スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
銀河文明の発展、ひいては人類の宇宙進出を支えたのは、光の速度という物理法則が定めた限界の超越であった。
宇宙進出の黎明期に他星への有人探査、植民地化という偉業をなしえたのも、超高効率の推進装置である亜光速推進器の実用化あればこそだ。
地球から他天体への進出が加速し、宇宙経済が地球圏のそれを凌駕するほど巨大化すると、人が宇宙で文明活動を行うためのテクノロジーへの投資はさらに加速した。
人類史上最初の超光速航法にしてもっとも効率的移動方法と言われる発明、
それは銀河文明という巨大経済圏の
人類史上初の宇宙での艦隊戦は、地球政府とバーナード星系政府の間で起こった。
それまでにも宇宙船同士の戦闘行為──デブリスイーパーや軌道爆雷による小競り合いは存在していたが、戦闘用の大型艦艇を複数建造し、陣形を組んでの戦闘はなかった。
宇宙での移動速度という技術的制約もさることながら、宇宙艦隊の建造にかかる莫大なコストがその理由である。宇宙経済の発展なしに艦隊を成立させるだけの経済的余裕は生まれなかったし、それだけの経済圏ができあがったからこそ、戦争になるだけの衝突の火種も生まれたのだ。
三万五〇〇〇年後、銀河文明が大崩壊によって滅び去るまで、人類と宇宙での戦闘行為は切っても切り離せないものとなっていく。
テナウス星系にワープアウトした艦影──ハジメが率いる〈天啓号〉先遣隊もまた、宇宙艦隊と言えるだけの規模の船群であった。
先陣を切るのは一〇〇メートル級ミサイル駆逐艦一二隻。続いて二四〇メートル級防空巡洋艦四隻と旗艦の有人指揮艦一隻。事実上、ジャミング不可能な通信手段である超光速マンマシンインターフェース〈ハル・メギド〉を介して有人の旗艦から制御される無人艦隊だった。
電脳によって完全な無人化と自動化が果たされた戦闘艦は、銀河文明を支配した帝国によって長年運用されてきた兵器だ。
重力波推進器と
四隻の防空巡洋艦に守られている指揮艦──ハジメのいる旗艦は、巡洋艦と共通の船体をベースに居住空間や生命維持装置、通信設備と強力なシールド・ジェネレータ、ワープ・ドライヴを搭載したものだ。
二〇〇メートル超の船だが、 ハジメ一人しか乗っていないのだから管制室も広すぎるぐらいだった。
〈天啓号〉からの遠隔操作ではなく、有人旗艦を含んだ艦隊による先行となったのは、テナウス星系への警戒ゆえだった。
現在、ハジメにとってのホームである〈天啓号〉はテナウス星系外縁部で待機している。
無人探査機を送り込んでの偵察は、彼らが実効支配していると思われる宙域に入った瞬間に撃墜されて失敗している。ならばと様々な周波数でメッセージを放つ探査機を送り込んで、ようやく解答があった。
先方に言わせれば未知の文明、一万年ぶりに接触する自分達以外の人類との接触であり、大事を取って指定した宙域で接触したいとのことだった。
テナウス星系のこれまでの歴史についての説明はあったが、彼らの故郷、テナウス4の現在の状況については如何なる状況も開示されなかった。
彼らとの接触にあたり、先方との交信を代理するのも先遣隊の務めだったが──
──何かあるな、これは。
本拠地の情報を秘匿したいのはわかるし、こちらを警戒して情報を秘匿したいという意図も理解はできる。
だが、疑おうと思えばいくらでも疑えるのだ。
遠方から確認した限り、テナウス星系のテクノロジーレベルはあまり高くはない。推進器から確認された光から、宇宙機の推進システムは核融合ロケット推進──おそらく動力も核融合炉だろう。〈天啓号〉が送り込んだ探査機はスペースデブリ対策で頑強な外殻を採用しており、生半可な攻撃で通信不能になるはずがなかった。
宇宙に再進出したてのテクノロジーレベルで即座に破壊できる手段は限られている。
