※この作品はR-18です。

凡人の在り方-Alternative-   作:空薬莢

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ーーその選択は破滅への点火剤

ーーその選択は終末への片道切符

ーーその選択は私が私たる証明

ーー故に選択しよう、その災厄を。




災厄の狼煙

 

 

 

 

スラムにはよく落ちている物がある。

死体と盗品だ。

何故そんな事を思い返すのかと言えば、帰りの足として現在進行系で“シンディ”を転がしているから。

セミナーに連絡は入れた。

死体の回収はC&Cと保安部で事足りるだろう。

個人的には、氷室先輩にも一報入れておきたいが……あの人も死体好きではあれども、真っ当な医療従事者である。

今現在助手席に座る変人(フロナ)とは違い、苦言を呈される事だろう。

「……で、マズイ状況って何かな?」

「……“ベイビー・ビスケット”。この名前に聞き覚えは?」

「戦術核無反動砲システムだね。というか、核兵器はキヴォトスでも連邦生徒会条約で禁止されてるよね?NBC兵器って呼び方で“生物兵器”(Biology Wepon)、“化学兵器”(Chemical Wepon)と一緒くたでさ」

 

ーー核兵器(Nuclear Wepon)ーー

 

外の世界に於いては、二度目の大戦から使われ始めた兵器群。

純粋な破壊力はそれまでの既存戦術、戦略級兵器を凌ぐものの……自然環境を破壊し、大半の生物が長期的に生存できない土地を作リ出す。

無論、環境破壊(それ)が主目的となる場合もあっただろう。……紀元前に於いては、敗戦処理的に環境破壊が大々的に行われた例がある。

とはいえ、この環境破壊性は核兵器全般の説明であり、各々の詳細はしていない。

まぁ、敵味方双方への人道的観点から非難される兵器であるが故、仕方無いとも言えるが。

「御名答。……でも、規制前に3回だけ学園間紛争で実戦使用されてる」

そう、キヴォトス内でも運用実績がある。

うち2回は百鬼夜行自治区に対して使われた筈だが……残り一回は何処だったか……。

いや、検討は付く。

大方レッドウィンター、山海経、光復連辺りの何処かだろう。

重要なのはキヴォトス内で(・)す(・)ら(・)3回、核兵器が使われたという事実の方。

「確か……トリニティ分校時代のM.S.S.の前身が百鬼夜行連合学園に2発ブチ込んだ紛争犯罪があったね。で、残り1回も光復連の内輪揉めにブチ切れたトリカスがーーだっけ?」

フロナの言葉通り、3発全部がトリニティ由来である。

厳密には三定協議以前のトリニティの分校の一つであったM.S.S. の母体が開発した物だが。

「……そうだね。流石に今はセミナーも厳重に管理している筈だけど」

「盗まれちゃった……って事?」

「出来ればガセネタであって欲しいけどね。もしくは違法コピー品がブラックマーケット経由で流れたか……」

違法コピー品の線が一番現実的か。

だとすれば……製造元の候補はレッドウィンター、山海経、光復連、ゲヘナの4校。

うちゲヘナは不良連中の悪ふざけが主因となるから、一番可能性は低い。残り3校は自治組織ぐるみでやりかねない。

とはいえ、元となるデータを流出させたM.S.S. 生が存在する筈である。

疑わしい生徒はーー

(元セミナー役員の“黒崎 コユキ”か?)

風紀委員時代の記憶を頼りに考えた場合の最有力候補。

穴を掘る事しか能の無い馬鹿共(温泉開発部)と食に取り憑かれた狂信者(美食研究会)に匹敵、或いは凌駕する特定災害じみたと同様に厄災だったか?

そもそも、キヴォトスの住人は悪い意味で現実を理解できないーー謂わば、“脳内お花畑”なーー奴ばかりであるが……。

「コピー品って……最悪の結論じゃん」

フロナが露骨に顔を顰める。

「国家のやる事としては普通」

その辺はフロナも理解している筈だ。

「まぁ、そりゃそうだけどさ。……で、ハユハはどうなると思うわけ?」

「……トリニティに核攻撃が敢行され、エデン条約調印式は大惨事。で、条約締結式を破綻させ引金は“M.S.S製大量破壊兵器”であるという“誤認”される。……一般人には使われた物が他自治区製のコピー品かどうかなんて分からないだろうしね」

