スレンダー角っ娘はデカ尻ドスケベ雌山羊~クーデレ敬語ヒロインとイチャイチャする~ 作:灰鉄蝸@機甲猟兵エルフリーデ発売中
「ん……」
ぺろり、と赤い舌がアイスクリームを舐め取った。
蕩けるような氷菓の舌触りに、ヤシェロは眼を細める。乳脂肪と甘味料の織りなす甘露──脂肪と糖分をよろこぶ脳の働きは、電脳化された改造人種には備わっていないが、彼女にプリセットされた感覚基準はホモ・サピエンスのそれに近い。
要するに、古代地球の料理を食べて美味しいと思える味覚に調整されているのだ。
ハジメに怒って飛び出した手前、戻って食べるというのも気まずかった。食べながら歩くのは品のない行いだが、生憎、このアイスクリーム店の座席は人で埋まっていた。
艦内ネットの書き込みを見る限り、人気店らしいので当然と言えば当然か。
しかしこの程度の事態は予測済みである。歩くこと一〇〇メートルあまり、お目当ての公園のベンチはちょうど空いていた。
満足感と共にアイスへ舌を伸ばす──やや汁っぽい。歩いている間に、若干、溶け始めていた。
──失敗しましたね。
こんなことなら、ハジメたちの方へ戻っているべきだったか、と思う。しかしそれは、アイスクリーム一つで機嫌が直ったようで子供っぽいではないか。
少女にも見栄というものがある。実際問題、すでに怒っていないとしても、多少の時間を経なければ面子が立たない。
我ながら面倒な振る舞いをしている、という自覚はあった。
ヤシェロは未熟な角人だ。角に走る光学信号パターンを欺瞞できないし、電脳化されているにも関わらず言動の矯正が出来ていない。
尤もエルギダに言わせれば「肉体人らしい振る舞いを、内面にまで再現している」のは素晴らしいことなのだが。
物思いに耽りながらアイスをほおばる──気付くとコーンの部分まで食べ終わっていた。
「……戻りましょう」
わびしい気持ちになったのも無理からぬことだった。
ベンチから立ち上がり、艦内ネットへアクセス──父母から受け継いだ管理者権限により、エルギダとハジメの現在地を確認。どうやら会話の最中らしい。
街頭の監視カメラの映像には、険しい表情の少年が映っている。
大方、朝の話題の続きだろう。
──わたしが居合わせていいものでしょうか。
彼にはもっと、楽しい表情をしていて欲しかった。ヤシェロが愛する少年には、きっと、そういう表情の方がよく似合う。
それにしても──着慣れない服装はよくありませんね、と思う。ショートパンツ以外、少女の脚線美を隠すものは何もない。こうも肌を露出する恰好は、恥ずかしい。ボーイッシュな装いではあるのだが、いかんせん、着慣れないせいもあってか露出が気になってしまう。
定着した改変体の影響で、
当然、恥ずかしさを好むわけではない。少なくとも今はそうだ、と自分に言い聞かせる。
そもそも羞恥心は、完全な文化的規範の産物だ。
身繕いを他人に任せる、高貴な身分の人間は使用人に裸体を見られても羞恥を感じはすまい。あるいは、短いスカートを穿いて乗り物に乗り、下着を人に見られたとしても、それが当たり前ならば誰も羞恥心を感じたりはしない。
宇宙移民以前の古代に限って言えば、隠すことさえしなかった時代の方がはるかに長い。
極めて作為的で社会的な価値観の産物が、人の情欲の基準さえ決めてしまう。ヤシェロがおのれの肉体へ抱く嫌悪も、淫らであることを恥じる価値観の産物なのだ。
けれど。
ハジメのことを想うと胸の中に広がる熱は、少女にとって何よりも大切なものだった。
◆
「──さて、もったいぶった喋りはこのぐらいにしておきましょう。ざっと要約致しますが」
投影された青空の下、人工太陽の輝きが眩しい今日この頃。エルギダはいい笑顔で自分の口上を台無しにした。
思わず素っ頓狂な声がもれる。
「はっ?」
