妖精さんに言われた通り、食堂に向かって歩く。途中、浴場の前を通ったが、その時にも霞の鳴き声が聞こえた。
「まったく…」
呆れながらも心の隅では嬉しく思う。やっと2人がくっついてくれたのだ。なかなか気分がいい。夜はうるさいけれど…。悶々と考えているうちに、目的地へと辿り着く。
「間宮さーん!いるー?」
「あら、曙ちゃん。いらっしゃ〜い。」
「にしても珍しいわね。お菓子でも食べる?」
「うん。ちょうどそれよ。」
間宮さんの顔がパァッと明るくなって、パタパタと軽やかな足音を厨房へ連れていく。ふと、私が建造をお願いした艦娘は一体どんな娘なんだろうという思考がよぎる。4時間くらいかかる艦娘?流石に長すぎるのではないか?それまでどう時間を潰したものか…。釣り?それとも本棚に置かれていた背表紙の日焼けした本でも読んでみる?霞の荷物をあいつの部屋に運んでおく?腕を組んで唸りながらどうしたものかと頭を捻る。
「はいは〜い。お待たせ〜♪」
「ああ、ありがとう。」
そのまま2人で向かい合って座る。
「はい。霞ちゃんからもらった紅茶とクッキーよ〜?」
まだ暖かそうな紅茶から、ふんわりと良い香りが漂ってくる。最初は暑くて、すぐに口を離してしまったけど、次第に程よく冷めて、美味しく飲めるようになっていった。サクサクと軽い食感で食べるクッキーを、紅茶で流し込む。口の中いっぱいにクッキーの甘味と紅茶の香りが広がって、すごく美味しい。なんというか…表現できるほどの語彙がないからどうしても美味しいとしかいえない。
「どう?お口に合うかしら?」
「ええ。すっごく美味しいわ。」
また間宮さんがうふふと笑って、クッキーを口に運んだ。
「それで…曙ちゃん。何かいいことでもあった?」
「え?」
クッキーと紅茶を楽しんでいたあたしに突然の疑問が投げられる。
「あら?そんなことない?」
「いや…別にそういうんじゃ…というか、わかるの?」
「そりゃあもう!」
まるで心が読めるとでもいうかのような彼女の顔が眩しい。
「そんな顔に出てた?」
「そんなことないけど…なんていうか雰囲気がぽわぽわしてたから…。」
ぽわぽわ?というのはわからないが、そこはいい。
「じゃあ…ちょっとだけお話聞いてもらえる?」
「どうぞ〜♪そのお話、ぜひ聞きたいわ〜!」
口を開けば止まらなくって、次々と霞やクソ提督への愚痴が出ていった。そんな話も、間宮さんならニコニコしながら受け止めてくれる。あらかた話し終え、呼吸を整えるために一旦話を区切る。
「曙ちゃんはいい子ね〜。」
「え?」
「だって、あの2人の恋を応援してあげているんでしょ?そのために自分ができることを精一杯してるんだもの!」
私をまっすぐな瞳で見つめて、引き込まれそうな笑顔が眩しかった。
「あと…今建造してもらってるからもう1人増えるわよ。」
「あら!本当に!?食材の調達してこなきゃ!今日はパーティよ〜!」
いつの間にか食べ終わっていた食器を運んで、身支度を始めている。
「曙ちゃんもくる〜?」
「いや、あたしはパスしようかしら。」
少し寂しそうな顔を見せた後、すぐに笑顔になって
「わかったわ〜。あ、あの2人のご飯作ったから持っていってあげてね〜。」
と言って、颯爽と走り去っていった。そういえばあの2人は昼からずっとやっていたなぁ。どんだけお盛んなんだか。仕方なく2人の食事を部屋に運ぶ。その道中で、ふと窓の外を見てみた。特に何も考えずにぼーっと眺めていただけだけど、なんだかすっきりした。
「あ、曙。建造終わった?」
ホカホカと湯気を立てている霞とはちあった。
「あー。まだかかるみたい。そういえばクソ提督は?」
そう聞くと、少し気まずそうに顔を赤くした。
「えーっと…その…まだお風呂に入るみたいで…。」
「わかってるから。ほどほどにしときなさいよ?」
そういうとまた顔がボンっと赤くなって、慌てたように手を振った。かわいい。
「あとこれ、間宮さんがあんたらにって、ご飯作ってくれてたわよ。」
「あ…ありがとうって伝えておいてほしい…。」
「はいはい。じゃあね。」
顔の熱が冷めない霞を放置して自室へ戻る。霞の荷物を運んでやるためだ。だから、他意はない。決して霞の服やら下着やらがみたいわけではない。タンスを開けると、中には丁寧に整理された服が詰められている。特に面白みのない入れ方だが、霞の性格がよく反映されている。タンスは私と霞のもので分かれているため、タンスごと運んで仕舞えば楽である。軽くはないはずだが、艦娘の力とは素晴らしいもので、ひょいと軽い力で持ち上がった。そのまま廊下へ出て、クソ提督の自室へ向かう。
