未来に転生!? 人類のためにセックスします!━スワンプマンは過去の性交に思いを馳せるか?━ 作:紫 和春
それから毎日行っていた検査で、あらゆる項目が正常値かつその状態を維持していることが確認されたため、その検査自体がなくなった。
その他、居住地となる家の概要を聞いたり、秘書候補の書類選考、普段着の試着、念のため新生児用のワクチン接種など、割と忙しい日々を送る。
「しかし、中学生向けの勉強は必要ないと思うんだがなぁ……」
ここ━━厚労省外局である人類維持局の研究所━━から出たあとの、学習カリキュラムについての説明が書かれた紙を見て、門原はそんなことを呟く。
「常識を確認するという点では、勉強したほうが何かと有利だと思いますよ」
部屋に来ていたナースが、着替えた病衣を畳みながらそんなことを言う。
「そうですかね……。21世紀と大して変わらないんでしょう?」
「それもそうですが、貞操観念とか違うと思いますよ。現に今、私はムラムラしていて、門原さんに襲いかかりたいくらいですから」
「えぇ……?」
門原は思わずドン引きした。顔のビジュアルは良いので、そのギャップはものすごいものだろう。
「今の女性は大っぴらに性的なことをしてますし、逆に男性はポルノ雑誌なんかは読まないって人もいますよ。父がそうでした。21世紀とは違うでしょう?」
「まぁ、確かに違うと言えば違うんでしょうけど……」
そういった意味では、勉強することの必要性が見えてくるだろう。
「秘書になる人は、せめて常識的でありますように……」
そんなこんなで、転生から三週間ほど経過する。
ある晴れた日、門原はいよいよ研究所の外に自分の足で出た。研究所の外は、21世紀と特段何も変化がないように見える。
「3504年4月25日。門原健治君の門出ね」
馬場が正面玄関まで見送りに来ていた。それ以外に、研究所の職員が数名いるだけで、かなり殺風景であった。
「何かこう、花束を贈るとかないんですね」
「あくまであなたの存在は秘密ってことになっているわ。それに、花束を貰ったところで困惑するのが21世紀の男なんじゃないかしら?」
「まぁ……、俺の場合はそうかもしれないですね」
そんな話をしていると、一台の車がやってくる。特段何の変哲もないセダンタイプの車だ。
その運転席から、一人の女性が降りてくる。
「こんにちは! あなたが門原健治さんですか?」
「えぇ……、はい」
その女性は、どこかで見覚えがあった。ショートの髪、大きなクリッとした目、肩幅は小さいが胸はそこそこ大きく、キュッとしたくびれ、スラッとしているがハリのある脚。そんな女性が、軽装の長袖Tシャツとデニムのショートパンツで現れたのだ。
「はじめまして! 健治さんの秘書を拝命しました、南条エミです!」
「あぁ……! 南条エミさんね」
門原は思い出した。秘書兼メイドの書類選考で見たのだ。面接をしていなかったのですぐに思い出せなかった。
南条エミ、
(それはそうと、だいぶ元気っ娘な感じだな。正直悪くない)
性癖には正直な門原である。
「今日から彼女に身の回りのお世話をしてもらうから、よろしくね」
「はい! よろしくお願いします、健治さん!」
「よろしく……」
一応年下なのだが、どのように接すればいいのかいまいちよく分からない門原。挨拶も曖昧になってしまう。
「それじゃあ、今後の事は彼女を通じて連絡するわね。今は自分の生活リズムを取り戻すように努力してちょうだい」
「分かりました。お世話になりました」
そういって門原は車に乗り込んで、エミの運転のもと研究所を後にする。
車から眺める街並みを眺める門原。未来は荒廃していたり発展しているものだと勝手に思っていたのだが、どうやらそうではないようだ。
(21世紀と本当に変わりないように見える。本当にここは36世紀の未来なのだろうか……?)
