「あなたはあまり気持ちの良いものではないと思いますがね、私もずっとあそこにいるのは性に合わないのですよ。」
「別にいいわよ。自分の腕に自信あるんでしょ。それに、出るとしてもとるに足らない雑魚ばかりでしょ。」
ウミネコがゆらゆらと飛んでいる。羅針盤の妖精さんは暇なのかそこらを飛んだり観察したり、はたまたぐっすり眠ってしまう者もいる。実際深海棲艦は出てこないし、見つけられる資源も非常に少ない。探索範囲を全て確認し終えたのち、発見できた資源は鋼材が20程度、ボーキサイトは数個しか手に入っていない。前なら常に足りなかったために追い求め続けた資源が今では全く無価値のように思えてしまうのは自分が軍人として終わってしまったことを表しているかのようだった。程なくして帰港し、補給を行った後は簡単な事務作業を行った。
「仕事がないわね…。」
「仕方ありませんよ。我々の鎮守府が手を伸ばすことができる海域は先ほどの所のみです。演習も、恐らくはここに付き合っていただけるところもないでしょう。一応掛け合ってはみますが、期待はしないでください。」
既にわかっていることではあったものの、いざ自分から口に出した時に受け入れ難い現実であると思う。霞の表情は一瞬曇ったが、
「別に、わかってたことだから構わないわよ。でも、私は戦うために生まれたの。それだけは忘れないようにね。」
それだけ言葉を残し、霞は執務室を後にした。
"戦うために生まれた"
この言葉がずっしりとのしかかる。
「そういえば、1人だけ当てがありますが…彼は了承しますかね…。」
以前、学校に通っていた頃、私を慕ってくれる後輩がいた。ずっと前に提督になったと言う報告を受けてからは連絡を取っていない。
「考え事は性に合わないと言うのに。まあこれも可愛い秘書艦のためだと思えば…。」
その瞬間、測ったようなタイミングで電話が音を立てる。出てみると、ちょうどその後輩だった。
「先輩!連絡できず申し訳ありませんでした。腕がなくなったと聞きましたが…。」
「いえ構いませんよ。腕がなくても提督業は続けられていますし。それと、お願いしたいことがあるのですが、聞いてもらえますか?」
「はい!構いません。なんでもどうぞ!」
「ならよかった。うちの唯一の艦娘である霞に演習をお願いすることはできますか?」
「お安い御用です!むしろ、そんなことでいいんですか?」
「こんなことをお願いできるのがあなたしかいないのですよ。」
「ところで…唯一の艦娘が霞とは?」
「彼は元気が良すぎますね。可愛い後輩ですが。」
着替えを揃えながら、風呂に入る準備を進める。脱衣所に霞の姿はない。そう言う趣味があるわけではないが1人では洗いずらいと言う問題もある。
簡単に体を流し体をお湯の中へ沈める。頭を空っぽにしながら虚空を見つめていると、浴場の扉がカラカラと開く。
「あなた来てたの。呼んでくれればサポートくらいならしたわよ。」
「少しは乙女としての恥じらいを持ってみては?こんなでも、一応男ですよ。」
「バカじゃないの?あなたに負けるほど弱くないし、そんなことどうでもいいのよ。」
「ではそんなあなたに良い知らせをあげましょう。明日から私の後輩が運営する鎮守府との演習を行えることになりましたよ。」
「え?どういうことよ。」
「言葉通りの意味ですよ。久しぶりに連絡が来たのでダメ元でお願いしたら二つ返事で了承してくれました。あなたが喜ぶと思ったのですが、その様子ではどうやら違うみたいですね。」
「い、いや別にそう言うことじゃないわ。ただそんなことしても今の私には意味が…」
「ありますよ。提督である私が決めたことです。あなたにはわからなくても、私には非常に意味のあることです。それとも、私の意見は聞き入れられませんか?」
「…。」
一瞬の沈黙のあと、もやもやと立ち込める湯気の中から微かな笑みを浮かべた霞を見た。
「仕方ないわね!仮にも上司のあなたの意見すら聞けないなんて艦娘の風上にも置けないわ!今断っても先方に迷惑かけるだけだしね!」
「よかったですよ。そんなに喜んでいただけて。」
「ッ!別にそう言うことじゃないったら!」
「まあまあ。あんまり騒いでもしょうがないでしょ。湯船に浸かってゆっくりしましょうよ。」
「今日だけよ。」