スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
ヤシェロは一つ、大事なことを学んだ。
人間、ある分水嶺を超えると羞恥心が麻痺してしまうものだが、それは永遠に続く状態ではないのだ、と。
つまるところ、激しいまぐわりから一晩明け、少女は恐ろしく動揺していた。
初体験に対して、ではない。
その過程で存分に発揮された自身の痴態と、その元凶である変態性に対して、ヤシェロは大いに困惑していた。
恥ずかしい、なんてものではなかった。
換気されてなお、シーツに染み付いた情事の残り香が鼻孔をくすぐり、躰の芯が熱くなりそうだった。
もぞり、と上体を起こす。生まれたままの姿だったから、乳房も秘所も丸出しだ。今さら恥ずかしがっても仕方ないのに、かぁっと頬が朱に染まる。
ハジメの姿はない──否、部屋に備え付けのシャワールームから、ひょこっと顔を覗かせてきた。
「おはよう、ヤシェロ」
いい笑顔だった。
思わず目を逸らす。
ふつふつとわき上がる羞恥心を前にして、少女にできるのは、うつむいて情けないうめき声を上げることだった。
「…………うぅ」
恥ずかしすぎてろくに言葉も出てこない。
ちらり、とシーツの上を見る。八つもうち捨てられていた、使用済みコンドームは片付けられていた。
ハジメの仕業だった。
それを片付けているとき、彼がどんな風に"使用中"のことを思っていたのか──知りたいような知りたくないような、矛盾する感情。
本当に、どんな顔をすればいいのだろう。
今さら顔を真っ赤にして俯いてしまう自分が、つくづく嫌になった。
最後の絶頂を迎えてから、気を失うように眠りについたことは思い出せた。
詳細な行動ログを読み込めば、行為の最中に自分が発した声、躰の動きまで把握できることだろう。
それこそ腰や性器のはたらきの一つ一つまで、再現可能なデータとして保存されている。
そう、昨晩は何度も避妊具を取り替えて、激しいセックスに興じていたのだ。
お互いに初めてにもかからず、だ。尤もヤシェロとて、角人の性行為に、地球時代的な処女性や初体験の概念が当てはまらないことは承知していた。
角人の種族全体で蓄えた膨大な経験ログがあるから、セックスなどしたこともない少女が、どんな娼婦よりもえげつない腰使いをすることだってできる。
ヤシェロが淫らに喘ぎ、よろこびに打ち震えていたのも、不思議なことではない。
自分がどれほど、倒錯した性癖を持っていたとしても、それは──
どくん、と。
「んっ……♥」
下腹部に耐え難い熱が生まれた。幾筋もの熱流が、皮膚のすぐ下を這い回るような感覚。
生殖器が、内臓が、はらわたが、得体の知れない何かに支配されているという実感──ほとんど核心に近い理解であった。
お腹に右腕をあてがい、へその下に浮かび上がった紋章を隠す──赤く光る、多頭蛇の刻印が目に入った。
シーツと接しているお尻の上、尾てい骨のあたりにも、同じような熱い感覚が走っている。
身体改変構造体が活性化しているのだ。おそらくはヤシェロの躰に刻まれた性交のよろこびが、再び、それを刺激してしまったのだろう。
視線を上げた。髪を乾かし終えたハジメが、やや怪訝そうな目でこちらを見ている。
ヤシェロはにっこりと微笑んだ。平静を装うには、頬が染まりすぎていた。
「ハジメ、可及的速やかに部屋を出て行ってください」
正式に恋人になれたと思っていた相手からのあんまりな発言に、ハジメの顔が引きつった。
「いきなり理不尽だな!?」
「いいから、わたしが、出て行ってと言っているんです!」
我ながらひどい対応だと思ったが、改変体を見られてしまうよりは良い。
よりによって今、ハジメとのセックスが終わった時期に、それが活性化してしまった事実が問題なのである。
性行為そのものへの忌避感が溶けて消えても、ヤシェロの躰には、知られたくない性質が多すぎた。
迂闊なことを喋ると、ろくなことにならないと判断したハジメが部屋から離脱したのは、わずか一〇秒後のことだった。
◆
「──それで、二日もまともに口を利いていない、と? おひいさま、それは思慮分別のついた一個人のすべき対応ではありません」
二日後、ヤシェロはエルギダに説教されていた。
椅子に座ってうなだれる少女を、長身の使用人が立ったまま叱るという構図だ。
屋敷の執務室──半ば形式的なものだが、二〇世紀風の建築様式を謳ったがゆえの部屋だ──で、当主が使用人に説教される微妙な景色が繰り広げられている。