「もしや、ハジメ様は無意味に長ったらしく過剰に、秘密めかした話し方がお好きなのですか? そう、口を開けば関係ない話題をへ脱線するご老体のように。おひいさまとハジメ様は改造人種ですが、時間は有限なのですからできる限り手短に済ませるべきかと」
「無闇矢鱈と喧嘩売られてるのはわかった……」
肩を落として降参だ、とジェスチャーで示すと、エルギダはすまし顔のまま頷いて見せた。慇懃無礼とはきっと、この女人のような存在へ向けるべき言葉なのだろう。
チョコレートのように艶のある褐色肌は、汗一つ浮かんでいない。
「先ほど申し上げたとおり、〈航海者〉は超空間ネットワーク上の情報知性体です。原理的な説明は省きますが、物理的なハード以外に保存されたAIのようなものだとお考えください。超光速の波動としてこの宇宙のどこにでも遍在し、適切な肉体──宇宙船の高速演算処理装置などを介してこの宇宙へ干渉する存在。彼らは地球人類が自らに施してきた品種改良──進化の到達点であり、銀河と銀河の間にまたがる超高度文明を築き上げました」
かつて繁栄を極めた銀河文明の起こり。人類発祥の星・地球を含む天の川銀河全域に、人類を起源とする情報知性体・機械構造体・有機生命体が播種された。それらは到底、生命活動に適さない数多の星々を改造し、時に星系ごと作り替えながら拡散していった。
高度な科学技術によって改造された肉体人は、宇宙放射線をものともせず、無重力下での繁殖活動を可能としていたのだ。地球人類を起源とする様々な人類の分岐種は、ありとあらゆる形態で宇宙を征服していった。
そうして生命が満ちるにつれて、人類の亜種同士の小競り合いが起こり始めた。
宇宙文明同士の戦争は、破滅的な様相を呈しやすい。天体が消し飛ぶような兵器が簡単に運用されるからだ。
それらの問題に介入し始めたのが、最も高度な科学文明へ到達していた電脳人──後の〈航海者〉だった。超光速波そのものに人格・記憶・演算領域を刻みつけ、超空間ネットワーク上の情報生命体へ至った彼らは、あらゆる物質文明を掌握しうる存在だった。
何者も抗えない究極の電子戦ユニット。あらゆる文明機械を乗っ取り、戦争から経済活動までを支配する怪物たち。彼らの介入行為が、一つの帝国を形成するのに時間はかからなかった。
ましてや、物質宇宙に住まう人類は、サーバーなしに存在できない電脳人を含めて、〈航海者〉の本体を攻撃する手段を持たないのだ。一方的支配、一方的審判──神と虫けらほどにも隔絶した関係だった。
「聞いた限り、ろくなもんじゃないですね、〈航海者〉って」
「ハジメ様、銀河の戦国時代に秩序と平和をもたらしたのは事実です。一万年以上の安定期があってこそ、銀河文明は成り立ったのです」
すかさず入るフォローを見るに、エルギダは〈航海者〉に強い思い入れがあるらしい。
彼女たち角人の始祖だというから、それも当然か。
「しかし〈航海者〉はおごり高ぶり、帝国の体制は腐敗しました。秩序の旨みよりも弾圧の痛みの方が強くなり、反体制勢力も日に日に大きくなっていきました。反発が強まるほど見せしめは激しくなり、数多の星々が滅ぼされ──銀河文明の隆盛によって発展した科学技術は、ついに〈航海者〉の本体、超空間ネットワーク上の意識体を破壊可能な兵器を生み出しました。事実上の内戦が、〈航海者〉を滅ぼす引き金になったのです」
「──それが報復兵器〈クルクス〉?」
「そういうことになります」
あとは推して知るべし、だ。神のような支配種族を滅ぼせる兵器は濫用され、銀河中のインフラを破壊し尽くした。生き残った〈航海者〉たちも表舞台から去り、支配のタガが緩むと、人類は小競り合いを再開し、さらに救いようのない破滅を振りまき始めた。数千年間の混乱期の間に多くの文明が滅び、この移民船天啓号のような銀河文明時代の科学技術の産物は珍しいものになってしまった──というのが、エルギダの語ったあらましである。
