目を覚ましても、彼は私の横で寝息を立て続けていた。もう昨日のように顔は赤くない。しかし、服ははだけたまま。
「司令官、起きなさい。」
身体を揺らしながら呼びかける。
「んー?」
右手をパタパタと暴れさせながら目を開け始める。
「霞…ここは?」
「司令官の布団の上よ。運んであげたんだから感謝してよね。」
すると彼は少し嬉しそうに笑った。言葉はなかった。薄く微笑み返すだけでいる。すると、どんどんと顔色が悪くなっていった。
「ちょっと!大丈夫なの!?」
余裕のなさそうな彼はだっと走っていってしまった。呆気に取られた私は彼を追いかけたが、すぐにいなくなってしまった。扉の前で暫く待っていると、幾分かマシになった彼の顔が見えた。
「ねえ、さっきのって何?」
「あれは…突然気分が悪くなって…」
嗚咽を出す彼は弱々しくてほっておけなかった。
「気分はどう?」
「さっきよりは全然マシです。」
相当酔っていた様子だったが、翌日は気分が悪くなるらしい。私は特段そんな予兆もなく普通だ。人間と艦娘の体の違いだろうか。
「まあ、なんでもいいけど早くご飯食べましょ。ほら、着替えて。」
「はい。」
自室の扉を開くと、ちょうど曙が身体を持ち上げていた。
「あんたらまた今日も2人で寝たの?お盛んねぇ。」
「そんなことしてないわよ。」
「へえ。珍しいこともあるのね。」
何を勘違いしているのか。四六時中そんなことを考えているわけではない。そりゃあまたやりたいと思う気持ちだって多少はあるけれど節度はわきまえるつもりだ。しゅるしゅると服を脱いでいく。曙の視線が私に集中する。
「何よ?用があるなら目を見て言いなさいな。」
さっと目を逸らされた。
「別に…。」
曙もやはり相当変だ。彼を迎えにいくためさっさと着替えを済ませる。改ニ記念と称して妖精さんから送られたこの服。少し大きくなった私にぴったりの寸法だ。あの時にいつの間に寸法を済ませたのかはわからないけれど、手際がいいというのはよくわかる。
「司令官?入るわよ?」
「あ、ちょっと…」
何か言いかけていたが、もう時すでに遅し。扉は開けられた。彼はなんと女物の服を着ている。少しづつ自分の口角が上がっていくのがわかる。
「はあ。驚かせようと思ったのに…。」
ぶつくさ文句を垂れながらも服を着終わった彼は姿見の前でくるっと一回転し、そして義手を取り外した。
「あら、外すの?バランス悪くなっちゃうわよ?」
「はい。私の特徴がはっきりわかるようにしたいので。」
全体をしっかり見てみると、確かにその通りで、言わずもがな腕はないが、その違和感を感じることはない。おそらく、彼の腕がない時を多く見てきたからだろう。彼の肩は少し華奢で骨が浮き出ていたが、この服ではそこをうまく隠しつつも、色気が感じられる。彼の綺麗な脚がよく見えるように少し丈の短いスカート。胸元は少し開いて、胸板がチラリと見える。つうと何かが鼻から流れ出た。
「霞!鼻血出てます!止めて止めて!」
彼がティッシュを持って私に駆け寄る。彼の顔には薄くメイクが広げられ、元々の美しさをさらに際立たせた。困ったような顔で私の鼻を抑える彼は本当の女性のようで、錯覚を覚える。喉元にはしっかりと喉仏が出ている。なのに、書店で会った時は女性の綺麗な声を出していた。どうやって出したんだろう。わからないけれどそれでもいい。
「ふう。これくらいでいいですかね。じゃあ霞。髪を結んでもらえますか?」
「わ、私?」
「ええ。今の私は髪を結べませんから。」
姿見の前に身を置く彼は陽光に当てられ光り輝いているように見えた。長い髪が腰までだらんと垂れた。