スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
──気付けば、何もかも失っていた。
星々を砕く戦争機械になり果てて、数多の死を振りまいて。
いつか仰いだ星の光も見えぬ虚空に惑う。
グレートウォールとグレートウォールの狭間、虚無に満ちた
とうの昔に朽ち果てた
ああ、と電脳のささやき。誰も拾わぬ言葉を電波に乗せ、恒星をも砕く
──どうか、この孤独に終わりを。
「ん……」
鼻孔をくすぐる嗅ぎ慣れた香りに目が覚めた。
えらく重たいものが、膝の上に乗っている。その体温にどぎまぎして、少年はまず目を開くことをためらった。
ハジメはそういう、慎重すぎる若者だった。顔立ちこそタレ目の優しげな童顔だが、生真面目そうに結ばれた口元のせいか、あどけなさよりも不器用そうな印象が先立つ男だ。
実際の年齢など本人にもわからないのだが、便宜上、少年ということになっている。
不老化処置の施された肉体のせいである。外見年齢から実年齢を割り出すのが難しい人種だった。
遺伝子レベルで手の加わった改造人種の肉体──星の海を渡るものなら、そう珍しくもない施術なのだ、と聞いている。
段々と頭が冴えてきた。自分はずっと、〈図書館〉の整理をしていたのだ。
おのれに課したノルマも達成した頃合いだったから、つい気が緩んで、椅子に座って眠りこけてしまったのだろう。
膝の上に乗っているのは、どこの誰だろうか。
呼吸の度、鼻の粘膜をくすぐる甘いにおいには覚えがあった。この四年弱あまりの間、常に彼を助けてきた生命のにおい。
妙齢の美しい少女の体臭。おそらく彼の鼻孔が、勝手に甘いにおいとして認識している
彼女の後ろ姿見るたび、ほっそりした腰つきに不釣り合いな臀部に、悶々としていたのを思い出す。
──ひょっとして。
まず、脚の上に乗った重量と体温が具体的すぎた。
張りのいい肌に包まれた皮下脂肪の感触。ズボンの布地越しにも、その重さと温もりが伝わってくる。
ちょうど脚の根本と股間のあたりに、ずっしりと重い肉がのっかっていた。
起きているのを悟られるのも気恥ずかしくて、腕一本動かせないまま、そっと目蓋を開いた。
案の定、推理は当たっていた。目の前には、頭を横に向けた寝顔。
椅子にでも腰掛けるように、ハジメの膝に座っていたのはよく見知った少女だった。
だから当然、頭から大きな山羊角が生えていたし、眠っているときでさえその顔立ちは涼やかである。
可愛いと言うよりも格好いい、そう言い表したくなるような美しい横顔だった。
翡翠のように透き通った角と艶やかな黒髪。無防備な寝顔を晒す彼女へ、そっと呼びかけた。
「ヤシェロ」
びくん、と少女の
その唇からこぼれた吐息は、ひどく湿っている気がした。
そんな夢を見た。
◆
「今日の昼ご飯、何だったっけ」
何気ない呟きに、椅子に座る少女がこちらを振り向いた。ミディアムロングの黒髪が、人工重力に従って揺れ動く。
側頭部から生えた鉱物状の異物──ちょうど陸棲哺乳類、ウシ科ヤギ属のものに似た二本角がいやがおうにも目を引く容姿だ。
半透明の角の色は、光を透かすエメラルドグリーン。少年の腕の肘から手首までぐらいの大きさで、三日月型の曲線を描いている。
いわゆる
それに加えて宇宙船暮らしのせいなのか、十代後半ぐらいに見える少女の肌には染み一つなかった。
卵形の小顔にすっと通った目鼻立ち、控えめに言って美人である。
余人はどうか知らないが、少なくともハジメから見れば「すごく綺麗な子」ということになる。
惚れた弱みだとか、恋は盲目だとか、古代人の残した金言に従えば客観性は心許ないけれど。
人種レベルでの肉体改造の痕跡──黄金色の双眸が、切れ長の目の奥からハジメを見据えた。
