「…。そういえばこの道は猫が多いんでしたね…。」
【どうするんだい?君は猫が大嫌いだろう?】
「しかし…霞のためなら…!」
曙に振り回されている時に、突然背筋を何かが通った様な寒気がした。何か起こりそうな予感がする。
「ねえ曙?もう帰ってもいいんじゃない?」
「何言ってんのよ!まだ見たいものがたくさんあるの!」
そう言って釣具屋にいる私たちは、奇異の目で見られている。曙の袖をくいくいと引っ張るものの、彼女はそれを意に介さず眺めている。
「じゃあ私、一旦外出てるから。終わったら呼んで?」
早々に説得を諦め、せめてこの場から離れる選択を取る。店の中から見える位置にあるベンチを指で指す。
「わかった。なるべく早めに済ませるから。」
なんだか悪いことをしてしまった気がする。少し御洒落して街に来たものの、見ている場所は釣具屋というなんとも似合わない場所。けれど、その中の曙がいる空間だけは、釣具屋以外の別のどこかに見えた。少しの休憩時間を得た私は、なんだかどっと疲れがやってきて、そのまま眠りそうになってしまう。突然、隣に背の高い女性が腰掛けた。髪が長く、黒っぽい服装に身を包み、そして…大きい。いかにもオトナな女性という感じがする。こちらの視線に気づいたのか、じっと見つめてくる。なんだか恥ずかしい。
「霞じゃないデスカー?」
「!?」
一気に聞き覚えのある声が聞こえる。後輩司令官の金剛だった。
「あんた…なんでここに?」
「そりゃ決まってまーす!テートクとデートでーす!キャー!」
かなり意外だ。金剛は相手にされていないと勝手に思い込んでいた。
「そんなわけないだろ。」
後ろから、誰かがコツンと金剛の頭に一撃をいれた。
「Ouch!」
「やあ。霞。まさか1人でここまで来てるのか?」
仕事ではなさそうな彼はフランクで、溢れんばかりの筋肉がピッチリと服に張り付いているギャップがすごかった。
「いえ。曙と2人。」
「そっか。じゃあ、僕らと一緒に買い物でもどうだい?」
「いいの?じゃあ曙が戻ってきたら行きましょうか。」
頭を抱える金剛を尻目に会話が弾む。
「やっと辿り着きましたね。」
【案外平気だったね。】
「バカなこと言わないでくださいよ。今身体の震えが止まらないんです。」
暫く歩き、霞ならどうするか。なんとなくどこかのベンチに腰掛けている気がする。小洒落たカフェから適当にフラフラ歩いていると人気のない小道に入る。すると、見覚えのある様な男と目が合った。男は、ギョッとした様な顔で、しかし、逃げるわけではなく、むしろ迫ってくる。動かずじっと見つめていると、
「君…もしかしてきりは…」
「黙れ。」
「えっ」
「黙れ。」
「う…」
「で、あんた誰です?私はあんたみたいな男と面識はありませんが?」
「覚えてないかな?士官学校の時同じクラスで、君の右前側に座ってた…。」
そう言われて、全て思い出した。例の変人だ。
「その目やめてくれないかな!?」
「いや。私はお前を心底嫌っています。なぜ私に好意を向けたのかさっぱりわかりません。あんなに一方的な恋心が叶うわけないでしょう。さっさと消えてください。」
「いや…久しぶりに合ったから…」
【提督さん。後ろから変なのが近づいてくるよ。】
(ええ。わかっています。)
ここは人通りがかなり少ない。私と彼以外が通っている様子はほぼない。そのまま後ろから殴られる。ガツンと鈍い音が鳴るも、気絶までは至らない。どころかただ痛いだけの様だ。
「ありがとう。まさかまた君に会えるなんて!しかも、そんな格好!僕のために着てきてくれたんだよね!嬉しいな〜」
完全におかしくなっている。恋は盲目というが、こんなことにまでなるのか。私も気をつけねば。
「で?後ろからあなたのお仲間に攻撃させて、何かやりたいことでもあるんですか?」
「もちろん。僕のことを散々嘲笑ったんだ。今度は僕が思い知らせてやるんだ。」
目に憎悪の炎が灯っている。理性を忘れている様だ。仕方がないのでゴム弾を打ち込む。
「?何をして…」
「相当痛いですよ。我慢できますかね?」
タァンと乾いた音と共に、男に命中した。
「ぐっ!?」
そのまま倒れ込み、もがいている。後ろの男は…確か怒りに任せて私を殴ってきたやつか。だいたいわかっていたけれど。
「何しやがる!」
があっとつかみかかってくる。
「最初にやったのはお前らでしょうに。」
さらっとかわして一発アキレス腱に打ち込む。
「うぐぁ…!」
「さて、ここからは警察の仕事です。もう通報しておいたので。」
スカートをパンパンとはたいて汚れを落とす。
「ま…まて!」
「いいじゃないですか。警察で済んで。忘れました?私、士官学校通ってて、見事卒業したんですよ。ですから軍関係者なんです。艦娘を指揮する…まあ提督というやつです。下手したら国家反逆罪に発展しますよ?確かお前らは素行が悪かったりなんだりで結局辞めてましたし。まあ知るはずありませんよね。」
絶望した様な顔を見て、満足する。
「あと私。ケッコンしました。ではね。次目の前に現れたら殺す。」
それだけ言い残して霞を探し始める。
【ひゅう。かっこいいねぇ。】
「あまり囃し立てないでください。さっさと行かないと。」