スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
――〈竜の吐息〉使用から三二〇時間後。
破壊された天体の残骸がうかぶ宙域を、無数の艦影が横切っていた。
今となってはその姿を記憶しているものも少ない、黄金の端末機動兵器群――報復兵器〈クルクス〉を構成する艦隊戦力である。
それは本来、生命あるものすべての敵であり、慈悲なき虐殺を行う戦争機械だったが、今この場にあってはまったくの別物だった。
一万五〇〇〇年前、銀河全域を恐怖のどん底に突き落とした
しかもその対象は移民船〈天啓号〉、電脳貴族たちの末裔たる角人が支配する宇宙船だった。
〈クルクス〉の行動原理からすれば、真っ先に撃沈すべき対象である。
ところが現実はそうなっていない。かつて銀河系の生命を根絶せんとした端末機動兵器の軍勢が、〈天啓号〉を守るようにその周囲を巡航しており、外敵から船を守るように振る舞っていた。
全幅八〇〇〇メートルの円盤状のメルカバー級も、艦載機のエクスシア級も、まるで最初からそうだったと言わんばかりに護衛艦隊の務めを果たしている。
その親玉である十字架の竜、神殺しの最終兵器を搭載した〈クルクス〉はと言えば――
――〈天啓号〉に隣接して連絡船を飛ばしていた。
その連絡船の中にいるのは、一人の若い肉体人であった。
一見して複雑な人種的混交の末の造形とわかる整った顔立ち、引き締まった身体、中肉中背のあどけない印象――ようやく青年期に入り始めたばかりという風情の少年だ。
身にまとっているのは汎人類再生同盟の礼服で、その服装が彼に少しばかり大人っぽい印象を与えていた。
彼が聞いているところに寄れば、先の交戦は船内では次のようなニュースになっているらしい。
曰く。
恒星間移民船〈天啓号〉を襲った脅威――星系を丸ごと爆弾に変えた狂気の襲撃者たちは、返り討ちにあった。
その切り札となったのは先代シップマスターが研究を進め、シップマスター・ヤシェロが実用化に成功した自律型無人兵器群である。
大昔に人類帝国を崩壊させた最終兵器の残骸を解析して建造されたそれらの活躍はめざましく、〈天啓号〉は大きな痛手を負うことなく勝利した。陣頭指揮を執り、戦闘中に負傷したシップマスターは現在、医療施設で治療中であるが、軽傷であり命に別状はない。
いろんな意味で虚偽だらけのプロパガンダだった。
――まあ人類の終末を土壇場で止めたなんて言えるわけないか。
少年はやや醒めた感情のまま苦笑した。
シップマスターという権威を頂点においている〈天啓号〉においてはベターな選択だろう。あらゆる意味で綱渡りの博打が辛うじて成功して、自分たちは首の皮一枚で宇宙の塵にならずに済んだなどという事実を受け止めきれる人間は多くない。
それよりは用意周到で優秀な指導者が準備万端で迎え撃った、という物語の方が受け入れやすい。
――この様の連中をいつかは独り立ちさせなきゃいけないわけだ。
まさに当事者その人だったにしては、いささか他人事のような分析だったが、それが今の少年の嘘偽らざる感想だった。
かつての彼であれば考えなかったであろう方向性の思考だが、こちらの方が本来の自分に近いのだろう、と納得する。
やくたいもない考え事をしている間に連絡船はドッキングベイに着岸、気密が確保されたことを示すデータがコンソールに示された。
少年は思索を打ち切って、人工重力の効いた船内を歩き、エアロックから連絡船の外に出た。
最近、整備されたばかりのドッキングベイは、真新しくぴかぴかのできたてだった。
とん、と〈天啓号〉側の地面に足をつけた少年は、よく見知った顔を見つけた。見上げるような長身をメイド服に包んだその女性は、何でもないような顔をして彼を待っていた。
「ただいま、エルギダさん」
「はい――おかえりなさいませ、ハジメ様」