熱核攻撃であれば、探査機に察知されずに弾頭を直撃させるのは不可能だし、宇宙船に設置するようなデブリスイーパーでは長時間のレーザー照射でもないと効果が薄い。
よほど高出力のレーザー兵器か粒子ビーム兵器を使用されたとしか思えないが、テナウス星系は一万年間、それだけの高度な科学技術を保持していたのか。それとも外部から持ち込まれたのか。
後者なら最悪だった。
ヤシェロが懸念していた敵──かつて〈天啓号〉から離散した角人たちは、自分たちが乗り捨てた船の資産を狙っている。帝国の船団資産管理法に乗っ取れば、管理者権限を捨てた時点で移民船の設備に対しての要求は通らない。しかし、もはや存在しない国家の法など彼らは気にしないだろう。
そういう高度な科学技術を保有した海賊紛いの集団が、テナウス星系の現地人に助力していた場合、ここは〈天啓号〉の死地になりうる。
テナウス星系との接触は決定事項である。
だからこそハジメは、できるだけヤシェロやあの船の住人たちの危険を減らしておきたかった。先遣隊は外交使節であり、即座に砲火を交える軍事的恫喝も視野に入れた存在である。
テナウス星系の現地勢力が〈天啓号〉にとって友邦なのか、それとも脅威なのかを見極める。
それが彼の使命だった。
万が一のときの武力行使の是非については、エルギダからは「ハジメ様の判断にお任せいたします」と一任されている。
ヤシェロから「武力衝突に発展したときは、すぐに旗艦だけでも離脱してください」と言われているので、そちらを優先したいところだが。
事実、この旗艦のワープ・ドライヴは跳躍距離は長く、使用時のインターバルも短い優れものだった。先遣隊の編制にあたって、旗艦護衛を最優先した防空巡洋艦の設計・開発・建造を行ったのもヤシェロで、なんだかんだで自分が愛されているのは伝わってきた。
──別働隊まで使わずに済むといいんだけどな。
計器らしい計器が存在しない管制室で、ハジメは一人、孤独に電脳が見せる艦隊制御システムに沈み込む。
一七隻の宇宙艦隊を率いる少年は、この宇宙でもっとも高度な改造が施された改造人種だ。申し訳程度の宇宙服は着ているが、宇宙線くらいの放射線ならば皮膚で防げるし、無重力環境に長期間滞在していても人体に問題は起きない。
代謝機構を酸素ベースから電気ベースに切り替えれば、長期間の宇宙漂流にも耐えられる。一種の生体サイボーグと言える強靱な体組織と神経組織に融合した電子戦デバイス、凄まじい情報処理能力を持つ電脳の融合体。
それがハジメだ。
戦うための存在であるならば、いざ、そのときが来ても役立たずと言うことはあるまい。
指定された座標は、有人惑星テナウス4から外周に位置するテナウス5の傍だった。太陽から遠すぎるこの惑星は、大気も土壌も人類の生存に適さず、テラフォーミングもされないまま放置されている無人惑星だ。
入植されたテナウス4に比べると惑星としても小さく、重力が弱いために大気が宇宙空間へ流出してしまっている。
ハジメが率いる艦隊は同時にワープ・ドライヴを起動させ、指定座標から二万キロメートル離れた場所──衛星の影にワープアウト。
最低限のセンサー類とシールド以外のほとんどを切った静かな跳躍だった。
周辺を光学センサーで警戒。
衛星付近にあちらの艦隊、防衛設備は確認できない。
重力波推進器ならばすぐに移動できる程度の距離だったが、このズレは意図的なものだった。先方との交信中、こちらが連続空間跳躍機能を持った艦隊であることは伏せてきた。
仮に向こうが〈天啓号〉のことを知っていたとしても、通信相手が有人艦隊なのか、単なる通信中継機なのかは判別できない。
そして彼はもくろみ通り、旗艦から使い捨て探査機を射出──テナウス5方面とテナウス4方面に向けて複数の探査機を飛ばした。衛星の影になって見えない惑星表面の状況を探っておくためだ。亜光速推進器を積んだ探査機は即座に加速、ハジメの母艦へとセンサーの情報を送ってくれる。
