※この作品はR-18です。

スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~   作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中

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16話「壊し壊れて」

 

 

 

 

 

 色鮮やかな、美しい思い出がある。

 

 

 

 

 それは少女がまだ幼く、未熟で、世界の冷たさを知らなくてよかったころ。

 存命の父母に連れられて、人工の海洋とリゾート地のホテルに宿泊し、無邪気にはしゃいでいられた子供時代。

 まぼろしのような日々──それはたぶん、ヤシェロにとって幸福の原風景と言うべきものだった。

 

 思い出とは、記憶(メモリー)という素材に、主観で味付けをした料理のようなものだ。

 起きた出来事を自身の感覚器で受け止め、像として再構築する過程で、バイアスをかけることで成立する物語。

 幼少期の思い出が幸福であると感じる理由は、父と母がそろっていた物語だからだ。

 

 ヤシェロの父母は先代のシップマスターであり、この巨大播種船〈天啓号〉の管理を行っていた前任者だった──当然、知性体としての本質はこの船の管理システムそのものと密接に絡んでいた。人工天体と呼ぶに相応しい〈天啓号〉の管理者──それは極限まで肥大化した計算資源(リソース)の怪物であり、銀河文明の到達した情報生命体としてのヒトのかたちである。

 

 

 にもかかわらず、彼女の両親はあっけなく事故死した。

 

 

 人格や記憶のバックアップすら残さず、船のあらゆるシステムとオフライン状態での生命活動・精神活動の停止──まるで自殺だった。探査装置の及ばない区域での事故だったから、実際に何があったのかさえわからない。

 

 そして死を予期していたかのように、すんなりと船の管理者権限はヤシェロに譲渡されていた。

 少女はこうして、家族を失い一人きりになった。忠実な使用人であるエルギダこそ残ったものの、それだけだった。

 

 この〈天啓号〉において全知全能たる管理者、シップマスターと対等の知性体など存在しえない。

 ほとんどの角人は一〇〇〇年前の大規模な戦闘時、沈みかけた船から逃げ出していった。ヤシェロの先祖たちとともに船に残った数少ない角人たちも、一市民として播種船内部の居住区へ移っていった。

 

 誰もが責任から逃げていた。

 かつて銀河を支配した征服者たちの末裔──電脳人の貴族たちは、破滅的戦争を経て、とうとう権力すら手放していったのだ。他者を管理し、その安寧を保証し、対価として権力を得る。

 そんな営為そのものを忌避して、凡庸な生を求めた。

 少女はそうはなるまいと誓った。

 ゆえに。

 

 

 

 

 ──ヤシェロは孤独だった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 耳を叩くのは、ざああああああ、と続くシャワーの水音。

 淡い雪のような少女の柔肌を伝い、水滴が流れ落ちていく。セミロングの黒髪が湿り気を帯びてうなじに張り付き、小さな肩から背筋にかけてを伝い落ちる温水──ほっそりした腰は細く、華奢な印象すら与える。

 

 だが、その下に続く臀部(でんぶ)は豊かで、一回り大きい。よく実った果実のように丸い桃尻の表面や尻の割れ目を伝って、水滴が流れていく。筋肉で引き締まった太ももは脂肪でほどよくむっちりとしていた。

 それが少女──角人ヤシェロの肉体だった。

 

「ん……くぅ♥」

 

 思わず艶めかしいあえぎがもれる。

 特殊な精力剤によって射精量を増大したハジメの射精は凄まじく、ゆうに一リットル超える精液がヤシェロの尻穴に注ぎ込まれていた。

 

 その下腹部のあたりを注意深く見てみれば、常よりも張ったお腹がわかるだろう。引き締まった腹筋のおかげか、さほどぽっこり膨らんではいないが──今のヤシェロの腸管は、さながら精液の詰まったソーセージだった。

 歩くたびにお腹の中で、ちゃぷちゃぷと精液が揺れる錯覚を起こしてしまいそうになる。

 

 

 ──肛門をちゃんと締めないと♥

 

 

 恋人からの言いつけを守り、事後にもかかわらず彼女は精液をお腹に留めていた。

 歪な主従関係──立場で言うのなら、この移民船のあらゆるシステムを掌握している彼女が主だが、こと肉体関係においての力関係は真逆だった。

 

