「司令官。ほっぽは?」
自室から歩いてきた霞が当然の質問をしてきた。
「あー。軍曹殿が快く引き取ってくれました。」
「え?大丈夫なの?」
「ええ。北方棲姫でしたが、軍曹殿のお知り合いでしたから。」
「?ちょっと訳がわからないんだけど…。」
「深く考えてはダメですよ。」
「そう言うものでいいのかしらね?」
「そうですよ。それに、今日はやりたいことがあります。」
「?何よ。」
「私の戦艦で、一緒に海に行きましょう。」
「あの艦動くの?」
「妖精さんに整備をお願いしてあるので大丈夫ですよ。」
霞は少し俯いて、一拍置いたあと、顔を赤くした。
「わかった。ほら!速く準備しなさいな!」
雲がちらほらと流れ、陽光がさんさんと甲板に差し込んでくる。艦娘が船に乗るのはなんだか少しおかしい。ゆっくりと航海しているため、海鳥が一緒になって飛んでいく。深海棲艦のいない海は平和で、自由な行動をとることができる。脚を甲板に投げ出し、ぺたんと座り込む。
「…そういえばあと何日かで演習があるんですよねぇ…。」
「あら、そんなこともあったわね。何か嫌な予感でもあるの?」
「無いと言えば嘘になるんですけどね。まああなたたちが心配することはありません。あなたたちは強いですから。」
「実戦経験がない私たちが強いなんて、相当お気楽な頭なのね。」
「これくらいお気楽でいいんですよ。なんでも考えすぎはつまらなくなりますから。」
「そう言うものかしらね。まあ、否定はしないわ。」
「そういうところ好きですよ。」
「はぁ!?と、突然何よ!」
恥ずかしくて顔を背け、海の方を見なおす。水平線の向こう側には何があるんだろうとふと疑問になった。陸があるのか、それとも永遠に海が続くのか、どうにかしてまたこの地に戻ってくるのか。私には知らないことばかりだ。ちらりと彼の方を見る。目を細めながら、しかし的確に船の操舵を行なっている。ざばざばと波打ち、海を力強く進んで行く。
「…ねえ司令官。」
「どうしました?」
「この海の向こうには…何があるのかしら…。」
海を見ていると、勝手に口が動く。
「海の向こうは…別の陸地があり、そこにも人が生活しています。私たちの住む国と勝手は違いますが。」
彼から帰ってきた答えは案外と素っ気なく、つまらないものだった。けれど、どんな返答でも、私は彼の答えに失望したのだろう。どんな答えを待っていたのかはわからない。けれど、この海を見ていると、その考えすらも潮風に乗ってどこかへ飛んでいってしまう。
「そろそろ戻りますか。」
「…そうね。」
「あんたらどこ行ってたの?」
「少し海にね…。」