今日は一年に一度だけ許される、嘘をついても良い日。霞に適当にでっち上げた嘘を言ってみよう。
「霞ー。」
「ん?何かしら?」
「艦娘って史実で生き残った年数しか生きられない噂って…知ってますか?」
「え…」
この嘘は少し考えればすぐにわかる。霞はすでに数十年前からずっと軍曹の隣に立つ電の存在を知っているので、ほんの少し考えればわかるのだ。まあ、念のためすぐにネタバラシしよう。
「なんちゃって。嘘で…」
「うぐ…ひっ…うう…」
大粒の涙を見た。霞の目から雫が溢れて止まらない。
「やだ…やだぁ…しれえか、ん…」
何やらとんでもないことになってしまった。勘のいい霞ならばすぐに看破されると思っていた。少し甘かったようだ。霞を慰めるためにそっと抱擁する。
「すみませんね霞。不用意に怖がらせてしまって。」
「ねぇ…うそなんでしょ…?そんなのうそでしょ…?ねぇってばぁ…」
このまま嘘だと言って仕舞えば霞は安心するだろう。ただ、それだけでは足りない。もう少しだけ遊びたい。傷つけるのではなく…あくまで希望を持たせる。
「嘘…ではありませんが、霞なら大丈夫ですよ。」
「え…?どういうこと?」
「改装を済ませた艦娘はそうはならないんですよ。今の霞は改二でしょう?それに、改にさえなって仕舞えば寿命は普通の人間くらいには伸びるんです。だから、安心してください。」
「そう、だったの…。よかった…。」
まだ涙が止まらない霞の背中を抱き、しっかりと腕の中に収めた。
「ねぇ…それって、改装されてない艦娘は本当にそうなの?」
「…今は、研究段階らしいですがね。」
あくまで噂程度のものに収めておこう。この話が広がると少し面倒だ。
今日はエイプリルフールとかいう嘘をついてもいい日らしい。加賀は今はぐっすりと眠っている。加賀は私のことになるととにかく取り乱す様で、その姿をちょっとだけ見たくなった。けれど、そんなにひどいことはしたくない。そうだ。机の上に書き置きしておこう。内容は…適当に買い物に行ったとかでいいか。布団を押し入れにしまって、部屋の外からドアを少し開けて隠れる。大体3分後。
「う…ん…」
低血圧なのか少し気だるげに起き上がる加賀。私の布団の敷いてあった空間に顔を向け、首を傾げている。
「…あけぼの?」
暫くきょろきょろ見まわし、机に置いた手紙を発見したようだ。その内容を見た途端、少しだけ揺れていた身体が硬直した。肩が震え始め、啜り泣く声が聞こえた。今すぐにでも飛び込みたかったが、ぐっと堪えて様子を見る。何かを決意したように拳を握って、すくっと立ち上がった。タンスから服を取り出し、それを着始めた。やがてそれも終わり、髪を結び始めた。その手が震えているのがわかる。鏡を見ながら結ぶので、顔に涙が浮かんでいるのがわかった。そろそろ戻ろうかな。
「ただいま。加賀、起きた?」
わざとらしく声を出し、よく通る声で加賀のいる部屋へ入る。
「あ、あけぼの〜」
私を確認した途端にくしゃくしゃに顔を歪ませ、私を強く抱きしめた。
「はいはい。どうしたのよ。」
「勝手にどこかに行かないでください…。」
「我儘ねぇ。まあいいけど。」
そういえば…これって嘘になるのかしら?
「嘘…ですか。」
「そうですよ。今日は嘘をつける日らしいです。どうですか?提督に軽めの嘘をついてみるというのは。」
「なんてこと言うんですか加賀さん!そんなことできませんよ!」
「いいじゃないですか。提督がその嘘を信じるか信じないかで誠実さがわかりますから。」
「そんな試すみたいなこと…!」
「大丈夫ですよ。軽めですから。資材が半分になったとか、嫌いになったと言うとか…。」
「嫌ったら嫌です!もう!私行きますからね!」
「…怒らせてしまいました。」
もう!なんなの今日の加賀さんは!嘘なんてつけるわけないじゃないですか!しかもあの素直な人に言ったらどんなことでも信じてしまいます!
「ん?赤城?どうしたんだいそんなに顔を赤くして。」
「あ、提督。いえ…別になにもないんですけれど…。」
はあ…やっぱり変な嘘なんてつけません。
「そういえば今日はエイプリルフールっていう日なんだ。」
「え!?」
「でも、僕は嘘なんてつけないからいつもみんなの嘘を聞くだけしかできないんだよ。」
「は、はあ。」
「だから、赤城も協力して僕と一緒に嘘を考えて欲しいって思うんだけど…どうかな?」
嘘を一緒に考える?なんだか少しいけないことのような気がします。でも…一緒…提督と…。
「なんちゃって。」
「え?…え!?」
「嘘だよ。」
「ひ、ひどいです!」
「ははは、ごめんごめん。でも、今の顔の方がさっきみたいにむすっとしてるのよりも好きだよ。」
「うえ!?そ、それも嘘なんでしょう?騙されませんよ!」
「いいや。これは嘘なんかじゃない。僕の本心だよ。」
「…もう。ずるいです…。」
「なあ、電よ。」
「ふふ。なんです?司令官さん。」
「私はもう司令官ではないが…まあいい。今日も今日とて嫌いだよ。」
「うふふ。電も嫌いなのです。」
「ははは。そうかいそうかい。それはよかった。なんたって今日は」
「エイプリルフールですからね。」
「うむ。その通りだ。やはり電が居てくれてよかった。」
「それも嘘なのですか?」
「そう思うか?」
「ふふふ。いいえ。」