「感謝します。曙のあんな姿は前の鎮守府でもみられませんでしたから。」
「私はもう用済み?」
「はっはっは。ずれたこと言わないでくださいよ。霞がいないと私、すぐ死んじゃいますよ。」
「冗談はいいから早くご飯食べちゃいなさいよ。」
「クソ提督。何つったってんのよ。」
「曙も来たわね。じゃあ私書類整理とかしてるから。それ終わったら早く来なさいよ。」
「了解です。」
「霞ちゃんは朝早いですね。あ!そういえば、お料理手伝ってくれたんですよ!」
「ほお。」
「ちょっと教えただけなのに手際が良くって、とっても助かっちゃいました!っと、ご飯の用意しますね!」
朝食は白米に味噌汁、納豆、焼き魚。一般的な和食然としているものの、朝1番に体に入れるには少々重いかもしれない。
「ふう。なかなかボリューミーでしたね。ご馳走様でした。」
「楽しくて作りすぎちゃって…。でも!残さず食べてくれてありがとうございます!お粗末さまでした!」
司令室へ向かっていると、曙から何やら視線を感じる。バレないようにチラリと視線を向けると、何か言いたげな様子でいる。
「何か私に付いてます?」
「あっいや、そうじゃないんだけど…その…義手って、どうなったかなって…。」
「そのことですか。使い心地良好でした。ただ、あんまり無闇に外に持ち出すと、傷ついてしまいそうで、積極的に使えないんです。」
「そう…。」
複雑そうな雰囲気を見せつつも、顔からは笑みが溢れている。
「さ、霞が待ってます。司令室に急ぎましょう。」
「わ、わかってるわよ!」
「ずいぶん賑やかねぇ。今日も特に気になるような書類も手紙もなかったわよ。」
「変わり映えがないですが、最近色々ありすぎなのでね。今日も仕事は無しで。」
「だらけてばかりはダメよ。」
「彼は今資源を集めているはずですし、近海の警備もそれほどやらなくてもいいでしょうし、資源もここには見合わないほどの多さ。よし!釣りしましょう。」
「釣り!」
「曙。義手、使わせてもらいます。」
「やっぱり作ってもらってよかったわ!」
「今日は私やりたいことあるからパス。」
「そうですか…。では留守番は任せました。曙。準備しましょうか。」