「今の話からすると──あえて物理的な肉体に逃げ込んだ〈航海者〉と、その肉体の末裔が角人ってことか」
独り言のような呟きに、眼を細めてこちらを見守るエルギダ。紅玉色の角の発光パターンは、ハジメを褒め称えるような『賛同』『賞賛』の意。これはこれでバカにされているようで落ち着かない。表情よりも雄弁なヤシェロはだいぶ可愛いのだなと再発見してしまうぐらいに。
「納得できないことが一つ。なんだって〈航海者〉は、自分の入れ物に身体改変構造体なんて危ない施術をしたんです?」
エルギダは冗談めかしていたが、理性も知性も蒸発させる改変体はおぞましい。このまま改変体の汚染、無分別な身体改造が続けば、どうなることか。
数日で少女の秘めた思いを性欲と直結させたのである。ヤシェロの人格をねじ曲げ、相手が誰でも構わない色情狂にすることなど造作もあるまい。
そう思考する少年に対し、褐色の角人はどこまでも冷静であった。
「ハジメ様、改変体は祝福なのです──我々の肉体に施された封印のアンロックと言ってもいいでしょう。ほとんどの角人は、改造人種の域を出ないよう機能制限をかけられています。不老にせよ電脳にせよ、かつての〈航海者〉には及ぶべくもない水準。しかし、おひいさまの改変体──レベル7ともなれば、本人の望むままに、肉体機能は無限に拡張されうる。短期間で肉体がこれほどの変容を遂げたのは、おひいさまのご意志なのです」
「順番があべこべだ。ヤシェロはそういう風になりたくなかったはずだろう。それをねじ曲げたのが」
「ハジメ様、我々にとって人格などいくらでも張り替えのできるテクスチャなのです──あなたは、おひいさまの肉体を駆動させる人格よりも上位の、おひいさまの本体から愛されている」
エルギダの双眸は、どこまでも真っ直ぐに少年を見据えていた。黄金色の瞳は、確かな知性と確信を持って、戸惑うハジメの目を覗き込んでいる。革のジャケットから突き出た、筋肉質な腕が、豊満な乳房を押し上げるように組まれた。内面の読めない従者は、主人の愛を信じろと告げていた。心配せずとも、改変体の肉体改造・思考誘導の対象はお前一人なのだと。
その責任から逃げるな、と言わんばかりに。
「それは、あの御方の魂がハジメ様を愛しているということなのではありませんか?」
ハジメは何も答えられなかった。
考えてもいない可能性だった。よもや自分自身の存在が、ヤシェロをああも淫らに作り替えた元凶であるなどと。いや、と思い直す。彼女との情交の中で、少女がおのれへ向ける強い情念には気付いていたのだ。ハジメの家畜にならなってもいい、などと口走るほどに、ヤシェロは彼に溺れている。それが、改変によって歪ませられた思考だと思ったから、ハジメは恐れを感じていた。
その根底が覆ったことで、エルギダの眼差しに答えられるだけの余裕を失っていた。
同時に、腑に落ちるものもあった。
「少し、安心しましたよ」
この女人にとっては、ヤシェロの今の状態もまた、肯定すべきものなのだろう。ならば不審に思えた振る舞い──改変体によるヤシェロの異変──を、ああなるまでハジメに隠匿していた理由にも察しが付いた。エルギダにとっては、二人が一線を越えて肉欲に溺れることも、尊重すべき主人の意向なのだろう。
「エルギダさんが、ヤシェロの様子に焦っていない理由がようやくわかった。たぶん、あなたはあの子の味方だ」
「わたくしめが、おひいさまの敵になることなど一度もありません。これまでも、そしてこれからも」
