気の済むまで泣いて、一旦冷静になる。
「ごめんなさい。司令官。」
「なぜ謝るんです?」
そう言われると言葉が詰まる。なぜ謝ったのかは自分でもよくわからない。ちょっぴり衝動に駆られただけ…。
「いや、ちょっとね…。」
「ふむ。今日のあなたはやはりいつもと様子が違いますね。」
「そ、そうかしら?」
何もかも見透かされているようで、少したじろいでしまう。指先を絡ませながら言い訳を探す。
「霞。今日、一緒に寝てもらっても構いませんか?」
突然の一言に一気に脳がショートする。
「ふぇ?」
「1人で寝るのが、少し怖いんです。なので、あなたに一緒にいてもらいたくて。だめですか?」
本当に…彼は私のことを考えてくれている。私が言えないようなことを彼が言葉にして私が了承する形で話してくれる。
「しょうがないわね…!一緒に寝てあげる!」
その言葉を受け入れる。
「2人とも。さっき脱衣所で大声出してたけど、何かあった?」
「いえ?なーんにもありませんでしたよ。」
曙は疑いの目を向け、こちらを怪しんでいる。私は知らぬふりをして彼についていく。
「さて。あなたたちの部屋なのか。それとも、私の部屋か。どちらかお好きな方を選んでください。私の我儘を聞いてもらうのです。これくらいはあなたの意向に従わせてもらいます。」
「…司令官の部屋。」
「了解です。」
ずっと心臓がドクドクと跳ねている。顔がほのかに熱くなる。呼吸も乱れる。彼の自室の前にたどり着いた。じんわりと汗ばんだ身体が周りの空気との温度差によって冷えてしまう。しかし、内側がその分熱を帯びる。
「ほら、入ってください。暖かくはないですし、寝心地も良いかはわかりませんが。」
「…」
無言で頷き、彼の布団の中へ入る。ここへ来るのは今日で三度目である。しかし、その2回とは決定的に違う点がある。"彼も"一緒にいるということだ。はじめは、2人で横に並ぶ形で収まっていた。しかし、彼の方の布団を見ると、少し体が出てしまっているのが見えた。
「霞?一体何して…」
「静かに。あなたの方の布団が短そうだったからこうしてるだけ。」
彼を仰向けにさせ、その上にのしかかる。案外ウブなのか、顔が赤くなっている。けれど、それは私も同じだった。彼に顔を見られないように、昨日の曙のように彼の胸に顔を埋める。肺の中いっぱいに彼の匂いを取り込む。身体中で彼を感じる。自分の体の上には彼の日頃使用していた布団が被せられている。全身を彼に委ねている。
「…」
無言で部屋の電気を消した彼は、互いの温もりしか感じることの許されない空間を作り上げた。
「ひゃっ」
彼が欠損した左腕で私の体を包み、残った右手で頭を撫でた。この前買い物に行った時、服屋で買った新しいパジャマ。司令官に見せるのは初めて。上は、袖が少し長く、前方をボタンで閉じる、少しゆるくふわふわした可愛い服。下は、ショートパンツで、膝よりも上のほうで裾が絞られている。彼に見せたかった。彼のために買ったパジャマで、彼と密着してベッドにいる。心臓の鼓動が最高点に到達する。彼の胸からも、ドクン、ドクン、と力強い拍動が聞こえる。今までにないほど緊張し、極度の興奮状態に陥る。彼は、健全な付き合いが好きだと言っていた。けれど、今の私は、その要望を答えられそうにない。撫でられるだけでは、ただ密着するだけでは、我慢ならない。むしろ、自分を制御するための役割を持った機関がどんどん機能しなくなる。運動もしていないのに、走っているかのように息が上がる。肺に空気を取り込もうと息を吸うと、彼の匂いが入ってくる。すると、さらに我慢が効かなくなる。気分が高揚してくる。顔は熱暴走し、脚は関節を曲げ、彼を離すまいと動き始める。腕は、彼の胸部にペタリと密着したまま離れない。
彼と密着してから数分。ずっとこうしている。興奮して眠れない。眠くならない。確か、ここに来る前の時間はそれほど遅くなかったはず。フタヒトフタサンくらい?あまり時間は経っていなくて、ふと見てみるとまだ十分程度しか過ぎていない。前2人きりで眠った時は、こんなにもゆっくりと時が進むことはなかった。こんなにも眠れなくなることなんてなかった。突然、自分の身体が弱々しく、ピクンと痙攣する。一度の痙攣で、今までにないほどの高揚感と、羞恥心が込み上げる。なぜこうなったのかはわからない。ただ、確かなことは、彼の腕にさらに力が込められたということ。ギュッと握られ、さらに密着度が高まる。自分についている、ささやかな突起がキュウと切なくなる。今まで味わったことがない感覚。一層強く痙攣する。ビクビクと動き続けるようになってからは、もはや誤魔化すこともできないほど激しくなった。顔を彼に向けられない。きっと、今ははしたない顔で、彼はきっと、真っ赤になっているだろう。お互いがお互いに興奮し、お互いに遠慮しあっている。頭が彼でいっぱいになる。
