『本営ニテ定期報告ニヨル集会アリ。日時ハ…』
「今年もありますねぇ。」
「何それ?」
「毎年この時期になるとこうやって大本営に提督が集まって成果の報告とこれからの改善案について話し合う…もとい上層部の鬱憤晴らしです。」
司令官は怪訝そうな顔でその書類を見つめる。
「ねえ。それって私も行けるの?」
「もちろんですよ。付き添いで護衛艦として1人まで艦娘を連れて行けますからね。」
「で?いつなのよ。」
「明日です。近いので別に困りませんけどね。」
「…それっていつ届いてたの?」
「1週間前です。」
「そういう書類にはすぐ目を通しなさいよ!」
「それはそうなんですけど…確認するほどの書類もないものでして…。」
「別にいいけどね。ほら、伸びてきたし髪切るわよ。」
「頼みます。」
「へー。明日にそんなのあったんだ。」
「曙も行きたかった?」
「いや?あたしは加賀の面倒みないといけないし。」
「えっ」
ぎょっと目を見開いて曙を見つめる加賀。
「まあ頑張んなさいよ。」
「もちろんよ。」
「で?霞はさっきからハサミ持って何してんの?」
「司令官の髪を切ろうかと思って。ほら、最近また結構伸びたでしょ?」
「そういうことね。」
「確かに長かったですね。」
「うわびっくりした。あんた喋れたんだ。」
「なんですか?」
むすっと頬を膨らませて不機嫌そうに見てきた。
「まあいいや。そういうことだから、明日は留守番よろしくね。」
「了解。」
司令官の髪を整える。腰あたりまで伸びていた髪を肩より下程度まで短くする。
「おお。頭が軽いですね。」
「そりゃそうよ。あんな長いの頭だけで支えるなんて無謀よ。」
切った髪を集める。
「ん?それ捨てないんですか?」
「えっ?あ!ああ!捨てるわよ!うん!」
「まあどうしようと霞の勝手ですからね。」
「…。」
「さて、どうしましょうかね。報告と言っても大層なものではないですけれど、何かしらあった方がいいですから。」
「でもそんなのないでしょ。深海棲艦と戦闘してるわけでもないし。演習と…警備巡回と…あとは演習とか?」
「まあそれくらいあれば問題ないでしょう。話なんてその時浮かんだ言葉で誤魔化せばいいんですよ。」
今はまだ午前中だが、すでにやることがなくなってしまった。近海の警備は流石に疲労を溜めてしまうし、かと言って何かやりたいことがあるというわけではない。
「霞、私の膝の上に座ってもらっていいですか?」
「また?」
「はい。またです。」
前のこともあり、少しだけ不安なものの、彼と密着できるので渋々その誘いに乗る。
「うん。やっぱりいいですね。」
私の身体に手を回し、優しく抱擁する。彼に包まれながら陽光を浴びていると、瞼がだんだん重くなってくる。彼も頭が重くなったらしく、私の頭に頬を乗せている。義手をつけていない彼の左腕は袖が余っている。興味本位でそこに腕を差し込む。彼はすでに熟睡していて、私の行為に気づかない。するすると手を進め、やがて彼の腕の断面に突き当たる。平たくツルツルとした腕は、いつ触っても慣れないし、不思議だ。本来高速修復材とは資源を消費した上でのみ使えるものだ。さらに言えば、その効果は基本人体には毒で、触れるのもあまりよろしくないものだ。それを彼は興味本位で使用したのだ。恐らくは資源…まあタンパク質やらなんやら人間に必要な栄養素等を摂取していれば多分腕が生えただろう。しかし、そんなことはきっと起こらない。もしあるとしても、きっと歪な形に生え変わっているはずだ。このままで良かったのかもしれない。それでも彼はその方が良かったと言いそう。だって彼はこの身体が嫌いだから。そんな彼が酷く哀しい存在に見えた。しかし、その存在を私は好ましく思って、愛している。
「クソ提督いる?ちょっと用が…」
ドアを開けると、霞と2人で一緒に幸せそうに眠っている。
「曙?どうかしましたか?」
「ううん。なんでもない。ほら、戻りましょ。」
「えぇ?でも…」
「いいの。ほら。」
2人のあの空気を壊すのは忍びない。眠っているとしても、ここでなら誰もそれを咎めはしない。2人だけの空間を邪魔する存在はいない。加賀の背中を押しながらそう考えていた。