あなたはどうなのですか、と目で問われた。ハジメは自分の出自に関わる多くを知った──彼は角人の始祖と敵対していた勢力の生き残りであり、その肉体に電子戦ユニットを埋め込まれた改造人種だ。普通なら多少なりとも人生観が変わって然るべき経歴だろう。しかし、今さらこの程度の事実でブレるほど自分の感情は安くない。
口に出すのも照れくさい、答えのわかりきった問いかけだ。
ハジメは、ヤシェロが好きだった。どこか独占欲のような執着を持つ程度に、ヤシェロという人格と身体の結合体を愛していた。だが、それはハジメの中で完結する意味と価値であり、直接、ヤシェロにぶつけるには醜悪すぎた。
醜い剥き身の欲望が露呈するのを恐れているから、激しく情交してなお少年は距離感が掴めない。
要するに、自分は未熟なのだ。
「俺はいつだってあの子の味方ですよ。今さら嫌ったり憎んだりできるほど器用じゃない」
◆
ヤシェロはその一言を聞いていた。
そもそも会話自体を、途中からエルギダ経由で音声・視覚の両方で共有していたのである。我が従者ながら、エルギダの誘導尋問の悪辣さはどうにかならないものだろうか。
ヤシェロ自身は尋ねたくても尋ねられない部分に、易々と踏み込んでみせた。
それはたぶん、ヤシェロが何よりも聞きたかった言葉だ。ハジメから見て死角になる位置、彼の背後からこっそりと近づいてみる。今さら自分から声をかけるのは、なんだか気恥ずかしい。
しかしハジメの耳は、少女が思っているよりずっとよかった。
「ヤシェロ?」
振り向きざま、二人の視線が交差する。彼の眼差しに晒されるだけで胸が熱くなった。自分はどうしようもなく、彼に夢中なのだと実感する。それを満足げに見守るエルギダの笑みがしゃくに障るが、昔から、彼女はそういう人物だった。何もかも見透かしているような口ぶりで、少女を試し、導いて、自分自身の望みは何も語らない。ヤシェロはそれが、主人として未熟なおのれのせいだと悟っていた。
彼女が一人前になるまで、決して踏み越えない一線を設けているのが彼女だった。
いつか、エルギダ自身の感情を知りたいとヤシェロは思う。
──綺麗な気持ちは五分も保たなかった。
「……」
五分後、ヤシェロは氷のような眼差しで少年をねめつけていた。
事の起こりは実に単純であった。今朝方の会話──ハジメの身体に埋め込まれた超光速マンマシンインターフェースの件が原因である。一度、情交の際に接触して感覚の共有まで行っているのだから、二人の間にはデータリンクの架け橋が出来ている。
ヤシェロとしては、ただ、普通の恋人らしい遊びがしてみたかっただけなのだ。父母がよくしていた契り──恋人同士の思考ログの交換を、提案したのがいけなかった。
戯れに、「今、ハジメがわたしに対して思っていることを送ってみてください」などと言ったばかりに、最低の空気になっている。
結論から言えば、思春期の男の子の思考ログなどろくなものではない。
「──お、おちん……アレを、わたしの口に含んで欲しいと?」
思わず喉から発せられたのは、冷ややかな声。改めて自分の耳で聞くと、顔から火が出るような言葉だった。切れ長の眼を細め、じっとりと半眼でハジメを睨み付ける。
一方、少年は少年で泡を食った様子であった。
「それ、今送った俺の思考ログの中でも優先度低い奴だろ! なんでよりによってそこ拾うんだ!」
「ありのままの姿とは言いましたが、普通はこういうの隠すものでしょう!」
理不尽だ、とはわかっている。
しかし、直球でいやらしい要望を送られてにこにこしていられるほど、ヤシェロは人間が出来ていなかった。
「おひいさま、痴話喧嘩を公共の場でするのは如何なものかと」
にこやかに釘を刺すエルギダは、我関せずの姿勢を崩さない。彼女の忠告も尤もな話で、往来で睨み合う──というより困り果てているハジメと顔が真っ赤なヤシェロがいるだけだ──二人は目立っていた。通行人から何事かと目を向けられているのは気のせいではなかった。
