演習をしていた曙たちが帰ってきた。
「お疲れ様でした。どうです?練度の方は。」
「ああ。大体60くらいまでよ。前回より20は上がったわね。」
「やはりあなたたちは素晴らしいですね。」
「ありがと。で?あんたらはいつまでそんなことしてんのよ。」
ハッと気づいて、彼の膝から降りようとする。しかし、それを彼は腕で固定して、逃げられないようにする。私も、本気で逃げる気などないので、それを受け入れる。
「むう。提督。私たちも同じことしません?」
突然後輩司令官の赤城が膝の上に座った。
「赤城…。こんなことしてくれるなんて…。」
感極まったのか目に涙を浮かべている。おそらく赤城はあまり積極的な方ではないのだろうが、私たちの光景を見てそれに乗じて甘えようとしたのだろう。顔がほんのり赤くなっていた。
「テートクー!赤城ばかりずるいでーす!」
金剛の声は彼に届くことはなかった。
「では。僕らはこれで。ほら、引き上げるぞ。」
そう言った彼は、まだ残っている資源の箱を肩にポンポンと乗せていく。そのまま歩いて去っていってしまった。
「では、今日は近海の警備に当たってください。私はちょっとやることがあるので。」
そのまま曙と出撃した。
「さて、大本営にこの書類を届けてもらって、後、背中を押してくれた軍曹殿に手紙でも書いてあげますか…。」
霞は、ずっと上の空のようだったが、海に出ると、途端に気を引き締め、集中して警備を始める。改ニとか言っていた。確かに、服装や艤装が少し変わっている。しかし、戦闘のほとんどないここでそれは必要なのだろうか?いや、それよりも重要なことがある。彼女の左手薬指に、銀色に光る指輪がはめ込まれている。あたしにとってこの指輪は祝福し難いものだったりする。しかし、素直に喜べない理由というものは、私の個人的な問題で、本来ならこれは暖かい祝福の言葉を贈るべきなのだ。
「霞。その指輪、どうしたの?」
ダメ元で聞いてみる。そうでない可能性も、少しだけどあると思ったから。
「これ?さっき、司令官に送ってもらったの。」
顔を僅かに桃色に染めた霞は、魅力的に見えて、それと同時にあのしがらみのような恋を吹っ切るきっかけにもなった。彼とはもう結ばれることはないけれど、今後は2人のこれからを見守っていく。そう決めた。そう決めるしかなかった。
「おめでと!」
これは、この言葉は、間違いなく本心からだ。彼女は、口元を綻ばせ、なれないようにぎこちない笑顔を向ける。こんなに霞は可愛らしかったっけ。すると、本当に霞という存在が愛おしくなった。彼のことより、今は霞のことに夢中になっている。昨日彼を想像してシていた身としては、この変わり身に自分でもどうかと思っている。しかし、そんなことはどうでも良くなる程今の彼女は魅力的なのだ。彼がケッコンを申し込んでいなければ、間違いなく性的な意味で襲っていただろう。結局、今日も何事もなく鎮守府へ帰る。
「2人とも。お帰りなさい。結果はどうでした?」
「結構時間かけてみたはずだけど、今日も何もなし。深海棲艦は見当たらなかったわ。平和な海よ。」
「ならよかったです。」
彼の笑顔でまた赤面してしまう。私の顔を曙がちらりとみてくる。背は少し曙の方が高いので、覗き込まれる、ということはない。それでも恥ずかしいけれど。
「では今日はもう自由時間にしましょう。ほら、2人とも。好きなように過ごしてください。では私は戻っていますので。」
「ぁ…」
彼の離れていく背中を眺めていた。
「じゃあ、あたし、応援してるから。さっさとクソ提督のとこ行っちゃいなさい♪」
「ええ!ちょっ!」
曙まで間宮さんのようになってしまった。このまま自室へ戻ると、曙に何かしら言われてしまいそうだったから、という名目で、司令室に向かう。
「司令官?入ってもいいかしら?」
コンコンと扉を叩いて、彼の返事を待つ。
「ええ。どうぞ。」
返事を耳が受け取った瞬間に、ドアを開け、彼の膝の上に身体を載せる。彼は無言で、私の頭を撫で始める。彼と身体を密着させ、きゅっと抱きしめる。義手はすでに外していたものの、昨日の夜のようにしっかりと抱きしめてくれる。幸せだ。顔が思わずとろんと溶けてしまいそう。もっと、撫でて欲しい。頭だけではなく、もっと、他のところも、触って欲しい。尚も彼は何も言わない。しかし、ふふっと微笑を浮かべたのは確認できた。演習の疲れもあってか、そのままの姿勢で強い眠気が襲ってくる。司令官は、膝掛けを取り、私にかけ、一緒に眠った。