重力波の変動から質量体を探知する空間振動レーダーが、すぐに異物を捉えた。
──重力の変動源を確認。
──熱源を感知。
──光学カメラの映像を補整。
すぐ近くの無人惑星テナウス5の衛星軌道上に、それはあった。一見すれば宇宙ステーションのような箱形の人工物が、いくつも輪のように連なって浮かんでいる。ある種の低軌道ステーションか、通信や発電のためのオービタルリングのように思われたが、その大きさが問題だった。
まるで首飾りのように惑星を一周する灰色の人工物は、一辺が全長三キロメートルにもなろうかという巨大なものだった。質量から判断して、ハリボテというわけではない。
むしろ盛んに発せられる熱と重力波の異常は、それが重力制御技術の産物であることを示していた。
有人惑星テナウス4方面に送った探査機からも同様の数値が送られてくる。二つの惑星の周囲に配置された人工物は、ほとんど同じ質量と重力の変動値を吐き出していた。
到底、これまでの情報から推測されたテナウス星系の技術力で建造できるような施設ではない。
──核融合ロケット推進が精々どころか、銀河文明全盛期のテクノロジーじゃないか。
最初、ハジメはそれが帝国時代の遺産──テナウス星系が大崩壊から保持してきた施設なのだと思った。重力制御ユニットを設置して、隕石や質量投射攻撃に備えた防御手段にするのは、要塞以上の戦略拠点ならままあることだ。これだけ大規模なものは珍しいが、宇宙船の駐留ドックを兼ねているならありうる。
しかし探査機から送られてくるデータは、そういう希望的観測を大いに裏切るものだった。
人工物──便宜上〈首飾り〉と呼ぶ──が放つ重力波は、断じてステーション内の人工重力や惑星防衛用の重力障壁のような用途のものではなかった。
むしろ潮汐力の破壊的応用、重力制御の兵器転用において見受けられるパターンに重力波の値が酷似している。
キロメートル級の重力制御装置など、一基だけでも用途に困るような代物である。古い世代の技術で巨大化していると仮定しても、全長三キロの人工物をダース単位で並べ立てて行うことなどそう多くない。
用途を検討──背筋が凍り付く。
仮想敵を〈天啓号〉にして思考すれば、すぐに理解できた。
あらゆるデータと推測を指揮艦の通信設備で〈天啓号〉に送信。
「ヤシェロ。テナウス星系から今すぐ離脱してくれ。彼らは……俺たちの敵だ。添付したデータにあるとおり、予想される重力制御ユニットの運用法は、歪曲重力波の発生による天体破壊とワープ・ドライヴへの跳躍妨害。この星域からの離脱を阻止した上で、惑星を粉砕して、その残骸すべてを質量砲弾にするつもりだ」
テラフォーミングが完了した母星を丸ごと爆弾として利用する──馬鹿げた戦術だ。
この星域に〈天啓号〉を呼び込む気など最初からなかったのだ。
探査機にせよ先遣隊にせよ、それを送り込むために〈天啓号〉がテナウス星系の近くに来てくれれば、敵の目的は達成されていた。
ハジメの報告から一秒と経たず、ヤシェロからの返答。
『──わかりました。ハジメ、今すぐ離脱してください。足の短い船は廃棄しても構いません』
わかった、とうなずいた直後。
衛星の影に隠れていた先遣隊、一七隻の艦隊から見て一二〇万キロメートル先に空間歪曲を確認──ワープアウトの予兆、数は一〇六個。
それぞれの空間歪曲の数値から予想されるスケールは一〇〇〇メートル超。
あらかじめ知らされていた外交使節団の規模をはるかに超える規模だ。この時点でハジメはそれを敵と認識。
波になって押し寄せる敵の第一陣、ワープアウト完了までの残り八秒。
以上の情報を〈ハル・メギド〉──超光速の通信網から拾い上げる。
ハジメの乗る旗艦のワープ・ドライヴ始動から長距離跳躍完了は間に合いそうにない。
この時点で交戦なしでの離脱は不可能と判断、指揮艦含めた艦隊すべての戦闘用短距離ワープ・ドライヴを起動、敵のワープアウト座標の直近に跳躍先をセット。
