わけがわからないが、深海棲艦を鎮守府内に入れてしまっている。前例としては北方棲姫…後に龍驤となった彼女以来、初であった。哨戒任務で恐らく向こうに最も関わった曙を残し、霞と荒潮には休息をとってもらい、川内神通那珂には柳田君の鎮守府へ帰ってもらった。時刻は丑三つ時だが、目は冴えている。
「お話とは、一体何事でしょうか。」
「ハナシガハヤクテタスカル。」
「ヲ。イマ、アノウミノムコウカラワレワレイガイノワレワレガセマッテイル。リユウハワカラナイケレド。」
「迫っているなら、あなた方含めて沈めればいいのですか?」
すると、少し呆れたような、しかしヲ級が腕を組み、首がこくんと下を向いた。
「ソレハマチガイデハナイガ、セイカイトモイエナイ。」
「ワレワレガコノウミヲナワバリトシテイタカラコソ、ドウホウハココニコナカッタノダ。」
「…あなたたちは、基本的には自分たちの棲家を離れることはないと?」
「モチロンダ。」
「リユウハドウアレ、マズアリエナイ。」
しかし、数がどれくらいかがわからないのが一番の不安要素だ。速やかに対処する必要がありそうだ。
「…ある程度は理解しました。あなた方はこちらには敵意はなく、攻めてくるドウホウからこの海…縄張りを守りたいということですね?」
「ワカッテイタダケテナニヨリダヨ。」
「ワレワレハコレヨリキトウスルガ…ナニカアルナラ、スコシクライハタイオウシヨウ。」
「いえ。これ以上は詮索しません。忠告感謝します。」
「ソレハナニヨリダ。」
そう言って、深海棲艦は帰っていった。実に短い対談の末、今後の自分の行動の道筋が小さく積み上がって行く音がした。取り敢えず、戦力の確保を第一としたい。
「曙、申し訳ありませんでした。今日はもう休みましょう。」
「わかってるけど…これからどうするのよ。」
「どうするも何も、迎え打つのみですよ。」
早速、大本営へ向かっている。早朝、というには些かゆっくりだが、朝日はまだ浅い角度を保っている。
「司令官…本当に大丈夫?」
「金ならいくらでもあります。それこそ、都市部の高層マンションを数個購入しても有り余るくらいには。」
そう言って、逸る気持ちを抑えるように深呼吸をする。朝早くから全員を起こして、私たちは大本営に資源や資材の援助の交渉、曙や加賀たちに新しく来た子たちへの演習などを任せた。命令と称し、休憩は自由に取れるが、日が落ちるまでは可能な限り演習を続けること、といいつけた。
「着きましたよ。急いでください。」
「あ、うん。」
見たこともないほどの焦りを見せる彼に、少し心配になる。そりゃあ、わけがわからないわけではないし、当然の行動だと思う。それにしたって、急ぎすぎている。
「はい、御用はなんでしょうか?」
「軍曹殿に話は通しているつもりですが…はぁ、桐原です。」
彼が小声で自分の名前を使って軍曹を呼ぶ。ただ、不注意で私にも聞こえた。でも、知らんぷりをした方が彼のためになるだろう。受付の方はすぐに無線で連絡し、軍曹はすぐに来ると言って、奥の方に消えた。司令官は待つ間、苛立ちを隠し切れないのかタンタンと足を鳴らしていた。
「待たせた。早くこちらに来なさい。」
未だに慣れない若くなった軍曹に、以前と同じ部屋に案内された。
「話は聞いたからな。できるものはありったけ用意したが、何を望む?」
「燃料、弾薬、鋼材、ボーキを三十万ずつ、開発資材を…四十個程度。バーナーも同数。それと、入渠ドックと建造ドックを残り二つ分の改築できる資材を。」
「…それだけか?」
「ええと…試製甲板カタパルト、改装設計図、戦闘詳報…その他改装資材に加え、艦娘を受け入れるために増築できる分だけの資材を。」
「本気か?」
「嘘に見えますか?」
「そういうわけではない。本当に、そんなものが必要なのかと聞きたいんだ。」
「あの海を守るためです。」
「…そうか。まあ、多くは聞かないでおこう。しかし、その量欲しいなら、桁が少なくとも十は必要だな。」
「それくらいですか。一括でお願いします。振り込んでおきますから。」
「はっはっは。君はいつも面白いな。どこからそんな金が出るんだか…」
「問題ありません。まだまだ余裕はありますし、更に増えますから。」
金に物を言わせるとは、まさにこのこと。即座に大量の資材を購入し、鎮守府に送らせた。大本営側も大して痛手ではなさそうにしながら、しかし苦笑は隠せない。
「ああ。大本営は、いつでも援助を惜しまない。苦境に陥った際は、遠慮なく救難信号を出してくれたまえよ。」
「感謝します。」
敬礼の後、深々と頭を下げた司令官は、帰る前、銀行に寄った。明細を見せてもらったら、本当に十桁以上が送られていて、しかしその口座に記された金額はそれより多い桁が入っていて、他にも口座をわけているらしく、資産としては半分ほどが詰まっているらしい。末恐ろしい人だ。確かに、こんなに金が余っていれば飲みもしないお酒を買い漁るくらいの娯楽を生み出すわけだ。
「…早く帰って建造しましょう。全体的に戦力が足りません。それと、妖精さんに増築と補強をしてもらわないと。」
「私はどうすればいい?」
「演習に混ざるか…建造を手伝ってください。」
「了解。任せておいて。」