「で、加賀だっけ。よろしく。今日から私と同じ部屋よ。」
「ふむ。」
部屋の中をぐるりと見まわし、何か言いたげな様子だ。
「何?気になることでもある?」
「いえ。ただ、この布団は私には合わないのではと…」
霞が使用していたベッドは、確かに加賀には小さい。
「うーん。じゃあ今から探しに行く?自分に合った寝具は必要よね。」
「よろしいのですか?」
「ええ。遠慮なんてしちゃダメよ?」
今から街に買い物に行くのは流石に面倒なので、さっきのように物置に何かないか探しに行く。加賀がまた、あたしのことを抱え上げようとする。
「ちょ!」
「こうしていると、安心するんです。あなたが近くにいると、なぜだか心が軽くなるんです。」
そんなセリフをよくもまあ表情を変えずに言える。
「手なら繋いであげる。でも、持ち上げるのは勘弁よ!」
落ち込んでいたように見えた彼女の雰囲気が軽くなった。
「流石に気分が高揚します。」
「そう。ならいいけどね。」
廊下をゆっくりと歩き、また扉を適当に開ける。よく見ると表札のように文字が彫られていて、『駆逐艦』だとか『軽巡洋艦』だとか、艦種ごとに分けられているらしかった。空母はどこにあるかと散策すること約10分。遂に見つけた。
「ここかしら。」
立て付けのよくない扉を開けると、埃と一緒に陽光が差し込んできた。たくさん積まれているそれは、最初何かわからなかったけど、よくよく見ると、艦載機であることがわかった。
「これは…」
「すごい量ね…」
この空母用の倉庫には生活用品はほぼなく、その代わりに膨大な艦載機が保管されていた。しかし、どれも練度はそれほど高くない。それでも、加賀はそれらをキラキラと輝く目で見つめる。暫くして、正気に戻ったのか体をこちらに向けた。
「すみません。お恥ずかしいところを見せました…。」
「構いやしないわよ。ほら、奥の方にもしかしたら布団あるかもしれないわよ?」
「そ、そうですね…」
結局見つからなかったものの、加賀の好きなものを知ることができた。まあ、何もないよりはマシだと思う。色々散策するうちに、すっかり暗くなってしまった。
「あ。そういえば今日はご馳走らしいわよ。行ってみる?」
「あ、はい。」
返事こそそっけなく聞こえるものの、声色は上がっているのがわかる。
「間宮さんいるかしら?」
「あ!曙ちゃんに加賀さん!もう少しだからね〜♪提督さんたち呼んできてあげて!」
「間宮さん加賀のこと知ってるの?」
「ええ。これでも大本営でお仕事してたからね〜。大抵の艦娘さんは知ってるわよ!」
いつも柔らかい雰囲気を放っていた間宮さんが案外と切れ者な気がしてくる。
「加賀はとりあえず待機してて?あたしが2人を呼んでくるから。」
「あ…」
そのままさっさと走っていってしまった。1人は心細い。
「加賀さ〜ん。」
間宮という方に呼ばれた。
「あ…えっと…」
言葉を詰まらせる私に笑顔を向け、手招きする。ふらふらと思い足でそこへ向かう。
「大丈夫?顔色が良くないみたいだけど。」
彼女が言ってしまったからなんてとてもいえない。心の拠り所になっていた曙が、私を置いて司令室へ向かってしまった。どれだけかかるかはわからないけれど、ものすごく不安になる。
「待たせたわね!連れてきたわよ!」
ばあんと大きな音を出して曙が入ってくる。一気に憑き物が落ちたような感覚になる。
「曙…」
「ん?どうしたのよ加賀。もしかして寂しかったの?」
どきりと心臓が跳ねる。後ろから肩を叩かれ、驚きで跳ね上がりそうになった。
「曙ちゃんの近くに行ってきて!ほら!ご飯も持って行くから!ね?」
曙の後ろには提督と霞の姿がある。あの2人に、私の個人的な衝動による行動を見せても良いのだろうか?と言っても、2人は自分たちの世界に入っているように会話をしていて、私を見ているのは曙だけ。ゆっくりと近づいて、はやる呼吸を落ち着かせるように深呼吸する。
「はい。寂しかったです。」
まさか本当にそうだとは思わなかったのか、少し驚いた顔を見せた。さっと顔から熱が引いていった。しかし、その直後の曙の笑顔が、私に再び熱を帯びさせた。
「ふーん。そんなにあたしのこと好きなんだ。大丈夫よ。あたしはあなたの前からいなくなることはないし、ずっとあなたの近くにいるから。」
自分よりもずっと小さな少女から発される言葉が私の耳に入ってくる。心がキュッとして、目頭が熱くなる。
「ちょっと、何泣いてんのよ。」
「いえ。泣いてません。」
「もう!」
彼女の小さくて柔らかい手が私の頬をそっと撫で、流れ落ちた雫を拭い去った。後ろに立っていた2人はいつの間にか消えていて、この痴態は見られていないらしい。
「は〜い!ご飯できましたよ〜!」
間宮さんの元気な声が響く。
「ほら、行きましょ。」
私に向かって伸ばされた手を取る。
この鎮守府の加賀さんはぼのたんLOVE勢(限界)です。