色白の肌によく映える、紅を塗ったような
「地球時代、つまり西暦表記で二〇〇〇年代の上流階級の食生活を意識した、南アジア地域の民族料理です」
「ごめん、詳しすぎてわかりにくい」
せっかく詳しく教えたのに、と半眼で睨まれた。生真面目で律儀なのはいいけれど、変なところで子供っぽい娘である。
口を開くと妙に安心するのは、たぶん、少女がそれほど完璧超人ではないからだ。
そう、可愛げがある。
そんな少年の思考を知ってか知らずか、少女──ヤシェロは微笑みながら講釈を再開。
どうやらベストの表現が見つかったらしい。
「つまりインド料理です。香辛料をたっぷり使っています。もっと雑に、俗に表現するならカレーです」
雑と俗をこれでもかと強調しながら、人差し指を立てて再度説明してくれた。
どうやら少女の癖らしく、少年に物を教えるときはいつも指を立てている。
ヤシェロが男物の背広を着込んでいるせいか、学校の
「そっか、カレー美味しいよね。教えてくれてありがとう。あとさ、もう俺も子供じゃないし指立てて教えるのはやめない?」
「子供は関係ないでしょう。特にハジメには」
「結構ひどいこと言われてないかな!?」
じっとりと重い目で見られた。くそう、自分のどこが子供っぽいのだろうか。
如何にもわかりやすい挙動だったのか、言葉にするより先に理由を言われた。
「そうやってムキになるのは子供っぽいと思います、わたしは」
「むっ……」
わたしは、を強調。
そう言われるとハジメも言い返せなかった。なまじヤシェロのことを意識しているせいか、彼女の前だと落ち着きが足りないように見えているらしい。
悪循環だな、と自省する。かれこれ三八回目の反省だった。まったく進歩していない。
ハジメが反論しなかったせいか、妙な雰囲気になってきた。
元よりこの〈図書館〉──実際に並んでいるのは本棚ではなくフォトニクス結晶の記録装置だが──には、二人の他に生き物がいない。
高度な無人化というのも、行きすぎるとこういうとき困る。にぎやかしがいないから、年頃の少年少女の気まずい空気を打ち消してくれない。
「……わたしは先に上がりますね。その、お昼にまた」
いつもならヤシェロがこちらの手伝いをしてくれるのだが、今日はそうもいかなかった。
「あっ、うん。俺もすぐに終わらせるよ」
手近な記録メディア──ガラス細工のような格子状の構造体に、汎用端末を近づける。
幸い、データベースの通信ポートはまだ生きていた。こいつが駄目になっていた場合、機材の修理から始めなければいけないから二度手間になる。
汎用端末をセットし、保守管理システムを立ち上げる。ヤシェロのような角人なら、こんな手間がなくともすぐにアクセスできるのだが──
それでもハジメは、自ら望んで彼女の手伝いを申し出たのである。
そそくさと背を向けて立ち上がるヤシェロに、一瞬、目を奪われた。
ハジメ自身、それほど多くの角人を知っているわけではないが、彼らは総じて細身で引き締まった肢体の持ち主だ。
筋肉で引き締まった造形美は、ヤシェロのほっそりした腰つきにも現れている。けれど、そう、年若いハジメの目を引いたのはそこではない。
彼女の後ろ姿から伺えるのは、慎ましい胸元ではない。
男物のスラックスに包まれた
ボトムスの厚い布地を張り詰めさせるほど、みっちりとつまった皮下脂肪と筋肉と骨盤の美しい曲線だ。
武術の達人にも似た、刹那の集中力。少女が邪な視線に気付く暇も与えぬ神業だった。
「……ううん」
ヤシェロが立ち去ったあと、視界に収めたお尻を反芻する──いっそ不純すぎる性欲と、胸の奥で燻る思慕の区別がつかなかった。
ひょっとしなくても自分は最悪なことをしているな、と思う。
何せ、ヤシェロはハジメにとって命の恩人なのだから。
