「今日は本格的に何もすることがありませんよ。ということで、近所を散歩しに行きましょう。」
「遂にきたわね。手紙もなければ、昨日のような演習もなし。いいわよ。付き合ってあげる。」
前鎮守府では常に仕事をしていたが、ここでは定期的に暇なタイミングが生まれる。霞自身も理解しているようだった。
「では、軍服のままでは少々動きにくいので、私服に着替えさせてもらいますよ。」
「あらそう?私はこのままでもいいのだけど…。」
「こんな日くらいは自由な服を着ちゃいましょう。多少はめを外してもバチは当たりませんよ。」
そう言って自室に戻る。堅苦しい軍服から解き放たれ、裾の広いズボンを履き、シャツの上に軽い上着を羽織る。
「?あなたその腕どうしたの。」
「これですか。前の鎮守府では自分で言うのもなんですが私は人気でした。中には私の等身大マネキンをねだる方もいたんです。その時の失敗作にベルトをつけてもげたところにうまくつけているだけです。そのままだと現地の方に出会った時驚かれてしまうでしょう?」
「へえ、そうだったの…。」
霞が面白くなさそうに顔を背ける。
「ふむ。もしかして妬いてます?あなたのような方にそう思っていただけるのは男冥利につきますね。」
「そういうことじゃない…けど…。」
頬を赤らめながら目を逸らす霞は見た目相応の可愛らしさを感じる。つい意地悪したくなってしまう。
「とりあえず適当にフラフラしてみましょうよ。気分転換も兼ねてね。」
「調子狂うわね…。」
外に出てみると雲ひとつない素晴らしい晴天を確認する。
「いい天気ですねえ。しかしなかなか風が強いのも事実。まあ海に近いので仕方ありませんね。」
「あなた独り言が上手なのね。私要らなかったんじゃない?」
「何を言いますか。1人ぼっちは嫌ですよ。それに、あなたのような美人な娘と歩けるなんてなかなかありません。」
「あなた今日そう言う発言ばかりね。前のトコでもそんなことばかり言ってたんでしょ。」
「そんなわけありません。あなただから言ってるんです。こんな小っ恥ずかしいこと簡単に言えるほどの胆力はありませんね。」
「あなたもしかして…」
「なんです?」
「ロリコン?」
「ブフッ!否定しようにもできませんねこれに関しては。大体あなたが悪いんです。私に好かれるような行動ばかりとるんですから。」
「そんなつもりないわよ!まったく…。」
このように駄弁る時間も楽しい。今は立場も忘れて会話に集中できる。明るいのに人気のない道路を霞と進んでいると、黒い猫が前を横切った。
「おや、何かいいことがあるかもしれませんよ。」
「どう言うこと?」
「黒猫って福猫と呼ばれるんです。昔の日本では幸福の象徴だったらしいですよ。欧米では不吉の象徴らしいですがね。」
「そんな対照的な意味を持つこともあるのねぇ。ん?」
「ほう、ここは猫が多いようですね。ありとあらゆるところに猫がいます。これ以上行くと威嚇されまくってしまいそうですね。帰りますか。」
「え?そのまま行っちゃいましょうよ。どうせなら。」
「いや、猫ってあまり好きになれないんですよ。子供の頃近所で猫を飼っている家があったんです。その家の近くに行くだけで引っ掻かれたり威嚇されたり、散々でした。他にも散歩している猫と偶然はちあった時には文字通り尻尾を巻いて逃げられたこともあります。私と猫はそれほどに相性が悪いのです。」
「そんなに嫌われるなんてもはや才能の粋ね。まあ汚されても困るし、帰るしかないか。」
「正直背を向けるのすら怖いです。」
「アホなこと言ってないで帰るわよ。そんなんじゃずっとここにいることになるじゃないの。」
霞にズルズルと引き摺られていく様は側から見れば滑稽なものだったと思う。
「ああ、そういえばあなたもう改になれるんでしたね。大本営から届いた資源で改修してしまいましょうか。」
「いいの?別の艦娘の建造とか、できることもいろいろあると思うけれど。」
「正直な話霞と2人きりの方が楽なんですよね。適度な距離感を保ちながら私についてきてくれると言うのは案外嬉しい存在なのです。他の艦娘は、まあ曙が一番あなたに近いでしょうが。」
「ふうん。」
「さ、ありえない仮説を立てても意味ありません。最初に似たようなことを言いましたが、私はあなた以外に建造する気など微塵もありませんので。」
「さっさと工廠に行って妖精さんにおねがいしましょう。」
妖精さんに頼むと、素晴らしい速さで改修を済ませてくれた。
「ふむ、見た目は変わりませんね。」
「そりゃそうでしょ。でも、前よりは格実に強化されてるわよ。」
「今日は間宮さんにお願いしてご馳走を作ってもらいましょうか。」
「そういうことはしなくていいったら!」