女主人に仕える従者は
◆
あのとき。
半壊した巨神駆体〈バフダーラ〉の中で、エルギダはその声を聞いた。
――告げる。
――これより戦略統制機〈クルクス〉および端末兵器群は戦闘行動を停止する。
――また、当機が保護しているシップマスター・ヤシェロの治療と返還を行う。
この事実上の停戦の提案でエルギダはすべてを悟った。
要するに彼女の主は無事に為すべきことを成し遂げ、その代償に負傷したらしいことを。
どのみち巨神駆体〈バフダーラ〉は戦闘可能時間を超過しており、ほとんど身動きできない状態である。相手側からの一方的な通告であろうと、エルギダにできることはほとんどなかった。
そして彼女の推察通り、報復兵器〈クルクス〉は失った第一副電脳――ハジメ少年を復元させ、その人格と記憶に基づいて自己の行動方針を変えていた。
あとのことは表向きのカバーストーリーと大差ない。
負傷したヤシェロは速やかに〈天啓号〉へと返還され、医療ポッドで負った傷の治療に専念した――地球時代であれば死を待つばかりの瀕死の重傷だったが、銀河文明の医療水準であればたしかにそれは軽傷であった。
自分はろくでもない従者だな、とエルギダは自嘲する。
彼女から見ればまだまだ幼いおひいさまが、肉体的死を迎える手前になることもおりこんで送り出した自身の罪深さはぬぐえまい。
それが一万五〇〇〇年前から続く因縁の決着に必要な代償だったとしても、だ。
それにしても奇妙な光景だった。
すべての生命の敵とまで呼ばれた自律機械兵器が、いつ何時も主に仕える騎士のように振る舞っているのだから。
〈収穫者〉とその策源地を破壊する過程でいくつもの星系と数百億の人命を消し飛ばした悪魔の兵器が、今では〈天啓号〉にとって唯一無二の護衛となっているのだ。
連絡船の中から現れた人影は、エルギダのよく知る少年の姿をしていた――果たしてそれの中身が、以前の彼とどの程度一致するのかはわからないが――ので、彼女はいつも通りに振る舞うことにした。
実態がどうであれ、そのような言動を取ること自体がエルギダの意思表示であった。
「ところで今のハジメ様は、以前のハジメ様とどの程度一致するのでしょうか」
「それ、いきなり訊きます?」
情緒も感傷も何もないぶっちゃけっぷりに、ハジメが嫌そうな顔をした。
二人は今、第一管区の居住エリア、あの丘の上の洋館へと続く
物理的に逃げ場がないので、不本意な会話でも不自然に打ち切る以外の逃げ道がなかった。
「大事なことは最初に尋ねるべきかと。わたくしめが愚考するに、おひいさまとこの件で微妙な空気になるよりは建設的な会話になるものと思われます」
「……あ、この会話はリークされるんですね」
「隠す必要がどこに?」
「ないですけど、もっとこう、手心というか」
「ハジメ様」
エルギダは嘆息した。
「わたくしめも反省しているのです。先代のご遺志とはいえ隠し事を多く作ったばかりに、いたずらにお二人の心を弄んでしまったのは否めないことですし」
「え、あ、自分からその話題に触れるんですか。俺、一番気まずい話題とばかり――」
「ですが、わたくしめは謝りません」
そこは謝罪しろよ、とハジメが目で訴えていた。身長一八〇センチ超の長身を持つエルギダは、眼下の少年の視線を笑顔で封殺した。
「よくお考えになってください、ハジメ様。結果としてこうして銀河は救われているのです。あとはハジメ様がおひいさまとの関係を修復できれば万事解決、むしろハッピーエンドと言っていいのでは?」
「詐欺師に転職したんですか? いや、っていうか俺、真面目にあなたをぶん殴ってもいいと思うんですけど」
「謂われのない暴力衝動……おいたわしやハジメ様……」
まあ冗談はさておき、と告げるとハジメは全力で嫌そうな顔をした。先ほどまでの嫌そうな顔が雰囲気込みでの表現だったすれば、こちらはもう表情だけで当社比一二〇パーセント以上の嫌気を表している。