大昔、銀河と銀河を行き来して、数多の星々への植民を成功させた銀河間移民船──全長三〇〇〇キロメートルの人工天体が、二人の住処である。
当然のことながら他にも住民はいるが、船体が大きすぎて用がない限りそうそう顔を合わせることはない。
人口密度が低くても問題ないほど、万事、あらゆる活動が自動化されているからだ。
移民船の建造に使われた技術は目玉が飛び出る高度な代物で、植民と播種の役割を終えてなおその存在は貴重だった。
その気になれば、三〇〇〇キロメートルの船体をほぼ無人で運用出来るほどの自動化、整備すらも不要な半永久的に稼働し続ける方舟。
今となってはロストテクノロジーの塊だが、どんなシステムにも不備が起こるのが人の世の常。
長すぎる年月に加え、船体の管理を担ってきた角人の離散──戦禍が激しかった時分、全滅を免れるための措置だった──によって、学術用データベースにエラーが起きたのが、およそ一〇〇〇年前のこと。
聞いているだけで気が遠くなるような年月の話だが、角人にとって切実な問題なのだとヤシェロから教えられた。
この移民船に収められたデータの整理と再建。それがヤシェロの悲願であり、目下、少女が最優先事項とする使命である。
先ほど二人が点検していた〈図書館〉こそ、異常を来したデータベースへのアクセスが可能な部屋だった。
人間の手でメンテナンスすることを想定した、予備の施設だ。
かつて星々を渡り歩き、人類の播種を担ってきたのがこの母船である。植民を見届けた後も、銀河間のネットワークの橋渡しとして、中立的立場で関わってきた文明は数知れない。
何より重要なのは、その船内データベースに収められた情報の量と多才さ、そしてその一次資料を基に編纂された二次資料である。
失われた技術体系、ロストテクノロジーの類や銀河規模の天災で失われた歴史的事件の記録など、発掘されれば計り知れない価値があるものばかりだ。
だが、ハジメがヤシェロの手伝いをしているのは、そういう崇高な理由からではない。
それが少しばかり寂しかった。
移動用の高速トラム(船体が巨大すぎるせいで、移動には鉄道の類が必要不可欠だ)に乗り込み、座席に座って一〇分あまり。
ハジメは自分の来歴を思い出していた。と言っても、振り返るべき事柄は多くない。
精々、標準時間で四年ぐらいの記憶しかないからだ。
少年には、いくつか奇異な点がある。
まず一つめ、ここ四年より前の記憶がないこと。世に言う記憶喪失という奴で、どんな脳内探査を用いても記憶の欠片一つサルベージできやしない。
しかし、これはどうでもいい。運良く住む場所と当面の食い扶持を手に入れたからである。
何より、外宇宙を流離っていた宇宙船の残骸の、唯一の生存者とあっては手がかりも何もない。
次に、惚れている
相手は大恩人。今現在、ハジメの身の回りにあるものすべてを与えた少女だった。
身よりもない、記憶もない、ついでをいうなら外界の常識も知らぬ小僧に手を差し伸べるようなお人好し。
都合よすぎやしないか、とハジメでさえ思う。
ふと、ここの娯楽アーカイヴで読んだお伽噺を連想した。
お菓子の家の主人は、子供を丸々と太らせて食べる魔女だったりするわけだ。
ここに住み着いてかれこれ四年になるが、この娘が何故、自分のような部外者を助けたのか、未だハジメにはわからない。
角人の例にもれず、ヤシェロもかなり利に聡い人種なのは明白だ。少なくとも、何の打算もなく行き倒れを何年も養うような人物ではない。
しかし面と向かって理由を聞くほど、ハジメは無神経ではなかった。
そのせいで煩悶する羽目になっているのだから、多少は無神経な方が生きやすいのかもしれないが。
トラムを降りてすぐ、見慣れた三人目の顔が視界に飛び込んできた。
