※この作品はR-18です。

【艦これ二次創作】辺境鎮守府   作:スイっぴ

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贖罪

廊下から曙と加賀の話し声が聞こえる。しかしその声もすぐにどこかへ吸い込まれ、耳に届くことはなくなる。一方私たちは司令官の自室、もとい私と司令官の部屋のベッドに二人並んで眠っていた。しかし、眠ろうにも私の意識がそれをさせない。彼はすでに寝息を立てている。何分経ったかは知らない。知る気もない。どこまでも続きそうな闇を抱えた天井がこちらに迫ってくる。けれど、不安感は不思議と感じなかった。きっと彼が隣にいるから。そっと抱きついて、彼の温もりを肌で感じる。ゆっくり、じっくりと睡魔がやってくる。これなら安心して眠れそうだ。

 

気づいた時には私はどこか知らない海の上にいた。周りでは艦娘達が黒い何かと砲撃戦を行っていた。上空では艦載機のような何かが飛び交い、爆撃を繰り返していた。私は当たらないようにと必死に動き回った。見覚えのある戦艦が、必死に上空に主砲を撃ち放している。他にも私のような駆逐艦や軽巡艦が死に物狂いで動き回っている。

「ちょっと!いきなりなにが…!」

私はさっきまで司令官と一緒に眠っていたはずなのになんでこんなところにいるのか。そんな思考すらもできないほどに忙しい。突然、見覚えのある戦艦が酷い損傷を負った。航海などもうできそうにないほど傷ついた彼女が、艦載機からの追撃であっけなく沈んだ。他の艦娘も、どんどん沈む。私だけは何故か沈んでいない、どころか一撃も受けていない。そう。私だけが。突然艦載機が消え去り、空から雨が落ちてきた。私の身体に水分を染み込ませ、体温を奪う。空が黒く重い雲に覆われていく。遠くから戦艦二隻、駆逐艦四隻、重巡一隻がゆっくり進んできた。みんなが顔を引き締め、周囲の警戒を行っている。私には彼女らが何をしようとしているのかわからなかった。その中の一人に見覚えがある。時雨だ。一体何を…?突然時雨以外に傷がついて、沈み始めた。気づいた頃にはみんなが大破し、轟沈寸前。私は急いでそこまで向かった。私一人が来た程度でどうにかなるなんて思っちゃいない。でも、それを遠くで傍観して終わるなんて嫌だ。全速力でそこまで向かった。沈みゆく艦娘たちと目があった。その目は憎しみと悔しさに満ちて、私の心を責めるように消えていった。皆、私の方を見て沈んでいるはずなのに私のことを沈ませようとしているような顔を見せる。よく見ると、その中には私と似たような服を着る少女の姿があった。時雨はいつの間にか消えていた。今度の私がいるところは陸だった。

「さっきから何度も何度も…」

上空でビカッと眩い光が私の周りを包んだ。何故か私には明るさだけが届く。ついで轟音が鼓膜を破るように襲いかかってくる。それらが全て収まった頃。ゆっくりと目を開けると、周りの光景は地獄という表現すら生ぬるかった。全てが溶け、焼け、吹き飛び、地面には人の影だけを残して全てがなくなっていた。私が進めばそこだけは何事もなかったかのように動きが止まる。とにかく、この場から抜け出したくて、走った。誰かいないか。誰でもいい。この孤独を消し去れる人がいれば。そう思って必死に走った。地面に横たわる人が見えた。少し嬉しくて、その人に向かって行く。

「あの!大丈夫…」

その人は肌が焼け爛れ、骨が見え、地面と癒着していた。それでもピクピクと動き、やがて、動きが止まった。涙が止まらなかった。また走った。誰かいないのか。ボロボロになった建物。見当たらない植物。川が見えた。ボコボコと沸騰し、湯気がたちのぼっている。その中に、人が這って行く。川の上に架けられた橋を渡った。まだ無事な人がいると信じて、走った。小さな子供がフラフラと歩いていた。身体にすすがついているけれど、怪我はないようで、少しだけ安心する。その子に触れた瞬間、手がぽきっと軽い音を立てて折れた。その瞬間にその子の身体が崩れ落ち、サラサラと風にのってどこかへ飛んで行った。黒い雨が、私以外に降る。

また、場面が変わる。どこかの広場にラジオが置かれている。集まる人はみんな痩せていて、手を擦り合わせながら待ち続ける老婆や、小さな子供の肩をそっと支えながらかたかたと震える母親。何が起こるのか理解していない小さな子供たち。ラジオから音が出る。私にはよく聞こえなかった。けれど、その声は聞かなきゃいけない気がして、動けなかった。暫く雑音混じりの放送を聞いた。みんなが一斉に泣き出した。何を聞かされたのだろうか。全くわからない。

また変わる。今度は暗い夜の闇。背後から肩に手を回される。

「なんで、君は沈んでいないんだい?君は、もう沈んでるはずだろ?」

時雨が、さっき見たような怨みの込められた目でじっと見つめてくる。すると、たちまち戦艦と駆逐艦と重巡洋艦が私の周りを取り囲んだ。みんな無言で私の方を見てくる。ぴくりとも動かず、目だけは私に向けてくる。

