暫く何もなく、例の手紙から1週間が経った。
「あたし改二になったわよ。」
「改装…やりました。」
「いつの間に…?」
「とりあえず港で待ちますか。」
「そうねぇ。面倒ごとにならないならなんでもいいわ。」
「曙。こちらに。」
「行かないわよ。どうせまた抱きつくつもりなんでしょ。」
「む。心外ですね。頭を撫でたくなっただけですよ。」
「変わんないわよ!」
「まあまあ落ち着いて。」
そんな会話をした丁度そのタイミングに来た。
「やあやあ。また会ったね。」
「あらかた予想はついてましたけどね。ほら、早く始めましょうよ。」
「渋るかと思ったが…話が早いな。」
「まあ1週間も経てばね。」
「…それはすまなかった。」
「で?あなたの艦隊はその子達でいいんですね?」
「そうだ。して、君の艦隊は?まさかその3人な訳ないだろう。ほら、呼んできたらどうだ?」
「そのまさかですよ。うちに所属する艦娘は3人です。」
「本当かい?」
「嘘言ったってしょうがないでしょうよ。」
「…まいったな。」
「ははぁ。君、もしかして嫌なやつ感出してるくせに根は真面目のいい子ちゃんでしょう。」
「は!?そんな訳ないだろう!ほら!さっさと準備しろ!」
大焦りしている彼の後ろではうんうんと頷く艦娘達がいた。
「じゃあ3人とも、ファイトです。」
「軽いわねぇ。」
「その方が気楽だからいいけど。」
「鎧袖一触です。曙、これが終わったら…」
「後で聞くから。」
「うう…。」
「お前達…いつも通りだ。しっかり勝ってこい…!」
「は!」
「もちろんです。」
「待っててね〜。」
「流石に数が違うし…」
「ほら。流れ弾が来たら嫌ですから。こっちの安全なところで見守りましょう。」
「…ああ。」
「そう警戒しないでください。ほら、ゆっくり座ってお茶でも。」
「甘味ですよ〜。」
「どうも間宮さん。」
「それはありがたく受け取るが…。」
「?何か問題ですか?」
「格好だよ!なんでそんな格好してるんだ!」
「ええ?」
自分の格好を今一度よく見てみる。ロングスカートを履き、黒地のカーディガンを羽織っている。ついでに髪型は今朝霞に結んでもらったので三つ編みになっている。
「…これが何か?」
「何かじゃない!お前は男だろう!」
「ああ。女装のことですか。いや。結構似合うでしょ?」
「ぐ…似合ってるからだ!」
「ええ?変なこと言いますね。第一、女装は男にしかできない最も男らしい行為ですよ?」
「訳のわからないことを言わないでくれ…君のイメージがどんどん崩れていく…。」
「そんなの勝手な決めつけです。私がやりたいことやって、他人からとやかく言われるなんて嫌なんですよ。」
「わかった。もういい。そのことは話題に出さないから、止まってくれないか。」
「最初からそう言えばいいんです。私も喋りたいことがたくさんありますから。」
「はあ…なんだか疲れたな…。」
「あなたのあの艦隊、全員ケッコンカッコカリしてますよね?彼女らに愛情は注いでいますか?」
「…は?」
「ですから、彼女らを平等に愛していますか…と。」
「そんなの当たり前だ!そうでない限りあんな小っ恥ずかしいもの渡せるものか!」
「では…彼女らをどれだけ愛しているか…話を聞かせてもらいますよ。あんなに勝手な申し出をしたんですから。私のこの質問にも答えてください。」
「な…な…!」
彼の顔が赤くなり、細い目を限界まで開いている。
「こ、断る!」
「ひどいですねぇ。私はあなたのせいで憲兵に連れて行かれたんですよ?しかも、あなたの我儘も聞いてあげたんです。今度はそちらが私の我儘を聞くべきでしょう。」
「訳のわからないことを…!」
「言いたくないなら言いたくないで、こちらにも考えがあります。」
「何をするつもりだ!」
「何って、私の抑え切れない霞への想いの捌け口にするだけです。」
「…は?」
「いいですか?あなたは私の霞を低く見ているようですがねぇ、私の霞はあなたに下に見られるほどチャチなものではないんですよ。あの子は心優しく、そして脆い。私が連れて行かれる時、あなた、笑ってましたよね?それに引き換え、霞は私の身を案じ、泣き出しそうな顔で見つめていたんです。ああ…今でもその光景が思い出される。あんな顔を、あなたは自分の艦娘にされるほどの人間ですか?いやいや、攻めているわけではないんです。それに、まだまだ語り尽くせませんから。」
「…???」
「基本的に霞という艦娘は口が悪く、上官に向かって罵ってくる怖いもの知らずな…言ってしまえば規律を大きく違反している艦娘ですよね?」
「…?まあそうだが…。」
「ただ!私の霞はそんなことはありません。元々の霞の本心を持ったまま、私への想いが強く溢れているんです。私がここに着任した当時の話です。私がここへ来てから初期艦はなし。ここにあった申し訳程度の資源で建造した…いわば初期艦が霞なんです。その時は、まあ不安でした。本当に大丈夫かとね。その心配はすぐ杞憂に終わりました。私の腕を見て、そして、この鎮守府の現状を聞いた瞬間に、私のことを心配したんです。その夜ですかね。彼女が、私の背中を流してくれるって言ったんです。」
「…それで?」
「もちろんお願いしました。」
「憲兵呼んでもいいか?」
「彼女があくまで自発的に行なったことですから。」
「…まあいいだろう。」
「そして、初の演習をした時です。倒れるまでやって、私に参加報告をしてくれました。可愛かったですよ〜あれは。写真に収められていないのが悔やまれます。」
「わかったよ。わかったから、黙ってくれ。」
「いいえ。あなたは何もわかっちゃいない。まだ続けます。」
「もういいだろう…」
「それからですよ。練度を伝える時の霞ときたらもう…あれほどの幸福感はありませんでしたよ。」
「大本営でも軍曹殿に初めて会った時は怯えてましてねぇ…。可愛らしくて…いじめたい欲が溢れまして…」
「わかった!もういい!その節はすまなかった!だからもうやめてくれないか!もうすぐあの3人も帰ってくるだろう!?」
「いえ?彼女らはきっと夕暮れまでやるつもりですよ。」
「な…なにを…言って…?」
「あの3人は深海棲艦との戦闘がない分演習で頑張りますからねぇ。ほら、次はあなたの番ですよ?」
「ねえ司令官。みんなばてちゃったんだけど。」
「霞?もう帰ったんですか?」
「ええ。かっこだけ立派でも、案外体力ないのねぇ。」
「3時間ですか。結構早かったですね。物足りないのでは?」
「うーん。練度は結構上がったから…。あ、向こうの艦隊は今曙と加賀が介抱してるわよ。」
「そんなバカな…あんな話を聞いてる間に3時間も…?は!おい!みんな今どこにいるんだ!?」
「浜辺でぐっすり寝てるわ。」
そのまま凄まじい速さで駆けていく背中はもはやあの時と同一人物とは思えないほどだった。
「私たちも行きますか。」
「そうね。ゆっくり行きましょ。」