第三者の目を気にすると、急に羞恥心がわき上がってくる。そして、それが引き金になって、お腹の奥が熱く疼いた。
──駄目なのに。
角人の少女の肉体は、今この瞬間も作り替えられている。
たとえばヤシェロの柔らかな膣穴は今、異物によって埋まっている。子宮口から陰唇までを塞ぐゼリー状の固形物は、ヤシェロの分泌した粘液の成れの果てだった。膣道を塞ぐように固まったそれは、無数の微小機械を含んだ特殊な分泌液だった。
今、ヤシェロの肉体は改変体の影響下にあり、陰唇も膣穴も、より敏感に、より傷つきにくい奉仕器官へと作り替えられている最中。当然、活発になる新陳代謝によって老廃物が生じる。
そこで浄化機能を持った微小機械が、不要になった生体組織──性玩具として変貌する生殖器──の老廃物を処理し、秘所を清潔に保っているのだ。いわゆる「月のもの」と違うのは、その変容がヤシェロにとって苦ではないことだった。
じわじわと下腹部には微熱が灯り、それによる酩酊感のような熱っぽさは身体に居座っている。
皮膚の下で、淫らな蛇が這い回っている。視覚が、聴覚が、嗅覚が、触覚が、味覚が、セックスのための感覚器へと切り替わっていく。何度味わっても慣れることのない、ぞっとするような恐怖感──それを塗りつぶす恍惚。人格が、外界を認識し色づけるテクスチャが塗り変わる。
隣にいる少年の声が駄目だった。においが淫らだった。体温がたまらなく愛おしかった。こうなってしまうと止まれない、とわかっていた。
「……セックス、したいのですか」
消え入りそうな声でそう告げると、ハジメが顔を赤くした。あー、とか、うーとかよくわからない声を上げて、視線を右往左往させた後、エルギダのにこやかな顔をみて溜息。生暖かい視線とは、こうやるのだという見本のようなポーカーフェイスだ。
彼の体温が上がっている。とくんとくんと脈打つ心臓の熱がいやらしい。意を決して口を開くハジメ──その唇に舌を這わせたくてたまらない。
「……正直言うと、したい」
「少しだけで、満足できますか」
ほう、と熱い吐息。濡れた黄金色の瞳を、熱っぽく注いだ。彼の目に、鼻に、口に、喉に、胸板に、腹に──血流の集まり始めている股間に。
ごくり、と息を呑んだ少年の手を引いて歩き出す。汗ばんだ掌。相思相愛の相手からの誘いにさえ、緊張してしまうような可愛い人。
──わたしは何を恐れていたのでしょう。
たとえ彼が、絶滅戦争の当事者だろうと構わない。こんなにも愛おしいものを、今さら恐怖や不信程度の感情に明け渡してやるものか。
それからのことは万事、ヤシェロの意図したとおりに進んだ。無人走行中の自動車を正規手続きでレンタル、半ば強引に三人で乗り込む──コロニー船内部の歓楽街から目的地を指定。降車後、エルギダに雑事を任せ、その建物へ足を踏み入れた。要するに、恋人たちが愛し合うための宿泊施設に。
「ヤシェロ、その、これは、うん、そういう──」
すっかり雰囲気に飲まれて目を泳がせるハジメの手の甲を、人差し指で撫で上げた。
びくん、と震える手へ指を絡めて。湿った唇を、少年の耳元へ寄せて──甘いささやきを流し込む。
「ここでなら、してあげられますね……♥」
ぎゅう、と強く握り返してくる彼の指。筋張ってごつごつした男の子の指が好きだった。ヤシェロの白魚のような指を離すまいと、力を込められた手先。その体温の高さに興奮した。その動作だけで彼の昂ぶりを感じてしまえた。それからどうやって部屋に辿り着いたのかは、よく覚えていない。移動中に手続きは済ませていたし、頭の中を占めているのは、言葉にしたくもないような情事のことだけ。
個室のドアが閉まった。廊下のそれよりずっと明るい照明、大きなベッド、シャワールーム──後ろでハジメが動いた。