ワープ・ドライヴの立ち上がりの早さにならばこちらに分がある。
エルギダに教授された〈ハル・メギド〉の運用法──つまりは帝国と同盟の戦争時代、艦隊戦でどのように使用されていたかを思い出す。
敵艦艇は確実にレーザー砲を装備している。如何に自己修復型対レーザー装甲が高性能でも、一〇〇隻を超える艦隊から一斉射されれば逃げ場はあるまい。
ならば
奇襲したつもりの敵に奇襲を仕返して、その混乱に乗じて離脱する。
少しずつ自身の欠けた何かが埋められていくような感覚──たしかに昔、自分はこうして星間戦争を行っていたのだという奇妙な既視感。
無人艦艇の電脳群との接続で形作られる回路が、戦闘機動に向けて冷たい殺意に焼き付いていく。
その感覚に、ハジメは懐かしさを覚える。
敵艦隊のワープアウト完了まで三・八秒。相対距離一一八万キロメートル。
秒速三〇万キロメートルの光速で飛来するレーザー兵器にとっては近距離といっていい距離だ。
予想される敵座標に向けてレーザーを一斉射。
弾着まで四秒弱。
第一陣のワープアウトを確認。
現れたのは全長一〇二〇メートルの大型艦艇三二隻。長方形の箱を二つ並べたような双胴型の船体、防空用レーザー砲台が大量に設置されているが、カタパルト展開用と思しきハッチが光学カメラで確認できた。
おそらくは宇宙空母の類、小型の機動兵器──宇宙戦闘機を山ほど腹に詰め込んだ船だ。重力波推進器の使用を確認したが、ワープ・ドライヴの搭載から見てテナウス星系で建造された船ではない。
直後、先ほど発射したレーザー砲の一斉射が直撃する。
効果は薄い。
弾速および射程において最も優れたレーザー兵器は、それだけに対抗手段が最も豊富に用意されてしまっている兵装である。
対レーザー装甲に覆われた宇宙空母は、その並外れた巨体と相まって二〇隻にも満たない小規模な先遣隊の一斉射ではダメージを受けない。
だが、センサーを一時的に潰すことには成功した。
目潰しが効いている数秒で十分だった。
敵の反撃のレーザー攻撃が届くよりも早く、事前に始動させていた短距離ワープを開始。
超空間を介した空間跳躍──ほとんどタイムラグなしで、敵大型空母の直近に一七隻の先遣隊すべてが転移。
転移と同時に、一七隻の戦闘艦すべてのセンサー群と搭載火器を統括するハジメは敵艦への照準を完了していた。
宇宙での近接戦闘は生身の肉体人──地球時代のホモ・サピエンスが想定するところの人間の定義そのもの──にオペレーションできる情報処理速度を超えている。
〈ハル・メギド〉によって電脳と電脳を繋ぎ、支配する少年は、紛れもなく宇宙時代の科学技術が生み出した星間戦争のための兵器なのだ。
オールウェポン・フリー。
一〇〇メートル級ミサイル駆逐艦のミサイル発射管が開き、亜光速推進器を取り付けられた反物質弾頭が鎌首をもたげる。
反物質弾頭はわずか数十グラムの通常物質と反物質を完全な真空状態で隔離し保存、誘導兵器ないし質量投射兵器の弾頭として射出し、目標への着弾時に対消滅を起こさせる兵器だ。
一切のエネルギーロスなく質量そのものをエネルギーに変換する現象──対消滅で得られるエネルギー量は膨大だ。
地球時代に用いられた最も巨大な水素爆弾でようやく、一〇〇グラムにも満たない反物質の生み出すエネルギーに匹敵する。
一撃で大型艦艇を沈められる必殺の兵装だが、通常の艦隊戦では、そう日の目を見るものではない。宇宙空間における交戦距離と相対速度の問題は、銀河文明を築き上げたテクノロジーをもってしても解決を見なかったからだ。
文字通り光の速さのレーザー兵器や、それに準ずる亜光速を実現している粒子ビーム兵器に比べ、質量体の投射は遅すぎる。
惑星上での陸戦や海戦であれば十分な速度を持った極超音速のレールガンや
弾頭が大量破壊兵器でもこの事情は変わらない。
大気のない宇宙空間では、爆風による巨大な破壊力が期待できない。つまり熱核弾頭やその純粋な上位互換である対消滅弾頭とて、爆発の有効半径に敵艦を捉えなければ有効打たりえないのだ。