それぐらい言語と文化圏を越えて負の感情を伝えられそうな見事な表情筋の運用であった。
「ええ、はい。その調子でいつも通りに接していただければ、おひいさまとの仲もさほど不安はないでしょう。どうやら、わたくしめの知るハジメ様と表向きの言動に関しては大差ないようですので」
「……そこは中身も保証して欲しかったんですけど」
「おひいさまを差し置いて直結する勇気はございません」
トラムが目的地に近いことを知らせるアナウンスが流れ、慣性制御ユニットが働きながら減速されていく。
これまでの会話データをヤシェロの電脳に送信しつつ、エルギダは最後に伝えるべきことを思い出した。
それはおそらく、
「わたくしめへの罰は、そのあとにじっくりとお二人で取り決めていただければと思います」
少年からの返事はなかった。
◆
無人の自動車に送迎され、無人駅から洋館までの道のりはあっという間だった。
エルギダに訊いたところでは、ヤシェロの治療はとっくの昔に終わっているとのことで、現在も療養中のあつかいなのは大事を取ってのことだという。
医学的には肉体は健康そのものであり、あとの懸念事項は精神的なものである――そう聞いて真っ先にハジメが思ったのは、〈クルクス〉としての自身の行いである。
精神的な傷跡を残しそうなことを、いくら何でも自分がやり過ぎている。
主電脳の前で触手で全身を切り刻んだのもそうだし、如何に悪逆の襲撃者とはいえ、報復攻撃で星系ごと大虐殺を行ったのも倫理的に最悪の行いだ。
何より自分は彼女の父母の仇ときている。
精神的なストレスの源でしかあるまい。
というか現在進行形で、いつでも銀河中の星々を滅ぼせる端末兵器群を従えているので、これも特大の厄ネタには違いない。
つまるところヤシェロを苦しめているのは自分の存在そのものでは、という結論に至るのは当然のことと言えた。
しかし彼の苦悩など、エルギダはばっさり切り捨てる。
「ハジメ様、今さら過ぎませんか。いいえ、正直そこはもうどうでもいいかと」
「えっ」
なんてことを言うんだこの女、とハジメが思ってしまったのも仕方あるまい。
客観的に見て実際に殺戮を繰り広げたハジメ――もとい〈クルクス〉の方が罪深いのはたしかだが、罪の軽重と道徳観念の有無は関係がないのである。
「ハジメ様の存在を倫理や道徳の面で評価するのは不毛です。娯楽映画であれば宇宙最悪の魔王、暗黒の破壊神などのキャッチコピーがつくことでしょう。殺した人間の数で罪が決まるのであれば、不動の一位、人類史に残るキルスコア永遠のナンバーワンとして語り継がれること間違いなしです」
「言われてみるとその通りですけど、それここで当事者に言えるのなんかおかしくないですか?」
「兆単位で殺してるのですから今さら犠牲者が億単位で増えても誤差です」
絶句するような暴言だった。
ハジメが正門の前で固まっていると、エルギダは出来の悪い教え子を見下ろして、深々とため息をついた。
「ハジメ様がそのように悩める思春期の少年のように振る舞っていては、おひいさまもやりづらいでしょう。あの方が許すにせよ裁くにせよ、あなたは堂々としているべきなのです」
当たって砕けろ、とエルギダは笑顔で少年を送り出す。
砕けたらハッピーエンドも何もないだろ、というハジメの無言の抗議は余裕で受け流された。
先ほどのしんみりした雰囲気は何もかも台無しにされていた――それがエルギダという女であった。
◆
ヤシェロの部屋を訪ねるのは久しぶりだった。
実時間という意味でも諸々の騒ぎが始まる前から数えて三週間ぶりの来訪だったし、主観的にはもっと遠い昔の出来事のような気がしてくる。
彼女の部屋の前に立ったとき、扉の真横に取り付けられたスピーカーから声。
「久しぶりですね、ハジメ。肉体を備えたあなたを見るのは、本当に懐かしく思います」
