空母たちが一斉に食堂に向かう。
「霞も来るか?」
「いえ…私はいらないかな。じゃあ。」
「ああ。」
小鳥遊提督と再びわかれ、全く別の廊下へ歩き出す。
「あら?霞。今日は遠征に行ってないの?」
後ろから突然話しかけられる。振り返った先には夢の中で沈んだ私と似た服を着た艦娘だった。自分に近しいものを感じるし、何やら見覚えがある。
「ええと…私はここの『霞』じゃなくて…」
「ええ?どうしちゃったのよ一体。ほら、食堂行くわよ。」
手をぐいっと引かれ、無理矢理に連れていかれる。
「わ!ちょっと!」
「食べたくなくても食べないとダメよ。任務に支障が出たらいけないんだからね。」
髪を編み込んだ艦娘は私のことをここにいる霞だと勘違いしている。もうどうにでもなれとその動きに身を任せる。
「日替わり定食を…私と霞の分もらえる?」
「あら満潮ちゃん。今日は霞ちゃんも一緒なのね。はいはい。待っててね。」
ここの間宮さんはなんだか忙しそうで、でも、流す汗と同じくらいには楽しそうだった。というか、ここの間宮さんは大本営に行っていないのか。
「ほら、霞。定食もらえるまで座って待ちましょ。」
満潮という艦娘が空いている席を指差す。
「うん…。」
「なんか今日は様子が変よ?何かあったの?」
「あの…私は別の鎮守府の霞で…今日は来客としてきたの。だからあなたのことをよく知らないの。」
そう言って見えるように左手を机に置いた。
「え!?そうだったの!?全然気づかなかったわ…。ごめんなさい。」
「あ、別に謝らなくてもいいのよ?なんだか姉がいるみたいで新鮮だったから。」
「あれ?霞知らないの?」
「何を?」
「私とあなたは姉妹艦よ?」
姉妹艦?どういう意味だろうか。字面から見れば満潮と私は同型艦ということになる。まさか本当にそうなのだろうか。
「ん?満潮姉さん。と…私?」
ちょうどそのタイミングでここに所属する私が来たらしい。
「ねえ。あなたって私よね?」
「そうだけど…。」
側から聞けば何を言っているかわからないだろうが、この質問にはこの返答以外は当てはまらない。別の鎮守府の自分は初めて見る。
「あなた、どこから来たの?」
どこ…と言われても、あの鎮守府の名前は所属している私にもあまりよくわかっていない。一番簡潔にすぐに伝わる言い方となると…
「あなたたちの元司令官のところよ。」
「へえ。やっとケッコンカッコカリしたのね。あのクズ。」
「ク…!こほん。その呼び方しないで欲しいんだけれど。」
「なんでよ?あなたも私ならアイツのことはこう呼んでるんじゃないの?」
さっぱりわからない。頭の中でこの文がぐるぐる回っている。私って司令官のことをクズって普段呼ぶような艦娘なの?そういえば最初の頃は口が滑ってクズって言っちゃった。胸の奥がザワザワして、感情の昂りが止められなくなる。
「ちょっと…。どうしたってのよ…。」
目から大粒の涙が溢れる。それを見られないように顔を床に向ける。
「満潮ちゃん。霞ちゃん。お料理できたわよ〜!」
明るい間宮さんの声が私の心をさらに締め付ける。
「霞、ちょっと取ってきて。私この子のこと見とくから。」
「なんで私が…」
「あんたがこの子泣かせたんだから。そんくらいしなさい。」
「う…わかったわよ。」
肩を揺らして啜り泣く私の横に座って、満潮に背中をさすられた。
「ごめんね。あの子も悪気があったわけじゃないから。ちょっと言い方がキツいだけなの。自分と同じ見た目の人に好きな人のことをそんな言い方されたら嫌よね。」
優しく諭すように私を落ち着かせようとしてくれる。その暖かさが心に染みる。
「ごめんなさい…悲しくなっちゃって…」
「大丈夫。あなたが泣くところは私しか見てないから。」
ギュッと抱擁され、安心感が身を包む。
「あんたも謝んなさい。」
いつの間にか帰っていた私に促した。
「あの…もういいから…。」
「ダメよ。謝れる相手がいるうちに謝らないと。」
無言の圧を送っている。
「…ごめんなさいね。あんたがそんだけアイツのこと好きって知らなかったから。」
顔を見ればわかる。本当に反省していて、本当に司令官のことをクズと思っているわけではないと。
「別に…もう大丈夫よ。」
私の前に定食が置かれた。白米に味噌汁、トンカツと千切りキャベツ…。その匂いに食欲が刺激される。賑わってきた食堂の中で満潮と私と私が一つの机を囲っている。
「あら?霞が二人?」
「あ、姉さん。」
黒髪を長く伸ばしている真面目そうな艦娘が来た。満潮が姉さんと言っていたのを見るに彼女もまた姉妹艦なのだろう。
「こっちの指輪をつけてる霞はお客さん。」
「あら、そうだったんですか。ようこそ我が鎮守府へ。」
「よろしく…。」
妙に丁寧に挨拶されてしまった。少しくすぐったい。
「ゆっくりしていってくださいね。じゃあ満潮、霞。あとで遠征組の子を迎えにいってあげてね。」
「了解。」
「今日も仕事ね。」
少しめんどくさそうにその言葉を受け入れる。その後は会話も特になく、黙々と食べ進めた。
「じゃあ私たちは行くから。あんまり無理しちゃダメだからね?」
「うん。ありがとね。」
「アイツによろしく言っといてね。」
「…うん。」