艦隊戦における熱核ミサイルや反物質ミサイルは、敵のレーザー砲群に迎撃を強いてリソースを使わせるための牽制の意味合いが強い。
長い間、宇宙艦隊同士の会戦とは、遠距離からレーザー砲撃を撃ち合い、じわじわと距離を詰め相手側の防御リソースを削って勝負を決するものだった。
だが、完全に統制された艦隊規模の戦闘機動を可能とする電脳知性体──人類帝国の粛清執行官や汎人類再生同盟の強化人間は、これを必殺のものとして運用する。
短距離の空間跳躍を可能とするワープ・ドライヴの開発と、無人戦闘艦の大規模一括制御が、これを決定的にした。
指揮艦を守るように展開した防空巡洋艦のさらに外側、一二隻のミサイル駆逐艦が反物質ミサイルを発射──ワープアウトしたてでろくに戦闘態勢が取れていない敵艦隊に、破滅的な量の対消滅兵器が降り注ぐ。
ろくに加速もしていない大型空母群は、相対速度を合わせるまでもなく、止まった的だった。
質量投射兵器の格好の餌食。
人工知能に制御された対空レーザー砲群が反応したものの、迎撃レーザーが放たれたときにはすべてが手遅れだった。
重力波推進器によって急加速したミサイルが大型空母群に食らいつき、船体の質量を食らって対消滅の凄まじい光と熱を放つ。
一〇〇〇メートル超の巨大空母の船体がへし折れ、砕け散っていく。
三二隻の敵艦のうち、二四隻を対消滅兵器で轟沈させることに成功。
残り八隻も損傷しており、継戦能力はないものと判断。
沈む船の上げる断末魔──重力波と熱量のノイズを尻目に、推進器を全開にして艦隊全体を急速離脱させる。これで敵のセンサー群がこちらに比べて劣っていることは把握できた。
この宙域は艦艇の残骸で埋まり、ワープアウトに適さない過密空間に成り果てる。
交戦開始から四八秒で、敵の第一陣を無力化。
──人間の死体か。
砕け散った船体から投げ出されたと思しき、宇宙服姿の人型を確認する。壊滅状態の敵艦隊の方を光学センサーで見回せば、同様の死体が大量に見受けられる。
このサイズの艦艇の運用に、これだけの人間を必要としている──つまり敵は高度な自動化技術を持っていないと見ていい。
一〇〇〇メートル級の空母を無人化も進めず運用しているとなると、相当量の人的資源を消費するはずだ。得体のしれない敵の規模は、ハジメの想定よりもはるかに巨大らしい。
自身が大勢の命を奪ったという事実に対しては何の感慨も覚えなかった。
ワープアウトし損ねた敵が、新たなワープアウト座標の算出を終えるのは迅速だった。
索敵しつつ長距離ワープ・ドライヴを立ち上げた直後、敵の第二陣を確認。
艦隊の進路方向に立ち塞がるように、一〇〇〇メートル級空母の群れが現れる。
不味い。
もう第一陣の壊滅を確認したのか、敵はワープアウト直後にカタパルトを展開していた。
五〇隻を超える宇宙空母の腹から、一斉に飛び立つ宇宙戦闘機の群れ──テナウス星系に由来するプラズマロケット推進の煌めき。
目の前に広がる惑星テナウス5を囲む〈首飾り〉は、重力場の異常を引き起こし始めている。
もうすぐ、天体を打ち砕く重力波の嵐が起こる。それまでに離脱できなければ、ハジメは終わりだ。
それは敵も同様のはずだったが──空母に護衛艦すらつけずワープアウトさせるやり方といい、人命軽視では説明できない不気味さを感じる。
大雑把な力押しのようで、むしろこちらに見え透いた餌を与えているような違和感。
ワープ・ドライヴを持った第三勢力の母艦に、テナウス星系で生産されたらしい戦闘機が山積みにされている。
無人機の類だろうとあたりをつけ、指揮艦から〈ハル・メギド〉を用いて電子戦を敢行、遠隔操縦に妨害をかける──戦術データリンクを確認、これを機能不全に追い込む。
だが、効果は薄い。
敵戦闘機は遠隔操縦ではない。
そして
あらゆるデータが、一二〇〇機を超える機影すべてが有人機であると示している。
──正気か?
