未来に転生!? 人類のためにセックスします!━スワンプマンは過去の性交に思いを馳せるか?━ 作:紫 和春
衝撃の事実を叩きつけられて、門原は少々気が滅入っていた。当然だろう。自分は本物のコピーで、しかも過去から未来に召喚されたようなものだと言われたのだから。
数時間後、病院で出てくるイメージが強い病衣と共に、論理的かつ技術的に時空間物質参照装置のことを説明した10ページ程度の資料が届いた。
ひとまず病衣を着て、資料に目を通す。
「技術的なことを言われても、ピンと来ないな……」
タイムマシンというのは、過去に戻ることができないと言われている。それは、エントロピーやエネルギーの問題で不可能と21世紀では説明される。
だが36世紀では、過去の状態を参照するだけなら、莫大なエネルギーを使わずに、かつ過去改変を含めたエントロピーの反転は起き得ないとして、実際に理論として確立した。そしてこの理論を、原子レベルで出力できる超精密3Dプリンターと組み合わせることで、人間一人程度を簡単に印刷、もとい召喚することが出来るようになったのだ。
とはいえ、実際に一人召喚するだけで、某県の予算が消えるらしい。いくら技術が進歩していても、難しいものなのだろう。
少々混乱していた門原であったが、だんだんとこの現実を受け入れられるようになってきた。
「まぁ、普段から希死念慮とか感じてたし、この際生まれ変わったと考えればいいかな……。こんな状況じゃ就労も難しいだろうし、しばらくはニート生活かなぁ」
そんな淡い期待を思い浮かべながら、門原は眠りについた。
翌日から、生活する上でのリハビリが始まった。理学療法士のアドバイスのもと、起き上がる、寝転ぶ、立ち上がる、座るなどといった基本的な動作を練習する。いくら肉体は健全ともいえど、プリンターによって構築された新品である。多少の練習は必要だろう。
(しっかし、どこを見渡しても女性しかいねぇな……)
門原の思っている通り、男性の姿はほとんど見当たらない。今のところ男性を見かけたのは、リハビリの内容を考えている総合診療科の医者だけだ。
(何かしらの事情があるのは察しているが……。一体なんなんだ?)
それ以外にも、門原には疑問に思っていることがある。
(フェラされてたのはマジでなんだったんだ……?)
性的かつセンシティブなことは、例え医療の現場であっても性別で分かれているはずだ。精液の提供なり検査なりするなら、門原本人に真っ先に伝えるべきだろう。
(その辺りをすっ飛ばしていることを考えるに、何かしらの壁にぶつかっているのかも……)
門原はそのように考える。
そして意外にも、答えはすぐやってきた。
それは、馬場による36世紀世界についての授業でのことだ。
「さて、基本的に36世紀の世界は、21世紀からほとんど変わりありません。使われている言語、文字、生活水準……。ただ、大きく変化していることは一つだけ」
「それは……?」
椅子に座った門原が聞く。
「男女比よ」
「男女比?」
「えぇ。この1500年で男性の数は大きく減って、世界人口の1%ほどしかいなくなったわ」
「1%……!?」
「そう。別の言い方をすれば、比率は男性1に対して女性は100。ほぼ女性しかいない世界になったわ」
「どうしてそんなことに……?」
「要因は主に三つよ。まず一つ、遺伝的多様性の淘汰が急激に加速したこと。次に、Y染色体の退化・消失が予想よりも速かったこと。最後に、人類社会における性の奔放性が上昇したこと。ほかにも原因はあるのかもしれないけど、これが主な原因とされているわ」
「えぇと……」
門原は頭を抱える。
「一度に言われても分からないわよね。順番に説明するわ」
馬場は順番に説明する。
「まず遺伝的多様性の淘汰。その前に、あなたは人類の祖先が一度滅びかけたことを知っているかしら?」
「えぇ、まぁ……」
「この時人口は1万人を下回り、絶滅の危機にあったとされているわ。その時に遺伝的多様性が低くなった。このボトルネック効果によって、人類の遺伝子はいずれ全て均一になり滅亡する、という予想も立てられてたほどよ」
「そんなことが……」
「これが原因一つ目。そして原因二つ目は、Y染色体の退化・消失。性染色体が性別を決定づけることは承知でしょうけど、この染色体の一つであるY染色体が退化・消失するというものよ。これは最新の学説では否定されているのだけれど、Y染色体の出現が一時的に低くなっているのが現状よ。これが女性が増えている理由ね」
「はぁ……」
「そして原因三つ目の性の奔放性の上昇。世の中が性的なことに鈍感になった、ということね。今の世界では公共電波や雑誌でセックス特集をするのは当たり前。公園での青姦も普通。その上昔は禁止されていた重婚も、現在ではごく自然なこととして受け入れられているわ。これがさらに遺伝的多様性の喪失を加速させている理由とも言われているわね」
「なんだそりゃ……」
門原にとってみれば、正直「知らんがな」の一言で終わりだ。
そんなことが顔に出ていたのか、馬場は言葉を続ける。
「自分には関係ない、みたいな顔をしているようだけど、完全に無関係というわけにはいかないわ」
そういって、馬場は門原の目を見る。
「あなたは人類の遺伝的多様性を取り戻すための、種馬候補なのだから」