振り返ると同時に、ぐいっと抱き寄せられる。
白シャツに包まれた細腰に、少年の右腕が回された。細められた彼の両目──獣欲の宿った眼差しの先には、雄に媚びる雌の面差し。はしたない表情をしている自分が、彼の瞳に映っている。
とろんと泳ぐ視線、高揚して色づく白い頬、無意識にうごめき、艶やかな唇を湿らせる舌。
その先端へ、ハジメの舌が突き出された。
──美味しそう♥
三日月型の山羊角に、『許諾』の意の発光パターンが灯った。エメラルドグリーンの突起物は、ヤシェロの電脳と直結された通信デバイスであり、外界を知覚する多機能センサでもあるが、情交の際には口よりも雄弁に意思表示してしまう恥部だ。
唾液に塗れた舌を伸ばし、恋人の舌へ触れる。表面を舐めてあげると、舌の裏側をお返しに舐められる。ぴちゃぴちゃと唾液と空気が混ざる水音。
熱く、ぬめるようにうごめく舌と舌の交わり──ハジメの左手がヤシェロの顎を持ち上げ、舌を絡ませながら顔の距離を縮めていく。
互いの唇が触れあう。瞬間、得も言われぬ感覚が、ヤシェロの尾てい骨に生まれた。何度繰り返しても慣れることのない快楽のしるし、背筋を遡る電流の予兆。
ヤシェロの身体から力が抜けると、腰に回されていた少年の右手が、尻へと下がっていった。
「んっ♥ ふぅぅ♥♥」
甘ったるい呼吸音。
一度、指で押し込めば、押し返してくるような弾力ある尻肉。丸く盛り上がった肉まんじゅうに、ハジメの五指が食い込む。ショートパンツ越しということもあってか、揉むと言うよりもつかみかかるような所作。少し痛いぐらいの荒々しさに、ヤシェロは興奮してしまう。被虐性癖という倒錯を保つ少女にとって、痛みは快楽と同義だった。
「ふちゅっ♥ んっ、ちゅぴっ、んちゅ♥」
ハジメの深いキスは、信じられないぐらい上達していた。今まで痴態を晒してきたヤシェロ自身が教材となって、彼の性技を磨き上げてしまったのだろう。
上あごを、頬の内側を、舌の裏を、縦横無尽に撫で上げられる。むずかゆいような感覚と共に、何も考えられなくなってしまう。歯肉の裏側を、ごしごしと磨き上げるような動きがあったかと思えば、舌の裏側を優しく愛撫していく彼の舌。ハジメのそれと舌が触れあう度、味覚にとてつもない美味が舞い込んだと錯覚する。
ぞろり、と上あごを撫で上げられた瞬間、少女の腰から力が抜けた。絶頂の証──下着を濡らす体液は、潮吹きによるもの。
ぐったりと力の抜けたヤシェロの口腔から、舌が引き抜かれる──愛撫をせがむようにちろりと覗く赤い舌。唾液の橋がぷつりと途切れるまで、二人は潤んだ瞳で見つめ合っていた。
しばらく、ぼーっと恋人の顔を眺めていると、違和感。
密着している自分の下腹部に、硬いものが押しつけられている。
「……それで」
ヤシェロの視線に気付き、ハジメは意地悪な笑みを浮かべた。
「してくれるん、だっけ?」
ぞくり、と。
先ほどまで自分が口にしていた言葉と彼の要望を思い出し、頬が熱くなる。男性器を口に含む、口淫の約束。あまりにも下品で、下劣で、それこそ娼婦のような振る舞い。
──最低です♥
それでも、
そう、仕方がないことなのだ。
──恥ずかしいのも、悔しいのも、痛いのも気持ちいいんですから♥
これから自分の口は、膣穴に代わって男根に奉仕する──そう自覚した途端、ぞくぞくと背筋が震えた。子宮と膣穴に根付いた改変体の根が、脊柱を駆け上がってくるような感覚。
角人のさが、セックスのための肉体に、また変わってしまう。屈辱だった。だから、目の前が真っ暗になるぐらい気持ちいい。
汗ばんだ白い肌から、ぷん、と雌の香りが立ち上った。ヤシェロの汗腺から、性フェロモンが分泌されていた。
ハジメのズボンのベルトを外し、股間の高さに顔が来るよううずくまる。下着を内側から盛り上げる、勃起した男性器の存在感。汗ばんだ下着のにおいを嗅ぐと、それだけで幸せになってしまう。