「エルギダさん」
その背後には迎えの自動車。自動運転、様様である。
「お疲れ様です、ハジメ様。おひいさまも中でお待ちですよ」
弾けるような笑顔が返ってきた。
古代の風習を踏襲した、裾の長いスカートの制服を着た長身の美女──彼女はヤシェロの使用人だった。
エルギダもヤシェロと同じ角人だが、いろいろな意味で対照的な容姿の持ち主である。
色白のヤシェロに対し、チョコレート菓子を思わせる褐色の肌。すらりと伸びた背丈はハジメより一五センチは高く、主人であるヤシェロとの身長差は
角人らしく筋肉質に引き締まった肢体に、豊かに実った乳房は服の上からでもわかるほど大きく、ボブカットの頭髪は煌めく金色。
頭頂部の角は、水牛のように真っ直ぐ伸びていて、やはり光を透かす鉱物の色。
くびれた腰が魅惑的なのはヤシェロと共通だが、何もかもスケールが違う。
以上の観察を、ハジメはわずか三ミリセコンドの早業で成し遂げた──しかしエルギダは目ざとく、少年の暴れ馬のような目線をたしなめられる女人であった。
「ハジメ様、おひいさまに言いつけてもよろしいでしょうか」
「ごめんなさい」
頭を下げた。すぐに肉欲に屈するおのれの目が疎ましくなってきた。
何故だ、何故こんなにも意志が弱い。
悶々としているハジメを見かねて、エルギダが口を開いた。
「ハジメ様、いい加減おひいさまに思いをお伝えになっては如何でしょう?」
「ンッ!?」
びくん、と顔を上げるハジメ。
一体全体、何がどうしてそういうことになるのだろう。ずいぶん前から、エルギダにはハジメの思慕の念を悟られていたが。
にこにこと人のいい笑顔を浮かべたまま、エルギダが追い打ちをかけてきた。
「ハジメ様。わたくしどもが共に過ごしてかれこれ四年になりますが、もう二年も前から、おひいさまはお慕いのご様子でしたよ。
両想いにもかかわらず、お二人はいつまでも、ああでもないこうでもない、と……このエルギダ、これほどもどかしい思いをしたのは四百年ぶりです」
なんてことだ、とハジメは思う。エルギダはこういう話題で嘘をつく人ではない。
しかし少年の目から見た少女は、出会ったときから変わらず、進んで教師役を買って出る押しの強い娘だ。
あの子ならむしろ、好き嫌いははっきり言いそうだけどな、と思っていると。
エルギダが釘を刺してきた。
「あのですね、ハジメ様。おひいさまはアレでも、あなたの前ではいいところを見せようと努力していらっしゃいました。──恋情など弱みの一つぐらいに思って」
「ものすごく申し訳ない気持ちになってきた……」
「猛省なさってくださいませ」
かくしてエルギダに焚きつけられ、余計に悶々としたままハジメは帰路についた。
◆
ハジメより先に帰宅して早々、ヤシェロは自室へ向かった。
昼食より前にデータベースの復旧を切り上げるのは、生真面目な彼女の流儀に反する行いだ。
それほどまでに、ハジメと二人きりでの妙な空気は耐え難かった、とも言う。
船体全体で三〇〇〇キロメートルもの大きさを誇る移民船は、内部に小地球と言うべき居住区画を備えている。
一Gの人工重力と人工太陽、呼吸に適した大気、ほどよく整備された森林──人体が健康に過ごすために必要なすべてが完備された人工環境だ。
ヤシェロが住む区画は、その中でもとびきり空間の使い方が贅沢な一角だった。今となってはほとんど無人の都市の郊外、庭付きの邸宅である。
機能性に乏しく、実務家のヤシェロには大げさすぎる住まいだが、彼と一緒に住むことを考えると広いのは喜ばしい。
昔はこんな風に考えなかった、と少女は思う。
予期せぬ事故で父母が死に絶え、一人きりで受け継ぐことになった家は広すぎた。
さりとて孤独に溺れ自傷するには、角人は強すぎる生き物だった。
