「夜間哨戒?」
「はい。少し気になったので、あなたと、荒潮と曙に頼みます。」
「それは良いけど流石に三人だけは…」
「それについてはご心配なく。柳田君に話をつけて、今夜限り川内型三人を寄越してくれることになっています。それに、もうこちらに向かっているはずですから、急いで準備を。」
今まで、夜間哨戒はおろかそもそも近海警備すら行っていなかった彼がいきなり、何かを察知したかのように言った。最近の夜は少し冷える。艤装があるとは言え防寒はしていこう。
「その聴牌で何で立直しないのよ!」
「へーんだ。立直するかしないかは自由だもんねー。」
『マイクテスト、マイクテスト…』
「二人とも、静かに。放送がかかっているわ。」
まだ勝負はついていないのに、水を刺すように放送がかかる。
『曙及び荒潮。至急霞と合流し、艤装を展開してください。曙は夜戦を行うため、主砲と魚雷を装備。荒潮は電探を装備し、艦隊の目となってください。尚、これは訓練ではなく、夜間哨戒任務となります。』
「…なにそれ?」
「夜間哨戒って…今までそんなこと、」
「…行ってくるわ。とりあえず、あたしの代わりに入れるの探しといて。」
「…頑張ってね。」
「ご武運を。」
「こんな何もない海域で沈んだら、悔しいより恥ずかしさが勝つってもんよ。それに、まだトップ戻ってないんだから。」
『マイクテスト、マイクテスト…』
「おや?何かあったんですかネ?」
「わからないわねぇ。」
『曙及び荒潮。至急霞と合流し、艤装を展開してください。曙は夜戦を行うため、主砲と魚雷を装備。荒潮は電探を装備し、艦隊の目となってください。尚、これは訓練ではなく、夜間哨戒任務となります。』
「…ふむ?」
「こんなこと、今まで無かったわよね?」
「そうですね〜。とりあえず行ってきまぁす。」
「霞、とりあえず言われた装備持ってきたけど、一体何なの?」
「私にもわからない。でも、今回は遊びとかじゃなくて、本気みたい。援軍もいるらしいし…」
「…急ぎましょ〜。」
この場の全員が、何の任務か、なぜ海に出るのか、なぜ援軍が来るのかも知らないままでいる。あまりにも切羽詰まっていたものだから、聞くに聞けなかった。工廠で簡単な整備を済ませ、港へ出る。そこに司令官の姿はなく、代わりに応援と思われる三つの影が佇んでいた。
「ん、来たね。」
「姉さん、自己紹介を。私は神通と」
「艦隊のアイドル!那珂ちゃんだよー!」
「那珂ちゃん…遊びじゃないのよ?」
「まあまあ、いいじゃん。わたしは川内。夜戦なら任せておいて!」
随分個性的な人たちだ。まあ、名前は覚えた。マフラーを巻いた人が川内。大きなリボンをつけた人が神通。うるさい人が那珂。
「私は…」
「いいのいいの。みんなのこと私たちは知ってるから。」
「姉さん!」
「夜更かししすぎるとお肌が荒れちゃうから早く終わらせよー!」
…自由人なのか、それとも楽観主義なのか、どちらとも取れる二人を必死に宥める神通さんは、しかし楽しそうな声色で二人を制止していた。
「皆さん揃っているようですね。御三方、この度は助かりました。早速本題に移ります。しかし、時間も限られているので手短に。今日は主目的は夜戦ではなく、当海域内の深海棲艦の捜索です。」
「えー、夜戦ないの?」
「ないわけではありません。ただ、あくまで消耗は最小限に、素早く終わらせ、できる限りの範囲を頼みます。」
いつになく真剣な物言いに、自然と空気が張り詰める。夜の暗さと冷たい空気が肺を埋め、足元の波の少なさに不気味さを覚えた。
「御三方の補給です。弾薬と、燃料。これくらいで足りるでしょう。では、怪しいものがあれば報告か、撤退をお願いします。」
「了解!」
「まかしときなさい。」
「名誉挽回ね〜。」
「よーし!夜戦しよ!」
「那珂ちゃんの活躍!見といてね!」
「二人とも…ええと、頑張ります。」