今私がいる場所は、司令室。執務室とほぼ同じ役割らしいけど、机の上には書類らしきものはほとんどない。艦隊運営はどうなっているんだろうか。それに、霞があの男の膝の上に乗っている光景は少し…いや、かなり理解し難い光景だった。
「霞を泣かせているのかと思って驚きましたよ。」
「違うって言ったでしょ。突然で私もびっくりしたんだから。」
「だって…」
一体どう関わればあれほど霞が懐くのかわからない。まあ、私のことを十分好いてくれていることは確か。初対面であんなことになるとは思わなかったけど。
「ところで、なんで私に会いたかったの?」
「前呉に行った時に、お姉ちゃんに会ったの。」
「私それ知らないんですけど。」
「司令官が出張してた時だったから…。それに、司令官がいた鎮守府のこと、知っておきたくて。」
「…なんでもいいけど、とりあえずそこで会った私にいい思い出があったからってことでいい?」
「うん…」
霞から"お姉ちゃん"と言われたことに、少しグッときた。朝雲や山雲にはずっと満姉さんと呼ばれていたから、あまり慣れていない。それに、ここにいる朝潮型のなかで私は一番上で、霞は末っ子だから、余計に刺さったのかもしれない。
「もう行っていい?扶桑たちのところに戻るから。」
「ええ。問題ありませんよ。」
「ん、じゃあね霞。」
小さく控えめに手を振られて、それにどう返せばいいのか分からなくて、微妙に浮いた手をしまうタイミングを逃した。そのままの調子で後頭部まで伸ばし、痒くもないのに頭を掻く。
「どうしたんだい?そんなところで。」
「別に。それに、あんたこそここで何してんのよ。扶桑と山城は?」
「二人に言われたんだ。みんなを連れてこいって。」
突然後ろに現れた時雨に、強引に手を引かれる。もうこの強引さに慣れてきている自分が怖い。それに、時雨の雰囲気も、どことなく変わっているような気もする。考えすぎか、それとも何かを隠しているのか。私にはそれを聞く度胸はなかった。
「で、みんなはどこだい?」
「今はまだ、もう少し待っててあげて。」
「…どうして?」
「今、久しぶりに私たち以外と話ができてるの。もう少しだけだから。」
「…わかった。じゃあ、先に戻ろうか。」
今度は手を離して、散歩でもするかのようにゆっくりと歩いた。手を後ろに回し、鼻歌を歌いながら歩く。聞いたこともない音程のそれは、静かな廊下に虚しく響き、やがて消えていった。日は照り、眩い輝きが網膜を刺激する。