鎮守府へ近づくにつれ、ウミネコの群れがバサバサと飛んでいくのが見える。ニャァニャァと鳴く声が聞こえ、そしてその声にすら身体をこわばらせる彼は面白い。鎮守府の玄関を開けると、ちょうどそこに曙がいた。
「あんたたち、結構早いのね。もっとゆっくりしてくればよかったのに。」
「やはり私たちにはここが一番なんですよ。ああいうところは活気付いていますが、少々息が詰まります。帰るべきところに帰って、安心できるのが、一番良いのです。」
「へえ。なんかクソ提督らしくないわね。辺なものでも食べた?」
「私らしくない…ですか。私の"らしさ"は私が自由にその都度決められるのです。今の私がいる限りは常に私らしさは私によって決められます。」
そう言ってのける彼に、曙は少々面白くなさそうな顔をしていた。
「わかったわよ。ほら、さっさと着替えて間宮さんのところ行きましょうよ。」
「そうですね。」
「わかったわ。」
再び彼と2人で廊下を歩く。そういえば、忘れていたけど聞きたかったこと。あまりにもくだらないけれど…一応聞くだけ聞いてみる。
「司令官って髪結べたの?」
彼はバツが悪そうにこちらを見てくる。
「…はい。」
「結べるなら言ってくれればいいのに。」
「いえ…あの…その…霞に結んで欲しかったので…」
見上げている彼が小さく見えるほどにしおらしい。
「別に、言ってくれればいつでも結んであげるわよ。」
「ほんとですか?」
「ええ。もちろん。」
彼が安堵したような顔で、しかし心細そうに聞いてきた。
「霞は…私とケッコンして幸せですか?」
「え?」
「あっ…すみません…。」
彼と2人で歩いていること。これだけで幸せ。まだケッコンして日は短いけれど、彼のことを好いている。初めて会った時の彼も、風呂場で見る彼も、朝の無防備な彼も、昼の少しだらけた彼も、夜の激しい彼も、演習の時激励をくれる彼も、今日のように突拍子もないことをする彼も、今のようにしおらしい彼も、みんな好きだ。
「わかりきってることなんて、聞く必要ないじゃない。」
「…!」
「でもあえて言って欲しいなら、しょうがないわね。」
彼が目に涙を浮かべる。
「何度だって、言ってあげる。」
「あなたのことが好き。だから、どんな時も、あなたがいれば幸せ。それだけで、あなたとケッコンする理由になるでしょ?」
「かすみ…。」
肩を揺らし、涙を溢す彼をそっと抱きしめる。
「ほら、泣かないの。あなたは私の泣く顔は好きじゃないんでしょ?私だって、あなたが笑う顔が好き。だから、泣かないで?」
「はい…。はい…。」
格好と顔のせいでまるで本物の女性に見える。こんな弱々しい彼は私の中だけで留めなければ。
「すみませんでした。あんなところを…」
「別にいいのよ。前私もこうしてもらったし。お互い様ってやつよ。」
鼻を啜る彼を支えながら自室へ向かう。
「はい。着いたわよ。」
「ありがとうございます。もう大丈夫ですので…。」
やっぱり嘘ばっかりだ。まだ彼は不安定なままだ。でも、彼の強がりを否定するのはいやだ。
「わかった。先に向かってるからね。ゆっくり来なさい。」
コクリと頷いて扉を閉める彼を最後まで見守る。服は…このままでもいいかな。間宮さんのところに行こう。太陽はすでに半分以上が海に沈んでいる。
「曙。間宮さん。来たわよ。」
「あらいらっしゃい。今ご飯持ってきますね。」
「待ってたわよ。って、着替えてないじゃないの。こんな時間まで何してたのよ。」
「秘密。」