「やっぱり自分で結ぶよりあなたの方がいいですね。」
鏡に笑顔を浮かべる彼は楽しそうに笑う。今の彼に似合う髪型を模索しながら櫛でとかす。ポニーテール?三つ編み?ツインテール?思い切ってお揃いのサイドテール?色々思案しても正解はない。結局、無難にポニーテールになってしまった。せめて髪飾りでもと何か探してみる。すると、ヘアゴムの付けられた鈴が目についた。
「ねえ。これって曙にもらったの?」
「それですか。いいえ?返すタイミングが見つからなくて。」
ちょっとだけ嫉妬してしまう。
「じゃあこれ返してくるからちょっと待ってなさい。」
もやもやする気持ちを抑え、再び自室へ戻る。
「曙?司令官が借りてた鈴、返しに来たわよ。」
ちょうど髪を纏めていた曙がいた。
「あ、そうだったわね。それ使うからちょうだい?」
「はい。」
「ありがと。」
ついでに自分の髪留めの替えを取り出す。
「はい。ただいま。」
もう一度彼の髪を束ね、私の髪留めでしっかりと結ぶ。元々の癖毛で丸まっていた髪が程よく広がる。
「どうも。」
「いいのよ。ほら、まだ朝食も取ってないんだから。」
「今日は…ほう…。」
「何かあった?」
珍しく彼が書類を真剣に読み込んでいる。
「初めて見ましたよこんな任務。」
ぱっと見では女性にしか見えない彼が軍人の座るべき椅子に腰を据えている絵面はなんともシュールだ。
「で?結局なんなのよその任務は。」
「ええとですね。まず、この任務は地域住民の方々から送られたものです。」
「それの何がおかしいのよ?」
「普通、こう言う公的な文書に一般市民の声が入ることなんてありませんでしたから。せいぜい漁船の護衛を頼まれたりだとかその程度なんですが、これに関しては海を主戦場とする艦娘に陸上の治安維持の仕事が来たのです。」
耳を疑った。海で戦う私たちが?
「なんでも昨日街に不審者が出たんだとか。」
「不審者なんてどこにでもいるんじゃないの?」
「それなんですけど、小中学生と思われる女児2人と20歳前後の若い女性2人を連れた男が出没したとかで地域住民の方が怖がったらしく…」
なんだか既視感のある話だ。
「その不審者の見た目があまりにも筋骨隆々だったようで警察の方も頭を抱えたらしく、そこで超人的な力を持つ艦娘に頼むことになったらしいです。」
完全に後輩司令官のことだ。
「あの…司令官。言いにくいんだけど…」
「取り敢えず期間が今日明日含めての2日間だけですし受けてみましょうか。ほら、こんなものまであるんですよ?」
そう言って彼は腕にはめる蛍光色の『現在警備中』と書かれたものを取り出した。ますます言い出しづらい。
「じゃあ曙と2人で早速行ってもらいましょう。あと、彼女に大規模改装をするように言っておいてください。」
「それはいいけど…まあいいわ。」
彼は最後までわかっていない様子だった。
「と、言うわけで、曙。あなたが大規模改装を終えたら早速出発だって。」
「それって柳田提督のことじゃないの?」
「私もそうだと思うんだけど彼はそんなこと疑いもしなくて…まあほんとに不審者だったら危ないからね。」
「そうだけど…」