 被支配願望のある重度の被虐嗜好者(マゾヒスト)。

 それがヤシェロであり、彼女は極めて倒錯した性的嗜好の持ち主である。自重しているものの、ある種の破滅願望すら秘めているし、根本的に性欲も強い。

 

 以前は裏返しとして性嫌悪の気があったのだが、身体改変構造体──角人の肉体に備わった性玩具としての最適化サブシステム──の発現と、それに伴うハジメとの肉体関係は、少女の価値観に大きな影響を及ぼしていた。

 

 

 ──好きな人に、めちゃくちゃにされるのって気持ちいいです、ね。

 

 

 当事者の恋人にとってはたまったものではない──真っ当な良心や良識のある相手だからこそ、ヤシェロはこうして甘えていられる──が、お互いにそれを楽しんでしまっているから遠慮もなかった。

 

 そのとき、浴室の扉が開いた。

 当然、入ってきたのは恋人であり、彼も全裸だった。

 けれどヤシェロは当然のように慌てふためいてしまう。

 

「は、ハジメ!? まだ入っちゃ駄目です」

 

 思わず胸と股間を両手で隠した──先ほどまで裸で身体を交わらせていたというのに、今さら恥じらうことではない。

 しかしヤシェロの生来の潔癖症の部分は、価値観や感性の変容が訪れようと変わらなかったし、そういう振る舞いがまた異性を昂ぶらせるのだった。

 

「どうしても?」

 

 少し困ったような声音だが、ハジメは笑顔だった。

 最近、彼の押しが強くなっている気がする。その原因は間違いなく被虐趣味(マゾヒズム)をこじらせたヤシェロにあった。

 

「っ……♥ 身を清めているんですから、ここでは何もしちゃダメ、ですよ?」

 

 そして信頼する恋人にそうされるのが、少女のよろこびだった。

 ホテルの浴室は広く、一般的な居住区の宿泊施設にあるようなシャワールームとは比べものにならない。流石にヤシェロが普段住んでいる洋館のそれほどではないが、男女二人が一緒に入っても広すぎるぐらいだった。

 だが、当然のように少年はヤシェロに近づき、ぴったりとくっついてきた。

 

「きゃっ……ハジメ、ち、近いです……」

 

 筋肉質なハジメの肉体は、若く健康な雄のしなやかさに満ちていた。少女の背中に胸板が押しつけられ、濃密な雄のにおいが敏感な嗅覚を刺激してくる。

 それだけでヤシェロの心臓は高鳴り、下腹部が熱くなった。腸管越しに散々いじめられた改造中のマゾ子宮が、きゅんきゅんと切ない恋情を訴えかけている。

 

 

 ──せっかく落ち着いてきたのに……♥

 

 

 人為的に肉体を設計され、脳に至っては完全な電脳化を果たしている角人に、肉体人のような本能──進化の過程で残った蜥蜴の脳が備える、感情や理性よりも先立つ衝動は存在しない。

 少女の心身が愛しい恋人/たくましい雄に媚びるのは、改変体によって刻み込まれプリセットされた条件付けの産物なのである。

 自身の肉体もパーソナリティも性玩具として最適化されていく背徳感──それを自覚すればするほど、ヤシェロはその甘美さに蕩けてしまう。

 

「どきどきしちゃいます……ダメ、ですからね?」

 

「わかってるさ。ヤシェロは可愛いなあ」

 

 そう言って後ろからヤシェロを抱きすくめるハジメ──二人の身長差は一〇センチ程度だが、こうして背後から密着されると、それ以上に感じられた。つまるところその違いは、改造人種としての二人の性質の違いでもあった。

 

 ハジメを改造した勢力──汎人類再生同盟は、肉体を持ったヒトの究極の形を目指す思想を実行しており、彼の肉体もそれに準じている。

 電子戦デバイスである超光速マンマシンインターフェース〈ハル・メギド〉の埋め込み(インプラント)や、極限まで強化された記憶力や学習能力こそ戦闘員としての適性だが、不必要なほど高められた精力──身を以てヤシェロが知っているように絶倫と言っていい──などはそういった超人追求の産物である。

