司令官と曙は2人で釣りをしに行った。かく言う私は、2人が釣りに行くところを見送り、別行動をしている。ここに来てから、大半が司令官と一緒にいたし、曙を迎えてからもほとんど3人で行動していた。それを突然、自分の判断で、単独行動をする。元々かなり広い鎮守府が、1人のせいでもっとずっと広く見える。あの人がここに来た時もこんな感じだったのだろうか。少しセンチメンタルになる。そんな自分を否定するように被りを振って、工廠へ向かう。妖精さんに日頃の感謝と休暇を伝えるためだ。
「妖精さーん?いるかしらー?」
大量の資源の中から数人の妖精さんが顔を覗かせる。
【久しぶりだね。大規模改修以来?いや、曙を建造した時以来か。】
「そうね。暫く来れなくて、ごめんなさい。」
【別に気に病まなくてもいいよ。我々は、ここでの今の生活に不満はない。むしろ、毎日のんびりできるから、存分に楽しませて貰ってる。】
「ならいいのだけれど…。」
【そうだ。1つ、聞いておきたいんだ。】
「何かしら?」
【前、曙から提督さん用に義手を作って欲しいって言われたんだ。】
「ええ。知っているけど。」
【それで、色々こだわって作らせて貰った。初めての試みだったしね。なかなか楽しかったし。】
「何?そんなことを言いたいだけ?」
【いやいや。ちがうよ。そのために、とにかく精巧に作るためにしていたら予算が思ったよりも多くなってしまってね。】
「え゛」
【一応額面的にはこんな感じなんだけど…。】
渡された紙には、12の下に0がいくつも並んでいる。
「もしかして…これ、全部?」
【うん。これは、今月使った"工廠だけでの予算"だ。】
「…本当?」
【ここで嘘を言ってもしょうがないだろう?で、一応経費で落とせるかって言うのと、報告もしておかないとと思って。】
「曙には伝えなかったの?」
【言おうと思ったんだけどね。あんなにも必死に、一生懸命にお願いされちゃ、我々もこんなことを言って彼女の善意に水を刺したくないと思ってしまった。だから、いずれ、しかるべきタイミングで霞。君に報告しようと思ってたんだ。】
「もうちょっと早く報告できないものかしら…。まあいいわよ。今日届いた手紙には『工廠等鎮守府内で消費する金銭等は全てこちらに経費で落として貰って構わない』って書いてあったから。」
【ならよかった。】
「じゃあ、これで終わり?」
【あと一つだけ。霞。君はずっと気を張っているよね。きっと彼のことだろう?誰かのことを大切に思う気持ちは素晴らしいものだ。でも、それのせいで君自身が傷ついてしまってはその人たちに心配をかけさせてしまう。だから、たまには甘えてみたっていいんだ。僕らでもいいし、間宮さんでも、曙でも、司令官さんでも。】
「…考えとく。ありがとうね。」
【ありがとう霞。】
工廠を後にする。当初の予定よりも少し多く時間を使ってしまった。
さて、これからどうしよう。…間宮さんの畑でもみに行こうかな。鎮守府の裏の畑は一層立派になっていて、手を貸すようなこともないかもしれない。ちょうど設置されているベンチに腰掛ける。ギシ…と軋む音が鳴ったものの、支えられる感覚は心強く、背もたれに体を預けてしまう。
「あら、霞ちゃん。今日もお仕事はお休み?」
「間宮さん。ええ。今日もないから、暇だし畑でもみてみようかなって。」
「ふふ。ありがとう。でも大丈夫よ〜?みんなすくすく育ってるし、お手入れもだいぶ進んだし。あ!そうだ。一緒にお菓子でも作ってみない?」
「お菓子…?」
「さっ入って入って〜。あ、手はちゃんと洗ってね?」
「はい。」
間宮さんに連れられ、厨房へ足を運ぶ。そこには、大量に備蓄された食材と、豊富な調理器具が所狭しと置かれていた。
