今回の演習相手は、前回までよりも、さらにパワーアップしている。旗艦が金剛なのは変わらないものの、嫁艦の赤城を連れている。他にも、大量に練度が99の部隊を引き連れている。大和まで?
「今回は本気度が段違いですね…。」
資材のパンパンに詰められた箱が5つほど用意されている。
「ええ。一応、我が艦隊の精鋭たちを集めました。」
「別に勝ち負けではないでしょうに…」
早速演習が始まる。霞や曙は、火力の暴力を受けている。なんとか攻撃を掻い潜り一撃喰らわせても、戦艦の装甲には大したダメージは入らない。
「流石にやりすぎなのでは?」
「そう思います?実は、前回消費した資材。あれがなくなったおかげでまともな出撃が困難になったんです。あれだけ潤沢に潤っていた資源が、たった1日で空です。ちょうど、遠征部隊の子たちが帰ってきたタイミングで、首の皮一枚つながりましたけどね。これは、前回の自分の戒めとして、そして、慢心を許さないという意思の表れと思ってください。」
声のトーンも喋り方も、いつもの彼のものだ。しかし、その内側に秘める本心は、怒り、唸り、こちらに牙をむき出しにして威嚇してくる。彼の肉体も相まって、迫力は凄まじいものだった。霞たちの演習を見守っていると、次第にうとうとと眠くなってくる。彼も、ほぼ同じように首をカックンと落としてはあげてを繰り返している。少しだけ帽子を深く被り、眠りに落ちる。
「…官!司令官!起きなさいな!」
ぱちっと目を開けると、霞が目の前に立っていた。
「霞。練度は99になりましたか?」
「もちろんよ!宣言通りね!」
まだ日はとても高いところに顔を見せている。足元が少しだけふらついているものの、気丈にあふるまう彼女が愛おしくてたまらない。
「霞。おいで。」
自らの膝をポンポンと叩いて催促する。
「ほら、早く。」
霞はもじもじと体を動かすも、結局膝の上に収まった。義手で腹を押さえ、右腕で頭を撫でる。優しく、ゆっくりと、彼女を傷つけないよう、丁寧にさわる。
「ひゃあっ」
小さく悲鳴をあげる彼女を本当に愛おしく思う。
「♪〜」
すっかり上機嫌になった霞の耳元で囁く。
「霞。知っていますか?練度を99まで上げると、ケッコンできるんですよ?」
「へえ、そう…なの…。」
「カッコカリですけどね。」
ゆっくり、静かに、耳元が赤くなる。
「思えば、ここまで長いようで、非常に短かったですね。」
少しずつ今日までを振り返る。
「霞が初期艦として。そして、ここの鎮守府での記念すべき初建造の艦でしたね。あの頃は、まだ今よりも少しだけ忙しかったですねぇ。」
霞の肩が揺れ、啜り泣く声が聞こえる。
「初めて一緒に鎮守府の外へ出たのは、最初に散歩に行った時。その次は大本営に行きました。あなた、ずっと怖がっていたのに無理していましたよね?」
霞の身体がビクンと跳ねる。
「他にもたくさん、あなたとの思い出は、まだまだ出てきます。けれど、ここらで一旦終わらせましょう。霞。続きは、また今夜に。」
「ひゃい…。」
真っ赤になっている霞を連れ、工廠へ向かう。改ニへの大規模改修を行った。あっという間に済み、服装を変えて霞が出てくる。
「ど、どうかしら?」
「やはりいいですね。あなたも今かなり調子がいいのでは?」
「え?ええ。そうだけど…。」
「なら良かった。」
彼の顔が柔らかい表情を作り上げる。直視できないそれは、私を虜にするには十分以上だった。
「霞。」
肩をぴくりと振るわせる。
「我々人間と艦娘の間では結婚はできません。」
「しかし、このケッコンカッコカリで、擬似的にではありますが、あなたと結ばれたい。」
その言葉を聞いて、様々な感情がブワッと押し寄せてくる。
「私とケッコンしてください。」
感情の整理ができなくて、大粒の涙がぼろぼろと流れ落ちる。彼は胸の内ポケットから小さな箱を取り出し、私に中を確認できるように開いた。銀色の指輪が、きらりと太陽の光を反射している。
「うぅ〜…ばかぁ…」
感極まって声が抑えられないほど泣いてしまう。彼は、あたふたして、どうすればいいのかわからないらしい。
「お気に召しませんでしたか?」
その言葉を否定するように首をブンブンと横に振る。
「!では…」
肯定の意思を見せるため、一度、ゆっくりと縦に振る。その瞬間、突然私の体が持ち上がり、彼に抱きしめられた。
「ありがとうございます霞!私、断られてしまったらどうしようかと…」
彼もまた、私のように涙を流している。暫く2人抱き合っていた。
「司令官。…ありがと。」
「ええ。ええ。こちらこそ。」
「だから、私の指に…はめて?」
「失礼。そのことを失念していました。」
私の手を優しく握り、薬指にそっと入れる。私たちのつながりが、もっとずっと深くなったようで、多幸感が湧いてくる。
「じゃあ、そろそろ戻りますか。ほら、ハンカチどうぞ。」
彼からハンカチを受け取り、涙を拭き取る。彼は、左手がない。しかし、指輪が首からネックレスによって下げられている。それを私に確認させた上で、服の内側にしまい込んだ。
「おや、先輩。何してたんです?」
眠りこけていた後輩司令官はもうすでに起きていて、2人で戻ってきた私たちを確認する。
「ああ、改…ニ…」
言葉を止める。私の左手を見たらしい。
「指輪?」
「ええ。練度を99まで上げてもらったので。やはり、霞は私の自慢です。」
頭を撫でられる。顔が真っ赤になってしまう。
「見てるから…やめて…」
そう言ったあと彼は椅子に腰掛け、私を膝の上に乗せた。
「ちょっと!」
「なかなかお似合いですね。お二人とも。」
「どうも。そうでしょう?」
「あぅぅ。」
身体を固定され、そのまま頭をそっと撫でられる。真っ赤な顔が机を挟んで座っている彼に見られている。恥ずかしくて爆発してしまいそう。
「なるほど。練度99になったから戻ってきたんですね。」
「いえ?私が今日中に練度を90程度まで上げて欲しいとお願いしたんです。そしたら彼女、『今日中に練度最大まで上げて日の出てるうちに帰ってくる』って言ったんですよ!とてもかわいらしかったですねぇ。」
突然自分の行いが恥ずかしくなってきて、顔を手で覆ってしまう。