 

 それに対してヤシェロの生まれた種族、角人の本体は、宇宙船のメインシステムと直結した情報生命体としての形態だ。優れた科学技術の進歩の末に、能力拡張した人類種と発展した人工知能技術が結びつき生まれた知性体──かつて〈航海者〉と呼ばれ、銀河を支配した覇権種族の末裔である。

 

 所詮、角人の物理的ハードウェアとは退廃的享楽主義の産物であり、その肉体はあらゆる意味で淫らで性的だった。

 純粋な電脳人として最高峰のスペック──強力な電子戦能力や情報処理能力──はあくまで人体改造の副産物に過ぎず、その本質は銀河文明最盛期の科学技術を惜しみなく注ぎ込んだ性玩具。

 めまいがするほど最低の現実だと理性と良心が叫んでいるのに、気分が高揚してしまう。

 

「ハジメは……とても、たくましいですね……♥」

 

 無意識の所作──腰をくねらせ、豊満な尻肉を彼の股間に押しつけながら媚びを売る。尻に触れている肉棒が、みるみるうちに硬くなっていくのがわかった。

 

「興奮しちゃった?」

 

 性行為をしてはいけないと口では言いながら、早速、誘い始めたヤシェロに苦笑し少年は問う。彼の恋人は、説明するという形で自身の思考や欲望をあらわにされるのを好むからだ。

 

「はい♥ あなたの身体は、高度な科学技術で強化されていて……♥ 人類最高峰のたくましい男の子なんだって……わかってしまうんです♥ それに比べて……わたしは♥」

 

 自分で口にしていて最低の媚びだとわかっていた。

 しかし、だからこそ興奮するのが、ヤシェロという雌の度しがたい嗜好であり変態性であった。

 

「どんどん後戻りできない身体になっている……変態です♥」

 

「この船の管理者なのに?」

 

「はい……♥」

 

 君は本当にどうしようもないね、とハジメが笑う。

 そこには嘲笑も軽蔑もなく、可愛らしいわがままを聞いて苦笑しているような軽やかさすらあった。

 

 それほどまでに、自身の異常な欲望を熟知され、受け入れられている──ヤシェロはそれだけで幸福感を得てしまう。

 シャワーの温水が、密着した二人の身体を洗い流していった。

 

「んきゅっ……♥」

 

 少年の右手が、ヤシェロの下腹部をなで上げる。中にたっぷりと彼の精液を詰め込まれ、腹筋と脂肪の上からでも張っているのがわかるお腹を、掌がそっと愛撫していた。

 

「で、出ちゃいますから……押さないでぇ……♥」

 

「苦しい?」

 

「は、い……その、今までは抗菌ゼリーで固めたペレットだけでしたし……お腹が、本当に苦しくて……♥」

 

 ドキドキと胸を高鳴らせ、少女は愛の睦言をささやくように排泄欲求の高まりを訴える。腸管に注ぎ込まれた大量の精液は、繁殖能力に優れた精子をたっぷり含んでいるにも関わらず、このままヤシェロのお腹の中で浣腸液代わりにその役目を終えるのだ。

 ゆっくりと、心底愛おしそうにへその上を撫でながら、ハジメは少女の耳元でささやいた。

 

「──やってほしいことがあるんだけど」

 

 無意識の所作であり、少女はまだ気づいていなかった。

 半透明の鉱物状の角が、複雑怪奇な発光パターンでヤシェロの歪んだ欲求を恋人に伝えているなどと。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 人工海洋をたたえたリゾートコロニーは、夜風が気持ちいい場所だ。まるで地球時代の海辺の街並みのようだが、潮風によって痛めつけられる人工物は、そのほとんどがナノテクの恩恵によって自己修復機能を備えている。

 

 宇宙時代の科学技術によって制御された懐古趣味の居住空間。

 ある意味、二十世紀前後の都市部(はるか太古の暮らしを再現する都合上、二〇〇年から三〇〇年程度は誤差の範疇である)を模した居住区よりも、この移民船を成立させているテクノロジーとイデオロギーを象徴した風景と言えよう。

 

