スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
生命は燃える。
恒星に飲まれた塵のように。
焼け付いた兵器の残骸が浮かぶ虚空──ほんの三六〇〇秒前まで惑星防衛艦隊が配置されていた空間座標を、銀色の船体が突き進む。
ひどく歪な形状の宇宙船であった。
人の頭部を思わせる張り出した船首は、艦尾までの船体に比してあまりにも巨大だった。有機的な装甲と相まって、人の胎児を思わせる不気味さ。
それもそのはず──この宇宙戦艦こそ、銀河を統べる〈航海者〉──超空間ネットワークの意識体──の物理的身体なのだから。
その一人、粛清執行官はひどく無感動な心境であった。
彼我の戦力差は圧倒的だった。じきに周辺宙域の残敵掃討も終了する。粛清執行官が管制する機動兵器は、この宙域だけで二万機を超えていた。極小規模な出兵である。
電子戦ユニットである粛清執行官を除けば、六〇〇〇機の亜光速戦闘機と、全長一〇キロメートルの砲身を持った対惑星攻撃艦だけだ。
星間戦争において最もシンプルな大量破壊兵器は、大質量を投射するレールガンだ。
重力制御による対運動エネルギー兵器防御よりも、電磁投射砲の消費電力と連射速度の方がはるかに経済的だからだ。十分な数の砲台を用意できるなら、質量投射の飽和攻撃だけで地表の文明は壊滅する。
大気圏内での断熱圧縮ゆえに、耐熱処理済みの弾頭の確保にだけは苦労するが。亜光速にまで加速された質量爆撃がもたらすのは、大気圏内の徹底的な破壊のみ。
その実例──反乱を起こした惑星植民地は、今や地獄同然であった。粛清執行官──その身体である宇宙戦艦──と直線距離にして距離一〇万キロ、全センサが敵対者の破滅を物語っていた。
降り注いだ亜光速の砲弾は大陸プレートを粉砕、衝撃波で都市という都市が吹き飛んだ。そこに住まう老若男女の区別なく、二〇億の人口が消えた。
完全なる見せしめであった。
意味のない虐殺だった。
しかし、それが必要とされるほどに、人類の文明は疲弊と退廃の限界に達していた。
ゆえに、この果てに待ち受ける結末も必然。
それは古い古い歴史の一部。
星々を焼き尽くす報復の十字架が船出する前、まだ人類が一つの帝国に統治され、銀河の隅々にまで超光速ネットワークが走っていた時代。腐敗し、堕落し、醜態を晒しながらも、〈航海者〉が人類を支配していた頃。
すべてが滅び去るとも知らず、使命を果たし続けていた愚か者の記憶だ。
◆
「場所を選ばないセックス、お楽しみでしたね」
爽やかな朝、朝餉の席を凍り付かせる一言であった。
エルギダはいい笑顔で親指を立てていた──地球時代北米地域の慣習らしい。水牛のような形状、
もちろん潔癖な少女は、あからさまに不機嫌になっていたが。
「エルギダ、怒りますよ。いえ、すでにわたしの感情制御は閾値を超えています」
「いつでもどこでもセックスをするおひいさまに対しては妥当な評価では?」
「そういう問題ではありません」
この屋敷の主、巨大移民船のメインフレームを統括する角人。それがハジメの恋人であり、見惚れるような美貌も改造人種の証だ。鴉の濡れ羽色の黒髪は首筋ほどの長さ、すっと通った鼻梁は人形めいた出来の良さ。
胸の膨らみこそ慎ましいものの、きゅっと引き締まった腰つき、豊かな
抜けるように白い肌をやや上気させ、眉をひそめているのは、彼女の生真面目さの表れである。本質的に意地っ張りなので、エルギダのからかいに対して耐性がない。
ヤシェロの金色の瞳が細められた。真剣に怒る直前の兆候であった。
「……エルギダ」
「はい、失礼致しました……おひいさま、この不出来な使用人に何卒お慈悲を」
