「起きましたか?霞。よくがんばりましたね。まさか終わってすぐに眠ってしまうほどとは思いませんでしたよ。」
「…。ここは?」
「妖精さんに直してもらったドックです。もちろんあなたの傷は治ってはいましたがね。」
「そう。ありがと。」
「それで、練度はどれくらいまで上がりましたか?先日はお聞きすることができなかったので。」
「そうね。ふふん!聞いて驚きなさい!練度が36まで上がったわ!」
「そんなに上がったんですか?改になれるじゃないですか!すごいですね霞!」
満足げな霞は月あかりに照らされている。
「あ…そういえば今って何時なの?」
「今ですか…マルフタマルマルですよ。」
「なっ!なんで起こしてくれなかったのよ!」
「あなたがぐっすりと眠っていたからですよ。あなたの睡眠を邪魔してはいけませんからね。それに、私の腕を掴んで離してくれなかったのですよ。悪い気はしませんでしたがね。」
「え?」
「ほら、あなたの腕は今も離してくれませんよ。何か悪い夢でも見ましたか?」
「///〜!そんなことないわよ!はあ。変な時間に寝たからもう寝れそうにないし…何しようかしらね。」
「別にいいじゃないですか。ぼーっとして、何も考えない時間があっても。もし気になるなら風呂に入ってみては?」
「今ドックっていうこと忘れてるの?多分妖精さんが入れてくれたでしょ。」
「いえ?ここはドックですがあなたはずっと布団に眠っていただけですよ。風呂には浸かっていませんし、無論私も入っていません。と、いうことで。」
「わかったわよ。背中流してあげる。」
「YES!!!」
「うわっ。急に大声出されたらびっくりするじゃない!」
「おっと失礼。つい舞い上がってしまって。」
「はあ…さっさと準備して?今になって体が汗でびっしょりっていうことに気づいちゃったの。」
この時間の風呂はなかなか貴重だ。さらに、いつもと違う点。それは霞が少々積極的ということ。
「おや、服を脱ぐのも手伝ってくれるんですか。」
「嫌だった?てっきりこれも手伝って欲しいのかと思ったのだけれど。」
「いやいや。ありがたい限りですね。」
「…ところで、」
「ん?何かありましたか?」
「その…演習の時、私のこと、大切って言ってたけど…あれ、本気なの?」
「はい。私、趣味の悪い嘘って嫌いなんですよ。あれは本心です。」
「そう、そうだったの。」
この会話を皮切りに湯船に浸かるまでずっと会話がなかった。霞からはこちらを向くなと言われていたのでどんな表情なのか、どんな気持ちなのか。自分のうちなる好奇心を自制するのに必死だった。
「あなた、なんで腕を失ったの?」
「それ聞いちゃいます?本当にお恥ずかしい限りなのですがね、私も一緒になって出撃したことあるって言ったじゃないですか。」
「まさか、深海棲艦に?」
「いえ。そうじゃないんですよ。あの戦艦、1人だけで完全に運航するために小さくなっているじゃないですか。だから、安全面は考えていなかったのですよ。」
「まさか…」
「はい。そのまさかです。あの艦、とにかくコンパクトにするために色々な物が一つの部屋にぎっしり詰まっているのです。動力部もそこに併設されたいました。それまではずっと大丈夫だったので油断していました。不意にきた高波でバランスを崩したところにちょうどその部分があったのです。今では安全なように再設計されていますけどね。」
「やっぱり頭がおかしいわね。」
「なんとでも言ってください。私はこの海が好きです。あの戦艦が好きです。それこそ、腕をもがれようが、足を巻き込まれようが、乗ることが危険であっても、あの艦が好きです。」
「別にいいわよ。結局あれに乗るのか乗らないのかはあなたが決めるんだから。」
「お心遣いに感謝しますよ。」
「ただ、今のあなたはこの私の提督なのよ。他の誰のでもなく。だから、危険なことはできるだけしないようにして?」
「それは告白と受け取って良い物ですか?」
「違うわよ。あなた以外の下で働く自分が想像できないだけ。」
「ふむ…」
「あなたもしかして、照れてる?」
「まさか。風呂が熱いだけですよ。」
「ちなみに、間宮さんがあなたが寝ている間におにぎりを作ってくださいましたよ。上がったら一緒に食べますか。」
「そうね。あとでいただきましょうか。」