〈ハル・メギド〉によって戦術データリンクを破壊された敵艦隊は、目と耳と鼻を潰された状態だ。宇宙空間でまともに戦闘できる状態ではない。
すでに艦隊同士の相対距離は六万キロメートルを割り込んでいる。
つまりレーザー砲撃を加えれば、一秒とかからずにレーザーが被弾するということであり、戦術データリンクもなく核融合ロケット推進器で飛ぶ宇宙機などいい的だ。
防空巡洋艦にハリネズミのようにあつらえられた多目的レーザー砲台が、百発以上の光の槍を放つ。
着弾。
同時に火球がいくつも宇宙に生まれた。
推進剤の誘爆ではない。
直径百メートル以上にもなる爆発は、熱核兵器特有のものだった。
レーザー核融合式の水爆が、運悪く高出力レーザーによって爆ぜたのだ。
つまり撃ち落とした戦闘機は熱核弾頭を抱えている。
ハジメは敵の意図を理解した。
熱核弾頭を腹に抱えた宇宙戦闘機の群れは、人間を制御系に使った核ミサイルだ。
まるで見えざる操り糸に統制されているかのように、レーダーもデータリンクも機能していないはずの特攻機がやってくる。
防空巡洋艦の対空レーザー砲はこれを問題なく撃ち落としているが──まだ二〇隻ほど、敵は残っているはずだ。
短距離ワープによる奇襲の打撃力は、敵が密集していて艦載機を吐き出していなかったから確保されていた。
ミサイル駆逐艦に残された反物質弾頭も、敵を相手するには心許ない量だった。
新たな空間歪曲を確認。
ハジメのいる指揮艦から見て「上」と「下」──つまりは艦隊を横から挟むように、一〇隻ずつ敵がワープアウトしてきた。
いずれも一〇〇〇メートル級大型空母。
進路方向上の敵を避けようと迂回していれば、彼らの保有する宇宙戦闘機、否、特攻機の餌食になっていただろう。
正面に展開し、上下左右から包み込むように殺到する有人核ミサイルの群れ──その渦中へと減速することなく突貫する。
残ったすべての反物質弾頭を、五〇隻以上の空母──護衛艦隊のないそれらは、空母というよりも特攻機の母艦という名のミサイルキャリアだ──に叩き込んで道を切り開くしかない。
こちらは寡兵、足を止めればレーザー照射でセンサーを潰され、復旧までのわずかな時間に有人核ミサイルの直撃を食らう。
空母群の持つレーザーの一斉射をランダム回避しながら、一七隻の艦隊は一糸乱れぬ挙動で──ハジメ一人が制御しているから当然だ──敵を喰らいに行く。
特攻機をレーザー砲の対空防御でたたき落としながら、空母群との相対距離を詰めていく。
そうする間にも、衛星軌道上の重力制御ユニット群が放つ重力異常が強まっていた。地表では地形の崩壊が始まっている。放射される破壊的重力波は遠く離れた宇宙船のワープ・ドライヴに影響を及ぼし始めている。
だが、高速で敵に突っ込むとは相対速度が恐ろしく速まると言うことである。
艦隊の外側に布陣していたミサイル駆逐艦が一隻、特攻機を処理しきれず斥力障壁に突入される──激突、否、爆発。
フォースシールド表面で潰れた一機目の爆発に続いて、さらに何機もの特攻機が押し寄せ、斥力障壁を食い破る。
瞬間、火球に船体が飲み込まれたかと思えば、蓄えていた反物質弾頭が対消滅を起こした。白い光だけが後に残った。大量の熱と光、放射線をまき散らして消える駆逐艦──その影響で一時的に麻痺したセンサーとゆるんだ防空網をすり抜けて、さらに多くの特攻機が接近してくる。
何もかも狂っていた。
宇宙時代に人間を制御系に使った有人ミサイルなど、経済的にも軍事的にも合理性がない狂気の沙汰だ。
──押し切られる、か。
ハジメは切り札を使うことを決めた。
超光速マンマシンインターフェース〈ハル・メギド〉を用いてあらかじめ待機させていた無人艦艇四隻にアクセス──使い捨てのワープ・ドライブを積んだそれらの出現座標を決定。
先ほどの特攻に続いて、二隻目の駆逐艦が消し飛んだ。一〇〇メートル級の船体が塵も残さず光と熱に変換された。
山ほどの反物質弾頭を蓄えたミサイル駆逐艦は、被弾したときのダメージコントロールがもっとも効かない艦種だ。
対レーザー装甲と斥力障壁に護られてはいるが、巡洋艦クラスのそれに比べると出力で劣るせいだ。