上目遣いで、とても恥ずかしいことを口にする。顔から火が出そうなのに、はしたない言葉に興奮してしまう。
「ハジメのために、こんなにいやらしくなったんですからね……?」
少年の下着を降ろす。
ぶるん、と飛び出した陰茎は硬く屹立していた──肉厚に隆起した竿は長く、とてもヤシェロの口に収まりそうにない迫力。その先端、膨らんだ亀頭はつるつるとしていて、どこか可愛らしいが、カリ太で大きく反りが入っている。
つん、と鼻を突く先走りと、内にこもっていた汗のにおいが鼻孔を満たした。膨らんだ亀頭の先で、ふるふると滴り落ちそうになっている先走り汁の雫。
それを認めた瞬間、ヤシェロの中で何かが変質した。
赤い蛇のタトゥーが、舌の上を、口腔全体を這い回る。自然と唾液が染み出していくのがわかった。歯肉、歯列の隙間、あらゆる部位の汚れ──先ほどまで食べていたアイスクリームの痕跡を、唾液に含まれた微小機械が綺麗にこそぎ落としていく。
ヤシェロの身体に巣くう身体改変構造体の作用、性交のための肉体改造の成果。
元々、敏感な口腔の粘膜が性感帯へと変貌していく。目の前の男性器に奉仕するためだけに、体中でスイッチが入っていくような錯覚を覚えた。
──わたしの初めて、捧げたおちんちんですから♥♥♥
処女膜を突き破り、膣穴を押し広げた男根。子宮まで搾精臓器に変えてしまうほど、ヤシェロを取り返しが付かない淫乱に変えた生殖器。
こんな風になりたくないと思っていたはずなのに。羞恥も、屈辱も、苦痛も、嫌悪も、絶望すらも──ただただ気持ちいい。
熱に浮かされたような呟きが、唇から漏れ出る。
「ハジメのおちんちん、可愛い……♥」
くらっと視界が歪んだ。その一瞬、たしかにヤシェロには、男性器がハジメの唇と同じぐらい愛おしいものに思えた。
熱も、においも、彼の唇とは全然違うのに。
思わず、唇を尖らせてキスをしてしまう。
ちゅっ、と唇と鈴口の粘膜が触れあう──ヤシェロの唾液と先走り汁が混ざり合い、亀頭全体を塗りつぶしていく。口の中に広がるきついにおいに、たまらず舌が踊った。半円を描くように、唾液をまぶした舌が亀頭を這いずり回り、カリ首に沿って舐め上げていく。
下品な水音を立てながら行われるそれは、少女の唇と亀頭のファーストキスだ。未だ、避妊具越しにしかセックスを知らないペニスが、剥き出しのまま、ヤシェロに貪られている。
じゅぴっ、と透明な糸を引いて、深いキスは終わりを告げた。すっかり唾液塗れになった亀頭は、とろとろと先走りをにじませ、未知の快楽に震えていた。
びくびくと痙攣し、先走りを染み出させるハジメの男根は、とても可愛らしい。
「んぅ……ハジメのおちんちんと、キス、しちゃいました♥」
うっとりと眼を細め、舌なめずり。
先走り混じりの唾液を、リップクリームのように唇全体へ塗り広げる。そのきつい風味に、頭がくらくらした。ペニスのにおいで頭がいっぱいのヤシェロは、自分がどれだけいやらしいことを口にしているのかさえわからない。
不意に、ハジメの手が頭に触れた。少し、震えている。指がヤシェロの黒髪に分け入った──しばらく頭を撫でた後、山羊角を掴む。
電脳の拒絶反応は起きない。
ただ、幸せな気持ちでいっぱいになった。角を掴まれて、恋人のペニスに奉仕している。
愛し愛されながら家畜のように使われている、たまらない倒錯感に、下腹部がきゅうきゅうと疼いた。ブラジャーの下で、ぴんと立った乳首が、窮屈そうに自己主張していた。
この幸せをお裾分けしたくて、ますます硬くなった男性器に頬ずり──―自分の唾液と先走りの混淆液が、頬を濡らしていく。血流が集い、脈打つ海綿体の熱。まるで恋をしたように、ハジメのペニスに胸が高鳴っていた。