エルギダの謝罪──一見すると心の底から許しを請う哀れな使用人のそれだが、全身の挙動を完璧に制御している電脳使用者の表情ほどあてにならないものはない。
ヤシェロのように、肉体人らしい自然さを醸し出せるものの方が珍しいのだ。作為的な謝罪の意思であった。
これに加えて、追撃を加えてくるからエルギダはいい性格をしていた。
「しかし〈
「後始末は、…………自分でしました」
「動員された自動機械の行動ログ、お忘れではないでしょう? メンテナンス施設はわたくしめの管轄です」
要するに、「清掃ロボットの点検でわかる」という指摘。常の少女なら真っ先にわかりそうなことだが、動揺していたということだろう。
赤面してうつむくヤシェロ。この場合、先代とは故人である彼女の両親であろう。父母の変態セックスの形跡にまで踏み込まれるかも知れない羞恥心が、容易く少女の怒りを上回った。
尤もハジメの目から見ると、そういうときほどヤシェロが興奮しやすいのも自明の理だったのだが。
「わたくしめは恋も愛も存じ上げませんが──対等や尊厳を謳いながら、片割れが搾取する関係は不健全で不公平です。おひいさまは、少々、こらえ性がなさ過ぎるように見受けられます」
どこか冷ややかですらあるエルギダの指摘は、使用人ではなく、第三者としての冷徹な視線に裏打ちされている。
「……ずいぶんと遠慮がありませんね」
「僭越ながら、お二人の恋路を応援しておりますので」
慇懃無礼を絵に描いたような女であった。
このまま会話が続けばヤシェロが振り回されて終わる、いつもの日常だろう。今日だけは、それをよしと出来ない事情があった。ハジメは意を決し、問いただすべきことを切り出す。
「──超光速マンマシンインターフェース〈ハル・メギド〉、報復兵器〈クルクス〉。エルギダさん、あなたが知っていることを俺に教えて欲しい」
エルギダがこちらに顔を向けた。美しい女人であった。ハジメより一〇センチは高い身長に、衣服の上からでも自己主張する豊満な胸、くびれた腰に長い足──完璧な造形美がそこにあった。
チョコレート色の肌に映える金色の短髪の合間。知性を感じさせる瞳が、品定めするように少年を見据えている。
朱い唇が、皮肉げに歪められた。
「愚直ですね。わたくしめが素直に応じるとお思いですか」
「あなたは賢い人だ。少なくとも、俺がここで尋ねたことの意味に気付かないわけがない」
この問いかけの結果、これまでの日常は壊れてしまっても構わない。
そう、腹を決めていた。始まりは、〈図書館〉でのヤシェロとの情交だった。明らかに様子のおかしい彼女から、電脳への警告と共に見た風景について聞き出したのだ。未だに、ハジメは自分が何者なのかわからない。ただ、ヤシェロの知った単語が、自分の過去へ連なる何かだと確信するには十分だった。
「ハジメ……」
「ヤシェロ。俺はもう、見て見ぬふりは出来ないよ」
言葉を交わす二人の姿を見て、思うところがあったのか。エルギダは浅く溜息をつくと、軽妙に喋り始めた。
「〈ハル・メギド〉は銀河文明時代の遺産です。今から一万年以上前、銀河文明を二つに割った内戦で猛威を振るいました。当時の電脳戦デバイスの到達点──ハジメ様の神経組織に同化しているのは、そのオリジナルの一つと思われます」
打って変わって秘密主義の欠片もない物言いである。
ハジメの身につけている情報端末に、関連するデータが一斉に送られてくる。エルギダの言葉に嘘はない。一度、そこにあると自覚してしまえば、ハジメは手に触れることなく端末内部の情報を知覚できた。
つまり一種の電脳化──生体脳や神経組織を、情報処理装置の規格に合わせて機械化する──と言えなくもないのだが、〈ハル・メギド〉はそういった施術とは別格らしい。