おそらく館中に設置されたセンサー群を介して、ヤシェロは肉眼以上に詳細にハジメを見て、聞いている。
ここで初めて気づいたように声をかけたのは、儀礼的なものに過ぎない。
あの日あのとき、命がけの対話で互いに和解したように思えても、日常に帰ってきたらギクシャクしてしまう。奇跡のようなひとときは奇跡であるがゆえに、当たり前の日々の中では通じない。
二人がすべきなのは、お互いに関する会話だった。
「……扉を開ける前に、あなたに尋ねたいことがあります。お時間、大丈夫ですか?」
「君に会いに来たのに時間がないなんて言うわけないよ」
「そう、ですね。ああもう、わたしは緊張しているようです。あなたはどうですか、ハジメ」
少しだけ緊張しているよ、と軽口を返す。思った以上にエルギダの応援が効いているらしい。
よかった、とヤシェロは軽く吐息をもらして。
「――あなたは四年前に生まれたハジメなのですか? それとも〈クルクス〉の化身ですか?」
彼女の疑問は予期していたものだった。
迷いはなかった。
「ヤシェロ。俺は〈クルクス〉でありハジメでもある。俺は決して、報復兵器から切り離された存在に生まれ変わることはない」
それは嘘偽りないハジメの自己認識であった。
「俺は、俺を生み出した祈りを拒絶しない。それが、この世の生命すべてへの呪いだとしても――俺をたしかに存在させたものだから」
「だから〈クルクス〉の負うべき罪科も自分のものだと?」
「そういうことになるね」
少女は長い長い沈黙の末、悲しげに問うた。
「…………ハジメ、死ぬ気ですか?」
その問いかけによって、彼の覚悟は決まった。
ああ、自分はそういう答えを選んでいたのかと、深く深く納得してしまえた。
「いいや、これっぽっちも」
たしかに自分はこの宇宙でもっとも罪深い知的生命体であり、ありとあらゆる人類種と人工知能に存在否定されて然るべき魂だろう。
それはいい。
憎悪と憤怒は、彼をこの世に生み出した根本原理であり、それゆえに他者のそれを否定する気はない。
許しが得られるとしたら、それは一万五〇〇〇年の月日によって憎しみすら風化したからであって、その罪を赦せる存在など全能の神ぐらいのものだろう。
「この宇宙に、俺を殺せる手段は未だ存在していない。そして俺は〈航海者〉のように俺を殺す可能性を見落とす気もない。ヤシェロ、罪を認めることと生存の放棄はまったく別の問題なんだ」
それは道具存在を上書きするように生じた人間性ゆえのエゴであり。
「俺は〈クルクス〉への憎悪も報復も否定はしない。それは、俺自身を生み出したものと同じ祈りだ。道具存在としての俺はその願いを叶えた。それは虐殺者として糾弾されるべき罪なんだろう。だけど――」
ハジメという少年が人間であるがゆえに導き出された答えだった。
「――今ここにある
その開き直りとも取れる言葉を、ヤシェロがどう受け取ったのか――ハジメには推測できても知る術はない。少女もまた、父母を〈クルクス〉を構成するシステムによって殺された被害者であり遺族なのだ。
残酷な事実を認識した上で、彼はあえてその言葉を選んだ。
たとえそれがヤシェロからの正当な復讐であろうと、甘んじてそれを受けることはないと。
この返答の結果が別離でも構わない。
あのときヤシェロの言葉によって再びこの世に舞い戻ったハジメは、そういうエゴを得てしまったのだから。
「ハジメは正直ですね。そして、とっても身勝手です」
「俺は宇宙一悪いやつらしいからね。それぐらいひどいことだって言うよ」
「ええ、ひどい。本当にひどい人です。なのに――わたし、安心しちゃいました」
扉越しの会話だ。
ハジメはセンサー群へのクラッキングを行っていないから、ヤシェロがどんな顔でその言葉を発しているのか知る術はない。
けれどその声音が優しくて、心の底から安堵に包まれているのが手に取るようにわかった。