「霞ー?服持ってきたから扉開けてほしいんだけど。」
中からとたとたと軽い足音が聞こえ、直後にドアが開いた。
「ありがとうあけぼ…の?」
理解できない様子で、宙に浮くタンスを見つめている。
「ほら、タンスの中にあんたの服全部入ってるから一気に持ってきたのよ。その方が楽でしょ?」
「にしたって力技すぎるでしょ!というか!次の艦娘のための収納はどうするのよ!」
「うーん。まだ使ってない部屋にあるんじゃない?探してくるわ。」
適当な隙間にどすんとタンスを置いて、クソ提督の部屋を後にする。
「なんだか忙しそうねぇ…。」
適当にガチャガチャと扉を開けていると、何やら倉庫のような、物置部屋があった。4時間かかるというなら、相当の大型艦だろうということで、服もその分大きいはずだ。だから、大きいタンスも必要だろうということで、そこらを散策しているわけだ。
「お。これなんかいいんじゃないかしら?」
それはかなり大きく、6段の収納付きのものだ。全て開けても、中に埃が溜まっているだけで、十分使えそうだし、これにしよう。
「よいしょっと。」
慎重に取り出して、運ぼうとする。
「あなた。どうしたの?」
あたしの背から、聞き覚えのない声が聞こえる。不思議に思って振り返ると、そこには和服を見に纏った大柄な女性がいた。
「えっと…あなたは?」
「私?私は航空母艦、加賀です。先ほど建造されたのですけど…。」
この人が?さっき建造されたってことは…
「あたしは曙。ちょっとびっくりするかもしれないけど、あなたを建造したのは私よ。」
「ここでは艦娘が運営しているんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど…まあ後にしましょ。とりあえずこれ運ぶの手伝って。」
「わかりました。」
そのままひょいと持ち上げ、歩いていってしまった。呆気に取られたものの、かぶりをふって、追いかける。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「まあ、こんなものかな。」
「これでよろしかったですか?」
「ええ!上場よ!」
広くて持て余していたこの部屋も、だいぶしっかりしてきた。
「じゃあ、挨拶に行きましょっか。」
「そうしましょう。」
そう言って彼女があたしを抱え上げた。
「ちょっ!何してんのよ!」
「え?いけませんか?」
整った顔立ちでまっすぐこちらを向いて言われる。
「いや、ダメじゃないけど…」
「なら構いませんよね。」
「あ!え!このまま!?本当に!?」
「流石に気分が高揚します。」
そのまま司令室前まで運ばれてしまった。
「もう降ろしていいから!」
「あら、そうですか?」
少し物足りなさそうな顔であたしの足を地面につける。
「クソ提督?入るわよ?」
「はい。どうぞ。」
くぐもった音がドア越しに聞こえる。大きな扉を開けて加賀と中に入る。
「あ、建造終わったんですね?」
「正規空母、加賀です。あなたが私の提督なの?それなりに期待はしているわ。」
「はい。よろしくお願いします。まあ、ここではのんびりしててください。深海棲艦はいない海域なので。」
「は?」
目を丸くしてクソ提督を見つめている。
「まあ私から説明するより曙に教えてもらった方が良いでしょう。仲良くしてくださいね?」
霞は何も言わずにこちらを見ている。何かあるのかと加賀の方を見ると、私の服の裾を掴んでいた。
「あんた!何してんの!?」
「は!ついやってしまいました。」
「好きにすればいいってそういうのじゃないから!」
「まあまあ。ほら、2人とも同じ部屋ですよね?一緒にお話ししてきたらどうです?」
「じゃあ、加賀はこの部屋で待機してて?あたしはちょっと用事あるから。」
「了解しました。」
そのまま工廠へ向かって歩みを進める。
「妖精さん!4時間かかるって言ってたじゃない!」
【えっとね?流石に4時間待つのは嫌かなと思って、バーナー使っちゃった。たくさんあったし。】
「そういうことは先に言ってよ!」
【ごめんごめん。でも嬉しいんじゃない?自分の建造した子とすぐに一緒になれたんだから。】
ぐいと妖精さんの頬を摘む。
【いひゃいいひゃい。やめへよ。】
「まあいいけどね。」
【じゃあね。仲良くするんだよー!】
「はいはい。」