この使用人が教育係をしていた時期もあるため、ヤシェロは彼女に頭が上がらない。
平時には表に出ない人間関係である。
「第一、初体験で半日近く"つがって"いたお相手に、今さら何を恥ずかしがる必要があるのでしょう。今さら、改変体の一つ二つ見られたところで、おひいさまの淫らさは揺るぎません」
正論である。
同時に主人への配慮が小指の先ほども存在していなかった。慇懃無礼ですらない。
エルギダは表情の読めない人物だが、口調から察するにほとほとあきれ果てているらしかった。
角人同士の情報交感──電脳を介した多機能コミュニケーション──すらせず、延々と言葉だけで叱ってくるあたり、滅多にないぐらい怒っている。
「あ、あんな……発情した猫の交尾みたいな醜態、わたしに認めろと?」
ヤシェロは涙目だった。容赦ない言葉の暴力を一〇〇分間ほど浴びていたため、色々と駄目な感じになっていた。
そもそも四六時中、肉欲に溺れることができる肉体人などそういるものではない。まして角人の場合、色情狂にはなれぬよう制限がかけられているのである。
一見、セックスのため種族的に改造された肉体と矛盾した性質だが、これには深いわけがある。
そう──性行為にメリハリをつけるためだ。
割りと本気でひどい種族だった。
「流石おひいさま、客観視ができておいでです。このエルギダ、感服しました──それはそうと、ここにおひいさまの喘ぎ声と猫の交尾風景を合成した映像が」
エルギダはいい性格をしていた。立体映像で再生され始めた黒猫同士の濃厚な交尾に、聞き慣れた声──主にヤシェロ自身の嬌声──が被さっていた。
驚くほど違和感がない合成だった。
この屋敷のセンサー系を管理しているのは、唯一の使用人であるエルギダだ。
防犯上の理由で、主人たるヤシェロの私室と言えど監視対象だった。しかしこれほどまでに悪辣で、かつ実害がなさそうな悪用がありえたとは。
無論、少女の顔が引きつったのは言うまでもない。
「ここまで屈辱的な経験は初めてです……!」
「おひいさま、これは真面目なお話です」
「エルギダ、人の情事を猫の交尾にたとえたジョークムービーを編集しておきながら、その物言いはどうなのですか」
「場を和ますため、一〇秒で製作したものでした。粗雑な出来だったことは否めません」
エルギダはいつだって超然としていて、どこか、裏が読めない人物である。
それでいて彼女は、ヤシェロの目から見ても明らかな美人だった。美男美女を当然とする角人の平均的容姿水準から見ても、かなりよく練られた身体設計だ。
さらさらの金糸のような頭髪に、すらりと長い手足、艶やかな褐色の肌。豊かな乳房を持ちながら、その躰に余分な贅肉はまったく存在せず、均整の取れた肢体は美しい筋肉の流れが感じられる。
背丈は少女よりずっと高く、男性体のハジメと比べても明らかに勝っているだろう。そんな抜群の美貌を持ちながら、ヤシェロの影に徹し続ける奇特な人物でもあった。
少なくとも角人の傾向からすれば、十数年間、"つがい"も作らず姦淫にふけらないのは奇妙なのだ。
身近な同族がそういう人物だからこそ、少女の潔癖さも育ったと言えるが。
「……エルギダ。改変体は、やはり、わたしに定着しているのですか」
「性感に関連する疑似神経としては完全に定着しています。また、わたくしめの見立てではありますが。今後、艦内ネットワークに依存することなく機能する、補助脳に成長する予兆がございます」
ヤシェロの躰に浮かび上がったタトゥー、身体改変構造体は本来、角人のセックスを補助するための身体器官だ。
日常生活に支障を来さないよう、性行為のときの「敏感すぎる身体感覚」と、日常用のそれを切り離したのがその始まりである。
ヤシェロが面白いようにハジメとの交尾で乱れたのも、淫らな身体感覚に神経が切り替わったからに他ならない。
そもそも、性感帯なるものは、先天的な肉体の構造や、後天的な開発によって増減するものだ。個体差や肉体構造の不備が生み出す、不便さが、セックスという文化の裾野を広げてきた。
そこにあるのは時に性の搾取であり、生々しい欲望だ。そして何より、それに付随する金や権力が、その必要性と需要を高めてきたのだ。
肉体改造の極致は、そんな当たり前の前提を消滅させた。人間の欲望など、脳構造を変換すれば簡単に消えてしまう類の誤差だ。
今から三万年前の銀河文明絶頂期には、肉体から性差を完全に消し去ったり、データ人格として生きることが人の理想の形になったぐらいである。
その後の戦乱や文化的退廃が、性差の概念を復活させた。