短距離ワープ・ドライヴによる奇襲と攪乱にリソースを割り振っている分、防空能力も弱い。反物質が誘爆を起こせば、それで終わりだった。
こちらの強みは〈天啓号〉で製造された、銀河文明でもっとも高性能なワープ・ドライヴとリアクターを積んだ船を調達できたことだ。
であればこそ、超長距離空間跳躍を一回だけできる使い捨てのユニットを積んだ船などというものを用意できる。
五〇隻を超える空母群の側面にワープアウト。
ハジメのいる艦隊を狙って戦闘機が吐き出されているため、無防備な横腹だった。
転移してきた四隻の船は、二〇〇メートル級重砲艦と呼ばれる船だった。異様な戦闘艦である。巡洋艦クラスの船体にもかかわらず、不釣り合いに大きな火砲を据え付けられているせいで、艦艇というよりも自走砲の類に見える形状だ。
重砲艦は足が遅く、船体に対して武装が重すぎるため航行能力も低い。
ゆえに通常の艦隊編成に組み込むには難があるものの、その火力だけは戦艦に匹敵する。
ハジメにコントロールされた四隻の重砲艦は、主砲の大型ビーム砲を照準。
斥力障壁に減衰させられてなお、破壊力を保持した亜光速のビームが空母数隻を撃ち抜き、爆発──轟沈する空母が四方八方に高速のスペースデブリをまき散らした。
分厚い斥力障壁で守られている艦艇はともかく、テナウス星系の技術レベルで作られた戦闘機には堪ったものではない。
高出力ビーム砲撃を浴びせ、敵陣をめちゃくちゃにかき乱し──正面から空母群の間に突入。
重力波推進器と反応炉を最大出力で稼働させ、斥力障壁のバリアを張りながら艦艇と艦艇の間を縫うように突き進む。防空巡洋艦の対空レーザーは絶え間なく押し寄せる特攻機を撃ち落とし、ミサイル駆逐艦はすれ違いざまに使い切る勢いで反物質ミサイルを発射。
この間にも側面からのビーム砲撃はやめなかった。
下手に舵を切れば自身が指示する重砲艦のビームで焼かれるというのに、ハジメはそれを恐れもしなかった。
楽しんでいるのではない。
ただ、殺して当たり前だった。
自身はそうあるものだという実感──そこに恐怖も嫌悪も覚えなかった。
五〇隻からなる空母群──特攻機の母艦どもをめちゃくちゃにかき回し、対消滅で生じた白い光と放射線、艦艇と人体の成れの果てのデブリが吹き荒れる地獄の中で、彼は奇妙な安らぎを感じていた。
自身が何千何万という人間を殺していると知っているのに。
──時間だ。
空母群の間を抜けて、その背後へ突き抜ける。七隻の駆逐艦を失い、防空巡洋艦も一隻が轟沈、四隻の重砲艦は特攻機にまとわりつかれて遠からず沈むだろう。
残る八隻の護衛の船も大なり小なり破損しているが、ハジメの乗る指揮艦は無傷である。
長距離ワープ・ドライヴの準備が完了した。
〈天啓号〉とのランデブーポイントへと空間跳躍を実行しようとしたその瞬間。
星々が砕け散った。
衛星軌道上から無人惑星テナウス5と有人惑星テナウス4を囲んでいた奇妙な首飾り──巨大な重力制御機関を連動させた天体破壊装置は、正しくその役割を果たしたと言える。
直径六五〇〇キロメートル、直径九八〇〇キロメートルの地球型惑星を打ち砕き、ワープ・ドライヴの機能を阻害する歪曲重力波を星域全体にまき散らす。
ハジメには知るよしもないことだったが、テナウス星系の人類はそのほとんどが──老若男女問わず──生体部品に加工済みだったし、有していた工業プラントは接収され、大型宇宙船によって持ち運ばれていた。
すでに滅んだ星系だったのだ。
地殻に亀裂が走り、マントルが剥き出しとなり、そのまま星の核が露出。大気が切り裂かれ、潮汐力によって粉々に砕かれていく。
重力制御ユニットによって指向性を持たせられ、直径数キロから数百キロの岩石の塊が四方八方に散らばると、役目を終えた重力制御ユニットも自壊。
続いて地球型惑星のテナウス2、テナウス3も爆砕され、テナウス星系は破滅的重力波と天体の残骸が吹き荒れる地獄と化した。
テラフォーミングで豊かな星系となることが約束されていた一つの文明圏は、この日このとき、無慈悲な質量弾の雨となって宇宙から消えた。
ハジメの考察通り、テナウス星系のすべてが歪曲重力波と質量弾となって〈天啓号〉を襲う罠だったのだ。
以上のことをヤシェロが把握した時点で、先遣隊との通信は途絶。
ハジメは帰ってこなかった。