「自分だけ特別だと思っているのかい?僕たちは、必死に戦って、沈んだ。君は、なんなんだい?沈んでいない。沈むべき戦いで自分だけが無事なのは、何故なのか。考えないのかい?」

「う…あ…」

どんどん追い込まれて行く。時雨は私の心を執拗に抉ってくる。

「ねえ…どうなんだい?」

「うるさい!うるさい!」

「酷いことを言うね?本当は君の方が…まあ、いいよ。」

時雨はスッと消え、他の艦娘もいつの間にか消えた。正直安心した。もうあんな恨み言を聞かなくて済むと思うと、心に溜まった何かが軽くなったように思えた。そう、思った。目の前に大和が立っていた。その威圧感は私を恐怖させるのに十分たりうるものだった。

「…」

何も言わず、かと言って離れるわけでもなく。ただ、そこにいる。虚な瞳は私を映し、その中の私はひどく怯え、疲れている。大きな平手打ちが私の頬にぶつかった。何が起きたのかわからない。ジンジンと痛む頬を抑え、そっと見上げる。先ほどまで感情のなかった顔が怒りに震え、私のことを殺すのではないかと思わせるほどに豹変している。ギリギリと首を絞められ、脳が停止しかける。また、消えた。目の前に彼が来た。口元が綻んで、こちらを優しい瞳で見ている。

「よかったぁ…司令官…」

私が彼に縋りつこうと手を伸ばした時、その腕はばつんと何かに遮られた。彼の上半身がなくなり、下半身と、残った右腕がぼとっと無機質な音を立てた。そのすぐ後にまた海の上に立っていた。もう、何もしたくない。彼が目の前で死んでしまった。この絶望をどうすれば晴らせるのだろうか。きっと無理だ。また、そこら中で砲撃の音が五月蝿い。その音から逃げるようにうずくまる。

「霞!」

誰かにどんと押され、姿勢が崩れる。司令官の姿が海の上に見えた。そのすぐ後に、彼の腹部が消し飛んだ。また、彼の死んでしまうところをこの目で、目の前で見てしまった。私が…うずくまらなければ…彼は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何に対しての謝罪なんだい?」

また時雨が話しかけてくる。もちろん彼の死に対してに決まっている。謝るしかできない。

「本当にそれしかないのかな?」

何を言っているんだ?

「ほら、君も沈んで彼のところに行かないと。きっとすぐ消えちゃうよ?」

そうか。それもそうだ。私も、彼の、ところに…。都合よく落ちていた主砲を手に取り、自分の頭にそれをあてがう。今…行くから…。

「ああ、ダメダメ。僕の主砲だよ?それは。君なんかに使われてたまるもんか。勝手に一人で沈んでなよ。」

私が頭に向けた主砲は時雨に奪われ、私の手には何も残っていなかった。彼は何度も死に、私は彼のために死ぬことさえ叶わない。今度は周りが炎に包まれた街にいる。人々の叫び声が聞こえる。先ほどのように私のせいで彼が死んでしまうなんてもう耐えられない。

「司令官!司令官!いるなら返事をして!」

喉が張り裂けそうなほど叫んだ。どれだけ走ったかはわからない。1時間走ったのか、それとも1分も走っていないのか。彼は瓦礫の下に眠っていた。それも、私が最初に立っていた瓦礫の下に。私が彼の頭を足蹴にしていた。彼の頭は私の踏み込みに耐えきれず、ぐしゃぐしゃに潰れている。これは、私が、やった。彼を死なせたのは、私。罪の意識が身体を包み込む。

「う…ああ…」

涙が溢れて止まらない。曙が私のことを見下ろしている。いつも、私のことを支えてくれる。どんなに小さなことでも相談を聞いて、一緒に悩んでくれる。だから、曙に縋ろうとした。甘かった。曙は私の顔を思い切り蹴り飛ばした。その後、彼の頭を潰したように私の顔を足で何度も何度も何度も何度もつぶした。頭が割れていく。すごく痛い。けれど、私が彼にやったことへの断罪ならば、まだまだぬるい。加賀がいつの間にか私の上に馬乗りになっていた。ぽきんぽきんと私の身体の骨を折っていく。痛すぎて声が出ない。彼の潰れた顔が私の横にあった。その痛々しさが、余計に私の罪の意識を増幅させた。身体に火が回る。熱い。痛い。死にそうだ。早く死んでしまいたい。愛しい彼を私の手で殺したのだ。もう…未練などない。だから、早く呼吸ができなくなって、身体に火が回って、さっさと殺してくれ。

全身の傷が治って、火の手が消えた。また、死ななかった。死ねなかった。場所は、大本営だ。彼は私を蔑んだ目で見て、私は、憲兵に連れられていく。この景色は、見たくなかった。彼の失望の眼差しが私に深く突き刺さる。目から涙が溢れる。彼は私に見えるようにケッコン指輪を地面に投げ捨てた。それが、私が見た最後の景色だった。

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