ただしそれは、かつてのような絶対的差異のことではない。長すぎる時間の中で、ジェンダーすらも娯楽的消費物として扱うに至ったのが、ヤシェロの属する種族だった。
ヤシェロの歪な性玩具としての肉体も、元を辿れば、そういう退廃の産物なのである。
「補助脳としての機能を持つに至った改変体は、いずれおひいさまの認知へ大きく影響します。初めのうちは動作が不安定ですから、思考への影響も大きいでしょう」
「嗅覚や味覚はおろか、触覚や視覚、聴覚まで性行為と関連づけるようになる、と?」
少女とて二日間、何もしなかったわけではない。過去の事例を調べた結果、ヤシェロ自身のケースに似た事例も見つけた。
彼女をじわじわと作り替えていく蛇の紋章は、呪いのように、身体性はおろか精神性にまで干渉してくる。
ヤシェロがどんなに節度を保ちたいと願っても、きっと、はしたない
「おひいさまのすべてを、今のうちにハジメ様へ打ち明けるべきかと。改変体の条件付けに、ハジメ様をパートナーとして認識させるのです」
以前なら、絶望的な事実だった。
なのに今は、ぞくぞくと、得体の知れないよろこびに背筋が震えてしまう。
そんな自分自身にすら、嫌悪以外の感情を覚え始めていた。
◆
どんなときでもハジメは勤勉だった。だから、どこに行けば会えるのかもわかりきっている。
意を決したヤシェロが向かった先は、二人で復旧作業を進めていたデータベースの眠る階層──〈図書館〉の一角だった。
いつも通りのスーツを着て、いつも通りに〈図書館〉へ向かうだけのはずだった。
トラムを降りてすぐ、少女は瞠目した。
エメラルドグリーンの角を通じて、〈図書館〉の"生きた"稼働データが流れ込んできたからだ。
驚いたことに、艦内ネットワークとの同期までできている。
この前までの状況とは大違いだった。ハジメ一人で、再稼働の一歩手前までこぎ着けたのだ。
ここ最近、ヤシェロには復旧作業ができなかったとはいえ、二週間にも満たない期間でできる作業量ではない。どうやらしばらく見ないうちに、ハジメの技量と作業速度は急成長したらしい。
念のためメインシステムの自己診断プログラムを起動し、逐一、チェックしながら通路を歩く──ハジメのいる区画に着くのが、あっという間に感じられた。
照明の下で、椅子に座って一休みしている少年へ駆け寄る。
びくっ、と身をすくませた少年へ、抱きつきそうな勢いで顔を寄せた。
「ハジメ! いつの間にこんな高度なシステムの再構築ができるようになったのですか! すごいです、これなら八〇〇時間以内に〈図書館〉が復活します!!」
「え、ちょ、ヤシェロ? 近い、近いって。落ち着こうよ!」
ぐいぐいと身を乗り出して、ハジメへ感動を伝える。それぐらい画期的な出来事だった。
興奮のあまり、普段ならありえない距離感になっていた。
ヤシェロはいささかも動じることなく、今にもハジメの肩を掴みそうな勢いで喋り続けた。
「ハジメ、あなたに手伝って貰えて本当によかった……お父様も、お母様も、きっと喜んでくれます。銀河文明の叡智が、ようやく蘇ってくれる……この船が、本来の役割へ復帰できるかもしれないんです」
この喜びようも無理からぬことなのだ。
一〇〇〇年間、叶うことがなかった一族の悲願が成就されようというのだから。ヤシェロの父母が幼い娘と共に残してしまった、大きすぎる宿題が終わろうとしている。
それに、ヤシェロの歓喜は感傷的な理由だけのものでもない。数多の星々の歴史と文化、膨大な量のテクノロジーを記憶する〈図書館〉は、銀河へ旅立った人類の記録そのものだ。
あらゆる意味で素晴らしい行いだと思った。伝えきれない感謝を、どう表現すればいいかわからないぐらいだ。
このときヤシェロの半透明の角が、複雑怪奇な発光パターンで、言語で分類すれば六〇〇通りにも及ぶ歓喜を表現していたのは言うまでもない。
さらに言うなら、ハジメはすでにその素質を開花させ、角人の幾何学的発光による感情表現をほとんど理解していた。
そういうわけなので、ヤシェロの内心と裏腹に、少年は愛する少女のよろこびをしっかり受け止めていた。
「ヤシェロ。君が喜んでくれて俺も嬉しい。けどさ、何日も避けられたりすると悲しいから、理由を言ってくれないか」
「あっ……ごめんなさい、ハジメ」
ようやく自分の目的を思い出し、ヤシェロは深呼吸。
じっと、こちらを見つめる少年と目を合わせた。これから伝える事柄を思うと、恥ずかしさで心臓がっどうにかなりそうだった。