受信データ曰く、民生用の情報端末一つから、数十万隻の宇宙戦艦の制御系まで情報処理できる、とのこと。ヤシェロの深刻そうな表情がなければ、眉唾物だと言い放っていたかもしれない。
〈図書館〉のデータと電脳を連動させているヤシェロなら、エルギダの言葉が嘘だったとき、すぐに見破れてしまう。
つまり信じがたいことに、このデータはフェイクではない。
「つまり俺は、電子戦デバイスを移植された戦闘員だったと?」
たしかにそれなら、最高レベルの肉体改造を施されていた理由も納得できる。不老化された肉体と尽きない体力、拡張された学習能力も、温存されるべき戦力ならば当然だろう。
しかしそれは、一万年以上も前の、歴史的大戦の当事者だったことを意味した。すると新たな疑問が湧いてくる。
「……俺が漂流船の生存者だった、というのは?」
「事実です。ハジメ様の乗っていた船の残骸を発見したのは、先代と奥様でした」
その一言に、ヤシェロが立ち上がった。エメラルドグリーンの山羊角が、疑問を呈するように幾何学模様の発光パターンを表示している。
なめらかな薔薇色の頬が、かっと熱く上気していた。
「父と母が亡くなったのは、ハジメがここに来るより前のことでしょう! この人がやって来たのは、四年前のことなのですよ」
「はい、おひいさま。先代が始めた解析作業が完了したのが、今から四年前のことでした。わたくしめは用意されていた遺言に従い、ハジメ様をこの屋敷へお連れしたのです」
ムキになったようなヤシェロの物言いは、あの日、情交のあとに見せた怯えるような態度の裏返しだろう。
星々を滅ぼす戦船、凄惨な絶滅戦争の記録。そんなものに恋人が関わっているべきではない、という祈るような感情の発露だ。頭の芯まで冷え切っているハジメは、自分の冷静さを不思議に思った。どこか腑に落ちるものを感じているのかもしれない。
疑おうと思えば、いくらでも疑うことが出来た。けれど、今の彼にそれをする気はなかった。話の腰を折ることになるし、一度、エルギダの説明を通しで聞いてから考えるべきだと判断。
「旦那様たちは、かの銀河文明崩壊前の歴史的遺物の研究をしておいででした。この船──〈天啓号〉のメインフレームも銀河文明全盛期の産物です。システムの普及のための研究だと伺っています」
「教えてくれてありがとうございます。それで、〈十字架〉っていうのは?」
「一般的な知識は、〈図書館〉から引き出せば済む話ですが」
そうではないお話のことでしたら、とエルギダが小首を傾げる。すまし顔に浮かぶのは、限りなく嗜虐的な色を乗せた笑み。
つまりそういう演出意図でエルギダの電脳が出力した動作。余計に嫌な予感しかしない。
「では本日の予定は変更です──外出にお付き合いいただければ、検討の余地が生まれるかもしれません」
「……ん?」
脈絡がない会話の流れに、毒気を抜かれる。
ああ、俺は遊ばれてるのか──そう悟ると同時に、話術でこの女に敵うのは無理だな、と思った。
「エルギダ」
据わった目つきになったヤシェロが立ち上がり、つかつかと使用人へ歩み寄る。
しばらく視線を交わしていた主従二人の間で、どんな会話──角を介した通信──がなされていたのか、ハジメは知らない。というか知りたくない。
結論から言えば、三人で出かけることになった。行き先は一般居住ブロック、この屋敷とは別の階層に存在するコロニーだった。
◆
抜けるような青空だった。
少なくとも肉眼で見る分には、本物の空──テラフォーミングされた惑星大気を見上げるのと変わらないだろう。ハジメはこの船の内部以外の居住空間を知らないが、現存する宇宙艦艇で、この移民船〈天啓号〉を上回る設備の船はないというし、きっと本物の空もこういうものなのだろう。
