目が覚めると、もうすでに朝だった。霞は、未だに私の腹の上に身体を乗せたままだ。最後の霞の姿勢は、確か私の胸あたりに手を置いていたはず。だというのに、今は私の背中にまで手を回している。なぜだか身体に汗が大量に吹き出している。私の服には彼女の汗らしきものがぐっしょりと染み付いている。彼女の頭に手を置き、そっと撫で上げる。もぞもぞと身体を動かす。
「ん?しれーかん?」
寝ぼけ眼を擦りながら、顔を上げる。目元がほんのりと赤く、涙が流れたような跡が残っている。
「おはようございます。いい朝ですね。」
「ええ。おはよ…っ!」
突然顔を真っ赤にして、私の胸に顔を向けてしまった。隠しきれない耳がやはり紅色に変色し、頭に触れている私の手にも熱が伝わる。
「か、霞?」
何が何やらさっぱりわからない。彼女が顔を背ける理由も、紅潮させる理由も。
「し、司令官。き、昨日の夜のこと…思い出しちゃって…」
昨日の夜?一体何が起きたのかわからない。霞が身体に乗ってきた瞬間に、とてつもない眠気ですぐに眠ってしまったのだ。しかし、今のこの状況は、霞の格好や、態度で、何かしらの霞や私にとって大きな何かがあったはずに違いない。少しだけ揶揄ってみる。
「昨夜の…なんのことです?」
イタズラに笑ってこちらを覗き込んでくる。全てわかっているくせに。顔を見ると、昨夜のあれが脳裏をよぎって、口がうまく回らない。
「あの、えっと…うう。」
だめだ。あまりにも恥ずかしすぎて直視できないし、話せない。
「喋ってくれないのなら、今日はずっとこのままあなたを離しませんけど、いいですか?」
非常に魅力的な提案を受ける。いつまでもこんなことはしていられないはず。けれど、今の私にはあのことを言えるほどの勇気はない。
突然、甘い呼吸が聞こえる。霞が、こちらに顔を向けている。目がとろんと虚にこちらを覗き込んでいる。
「えっとね…昨日の夜…。その、あなたが、私のこと、たくさん撫でてくれて…」
そういうことだったのか。なぜ眠ってしまった私が霞のことを撫でていたのかはわからないが、合点がいった。ただ、まだわからないことは多くある。しかし、多く踏み込むことはせず、この状況で霞を堪能する方法を頭をフル回転させて弾き出す。
「それの続き、やっちゃいますか?」
耳元で、優しくボソリとつぶやく。耳に、彼の甘い囁きが届く。その瞬間、再びスイッチが入ったように、身体が不規則に痙攣する。しかし、自分の理性が、それを強制的にさせないようにする。
「今はだめぇ。」
寝起きかつ照れている今の霞は、おそらく今ほんの少しの理性でそれを行わせまいと抵抗を見せたのだろう。
「そうですか。では、また今日の夜、ですね。」
「んぇ!?う…うん。」
目元にじんわりと涙を浮かべさせながら、この提案を了承する。流石にこちらもこんな霞をずっと見ていると、調子が狂ってしまうので、最後に一撫でして、霞を抱き抱える。
「ひゃ!」
義手をはめずに、彼の左腕に私の頭が乗せられ、右腕で身体を固定される。所謂お姫様抱っこの姿勢である。
「だっ大丈夫だから!自分で部屋まで行けるから!」
「ん〜?そう言っておきながら、あなたの身体は抵抗しないようですが?」
はっと気づいて、顔を両手で覆う。あまりにも恥ずかしすぎて、彼の顔を見ることができない。そうこうするうち、さっさと廊下に出て、自室へ運ばれてしまった。
「では霞。私は着替えてから間宮さんのところまで行くので、あなたもそのようにしてくださいね?」
首を縦に振って、肯定の意思だけ伝える。彼はにっこりと笑って、背を向けた。離れていく背中。まだもう少しだけそばにいたい。そう思った瞬間に彼の背中に抱きついていた。
「霞?」
「もう少し、もう少しだから、ちょっと我慢して欲しいの。だめ?」
すると、後ろから、ドアが開く音がした。曙が、着替えを済ませ、ちょうど朝食を食べに行くタイミングに被ってしまったのだ。顔がどんどん熱く、赤くなっていく。
「あー。あたしは何も見てないからね?」
「ち、違うの曙!これは…」
「大丈夫よ。ゆっくりしてから来なさい。クソ提督も。」
くるりと背を向けて、歩いていってしまう。曙に見られた事実に、羞恥心により体温が上がる。
「霞。どうします?また戻っちゃいます?」
「ばか!」
服を着替え、間宮さんの元へ向かう。
「あら、今日は霞ちゃんが遅い日なんですね。」
「ええ。そうみたい。」
間宮さんが運んでくれた朝食を口に運び入れる。やはり美味しい。朝の寒さによって冷えた身体に染み入る暖かいお味噌汁が、芯から温める感覚を覚える。思わずほうっと息を吐いてしまう。室内でも、冷え切った空気の中では白い息が強調される。食堂の扉が開かれ、霞とクソ提督が並んで2人揃って入ってくる。