ずっとここでこうしてくるまっている。そうしていないと、どうにかなってしまいそうだから。こうしていないと涙があふれて止まらなくなってしまうから。今この空間では自分のすすり泣く声しか聞こえない。ほかの誰も、今の弱い自分を見る奴はいない。そう考えると、ほんの少しだけ心が楽になる。しかし、それ以上に今の自分の孤独感が異常なほどに膨らんで風船のように膨張し続ける。尚も涙は止まらない。止まってはくれない。ずっとずっと悲しい。寂しい。止まらない。こぼれていく。誰もいない。そんな考えが自分を支配する。軽くパニックに陥った今、あの人の匂いが体を包む高揚感も合わさって、麻薬的な快楽物質に返還される。あれ?楽しい。涙が止まらないのに勝手に口角があがる。苦しいはずなのに心が軽い。重くのしかかっていた先ほどまでの悩みがすべなくなってしまったかのように楽しい。なお止まらない涙に溺れてしまいそうになる。
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数分ほど眠っていたらしい。目の周りが重い。布団には涙でできたシミが広がっている。頭が少し軽くなり、冷静な思考ができるようになる。とりあえず、汗でびしょびしょな体とシーツを脱衣所へ運ぶ。服を脱ぎ去り、浴場へ入る。冷えた空気と裏腹にすでに沸いたお湯の対比が不思議だった。体をシャワーで流していると、冷え切った足がシャワーからのお湯との温度差でギュッと痛くなる。それを我慢して、泡を洗い流し、体をお湯の中に投げ込む。
「霞。入ってたんですか。」
ばっと勢いよく体を後ろに向ける。しかし、そこに司令官の姿はない。当たり前だ。今は曙と一緒に釣りを楽しんでいるはずだから。そう考えると一気に不安になる。そういえば、今日で初めて1人で風呂に入っているという事実に気づいた。ここに来た初日からあの人と入っている。入院していた時も曙と入った。会話はあまりなかったけれど、それでも2人だった。孤独でなかった。そう実感した瞬間にまた震えが出てきた。体は暖かいのに心が冷え切っている。まただ。止まらない。止められない。肩をつかんでゆっくりと息をする。そんなことをしても焼け石に水。ささやかな抵抗も無意味なものになる。誰でもいい。誰か近くにいてほしい。今の体の動かせない私にはそこへ向かうことができないから。歩み寄ってほしいから。震える足と支えることのできなくなった背骨ではもう動くことができないから。誰にともなく助けを求めても、意味がない。体に熱がたまりすぎてのぼせる。でも、一歩も抜け出せない。歩き出せない。間宮さんは…ダメ。あの人は自室にお風呂が併設されてるからここには来ないと今朝言っていたではないか。妖精さんは、ここに来ることはないだろう。
それからいつまで縮こまっていたのかわからない。無理矢理体を持ち上げ、のぼせる寸前で風呂から脱出する。体の震えは尚も止まらない。カタカタと小刻みに揺れ、心の安定もそれに乗じてじわじわと削れていく。やっとの思いで服を着た頃にふと今が何時なのか知りたくなった。壁に掛けられた時計を見ると、なにかでぼやけてよく見えない。目をこすってみると、また涙が出ていた。再度確認すると、時計はヒトゴーヨンロクと伝えてくれた。ただ、今の私にとってはその時計さえ今の自分をあざ笑っているように感じる。落ち着かない心を抱えながら、また司令官の自室に来ていた。このままいると、自分が自分でなくなってしまう。孤独感を慰めるために間宮さんのところに行くのは気が引ける。工廠にもなんとなしに行きづらい。自室でただ1人じっと待っているのも今の自分には不可能だろう。結局ここに戻ってしまう。よくないことなのに、今の自分はそれを御することができない。できるはずないと信じ込ませる。そうしないと、頭がどうにかなってしまうから。それに、ここに替えのシーツも持ってこないといけない。無理に自分を納得させ、誰に聞かれるわけでも、誰にみられるでもなく言い訳を吊り下げていく。ガチャリと再びその中に足を運ぶ。シーツを敷きなおし、今度は軍服を羽織ってさらに帽子もかぶってみた。流れていた涙はやみ、多量の高揚感と少々の背徳感に支配されていく。呼吸もゆっくりになって、湯でほてっていたからだがさらに熱くなる。首筋にじわりと汗がにじむ。少し寒い部屋の中で、自分の体から出てくる蒸気が湿度を上げている気がする。今まで感じたことのない感覚がからだを支配する。お腹の下の方がじんわりと熱くなる。それが怖くて、それを抑えるように布団に体を放る。交換していない掛布団に潜り込み、全身に司令官を感じる。ぬくもりはないに等しい。けれど、安心感だとか、ずっとここにいたいだとか、どうしようもないことばかり考えてしまう。また瞼が重くなってくる。今の幸せな瞬間を逃したくないのに。まだ…まだ…いや…ねむりたくない…ひとりはいや…。