未来に転生!? 人類のためにセックスします!━スワンプマンは過去の性交に思いを馳せるか?━ 作:紫 和春
次に目が覚めた時には、彼の体についているチューブの数が減っていた。
また、頻繁にナースが出入りするようになり、点滴の交換や排泄の手伝いなどを受けた。羞恥心があったが、以前フェラされた時よりは恥ずかしくないため、比較的心は穏やかだ。しかし、以前からずっと全裸ではあるが。
彼のいる病室のような場所は、窓がなく、ただ真っ白な壁と天井、照明に囲まれていた。幸い時計が壁にかかっていたので、一日のサイクルは把握できる。
あの日……、フェラをされた日から数日ほど経った時、その女性の医者は現れた。
「被検体M-004、あなたとははじめましてね」
「は、はじめまして……」
「口の筋肉が回復してきているわね。昨日あたりからも肉体の再生も進んでいて、徐々に本来のあなたに戻りつつあるわ」
そういって女医は手元のタブレットで何かをチェックする。
女医は金色の短髪で、スラッとした鼻筋、大きめの胸、ホワイトのぴっちりとしたシャツ、かなり短いタイトスカートから伸びる長い脚、そして白衣を着ていた。
「ところで……、あなたの名前は? 私たちは被検体M-004としか把握できてないの」
「俺は……門原健治」
そのように彼━━門原は答える。
「門原ね。年齢は?」
「21歳……」
「生年月日は?」
「200Ⅴ年4月4日……」
「既往歴は?」
「ない……」
「これは自己申告でいいのだけれど、身長と体重は?」
「172センチ……、68キロ……」
「なるほど……」
女医は門原の情報をタブレットに入力していく。
「あなたのことは少々分かったわ。それと、こちらも自己紹介しておかないと」
女医は首から下げているネームプレートを見せながら、門原に名前を伝える。
「私は馬場サチ。ここの所長をしているわ」
「所長……? ここは病院じゃないんですか?」
「病院だったら、あなたは今、全裸ではないと思うのだけど?」
その言葉を聞いて、思わず羞恥心と背徳感でイチモツが反応する。
「ペニスに反応あり……。この間の精液の検査からも、あなたの肉体が健全であることを確認しているわ」
「あの……なんで俺はこんなことになっているのですか? ここに来る前の記憶も曖昧で……」
「そうなのね。記憶障害の可能性あり……」
それもタブレットに入力する馬場。
そして門原の目を見る。
「いいでしょう。あなたには知る権利があります。これから話すことは、ドッキリでも詐欺でもないわ」
馬場は一呼吸おいて、キッパリと言った。
「今あなたは西暦3504年、つまり36世紀にいるわ」
「……は?」
突拍子のないことを言われ、門原は呆然とする。それしかすることがなかった。
「現実が受け入れられないようね。そうなるのも無理はないわ」
「そんな……、嘘だ……」
「嘘でもなんでもなく、本当のことよ」
門原が呆然としていても、馬場は説明を続ける。
「ここはあなたが生きていた時代からおよそ1500年も経過した世界よ。これは間違いない事実。しかし、技術や文明レベルはあなたが生きていた時代より20年ほど進んだだけ。いまや世界の文明は停滞しているの」
「じゃあ……、なんで俺はこうして生きているんですか……?」
門原は馬場に質問する。
「確かにあなたは今、生きていると仮定することができる。でもその前はどうかしら? 記憶が曖昧な時期があると言っていたわね。世界五分前仮説と同じことがあなたの身に起きているわ」
「それってどういう……?」
「あなたは時空間物質参照装置という機械によって、過去から現代に呼び出されたのよ」
「呼び出された……?」
まだ混乱している門原に、馬場は口頭で教える。
「今いるあなたは、21世紀に存在していたあなたとは別人ということよ。厳密に言えば、21世紀という過去にいたあなたの体を構成している原子を全てスキャンし、それを元に36世紀で再構成したというわけ。あなた自身は5日前に生まれ、ここで肉体を馴染ませているの」
「俺は……、そんな変な研究やらなんやらに関わっていない……」
「そうでしょうね。我々36世紀の人間が行ったことだもの」
「えっ?」
「時空間物質参照装置は22世紀くらいに確立された理論と技術よ。現代から特定の過去にあった物質を読み取らせ、それを現代でそのまま完全にコピーする。つまり、時代を超えたスワンプマンみたいなものね。そして私たちは、この装置のことを便宜上タイムマシンと呼んでいるわ」
「スワンプマンって、思考実験で出てくる、あの……?」
「その通り。21世紀にいた本来のあなたはすでに死んでいて、時代を超えて36世紀に蘇ったのよ」
それだけで、門原の頭は爆発しそうだった。
それを察した馬場は、タブレットを抱え、部屋の扉へと向かう。
「現実を受け入れるのに時間がかかるでしょう。しばらく自分の中で消化させるといいわ」
そしてそのまま部屋から出ていった。
何もない白い部屋で、門原は全裸で放置されるのだった。