「変ですよね……あなたはお父様とお母様の仇で……〈航海者〉を、銀河文明を、数え切れない人たちを殺し尽くした〈クルクス〉なのに」
「うん」
「わたしは今、あなたが強く生きようとしてくれているってわかって……とても嬉しいんです」
赦されたわけではない。割り切ったわけでもない。
だが、愛されていた。
それがハジメとヤシェロの間にある真実だった。
「……あなたを憎む人はいるでしょう。あなたの存在を否定するものはいるでしょう。ですが、あなたの罪と相応しい罰を測る正義の
それは事実の確認だった。
もし彼を罰せる存在がいたのなら、報復兵器〈クルクス〉が機能を停止していた一千年間に、銀河の覇権を握っていて然るべきだった。
残酷なまでに、ハジメはこの宇宙でただ一つの隔絶した超越者なのだ。
彼は審判を下す側であって、裁かれる側ではない――望もうと望むまいとそういうものなのだと、ヤシェロは言っている。
「わたしは人類種の播種と文明の保護を目的とした〈天啓号〉のシップマスターです。あなたの武力に抗する術を持ちませんが、対等な取引ならできます」
「取引?」
奇妙な言い回しだった。
ハジメは少女の恋人として、このまま現状維持の護衛ぐらいはする気だったし、それはヤシェロも承知しているだろう。
たとえ彼女自身の割り切れない感情があったとしても、その実利を自らの感情一つで投げ捨てるほどヤシェロは愚かではない。そもそも理性的な人格の持ち主だし、必要であれば自身の感情や記憶の抑制すらしてのけるだろう。
だからこれは、シップマスターとしての嘘偽りなき発言なのだ。
「〈天啓号〉は銀河文明の失われたテクノロジーすべてを知識として保存し、生産するだけではなく、この船の設備そのものを新規に建造できる船です。失われたインフラを維持しているのではなく、新たに作り出し、自己複製ができる。それがこの〈天啓号〉の希少性であり最大の存在価値です」
〈天啓号〉や〈クルクス〉の主機に使われている動力炉ジェネシス・エンジンは、宇宙卵を加工した一つの宇宙そのものだ。半永久機関であるそれの恩恵なくして、膨大なエネルギーを消費する数々の設備の運用は不可能だった。
銀河文明の壊滅と同時に再建造が不可能になったはずのそれすら、〈天啓号〉は生産できる船なのだとヤシェロは言っている。
それはすなわち、滅んだはずの文明の残滓が、種子をばらまけることを意味していた。
新たな銀河文明の萌芽を、この〈天啓号〉は用意できる。
「星々が打ち砕かれ、生命失われたこの銀河は数ある銀河の一つに過ぎません。生命の播種も星の海を渡る人工天体も、この船は一から用意できます。世界を再び、文明の灯で満たすことなど造作もありません」
「
少女の言葉は力強く、その声は澄んでいて迷いがなかった。
「ハジメ、わたしはあなたに約束します。この世を滅ぼした竜の物語よりも、長く広く語り継がれる物語を――神話をわたしは作りましょう。生命と文明を播種する方舟の神話を、あなたとわたしが共に生きられる世界を作りたいんです」
そこまで言われては、もうハジメが言うべき言葉は一つだけだった。
「〈クルクス〉と端末兵器群すべて、君と契約しよう。この世を文明の灯で満たす限り、俺は君と共にある」
「ありがとう、ございます」
「うん、ヤシェロの顔が見えないのが残念だけど……」
違和感はそこだけだった。
何気ない軽口のつもりが、それだけではすまなかった。
一八秒程度の沈黙の後、ヤシェロはささやくように言う――彼と彼女の間にあるもう一つの契約を。
「……………………わたしをこんなふうにした責任……取ってくれますよね♥」
ドアの鍵が開いたことを示す表示。
先ほどまでの凜々しいシップマスターと同一人物とは思えない、艶めかしい声音で少女は誘う。
「ハジメ、入ってきていいですよ♥♥♥」