一旦別行動とし、この子の親を探しに行く。『いつのまにかいた』というのは少し気になるが、だからと言って放置するわけにもいかない。薄気味悪い路地を抜け、もう一度賑わっている場所へ出る。
「あなたのお母さんってどんな人?」
「えっとねー。髪が長くて、お裁縫が上手なの!」
得られる情報は少ない。髪の長い女性などこの視界には数十人は優に超えている。目まぐるしく変わる人の波を抜け、ひとまず交番へ向かい、人探しを任せることにする。私たちは一応警備をするのが仕事であって、迷子の子守りは本来の仕事ではないし、こういうことは警察の方が得意だろう。そう自分に言い訳をして黙って歩く。
「お姉ちゃんはなんでここにいるの?」
向こうからの質問に私は答えられないでいる。何故ここにいるか。いもしない不審者の情報を頼りに周辺地域の警備と伝えてはこの子をただ不安にさせるだけ。でもどこにも矛盾がないように誤魔化すのは案外難しい。子供はそういう嘘に案外敏感だと司令官の小説に書いてあった。
「なんでかしらね?」
実際本当に何故ここにいるかはわからない。艦娘の仕事で来たとしてもさっさと理由を話していれば司令官がさっさと処理して終わっていたのだ。だから、わからない。私が彼に真実を言わなかったことも、素直に艤装を展開しながら警備しているのも。
「えー?変なの。」
「あはは。でも、案外そんなものじゃない?あなたがあそこにいたのだって、あなたにとっては突然で、『なんでなのかわからなかった』じゃない。」
「確かに!」
納得したのか再び会話が途切れる。こうも沈黙の時間が長いとこちらとしても気まずくてどうすればわからない。
「今から交番に行ってお母さんを探してもらいましょ?私たちあまりこのあたりに詳しくないから。」
「やだ!お姉ちゃんとがいい!」
何故こうもいうことを聞いてくれないのか。何故こうも私の近くにいたがるのか。本当は何か事情でもあってあんなところにいたのではないか。まあ単純に懐かれているだけとも取れるけれど。
「うーん。じゃあ、行くだけ行ってみましょう?それならいいでしょ?」
「それならいいよ!」
目の前の小さな少女の無垢な笑顔に心苦しくなる。この子を交番に連れて行った後、全てを警察に任せるつもりで、さっさと抜け出して曙と合流しようと考えている後ろめたさからなのかもしれない。
「うん。ここかしら。」
2分程度歩いたところに少し大きめの交番を見つけ、そのまま入る。本来、私たち艦娘と警察官が出会うことは滅多にないものの、一応敬礼で挨拶をする。
「やや?艦娘殿。これまた珍しいですな。もしや、あの依頼を?それに女の子を連れているとは。」
中に入ると浅いシワの刻まれた40代くらいの警察官がいた。
「この子が迷子なの。だから、少し手助けしてもらいたくて。」
「ええ。ええ。構いませんとも。まず、どこにいたのか教えてもらっても?」
街の大きな地図を広げられる。自分がさっきまで歩いていた道から逆算する。
「この辺りの路地かしらね?」
「こんなところに?本当ですかな?」
「嘘はつかないわよ。」
警察官は顎に手を当て、ふむと一呼吸置いた。
「お嬢さん。お名前聞かせてもらえるかな?」
「いいよ!私みゆちゃん!」
「はいありがとうね。あめちゃんどうぞ。」
「わあい!」
彼は慣れた手つきでスムーズに仕事を進める。
「最近の子は元気が有り余っているようだ。しかし…みゆちゃんか。絞りづらいな…。」
「自分がどのあたりに住んでいるかわかるかい?」
「えっとー。あ!おっきい公園があるよ!」
また彼が唸る。
「私、この辺りで退散してもいいかしら?後のことは任せてもいい?」
「ええ。構いませんとも。あとはお任せください。」
ぺこりと頭を下げて音を殺しながら交番を後にする。
「あれ?さっきのお姉ちゃんは?」
チラリと聞こえたその声を振り切ってそのまま抜け出した。