「じゃあ、早速作っちゃいましょうか。何か食べたいものでもある?」
「じゃあ…ぱ、パフェとか…?」
「了解!早速作っちゃいましょ〜!」
「じゃあ、霞ちゃんはそこの食糧庫から入れたい果物を選んできて?クリームとかは私の方で用意しておくから。」
流れで一緒にパフェを作ることになってしまった。果物なんてどれも食べたことがない。一応、食品ごとに区画が分けられており、果物もその一角にあった。
『苺』 『彌猴桃』 『葡萄』 『林檎』
などなど。どこから仕入れたのかわからないが、そこは考えないことにする。とりあえず苺と興味本位で彌猴桃を持っていく。
「あ、お帰りなさい!あら、それを持ってきたのね。霞ちゃんもなかなか通ね〜。」
何が通なのかさっぱりわからない。
「とりあえず、苺はヘタを落として、縦に切って。彌猴桃は皮を剥いてから輪切りにして欲しいわ。」
「わかった。」
程なくしてから、パフェ用の容器にどんどんと盛り付けられていく。みているだけで胃もたれしそうなそれに、暴力的なまでに果物が投下されていく。
「はい。完成〜♪」
「案外早いのね。」
「ささ、早く食べちゃいましょ?」
間宮さんに押されて食堂の席に腰掛ける。一口食べると、今まで感じたことのないほどの衝撃を受ける。
「どう?美味しいかしら?」
「うん。」
間宮さんへの返答もそこそこに食べ進める。あっという間に食べ終わってしまったが、当分はいらないかもしれない。
「後片付けは任せて!ゆっくりしてね。」
「え、でも…」
「いいのいいの。ほら。」
「わ!」
そのまま食堂から半ば無理矢理追い出された。
司令室へ向かっていると、頭の中で色々な思考が巡る。昨日の曙の行為。みているとなんだか心の中がむかむかした。でも、怒りっていうわけじゃない。もっと別の、何か。うーん。言語化が難しい。結局司令室の秘書艦用の机に体を伏せる。私は司令官のことをどう思っているんだろう。逆に、司令官がなんで私にあんなにべったりしてくるんだろう。わからない。どれだけ考えても、答えが出てこない。お風呂に一緒に入っても、不安ではない。怖くない。でも、嬉しいとか、そういうのとはちょっとだけ違う気がする。今朝、2人が釣りに行くと聞いてから、また夜みたいにむかむかした。なんでなの?わからない。2人で行動されるのが嫌?私がその輪に入れていないから?全くもってわからない。思考を巡らせ続けても、答えは得られない。一旦、全てをリセットしてみる。そういえば、最近司令官と2人になることってないな…。入院してたり、かと思えばすぐ後に前の鎮守府に行っちゃうし、
「さみしい…」
口から無意識にその一言だけが溢れていた。どうせ誰も聞いてないしそれくらいならいいか。今からでも堤防に行って2人に合流しようかな。でも、私は釣りなんて全然興味がない。そういえば、髪も今日は結んであげられなかった…。曙に頼んだのかな…。それともあの義手でやったのかな…。取り止めもなくそんなことが次々浮かんでくる。あの人は私がいないと死んでしまうと言っていた。でも、今の2人をみていると私が居なくてもいいんじゃないのか、どこか全く別の場所に居たほうが3人にとって一番いいんじゃないだろうか。ネガティブな思考に陥ってしまう。いつのまにかぽろぽろと涙が溢れていた。それを拭っていたら、自分を制御するためのタガが外れてしまって、司令官の自室に足を運んでいた。何をするつもりかは自分でもわからない。でも、無性にここにきたくなった。あの人の脱ぎ捨てた軍服が落ちている。その軍服を羽織って、布団の中へ飛び込む。すると、司令官の匂いが全身を包んで、まるで抱きつかれているような錯覚に陥る。実際はそんなことあり得るはずがないのに。