 そんな海のにおいを孕んだ風を感じつつ、ヤシェロとハジメは手を繋いでホテルの前の通りに出ていた。

 彼女は手ぶらだったが、少年は空いた片手に手提げカバンを持っている。

 

 屋外でなければ感じられない、肉体に備えられたセンサー系すべてを刺激する情報──仮想世界ですべてを完結させるデータ化人種(その性質上、一万年五〇〇〇年前の大崩壊によって大多数が消滅した)が見れば、あまりの無駄に目を覆うだろう。

 ともあれ上空に投影された星明かりの夜空と相まって、ロマンティックと言っていい情景だったが、ヤシェロにそれを楽しむ余裕はなかった。

 

「綺麗な景色だね、ヤシェロ」

「…………ふぅ♥ ふぅぅぅ……♥」

 

 その息は荒く、恋人から声をかけられても、赤い顔でうつむいていることしかできない。

 一見すれば年若い恋人たちの他愛のないやりとりだったが、ヤシェロにそんな余裕はなかった。

 少女が身にまとっているのは白のワンピース──ハジメとのキスで潮を噴き、股間をべちょべちょに汚してしまった衣服だった。染みや性臭はスプレーで除去されているものの、情交の残り香がないか着ているだけで気が気ではない。

 

 ホテルから外に出るときも、到着時とは対照的にヤシェロは一言も喋らなかった。

 その足取りはふらふらと頼りなく、酒精に酔っているようにも思える。だが、少女の頬が赤いのも、息が荒いのも、原因は別のところにあった。

 二歩三歩と前に進んだ後、ヤシェロが立ち止まる。

 

 だらだらと汗をかいている少女の背中を、優しくハジメがさすった。そのたびにビクビクと少女の足が震えている。周囲に人目があれば、体調が悪いのかと声をかけられていただろう。

 幸か不幸か、二人の歩く道は静まりかえっていた。

 

「ほら、ヤシェロ。歩かないと散歩、終わらないよ」

 

「は、ハジメ……やっぱり無理です……も、もれてしまいます……」

 

 弱音を吐いた少女の白皙(はくせき)に浮かんでいるのは、苦悶と羞恥の入り交じった発情だった。

 苦痛の根源は、ぱんぱんに精液を詰め込まれた腹部であり、腸管運動そのものであった。先ほどまでとは比べものにならない異物感と排泄欲求──便意を制御していた身体制御ソフトウェアの一部を機能停止(オフに)させられ、ハジメの指定した生理機能だけ再現させられているのだからそれも当然だ。

 

「早く、トイレに行かせてください……」

 

 生体部品こそ使っているものの、ほとんど全身義体者(フルサイボーグ)と言っていい人体改造適用者の角人は消化器系も循環器系も効率化され、その機能の大半が電脳によって制御されている。

 

 今こうしてヤシェロが感じている苦痛も、排泄のための穴から汚物をひり出したいという欲求も、そういう変態的性行為(プレイ)のために用意されていた感覚に過ぎない。

 

 

 ──どうして。

 

 

 ──こんな仕打ちで興奮してしまうなんて。

 

 

 自分の身体の設計・仕様に秘められた変態性を否が応にも実感させられ、暗い興奮を覚えてしまう。ヤシェロの十数年の人生が培ってきた、潔癖症な価値観に照らし合わせれば、最悪と言っていい人格と肉体の不一致。

 

 普通であれば多大なストレスとなるズレも、今の彼女にとっては快楽と多幸感のスイッチを入れるきっかけでしかなかった。

 どんどん火照っていく肉身と酩酊していく意識──それに反するように便意を訴え、肛門括約筋が少しでもゆるめば中身をぶちまけようとする腸管運動の苦痛。発情しているがゆえに流れる汗と、便意による冷や汗が混じり合い、少女の白い肌を濡らしていく。

 

 はぁはぁと息を荒げるヤシェロは、ぞっとするほど美しく艶めいていた。

 それを見て、何も感じないハジメではなかった。

 次の瞬間、ヤシェロは尻を荒々しくもまれ、嬌声を上げていた。

 

「ふあぁ♥ きゃふぅん♥」

 