少なくとも記録を元に再現された
たとえこの空が、はるか上層の天井に投影されたホログラムで、日差しが人工太陽に由来していても構わない。少年は本気でそう思っていたし、本物の空をありがたがる自然崇拝者になる気はなかった。
全長三〇〇〇キロメートルの超大型移民船である〈天啓号〉には、無数の居住ブロックが存在する。居住ブロックと言っても、単なる一G空間──地球型肉体人にとっての最低限の生存環境──ではない。長辺一〇〇キロメートル、短辺二〇キロメートルのコロニー船が、そっくりそのまま居住ブロックとして〈天啓号〉に内蔵されているのだ。
人工重力の発生器はもちろん、食糧生産や生態系の循環など、一つの居住ブロック単体で必要物資がまかなえるようデザインされている、らしい。超長距離植民のため建造された〈天啓号〉は、本来、大規模船団の母艦として機能するよう作られている。旧銀河文明時代の技術の粋を集めたプラント設備にかかれば、宇宙船を生産・修理する程度はお手の物だ。
ハジメとヤシェロが再稼働させた〈図書館〉のデータと合わせれば、旧文明時代のあらゆるテクノロジーを復活させることもできるだろう。彼の知る知識は、大概、エルギダに家庭教師よろしく教えられた知識が元だった。この四年間、箱入りに近い境遇だったハジメにとって、実感のある話ではなかったが。
こうして体感してみると、とんでもない船だなと思う。
「ハジメ、行きますよ」
物珍しげに周囲を見回す少年へ、先導するヤシェロが声をかけた。今日のハジメの服装は、エルギダの見立てであった。初めてならこんなものでしょう、と渡された異類は、たぶん外行きのそれだ。
たとえば若い男女が一緒に遊び歩くとき着るような。
そういうことなんだろう、たぶん。
──いわゆる逢い引き、デートか。
順番が逆だよな、と思いつつ、照れくさいのも事実だった。
如何にも若者らしい恰好、というのがぴんと来ないのは、あの屋敷で過ごしてきたことの弊害だった。三〇日に一度ほど訪れる来客を除けば、少年が見聞きしてきた事物は、エルギダの教育と〈図書館〉に限られていた。
エルギダの提案に乗る形で、ヤシェロはハジメを街へ連れ出した。おっかなびっくり、お互いの距離をじりじりと詰めていたころとは大違いだ。彼女にも心境の変化があったのだろう、と思う。
その契機が肉体関係を持ったことなのか、ハジメの身体の秘密を知ったことなのかはわからない。いずれにせよ、淡い恋心を抱いた友人以上恋人未満でいられたころとは状況が変わった。
閑話休題。
つまりヤシェロは可愛いのだ。
いつもは透き通るような美貌に目を奪われていたが、今日の少女はひと味違った。
マニッシュな印象を与える服装だった。如何にも彼女らしい半袖の白シャツに、太ももをすっぽりと覆う厚手のショートパンツ。腰のベルトから伸びたズボン吊り(サスペンダー)が、どこか活動的な少年のような印象を与える服装だ。しかしそれがかえって、ヤシェロ自身の曲線を帯びた体つき──女性的な造形美を強調している。
あえてシャツの丈は短めのものを選んでいるのだろう。ちらりと覗くお腹の腹筋と、へその穴にどきどきした。
「その、見過ぎです……もう少し、人目を
いつの間にか、ヤシェロがこちらを振り向いていた。足を止め、困ったように眉根を寄せる少女。その横顔に惚れ込むなと言われても、無理な話である。
「ごめん、綺麗だったから」
「もう」
途端に頬が緩むあたり、ヤシェロはわかりやすい娘であった。
そもそも、お互いに裸になって愛し合っている仲だというのに、被服面積の大小で動揺するのもおかしな話だ。しかしそういうちぐはぐさが、ヤシェロとハジメの現状でもあった。
