少し進むと戦艦用の寮に着いた。そこは意外にも静かで、ほとんど艦娘はいなかった。ある一部屋を除いては。
「HEY!」
「ひえぇー!!!」
「落ち着いてください〜!」
「ああ!やめて!暴れないでくださいお姉様!」
…無視して別のところに行こう。面倒事に首を突っ込むと面倒くさい。バァンと扉が勢いよく開き、金剛と金剛によく似た服を着て、緑っぽいスカートを履いた茶髪の艦娘が揉み合って出てきた。
「比叡〜!今日も可愛いデース!」
「やめてくださいお姉様〜!」
「ちょっと!お姉様方!落ち着いて…って、霞ちゃん?」
「うげ…」
「いいところに来ました!一緒に金剛お姉様を止めてください!」
「な、なんで私が…」
「助けてください〜!」
「あーもう!馬鹿ばっかり!」
「sorry…」
「ふぅ…ふぅ…」
「榛名は大丈夫でした…。」
「流石は霞。頼りになりますね。」
「…私帰っていい?」
「いえいえ。せめて紅茶の一杯くらいは飲んで行ってください。」
そう言ってすでにティーカップに注がれていた。なんて素早さ。
「うう…ん?hey霞ー。その指輪はなんですかー?」
「あ…これは…」
「まさか私たちの提督さんから!?」
「受け取ったというのですか!?」
「金剛お姉様を差し置いて!?」
「お、落ち着いてくださーい。そうと決まったわけではありませんよ?」
少し、違和感を感じる。私のよく知る金剛はもっと提督に対しての愛情表現が顕著かつ独占欲がある。しかし、ここにいる金剛はそれほど動揺していないどころか、他の姉妹を宥めている。まさか…
「金剛。少し来て欲しいんだけれど。」
「…構いませんよ。」
「お姉様?」
「大丈夫。すぐ戻るから。」
「金剛。単刀直入に聞くわ。あなたの姉妹艦たち、みんな元司令官のこと覚えてないか、知らないでしょ。」
ぴくりとも眉を動かさず、まるで諦めたかのような眼差しを私に向けた。
「その通りです。みんな、提督のことを忘れてしまったんです。でも、霞がそのことを知ってるということは…」
「ええ。あの人とケッコンしたの。」
「…やはりそうでしたか…。」
俯いて、私の顔を見ない。こんなにもしおらしい金剛は初めて見た。
「…実はですね…今のあなたの提督が転属する時…私に対しても一緒に異動しないかって…大本営から通達があったんです…。」
ゆっくり口を開いて、私にぽつりぽつりと話を聞かせる。
「私は…着いていこうと思っていました…。けれど、そのお話は私個人だけの通達でした。姉妹たちが…先ほど霞も言ったように、提督の記憶をなくす前まではひどく混乱していたんです…。比叡は何も言わなくなってしまって…榛名は自傷行為に走って…霧島は指から血が出ても爪を噛み続けて…どうすればいいかわからなかったんです…。」
「私だけが提督のところに行っても…心残りとなる姉妹がいては、私にも提督にも真の幸せはやってきません…。ですから、ここに残って、姉妹たちのことを見守っていたんです…。今更あなたたちの関係にどうこう言える筋合いは私にはありません…。」
金剛の独白は止まった。その語り口が、私に対する恨み言のように聞こえた。きっと彼女はそんなつもりはないだろう。
「あ、すみません。こんな話…」
「ううん。聞けてよかったわ。あなた、苦労したのね。」
「いえ…誰も悪くありませんから…。私は、最善だと思う行動をしているつもりです。」
金剛の瞳の奥はしっかりとした信念がこもっており、姉妹たちへの慈しみの感情がどれほどのものか用意に理解できた。
「今はもう元気ですから…私も報われたと思っています。提督さんはいないですが…彼女たちが楽しく過ごせるなら…私はいくらでもこの身を捧げます。」
「あんたね…たまには甘えなさい。誰でもいいから。」
「…どう言うことでしょう?」
きょとんとこちらを見てくる。
「あのねぇ。あんたが頑張ってるのは誰でも見ればわかんのよ。さっきの大騒ぎだって、あんたは本心もあったと思うけど、その中に姉妹のために自分を殺してたるのもあるでしょ。そんなこと続けてたらいつかあんたが壊れちゃうわよ。」
「しかし…」
「ほら、しゃがみなさいな。」
「…?」
「撫でてあげるって言ってんの。姉妹にはこんなとこ見せたくないでしょ?」
「…少しだけお願いしますね…。」
「ん。そうしなさい。にしてもあんた、普通に喋れるのね。」
「あなたたちにキャラを作る必要はありませんから。姉妹たちがいる前でしかやりません。」