柔らかな少女の頬に男根がめり込む度、角を掴む力が強くなった。
それが嬉しくて、頬ずりをやめる。
もう、陰茎しか目に入らなかった。とびきり美味しいご馳走を前にしたみたいに、唾液が湧いて出る。右手を男根の根本に沿えて、口元と水平になるよう角度を調整。
そのまま、むしゃぶりついた。
「ちゅぽっ、んじゅぷ……んきゅぅ♥」
舌で優しく亀頭を迎え入れ、裏筋に沿って舌先で撫で上げる。
今や口腔全体が、ハジメに奉仕するための疑似性器──たったそれだけで、潮を吹いて達してしまう。下着に染みこむ分泌液の湿り気を感じながら、自分の今の恰好に思い至った。
白いシャツに厚手のショートパンツ、ズボン吊りを肩に引っかけたボーイッシュな装いのまま、淫らに、雌山羊として雄に奉仕する自分。
その惨めさに電流が走った。脳の奥で、ぱちぱちと火花が散る。
初めての口淫だというのに、ヤシェロの舌使いは熟練の娼婦の鮮やかさだ。初めてハジメに抱かれる前、仮想現実の夢の中で犯し抜かれた肢体は、無意識のうちに性感と性技を刷り込まれている。
頬肉でペニスを包み込むように口をすぼめ、舌先で鈴口を押し開く──瞬間、ハジメが声を上げた。
「ヤシェロ……!」
角を掴む指から、力が抜けた。
「んちゅぅ、じゅぷっ……♥ だひて、くらひゃぅうぅぅ♥♥♥」
亀頭が膨らみ、爆ぜた。
陰嚢を空にするかのような勢いの射精だった。
精液のにおい。お腹の奥が熱くうねる。敏感になっていた口腔に、粘つく子種汁が吐き出される。喉奥を直撃する精液にえづきそうになった──自然な生理反応を抑え込み、性玩具としての資質が開花する。
とろりと微笑みながら、精液を
客観的には不味いと感じていながら、改変体に塗りつぶされた五感が、糖蜜のような甘露に錯覚する。
口から男根を離して、床にへたり込む。
「んむぅ……♥」
ごくり、と。
ハジメの欲望をすべて飲み干すと、ヤシェロは、鼻に抜ける甘ったるい息を吐いた。
精液のにおいの混じる呼気。切れ長の目を随喜の涙で濡らし、頬を染めて、硬さを失わないペニスを見上げた。
「ハジメ……ごちそうさまでした♥♥♥」
逞しい雄に奉仕するよろこび──精液の残り汁を、ぺろりと舌で唇に塗り込む。
赤い唇が、白濁液でパステルピンクに染まった。
◆
すべて茶番であった。
そもそも、粛清執行官が不合理な生身の肉体を得たのは、ここ一〇〇〇年ほど最近のこと。宇宙を生活圏とするのであれば、データ人格や全身機械化の方が合理的で頑強な「生命の姿」なのである。
生来のものだというのなら、まだ、脆い器も受け入れられる。しかし実際のところ、彼女の種族が角人と呼ばれるようになったのは、この馬鹿馬鹿しい仕様──生身の人間をたらし込むためにあるような性玩具──の肉体を得てからのこと。銀河の支配種として、星の海を駆け抜けた存在として、受け入れがたいありようであった。
それでも。
長年の悲願を果たした粛清執行官にとって、生きる理由は極めて希薄であった。役目を終えた戦闘知性体として眠りにつくよりも、肉体人の真似事でもした方が、いくらか建設的に思えたのだ。
そうして、長い長い
粛清執行官は傍観者だった。感慨もなく、〈航海者〉の末裔を見守り続けた。何世代もの主が、志半ばで使命を果たせぬまま散っていった。
──今代の主の死が、その怠惰を終わらせた。
託されたのは、未だ、父母の死すら知らぬ子供。
胸を穿つのは、肉体的にも情報的にも消え失せた生命の痕跡を、未熟な電脳で探し回る少女の涙。
そのとき初めて、胸の内に熱が灯った。知性にまとった人格という殻が、偽りの情熱を孕み脈動した。せめてこの娘が、幸福になればいいと願ってしまった。
だから粛清執行官はここにいる。
遠い昔、滅ぼされた帝国の臣民ではなく、未熟な主を見守る従者として。