 汗で布地が張り付いたヤシェロの尻を、服の上からがっしりともみしだく──むっちりと盛り上がった豊満な臀部(でんぶ)の片側、左の尻たぶが怪しく発光しているのがわかった。びっしょりとかいた汗によって、透けた薄い布地のせいだ。

 

 左の尻肉に刻まれたタトゥーは開く前の花弁、バラの蕾(つぼみ)を模した紋様──身体改変構造体が深く根付き、体組織と完全に融合した証。ヤシェロの尻が性玩具として完成しつつあることを知らせるそれが、怪しく発光している。

 

「お尻もまないで……くださいっ♥ 誰かに見られたら、どうするんですか……♥」

 

「この辺のセンサーは全部チェックしてるから大丈夫。君はお腹の中身を出さないことに集中して」

 

「くっ、ううううぅ……♥」

 

 性感帯のお尻をもまれた快楽で、肛門がゆるんだら終わりだった。ヤシェロは路上で一リットル近い精液をぶちまけ、その一部始終を恋人に視姦されるのだ。いや、それどころかハジメの言葉が嘘だった場合、見ず知らずの他人に目撃されてしまう。

 

 大便ですらない、青臭い精液を尻穴からひり出す変態として記憶される。あらゆる意味で少女の尊厳を破壊する未来だった。

 悔しそうにうつむきながらも、ヤシェロの口元は微笑んでいた。

 

 

 ──苦しいのが気持ちいい♥

 

 

 ──悔しいのがうれしい♥

 

 

 ──ハジメが見てる♥

 

 

 ぞくぞくと身体を震わせる少女に対して、少年はひどく優しかった。

 手を引きながらヤシェロが足を止めるたびに声をかけ、ときに身体を愛撫し、彼女が排泄/破滅するギリギリで泳がせては引き戻す──彼女の限界を熟知したそれは、恐ろしく精密な愛情表現だった。

 

「こんなに汗をかいて、夜風で冷えたら大変だね。ヤシェロ、ここを右に曲がろう」

「ま、待って……ハジメ、ここは……」

 

 歩いているうちに気づいた。夜道だったから思い出すまでに時間がかかった。

 ここは。

 この道のりは。

 

「わたしが、お父様とお母様と一緒に歩いた……道です」

「うん。この先に海浜公園がある」

 

 ちょうど今はオフシーズンだから人もいないし、監視カメラや記録装置の類はこっちで掌握しておくから問題ない。彼が発する言葉の意味するところが、何なのか考えたくなかった。

 

 覚えている。

 厳しくも愛情深い父と繋いだ右手の感触を。優しくも思慮深い母と繋いだ左手のぬくもりを。

 あの人たちと一緒に見た、海の青と木々の緑の調和する風景を。

 

 

 ──そんなこと。

 

 

 ──していいはず、ないのに。

 

 

 呆然としたまま、手を引かれるがままに歩いて。

 街灯に照らされた海浜公園は、あの日と変わらぬままそこにあった。

 一〇年以上昔の記憶なのに、経年劣化一つ感じられない風景──屋外ではあるものの、昆虫がほとんど見受けられない自然共々、ここが制御された環境なのだと強く実感できる。

 

 今にも肛門で爆ぜそうな排泄欲求とお腹の苦痛、これから待ち受ける恥辱への期待──目の前が真っ暗になりそうな絶望に、失禁しそうなほど興奮していた。

 発情している自分を誤魔化そうと、必死に一縷の望みにすがりついた。

 

「こ、ここから……歩いてホテルに帰るんですよね……?」

 

「ヤシェロはそれでいい?」

 

 問われると何も答えられなかった。

 

「そこに公共トイレがあるから、用を足してゆっくり帰ってもいいと思うよ。俺はそっちの方がオススメだけど」

 

 君は違うだろ、と優しく諭された。

 それが悪意だったならよかった。

 

 ヤシェロを辱めて、蔑み、嘲笑う意図ならまだ拒絶できた。

 けれど、ここにあるのは、彼女のことを理解している愛情深い恋人だけだった。

 ゆえに。

 

 

 ──破滅願望(じぶん)を偽ることができない。

 

 

「ヤシェロが俺にドン引きされてよろこぶ変態なのも、大切にしてるものをめちゃくちゃにされて感じる被虐嗜好者(マゾヒスト)なのも知ってる」

 

