潮とお菓子を食べていると、扉が叩かれる音がした。流石の潮も驚きはせず、疑問符を浮かべながら振り返った。
「瑞鶴。入るわよ。」
「ん。どうぞ〜。」
入ってきたのは、加賀さんと曙と翔鶴姉。潮は曙を見るなりギュンッと背筋を伸ばし、むせながらも口に入れていたお菓子を飲み込んだ。曙が小脇に抱えた荷物を床に置いたと同時に潮が飛びついた。
「曙ちゃんだ!」
「うっ!?」
その勢いのまま吹き飛ばされて、幸運にも曙の後頭部にはクッションが敷かれていたから頭を打つことはなかった。まあ、それでも混乱はしているようで額に手を当てがっていた。
「あー…潮。久しぶりね。」
「会いたかった。曙ちゃんがいなくなっても、ずっとひとりぼっちだったんだもん。」
嬉しそうに曙に抱きつく潮と、それを般若のような顔で見下ろす加賀さん。それには気づかない曙。そして、荷物を置いて曙の荷物を勝手に広げる翔鶴姉。カオスとはこのこと。
「って、麻雀牌?なんで?」
「曙がやりたくなったみたいなの。せっかくだからあなたもどう?」
「いいね。私もやろ。曙も早くー。」
「潮、離れて。重い。」
「ひどい!」
ルールを知っていた翔鶴姉が、ざっと説明して卓を…まあ、当然麻雀用の卓なんてあるわけがないから机に広げるしかない。それでも、結構様にはなるというか、ひっくり返すと緑色の布が貼られた組み立て式の机だったから助かった。
「いいね。久しぶり。」
「潮、わかる?」
「…わかんない。」
「じゃあ加賀は潮と一緒で。」
わちゃわちゃと席を決め、それぞれが卓に着く。素点は二万五千点、赤ドラあり、喰いタンあり。ドラは白。できるとはいえ、配牌にツモ牌に、捨てられた牌にも機を配る必要があるから、駆け引きが重要。
「加賀さん、これって…」
「ええ。行きましょう。」
「んー?ねえ、この配牌でもいいの?勝っちゃうよ?」
「別に誰も文句なんて言いやしないわよ。」
「ふふ。なら、始めてもらおうかしら。親はあなたよ瑞鶴。」
そうだったそうだった。手前の山から牌をツモる。
赤 赤
一 二 三 五 六 七 八 九 五 五 東 南 南 中
萬 萬 萬 萬 萬 萬 萬 萬 筒 筒
こりゃさっさとテンパって上がらなきゃね。四萬引けたらほぼ勝ち、かな。それか五筒か南でも引ければすぐに立直したい。ま、ここは中切りでいい。
「早いわね。やっぱり相当良い手が入ったみたいね。」
「そうだよ。すぐテンパリそう。」
翔鶴姉の切った牌は發。多分対子になる可能性は低いと見越しての發切り。それか、字牌を切って断么や平和に行きたいのかもしれない。
「じゃあ次あたし。」
少し前に体を乗り出しての曙の第一ツモ。すると、少し悩むような素振りをした後、手牌と入れ替えて出てきたのは二索。まだ情報は少ないけれど、この序盤からこの切り方は、相当良いツモ牌だったに違いない。
「加賀さん、お願いしてもいいですか?」
すると、静かに頷いて加賀さんが潮の代わりにツモった。これまた二人とも考え込むように目を閉じ、手牌と数秒間睨めっこをした後、四萬が出た。
「チー。その四萬もらいっ。」
いいね。四五六萬のチーで早速聴牌。待ちは五筒と南にできる東切り。でも、この手はまだまだ上を目指せる気がする。現状一通しかない。
「早い鳴きね。」
また翔鶴姉がツモり、今度は手牌から南が飛び出す。
「ポン。」
「また?」
「へへん。速攻正義ってやつ。」
そして、ここは赤五筒切り。後一回この不要な五筒を消して、混一に行きたい。取り敢えず残してると嫌なドラは切ってしまおう。
「曙と潮の番が回らなさそうね…。」
今度は西切り。別に鳴けないから問題はない。西を見送り、曙へ。ツモった矢先、頭を抱えた。
「これが裏目ってやつね…」
切った牌は二索。置いておけば対子若しくは雀頭にして構えることはできた。
「あら…良い牌を引いたようです。潮。」
「ええ。立直!です。」
なんと二回のツモ番で潮チームは聴牌し立直を出した。今の所わかっている安牌はさっき私が鳴いた四萬と、今宣言牌として打ち出された中。当然安牌なんてない私は焦る。このツモ次第で、立ち回りを変える必要が…お願い…萬引いて!んで持って五筒通って…!引いた牌は…一筒。嫌な雰囲気を感じる。まるで餌を仕留めるためにじっと動かない蛇のような圧力を、この一筒からひしひしと感じる。本能が言う。これを切れば負ける、と。
「…むっず。」
「好きに切りなさい瑞鶴。いつものようにすっと判断して…」
…自分の感覚を信じよう。一筒は通ってからでも遅くはない。そう。まずは五筒切りから行こう。定石なら多分切らない方がいいと思うけど。
「…どう?」
「えっと…ロン、です。」
「え゛」
パタパタと倒れ、潮が手配を開く。
三 四 五 三 四 五 五 三 四 五 白 白 白
萬 萬 萬 筒 筒 筒 筒 索 索 索
「立直、一発、三色、白、ドラ三…」
裏が乗ったら…今でも倍満でヤバいのに…お願い!
「裏は乗っていないわ。」
「ほ…」
「…瑞鶴、」
「ん?あけぼ…の?」
「あたしもロン。断么と平和。」
曙の手牌は、実に平凡だった。
二 三 四 六 七 八 三 四 六 七 八 七 七
萬 萬 萬 萬 萬 萬 筒 筒 筒 筒 筒 索 索
「なんでそれ立直しないの?」
「面白そうじゃない。」
結局東一局の親で潮チームに二万四千点。曙に二千九百点支払ってトビ終了。やってらんないよもう。それに、私の勘は全くの的外れだったし。