「聞いて欲しいことがあるのです。これまでの非礼の理由と……わたしとあなたの、これからのことです」
大事な人だから、ハジメに対しては、特に話すことが多すぎた。なのに、要した時間は予想よりずっと短かった。
ヤシェロたちには自明の理であることも、一から説明しなければならなかったが、驚くほど飲み込みが早かったからである。
角人の種族的体質のこと、ヤシェロの躰に発生した改変体のこと、改変体による変容のこと。
訪ねるべきことを聞き終えると、少年は静かに目を閉じた。
ヤシェロにも座るよう促して、考え込んでいたハジメが目蓋を開いた。強い意志の感じられる瞳だった。
「俺は、ヤシェロのことが好きだ。君が助けを必要としているなら、どんなことだってするよ」
「ハジメ……」
向かい合うように座る二人の間に、何とも言えない沈黙が生まれる。
珍しく感情のブレ幅が大きく、感動で言葉に詰まったヤシェロに対し、彼は苦笑した。
「そんな、泣きそうな顔にならなくてもいいじゃないか。そりゃあ、ヤシェロは色々、複雑だろうけどさ。俺はいつもの君も、乱れてるときの君も好きだ」
"乱れているときの"。その言葉を耳朶を叩いた瞬間、下腹部に熱いうねりが生まれた。
生殖器に染みついた、生きたタトゥーの脈動。
身体改変構造体レベル7〈大淫婦の印〉が、ジャケットとワイシャツの下で、白い肌を陵辱する。
地球時代の悪魔の化身──堕落と退廃と享楽になぞらえられた、性行為のための増設神経群が、少女の思考をかき乱す。
躰が熱い。
ハジメのにおいが、鼻の粘膜の奥を撫でつける。男のにおいがした。あの日、汗まみれになって交わりあった雄の香り。
激しくヤシェロの裸身を求め、抉り、貪ったつがいの証。
どうしようもなかった。次々と頭に浮かぶ、淫らな感覚、淫らな回想を止められなかった。
この連想自体が、下腹部や尻肉を這い回る改変体──セックスのための疑似神経に誘導されたものだと知っているのに、抗うことができない。
気付くと、椅子から腰を浮かせていた。息が徐々に荒くなっていく──ハジメが近づいてきた。
もう駄目だった。
うっとりと頬を染め、ハジメへしなだれかかる。
「ヤシェロ、まさか」
「……もう、限界みたいです。はしたない恋人で、ごめんなさい……んぅ♥」
自分の口で恋仲になったことを認めるのは、想像以上に──"気持ちよかった"。気恥ずかしさすら、倒錯した感情に置換され始めている。
肩へ頭を預けて、小動物のように角を擦りつける。
そうだ、どうして忘れていたのだろう。
──恥ずかしいのは気持ちいい。
こんな"当たり前"のことを。
だから、もっと恥ずかしいことを言おうと思った。
ハジメは、こんな自分も好きだと言ってくれたから。
「ヤシェロ。ここは、その、そういうことをする場所じゃなっ」
そっと、人差し指を彼の唇へ押し当てた。
白魚のような指が醸し出す、ぞっとするような色香に少年の言葉が止んだ。
「お腹とお尻に、恥ずかしくて、絶対見られたくないようなタトゥーが、浮かぶのです……ハジメ、教えてください」
黒いジャケットの前を止めるボタンを一つ一つ、外していく。
汗を吸ったワイシャツがさらけだされると、ごくり、と息を呑む音を聞こえた。ハジメが生唾を飲み込んだ音だった。
そんな幽かな音にすら興奮する。どうしようもないぐらい、嬉しくなってしまう。
ジャケットの前を開いた途端、むっとするような、甘いにおいがした。性的興奮に伴い、分泌される汗の質が変わっていた。
強烈な性フェロモンを含んだ体液、ヤシェロの躰がセックスを求めていると雄弁に物語る、人体改造の証明そのもの。
黒髪と対照的な、白いかんばせを朱色に染めて。
赤い唇が、しどけなくほころぶ。
「わたしの、一番恥ずかしいところ、見たいですか……♥」
いつもの──否、以前のヤシェロなら、決して踏み越えない一線だった。二日前、激しく交わった異性の肉を前にして、自制心が吹き飛んでいた。
ヤシェロにとって、いつも着ているこのスーツはおのれに課した生き方そのものだ。服装に役割を委託し、素の自分と切り離すための儀式と言ってもいい。
〈図書館〉復旧のため動く自分、父母の意志を継ぐ自分、一族の悲願を達成せんとする自分。
そんな使命の象徴を身にまとったまま、あれほど忌避していたセックスのための身体機能を口にする。
救いようがない淫乱だと思った。その倒錯感に心臓の鼓動が跳ね上がった。
そして。
どこか期待を孕んだ声音が、ハジメの答えだった。
「ヤシェロって変態なんだな」
ヤシェロは、とろりと微笑んだ。
「はい♥♥」