 

 ハジメが手提げカバンから取り出したのは、何の変哲もないペット用品だ。正確に言えばそれは、自動工場にセミオーダーメイドされた品物であり、通常のものよりも大型ではるかに処理容量に優れていたけれど。

 掲げられたのは──

 

「だから安心して、スッキリしていいんだ」

 

 

 

 ──糞尿を始末するためのトイレシートだった。

 

 

 

「そ、そんな……♥」

 

 視界が真っ暗になって、胸の高鳴りが止まらない。

 してはいけないことだとわかっているから、ヤシェロは興奮している。

 わかっていた。

 

 ハジメが言っていることは全部本当だ。ここに彼女を脅かすものは何もなく、野良犬のように糞尿を垂れ流そうと誰の目にも見咎められない。

 そんなことをすれば身の破滅だ、という理性のかけた安全装置が壊されていた。

 

 散歩によって刺激され、夜風で冷えたお腹は導火線に火のついた爆薬のように便意を訴えている。公共トイレまでの距離は直線距離で三〇メートルほど。

 遠すぎる、と思った。

 だから、これは、きっと、仕方のないことで。

 

 

「……最低です♥♥♥」

 

 

 心底、幸福そうに微笑んで──ヤシェロは堕ちた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 海浜公園の舗装された路面、自己修復タイルに覆われたそれの上に、特注のトイレシートが広げられる。吸水構造のシートは、まるでベッドの上に敷かれた純白のシーツのようだった。

 ヤシェロは下着──汗と愛液でびしょびしょに濡れていて、こもった淫臭が熱気とともににおった──をずりおろすと、おずおずとかがみ込んだ。

 

 最も原始的な排泄のための姿勢、いわゆる、うんこ座りだった。

 汗ですっかり濡れた白のワンピースから突き出した色白の太ももの上を、汗が伝い落ちた。

 

 少女は細い指でスカートの裾を押さえると、その巨尻が外気にさらされた。街灯の灯りに照らされた尻肉は、いつもにも増して色の白さがよくわかる。見事な曲線を描く豊満な尻の丸みの上を、汗の雫が流れ落ちるたびに、そのむずかゆさでヤシェロは震えていた。

 

「はぁぁあ♥ ……み、見ないでください♥」

「それ、本気で言ってる?」

 

 肩をすくめるハジメのまなざしは優しかった。彼はヤシェロの真横に立って、一部始終を見守るつもりなのだ。その股間が膨らんでいることに少女は気づいていたけれど、何もできない。

 口で奉仕することも、手指で射精に導くことも、何も。

 それほどまでに排泄欲求の高まりは抗いがたく、また屋外での排便は魅力的だった。

 

 

 ──出ちゃいます♥

 

 

 今まで腸管からの圧力に耐えて、必死に排泄をこらえてきた肛門括約筋がゆるむ。否、ゆるませていく。空気が入る余地もなく、みっちりとハジメの精液を流し込まれた密閉空間が、菊穴が花開くと同時に外気に触れた。

 

 

「で、でまひゅっ♥♥」

 

 

 ぼびゅぅ、と粘っこい水音。

 

 

「んおっ♥ お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛♥♥♥」

 

 

 獣のようなイキ声──精液の詰まったソーセージ同然の腸管の中身が、ぶりゅぶりゅと勢いよく吹き出た。肛門からほとばしる白濁液は粘っこく、とろみがついていて、ぶじゅるぶじゅると汚らしい音を立ててトイレシートにこびりついていく。

 

 ローション代わりに分泌されていた改造腸液が混じり、精液単体よりも粘度が増しているのだ。粘液質な排泄物がひり出されていく快楽──排泄感に溺れながら、ヤシェロは人生初の屋外路上排泄にマゾ絶頂(アクメ)を繰り返していた。

 それはまるで、尻穴を使った射精のようだった。

 

 

「お゛ぉん♥ や、やだ♥ とまらなっ♥ たすけっ♥」

 

 