それに状況が違う。今までふたりの過ごしてきた屋敷のある居住区はほぼ無人だったし、機密区画である〈図書館〉の内部も然り。
ここ第八管区は、人口一〇〇万人を誇る都市エリアだった。普段、三人が生活する第一管区より表層、船体外殻に近い位置にある居住ブロックである。
この船本来の人口キャパシティを考えれば、一〇〇万人でも少なすぎるぐらいであった。事実、この第八管区はそれ単体で資源循環が成立しているため、他の居住ブロックへ移り住むものもほとんどいないらしい。この移民船自体、かれこれ一〇〇〇年ほど外部と接触していないから、住人のほとんどが人工環境の中で生まれ、死んでいったことになる。一番近場の居住ブロックでさえ没交流的なのだから、ハジメが外界を知らなかったのも無理からぬことと言えよう。
「それにしても、すごいね」
直通トラムから出てすぐ──つまり駅前の街並みだけで圧倒されるものがあった。歩道を行き交う人の群れ、大勢の人を乗せて運行されるトラム、色とりどりの店舗。二〇世紀風の都市建築という様式は守られているが、その環境を維持するため自動ロボットの類が平然と稼働しているのが新鮮だった。
目を丸くしているハジメがおかしかったのか、ヤシェロが微笑んだ。ぴんと人差し指を立て、切れ長の目を細めている。
「この船のメインシステムは、オーナーであるわたしの一族が管理しています。ですが、居住ブロック内はれっきとした自治区で、ここ第八管区は議会制民主主義を採用しているのです。ここにあるのは、生きた社会そのものです」
「流石に物知りだなァ」
感心して頷くと、少女は自慢げに胸を張った。こういうところは相変わらずのようで、教えたがりなのだ。ヤシェロの山羊角──エメラルドグリーンの突起が淡く光り、ハジメの端末へデータを転送。第八管区に関する概要が記された、社会の教科書だった。おそらく実際に、ここの教育機関で使われているテキストなのだろう。
それによれば。
ここでは、仮想通貨を使った経済システムさえ機能しているらしい。ハジメとヤシェロとエルギダの三人しかいない生活では、到底、必要にさえならない巨大な社会機構の息吹があった。デートと言うより社会科見学の様相を呈する二人を止めたのは、冷やかす第三者の存在。
「お二人とも大変、仲がよろしいですね。仲睦まじい恋人とはかくあるべきなのでしょう」
二人の後ろを歩く長身の美女──エルギダが、微笑ましそうに口を開いた。周囲の通行人から見れば年若いカップルのやりとりなのだ、と自覚させる一言。ここが往来であることを思い出し、ヤシェロの白磁のような頬に赤みが差した。その様子を見て、可愛いなと思う程度にハジメは余裕があった。
「うん、ヤシェロは可愛い」
「い、いま、言わないでください……照れます」
もじもじとうつむくヤシェロの姿は、年相応の少女の可愛げに満ちていた。控えめに言ってすごく可愛い。限りなく贔屓に満ちたハジメの主観は、いい感じに酔っぱらっていた。
さて、当然のことながらエルギダの恰好も、いつものメイド服ではない。ヤシェロはこの船の運営においてかなりの責任者だが、その顔は一般船員に知られてはいない。あくまで私人としての道行きとなれば、従者も私服に着替えるのが道理である。
エルギダにあるのは、ヤシェロの少女の柔らかさとは正反対の、成熟した大人の美貌。目鼻立ちのくっきりした顔、少し太めの眉。長い手足にくびれた腰、釣り鐘型の大きな乳房──服の上からでもわかる、抜群のプロポーションの持ち主である。それでいて、赤みのかかった褐色の肌は、しっとりと濡れたチョコムースのようになめらか。切りそろえられたボブカットの金髪まで含めて、設計された人体美の極致と言えよう。