「あ…」
彼が撫でる手を止める。眠ってしまったのだろうか?まだ物足りない…。切ない…。治らない‥。彼の手が動きを再開させる。しかし、今度は頭を撫でるのではなく、髪を優しく撫で始める。手櫛で梳かすのでなく、髪を数束に分け、全てを愛でるように指先でくるくると回したり、手に巻きつけたり、さまざまである。そのどれもが、感じたことのない喜びに変換される。髪を撫でられるだけで、身体からへたりと力を失ってしまった。少々なでられ足りなかったが、そんなことどうでも良くなってしまうほどに気持ちがいい。
「ッ!」
髪を一通り弄んだあとは、流れるように私の背に手をかける。首筋の裏。背骨に沿って指先をツウと這わせる。肩に手を回し、くるくると優しく撫でる。
「やぁ…」
無意識に甘い声が漏れる。撫でられるたび、身体が跳ねる。それと同時に、小さく控えめな突起が彼の身体に擦りつけられるようになる。また、昼頃のようにお腹の下の方がじんわりとほのかに優しい温もりを帯びる。
「んぁ…」
遂に背中を越え、腰にまで手が伸びる。骨に沿うようにして、一層ゆっくりになった手の動きが、私の目に涙を浮かばせる。この涙は、昼のような哀しいものではない。悦びからくるものである。ゆっくりと撫で回される腰は、溶けてしまうのではないかと思うほどに柔らかく、触れられる手が少しでも動くたびに目の奥にチカッチカッと光が弾ける。
「んぅぅ…!」
彼の手が、とうとう、私の臀部にまで到達しようとする。流石に手が伸びなかったのか、身体をさらに上げられ、私の頭の位置が、ちょうど彼の首元にあった。尚も彼は優しく身体を弄ぶ。
「やぁ…」 「ん…」 「ぅ…」 「あぅ…」 「あっ…」
優しいその行為に、甘い声が抑えられずに断続的に発される。そんな恥ずかしい自分の声を聞きたくなくて、聞かれたくなくて、咄嗟に彼の首元に噛みついてしまった。
「ッ…」
「あ…」
彼がぴくっと身体を震わせたのに驚いて、すぐに口が離れた。けれど、尚彼の手は休まることなく動かされる。
「ああ…」 「やらぁ…」 「ぅう…」
切なさが増し、もはや躊躇うことなく彼の首元に歯をカプリと噛ませる。さらに勢いは増していく。ドンドン激しくなる行為に、身体をのたうち回らせる。彼の肩の位置にある手を、彼の背中に回し、離れてしまわないようにする。腕に力が籠る。
「フー!フー!」
荒々しく呼吸するたび、彼の香りが鼻腔をくすぐり、さらに快楽値が底上げされていく。涙がぽろりと布団に落ちる。
「ひゃっ」
彼の腕がとうとう私の臀部を覆っていた布の中へ侵入してくる。さらに身体が強く跳ね上がる。彼の手は私の臀部を揉んだり、撫でたり、好きなように触り続ける。
「や…あ…し、れぇ…て…やらぁ…」
まともに言葉を紡げない口で、ささやかに、上辺だけの抵抗をする。身体は悦びを感じ、その感覚を忘れまいと脳が揺れる。
「ふぁああ…」
尚も優しく、ゆっくりと、丁寧に弄ばれる。声を抑えることも許されず、その快楽に身を任せるしか残されていない。大きな彼の手が、じわと汗ばんだ臀部を覆う。
「ぁ…」
するりと腕を臀部から取り出し、大腿部へ手が伸びる。
「ぅん…」
ふにふにと太腿をいじられる。膝裏から、手を這わせる。5本の指が、不規則な列でゆっくりと登っていく。自分で触ったとしてもなにも感じない部分も、彼が触るだけで魔法にかかったように気持ちいい。
「ふぁ…」
大腿部から臀部へ、臀部から腰へ、腰から背中へ、背中から頭へと腕が戻る。私の体はすっかり火照り上がり、湯船から出たばかりなのかと見紛うほどの熱を帯びて、顔は赤く、火傷しそうなほどだった。彼の背に回した腕は戻さず、ギュゥと掴んだまま話すつもりはない。
肩で呼吸をする。今まで感じたことのない快楽と疲労。彼の動き。今まで知らなかったこの気持ち。そのどれもがえもいえぬほどに気持ちが良かった。首元から口を離し、粘性を持ったよだれが糸を引く。そこに残ったよだれを舌でそっと舐めとる。彼の体が再び小さく跳ねた。彼の腕は私の頬に終着し、優しい手つきで玉を転がすようにころころと肌を撫でた。自分の中に残っていた物足りなかった、満たされていなかった最後の欲求が解消されたような気がして、そのまま身体に溜まった疲労を抱え、深い、暗い、暖かい、安心する闇の中へ意識を落とした。