父母の愛情が必要なら、他人の経験を平均化した「愛情を受けて育った人間の類型」を脳にインストールすれば事足りる。
それだけで少女の情動は健やかに育つことができたし、大した負い目も覚えずに済んできた。
所詮、現実の経験とデータの違いは、雑多なノイズというデータ量の差異でしかない。
それでも心の片隅で、使用人と二人きりの生活に違和感を覚えていた。
そんなときのことだ。
大破した船の残骸から、一人の少年を見つけたのは。
何も知らず、何も覚えていない無地のキャンバスのような男の子。
たぶん最初に見出したのは、玩具に覚えるような独占欲で。
すぐにそれは、無垢な友情に変わっていった。
ヤシェロにとって、主従関係のような区切りのないハジメとの人間関係は楽しかった。
舟の管理を引き継いでから出会った、外部区画の大人たちとも違う、親密な間柄。
その親愛の対象に、友情ではない感情を──異性愛を覚えるようになったのは、必然的な心の働きだった。
どうしようもなく浅ましく、理性ではない、肉体の成熟がもたらす心情の変化。
はあ、と溜息をつく。
「お帰りなさい、おひいさま」
ヤシェロがこの方舟の管理を引き継いだとき、一緒についてきた使用人。
御姫様、と面と向かって言い放つ人間などエルギダぐらいのものだ。
かつての銀河大航海時代、濫用された肉体改造──その適用者の中でも、角人は最古の存在である。
その例に漏れず、エルギダも見た目に似合わぬ実年齢を持っており、人間の基準でも若者であるヤシェロとの年の差は歴史的だった。
ここ最近、自分を見る目が変わっていることに、ヤシェロは気付いていた。
「今日は休みます。ハジメには、あなたからそう伝えてください」
「また、お逃げになるのですか」
余計なことを喋るな、と鋭い眼光を送る。
しかしエルギダは大して堪えた様子もなく、追い打ちをかけてきた。
「──めぼしいお相手もいない以上、ハジメ様は妥当な候補ではないかと」
「その言い方はやめなさい。ハジメは、わたしやあなたの家畜ではない」
出自のしれない異人種、それも年頃の若い男を受け入れたのには当然、裏がある。
平たく言えば、権力と関わりのない都合のいい伴侶として迎え入れるためだ。少なくともエルギダは、そのつもりでこの家に引き取らせたのだろう。
元より彼女らの一族の目的は森羅万象の記録のみ。
かつて星々の海を渡る移民船として建造された方舟を、知識蓄える移動アーカイヴとしたのもヤシェロの先祖だった。
ゆえに〈図書館〉のデータベースを最も効率的に扱えるのは角人であり、管理者としての地位を少女が引き継げたのもその適性のためだ。
ヤシェロの復旧作業でその運用にも目処がついてきた今、他の住人に目をつけられる前に既成事実を作っておこうという腹なのだろう。
その程度に、ヤシェロが蘇らせようとしているデータベースは利益を生む。
「では自由恋愛の末の恋愛結婚と言うことにしましょう。差し当たって、わたくしめからの贈り物です」
どこからともなく、エルギダが紙箱のパッケージを差し出してきた。
それも五箱。一箱一二個入り、と書かれたパッケージの正体に気付き、呆気にとられるヤシェロに褐色の美女が微笑む。
「古典的な避妊器具、コンドームです。原始的な構造ですから、自動工場ですぐにご用意できました。差し当たって二〇〇パッケージの予備がありますから、思う存分、活用してくださいませ」
「なんで、こ、コン……こんなものを、わたしに使えと?」
ふざけた物言いだった。ここまでコケにされたのは久しぶりだった。ヤシェロのなめらかな頬が、怒りとも羞恥ともつかない感情で紅潮する。
勢いそのままに食ってかかると、エルギダはとぼけた表情で小首を傾げた。
「避妊器具は恥ずかしいモノではありませんよぅ?」