何か騙されているようにも思えるが、ここまで壮大なドッキリを敢行する予算も人員も、果てには常識すらも門原のために捨て去る道理はない。門原はごく普通に21世紀を生きていた一般人だ。
「何か不思議な感じがしますね」
エミがそのように話しかけてくる。
「え? 何が……ですか?」
「あ、かしこまらなくていいですよ。私のほうが年下ですし、秘書兼メイドなので」
「あぁ……、うん。不思議な感じってのは?」
「私、人生で男性と関わったことないんですよ。この時代じゃ仕方ないことなんですけどね。それでも、こうして男性と関われるなんてラッキーだなぁって思う反面、私でいいのかなって考えることもありました」
「へぇ……」
「でも、せっかく健治さんが選んでくれたんですから、こうして頑張っていこうって思えるんです」
そんなことを話していると、車はとある一軒家の敷地に入る。
「到着しましたよ。ここが、今日から健治さんが暮らすおうちになります」
門原は車から降りて、家を眺める。ごく普通の一軒家である。国が用意してくれたとは思えないほどである。
「健治さんの荷物は、すでに中に運んでいます。荷ほどきはまだなので、ついでに確認もお願いします」
「わ、分かった」
家に入り、中の様子を確認する。リビング、キッチン、和室、風呂が一階にあり、階段を上がって二階には洋室が三つあった。
「こっちの部屋は健治さんの部屋で、こっちが私の部屋。そっちの大きな部屋はセックス専用にしています」
「なるほど……」
「基本的にこの家の中であれば、どこでもセックスできるようにしています。外から見られずに、防音もしっかりしていますから、すごいセックスでも大丈夫です」
「なるほど……?」
もうどのように反応すればいいのか分からない。とにかく生活に性交が混ざっていることはよく分かる。
「それじゃあ荷ほどきしていきましょうか」
リビングに戻り、積んである段ボールを開けていく。中は生活に必要な食器や調理器具で、荷物は意外にも少数である。あとは各部屋にある机やらベッドやらの大きな荷物だが、すでに組み立てられた状態で置かれているので、手を付ける必要はない。
「とりあえず、こんな感じですかね」
数時間ほどで荷ほどきは終わり、生活環境が整う。
「後は足りない日用品を買い出ししてきましょう」
時刻は15時前。買い物に行くなら今のうちだ。
「俺は家にいたほうがいい?」
「いえ。36世紀の常識を学ぶためにも、一緒に買い物に行きましょう」
こうして門原とエミは、近くのスーパーへとやってくる。そこで本日の夕食と、水回りに必要な雑貨などを購入する。
門原は途中でスーパーの中を見渡してみる。確かにどこを見ても女性ばかりで、男性の姿はほとんど見られない。
そして女性たちのほうも、物珍しそうに門原のことをチラチラと見ていた。
「なんか、不思議な感じだな」
「何がですか?」
「さっき南条さんは男性と関わっていることが不思議だっていってたよね。俺も21世紀では男だらけの大学に行ってたから、こうしていたるところに女性がいるのはなんか奇妙というか、不思議だなぁって思う」
「そうなんですか……」
「ごめん、なんの脈絡もない話だったよね」
門原は思わず謝る。
「いえ。健治さんは真逆の環境にいたってだけで、私たち似た者同士なんだって思えて、すごく嬉しい……」
エミの頬が少し赤くなる。
その反応を見た門原は、思わず彼女から顔を背ける。
(なんだその反応! まるで俺に惚れてるような口調じゃん! 違う違う違う、俺の勘違いだ! 南条さんは秘書兼メイド、俺の惚れてるなんてあり得ない!)
単純な脳をしている門原にとってみれば、女性と話をしているだけで胸の高まりが抑えられない。いったん冷静になろうと、深呼吸する。
「そっそれで、他に買い忘れとかなかったっけ?」
「これで全部ですね」
「お金とかってどうなってるの?」
「馬場さんが初期費用として一千万円渡してくれました」
「一千万……!?」
驚いている門原をよそに、エミは会計をする。
「合計で82万円になります」
「えっ」
「じゃあ百万円札で」
「えっ」
エミと店員の会話を聞いて門原は終始驚いていた。そしてそれが普通のインフレに相当するものだと分かったのは、帰りの車の中だった。