 止まらない肛門排泄の快楽に恐怖を覚え、涙目で助けを求めるヤシェロ──がくがくと腰が震えて、肛門がくぱくぱと開閉しては精液を噴き出す様はまるで噴水だ。

 マゾ絶頂で前穴からも淫汁を噴き出しては、トイレシートを精液と腸液の混淆液で汚しながら公園の舗装まで濡らしている。

 

 

 ──お父様とお母様の思い出があるのに♥

 

 

 ──なんてことを♥

 

 

 肛門から精液を噴き出すたびに、今までヤシェロを形作ってきた規範がゆるみ、解け、バラバラになって行くのがわかった。

 ひり出される精液がトイレシートにこびりついていくように、少女自身の尊厳が、薄暗い欲望に汚れていくのがわかった。

 

 吐き気がするほどおぞましい感覚が、たまらなく気持ちよかった。性嫌悪も潔癖症も、この筆舌しがたいマゾ絶頂のためにあつらえられた価値観のように思えた。

 十数年かけて構築された自我を、屋外で犬のように排泄する行為によって台無しにする興奮──横目にハジメを見やれば、異様なほどギラついた目でこちらを視姦し、勃起した男性器をしごいていた。

 

 

「ひぃう♥ ハジメ♥♥♥」

 

 

 甘ったるい嬌声をあげ、両手を地面につけて、高く尻を掲げる。ふりふりとデカ尻を下品に振りたくって、恍惚としたまま彼の興奮を煽った。

 愛しい雄に媚びを売るのは、雌の義務だと感じていた。

 

 

「──っ! ヤシェロ!!」

 

 

 無様で惨めったらしい種媚びに、少年の射精感も限界だった。場の異様な熱気に飲まれたのか、ヤシェロの体臭に含まれる性フェロモンがそうさせたのか、定かではないが──昂ぶりきった陰茎から精液が飛び出した。

 

 

「はひぃぃん♥♥♥ や、熱ぅ♥ お尻♥ やけどしちゃいます♥♥」

 

 

 吐き出された精液は、射的のように白い巨尻に吸い込まれ、尻肉をべっとりと汚してしまう──瞬間、ヤシェロの尻に刻まれたタトゥーが怪しく明滅した。

 

 

「やっ♥ あはぁ♥ こ、これ♥ わたしのお尻♥ ハジメに変えられひゃ♥ お゛お゛ん♥♥」

 

 

 左の尻たぶに浮かぶタトゥーの意匠が変化──バラの蕾(つぼみ)が開花し、花弁が花開いていく。光り輝く改変体のタトゥーが表すのは赤いバラの花。

 尻肉も肛門も内臓も何もかも捧げるという、熱烈な愛の告白だ。

 

 

「はーっ♥ かはっ♥ ひぅううう♥」

 

 

 びくびくと無様に痙攣(けいれん)を繰り返し、夏物のワンピースの布地を肌に張り付かせた少女の肢体は、湯気が出そうなほど熱を秘めていた。

 一リットル分の精液の生臭い悪臭と、角人の甘ったるい体臭が混じり合い、ロマンティックな夜景を淫猥なものに変えてしまっている。

 

 ハジメもまた、その熱に浮かされているようだった。トイレシートにぶちまけられた精液の後始末を考えているのか、ちらちらと地面に視線をやりながらも、白い雌肉から目を離せないでいる。

 

「……ヤシェロ」

 

「ハジメ♥ 素敵な思い出を……ありがとうございます♥」

 

 熱病のような愛だけが、少女の意識に残されていた。破滅願望と被虐嗜好を理解され、受容され、背中を押されたことで、角人としてのヤシェロはまた一歩、性玩具として完成に近づいた。

 

 背徳のよろこび──その快楽の前では理性も尊厳もぐずぐずに崩れてしまう、甘い猛毒の名。

 エメラルドグリーンの山羊角が浮かべる発光パターンは、心からの喜悦に満ちていた。

 

 

「ここは……♥ お父様とお母様と一緒にお泊まりして……ハジメの生えっち童貞♥ お尻で食べて……♥ あなたの精液を……うんちみたいにひりだした思い出の場所です♥♥♥」

 

 

 再び勃起していく男性器を見やる──怜悧な美貌をとろりと蕩かせ、目を細めて微笑む。

 

 

 

 ヤシェロは魔性だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 














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