そんな抜群の美女が着こなすのは、革のジャケットにデニム生地のジーンズ、という無造作なもの。間違っても使用人には見えないが、長い手足によく映える衣装であった。
──それにしても。
決して薄手ではないジャケットを内側から盛り上げる、
すごいな、と超人的動体視力を駆使してガン見した。時間にして〇・二秒にも満たない早業である。ここにいるのが、改造人種ではない普通の肉体人ならまず露見しなかっただろう。
しかし残念ながら、角人は高度な肉体改造を施された存在である。
「ハジメ、はしたないです」
瞬間、刺すような冷たい声音。じっとり半眼に据わったヤシェロの眼差しが、少年へ注がれていた。
「あなたがどれだけ動体視力を駆使しようと、わたしにはわかります。──胸を見ましたね?」
「申し訳ありません、おひいさま。これもわたくしめの教育の不備でしょう……ですが、年頃の男性はそういう生き物なのです。哀れなことに」
したり顔で追い打ちをかけるエルギダ──本当にこの人、いい性格してるよなと実感する。そもそも、なんでまた自分の過去についての詰問からデートもどき(保護者同伴)になったのだろう。ハジメが言い訳なり釈明なりを始めるより早く、潔癖な少女は不機嫌そうに顔を背けた。視線の先にあるのは、行列が出来ている氷菓子の店。
「アイスクリームが食べたくなりました。買ってきます」
ハジメの返事も待たず、ずかずかと歩き始めるヤシェロ──不機嫌そうな表情に気圧されてか、その進路上から通行人が消えていくのが遠目にもわかった。
あからさまな怒りの表現である。顔が見えなくても、鉱物状の角へ浮かぶ幾何学模様で『怒りの感情』が読み取れてしまう。
「……やっちまった」
「以前も忠告致しましたが。ハジメ様は豊満な胸部が好きなのか、特定の女の子が好きなのか、区別してもよい年頃ではないでしょうか」
「返す言葉もないですね……ヤシェロ、一人で大丈夫かな」
世の中には、街行く女の子に声をかけて交尾に持ち込もうという輩がいると聞くが。しかしエルギダは、妙に醒めた物言いで彼の懸念を一蹴する。
「ハジメ様から見れば、おひいさまは危なっかしくお見えになるのでしょう。ですが、この船の中でおひいさまは無敵の存在です。わたくしたちがその身を案じたところで、結果は何も変わりません」
ハジメにしてみれば、納得がいかない台詞だった。彼から見たヤシェロは、生真面目で意地っ張りな少女であり、淫らに作り替えられていく心身に戸惑う人間だ。
ましてや改変体による発作がある以上、彼女に紐付けられたシステムの性質など、役に立つものだろうか。そんな疑問さえ見透かすように、エルギダが笑う。人工太陽の日差しが差し込む、偽りの青空の下──どこか悪魔的な冷笑をにじませて。
「ハジメ様は、わたくしたち角人をどう捉えていらっしゃいますか? 性行為のために最適化された肉体を持つ淫らな種族、あるいは電子戦に長けた改造人種でしょうか。すべて真実ですが、それはわたくしたちの性質の、ほんの一部に過ぎません」
初夏を思わせる気候の中、汗一つ掻かずに向かい合う男女。ハジメとエルギダの間にあるのは、静かな緊張感だけだった。
「──銀河文明時代、この宇宙を支配した帝国がありました。超空間ネットワークと空間跳躍技術に支えられた繁栄の時代、おそらく人類という種の最盛期です。その偉大なる帝国を統べた種族こそ〈航海者〉。わたくしたち角人の始祖であり、あらゆる物理媒体に束縛されず、超空間ネットワーク上の意識体として君臨した存在です」
改造人種の証、黄金の瞳。
その深奥に宿るのは、青く燃える記憶の残滓だ。
「残る質問にお答えしましょう、ハジメ様。〈