間宮さんのご飯を食べ進めていると、司令官がゆっくりと入ってくるのが見えた。足取りは少し重いものの、しっかりと歩けている。そのまま私の隣に座る。何も言わず、ただ身体を近くに置いている。
「ねえクソ提督。一体どうしたのよ。」
黙っている。けれど、悪意のあるそれではない。曙にもそれは伝わっているようで、
「まあ、いいけどね。2人の間に何があっても私は見守ってるから。」
「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。」
「そりゃあね。」
「はーい。提督さん、今日のお夕飯です。」
司令官の目の前にやはり美味しそうなご飯が持ち込まれる。彼は顔を少し柔らかくしてそれに手をつけ始める。しかし、義手をつけているのにいつもの片手より少し遅い。
「クソ提督、私、先行ってるから。じゃあ霞、何かあったらすぐ呼んで。」
「わかった。」
そのまま食堂を後にして私たちを残す。すると、ようやっと彼が口を開いた。
「私は…私のことが嫌いです。」
突然の告白ある。ただ、彼についてのことは全て知っておきたい。
「私、両親を14の時に亡くしました。けれど、そのずっと前から私は両親を嫌っていたので、悲しかったとか、辛かったとか、そう言うのはないんです。むしろ嬉しかった。」
「昔から…この見た目で嫌な思いを何度もしたんです。人間関係のトラブルなんてのはほぼ毎日のようにありました。でも、今日まで生きてきました。その理由は私自身にもわかりません。ただ死ぬのが怖かったからか、本当はこの身体に未練があったか、いずれにせよわかりませんが。」
「でも、今は違うんです。それも、霞に出会ってからです。腕の事故の時も、あれだって顔とかに当たって傷がつけばよかったと思っていました。けれど、今はあなたが好きな自分が好きなんです。」
…少しわからない。けれど、私のおかげで彼は救われたのだろうか?
「霞が…、私を変えてくれたんです。長らく私が好きになれなかったこの身体をあなたは受け入れ、好いてくれます。」
無言で箸を進める。
「私、自分の名前だけはどうしても嫌いなんです。今身体を好きになっていても、今後の人生で名前を好きになることは確実にありません。私に永遠について回る名前は、両親の遺した最期まで残り続ける呪いなんです。あなたには理解できないと思いますが。」
彼の話を聞き終えた。けして気持ちの良いものではなかった。しかし、それでも彼について知ることができたのだ。
「司令官。私がいなかったら、いずれいなくなってたかもしれないってことかしら?」
「ええ。艦隊を指揮していたあの頃はがむしゃらになっていましたから。こんなことを考える暇がなかったのです。」
「ならよかった。今は私に夢中だものね。」
彼の顔がぼんっと赤くなる。長くくるんと回った髪を揺らしながら顔を隠している。
「私は司令官がどんな理由で悩んでても、全部聞いてあげるし、全部受け止めてあげれる。だから、そうやって話してくれると嬉しい。」
黙って食事を再開する彼を無視して話を続ける。
「あなたのことを好きだからこそ、あなたを理解したいし、あなたの味方になりたい。理由も知らないのにあなたに肩入れはできないから。」
「だから、溜め込まないで。いつかくる限界に任せないで。」
「はい…。」
「もう!泣かないの!早く食べちゃいなさい!私はどこにも行かないし、ご飯もどこにも行かないから。」
すると彼は先ほどまでのスローペースな食事をやめ、一気にたべ進めていく。
「ちょっと!ゆっくりたべなさいったら!」
遂に箸を置いた彼の顔はまるで憑き物がとれたような清々しい顔だった。
「ご馳走様でした。」
パチンと乾いた後で手を合わせる。
「霞…」
「ん。早くお風呂入りましょ。」
脱衣所は少し寒く、曙が入っている様子はない。もう済ませたのか、まだだったのか。とりあえず入ってみるものの、そこに曙の顔はない。遅れて義手を取り外した彼が入ってくる。彼の髪を優しく洗う。
「また伸びたわね。いい感じの長さでまた今度切りましょっか。」
「お願いします。」
いつもの話し方に少し戻った気がする。
「うん。髪は終わりね。ほら、身体の前側はあなたが洗うの。背中洗ったげるから。」
やがて彼の身体を洗い終え、湯船に浸かる。
「霞。」
「どうしたの?」
「少し、抱きしめながらでもいいですか?」
「…構わないわよ。」
彼の足の隙間に身体を入れる。そのまま彼の右腕がキュッと抱きしめてくる。これの何がいいのか私にはさっぱりわからなかった。でも、彼がこれで満足するなら、いつでも何度でもやってあげられる。
「どうかしら?」
「ええ。ええ。大満足です。もう少しだけこのまま。」