「五ダースも使うと想定されることに対してですっ!!」
「おひいさまとハジメ様の体力なら、そのぐらいは容易いかと。特にハジメ様の肉体は、最高水準の不死化改造の痕跡があります」
ここまで言われると、逆に頭が冷えてくる。
エルギダは何が何でも、ヤシェロとハジメに性行為をさせたいらしい。それも相当に激しく、だ。
無神経なお節介と受け取れるほど、少女は幸せな世界に生きてはいなかった。
「何が狙いです、エルギダ」
「目的も何も……今のお二人では、いつまでもぬるま湯のような相思相愛に浸ってしまいますから」
その口ぶりが
努めて落ち着いた声を出しながら、エルギダへ釘を刺す。
「……角人が、他の人種からどういう目で見られているかは知っているでしょう」
「発情期の雌山羊、多淫多産の畜生腹、生まれながらの大淫婦あたりなら、わたくしめも耳にしたことがあります」
ひどい言われようだが、これには理由がある。
長命化、治癒力向上、免疫強化、美形化──考え得る肉体改造すべてを自らに施した種族こそ角人であり、こと生殖に関わる機能への妄執は常軌を逸していたからだ。
実態がどうあれ、ヤシェロは他人からそう思われるのはいやだった。
特にハジメにだけは、エルギダの言うような痴態を見せたくはない。自分の肉体に施された品種改良のえげつなさは、ヤシェロ自身がよく知っていた。
「おひいさまの肉体なら、排卵と着床は任意です。生理反応に生殖行為を左右されてきた古代人と、我々の種族は違います。
交尾ではなく文化としてのセックスを実演するための器、それがわたくしども角人の
自然分娩をお望みなら、身体調整次第で出産まで一月を切ることも可能です。おひいさまがお望みになるなら、どんな行為も可能でしょう。何を恐れていらっしゃるのですか?」
かつて実用化されたあらゆるテクノロジーを自らの肉体に内包し、人の形から逸脱した怪物たち。
それが角人の始祖であり、人間に近い形態で安定しているヤシェロたちの世代でもその能力はオミットされていない。厳重に安全装置がかけられてはいるが、適切な施術さえあればすぐにいくつかの機能は活性化させられるのだ。
時空間すら支配したというヤシェロたちの先祖なら、そのぐらい朝飯前だろう。
だからエルギダの言葉に嘘はない。
宇宙時代を生きるなら、生身の肉体は邪魔なだけだ。それでも角人が肉体を保持したのは、彼らが生身の肉体の文化を惜しんだからだ。
その中で最も重要な項目が、性行為の快楽とその文化だった。
純粋な繁殖プロセスだけなら、人工子宮を使えば事足りる。性行為の楽しみにしても、データを仮想空間に走らせるだけで「実際に経験したような感覚」は味わえる。
だがヤシェロの一族は、おのれの肉体を使って生のデータを蓄積することにこだわった。
肉体文化、あるいは精神文化としての性行為を記録し、次代へ継承していくこと。
そのために角人は長い年月をかけて、あらゆる性行為に対応した肉体改造への適性を得た種族なのである。
そう考えると、急に自分の躰が怖くなった。人並み以上の美貌はあると自負していたが、そのすべてが意味するところに考えが及ぶ。
整った顔立ちも、きめの細かい肌も、大きさに乏しい乳房も、くびれた腰も、大きすぎるお尻も、肉付きのいい太股も──最初から性の玩具として先祖に与えられたものなのだ、と。
そんな忌まわしい事実を、もし、ハジメに見られでもしたら。
「……明日の復旧作業は休みます。そのように」
「承りました」
ヤシェロは、恐ろしい想像から逃げるように自室へ引っ込んだ。
主人を見送るエルギダの眼差しは、優しすぎるほど慈悲に満ちていた。
昔書いたスペースオペラ+角っ娘敬語ヒロインと純愛+貧乳デカケツ+ボーイミーツガールです。
最終的に宇宙戦争やります。