自治組織は一般人よりは賢いが、軍事にまで明るいわけではない。

騙す事は簡単ではないが、難しくも無い。……いや、政(・)治(・)屋(・)の増えた現代では寧ろ年々簡単になって来ているが。

「……M.S.Sに“エデン条約”に介入する理由ってある?」

「私の知る限りは無い。だからこそ他校からすれば金銭的利益の為に条約違反を犯した狂人の学園として映る。……キヴォトス中から批難は免れず、M.S.Sの信用は地の底へと失墜。キヴォトス中の学園がM.S.Sを滅ぼさんとするかな」

端的に言えば集団リンチだ。塵すら残るまい……と、言いたい所だが……これが外の世界なら、M.S.Sの生徒は全員性奴隷として“出荷”となるだろう。

ヘイローの加護によって、なまじ壊れにくいが故に、男性には需要が高い。

……特にレイプ紛いの性行為を好む屑が多い某半島やその宗主国では。

「解決策のアテは?」

「M.S.Sが関与した証拠ーー該当兵器の破壊並びに犯人の殺害ーーの抹消。そうすれば起こり得る争乱に於いてM.S.S.は中立状態を維持できる。まぁ……C&Cやセミナー自体が動けば証拠隠滅の疑いが掛かると思うけど」

解決策自体は単純な事。

だが、往々にして集団同士となると単純では無くなる。

「まぁ順当に考えるならそうなるよね。ゲヘナの人からすれば薄情だけどさ。……それでもセミナー役員の胃が死にそう」

「学園の滅亡と比べれば些事」

ある意味で社会人としての“英才教育”が浸透しているトリニティ、その中でも特に性悪な御令嬢達(ティーパーティー)が相手となれば、M.S.S内で対抗できる存在は現在失踪中の調月 リオ位だろう。

とはいえ、出来なきゃ死ぬだけ。

危機に瀕してこそ、本来以上の実力が出せるものでもある。

「相変わらずハユハは手厳しい事言うよね……。で、核を持ち逃げした馬鹿を血祭りにするのもハユハなんでしょ?」

「勿論。セミナーがやりやすくなるから。死体であれ何であれ、私の見た目では『またゲヘナか』と誤認される。仮に偽装がバレても当該生徒は素行不良により退学処分済み……と、でも対外的にはシラを切り通せば何とかなる。おそらく……普段働かない万魔殿の羽沼議長(ルーピー)の相手ぐらいは必要だろうけど」

政治屋連中の相手ぐらいはセミナーにやってもらおう。

私にそういう能力は無いし。

適材適所ってヤツだね。

「昔から変わらないね。……ま、善悪や正義なんてものは先進者(勝者)の主観に過ぎないし当然か……」

“正しさ”の定義は時代によって異なる。……よく聞く、“勝者が歴史を創る”という事だ。

故に、本質的には善悪なんてものは存在し得ない。

誠実さは度が過ぎれば利用されるだけ。

その代表例が百鬼夜行の陰陽部だが、今は関係無い。

一人の命を切り捨て数千、数万人の命を守れる。安いもの。

計算するまでも無い。

単純明快な答え。ゲヘナの孤児でも分かる理論。

「M.S.Sの理念……多くの生徒が忘れているM.S.Sの設立理念。それ自体は“人類”としては尊い目的。復讐心に取り憑かれたアリウス派のクズ共(糞に集る蛆虫共)に……“ソレ”を踏み躙る資格は無い」

現在進行形でM.S.Sの未来は、自己の欲求で動く他人に脅かされている。

世間一般の道理としても“それ”は容認できるものとは言えない。

「……だから潰す。徹底的に、可能な限り。……命を挺しても完遂する。それが自由意思(目的)を持たない人形(私)の役割」

その為なら、M.S.S.に転(・)校(・)してきた部外者たる私が対処するのが最善。

一般論としても、“政治”の定石的にも。

「……どんなに努力しようとも、卑しい出自である事実は足枷足り得る。必ず、大多数の一般人よりは下の存在として扱われる。……私達ってそ(・)う(・)い(・)う(・)存(・)在(・)だったね……」

C&Cやセミナーの連中は何処まで行っても一般人(恵まれた存在)。

恵まれたクズ共(汚職者)しか知り得ずに生きている。

だから分からない。知りたいとも思わない。

口では『世界平和の為』、『平等の為』等と嘯く偽善者(政治屋)達と同じ。

上部だけの理解など、軽蔑と同じ。愚行だ。

「そう。何時の時代も、何処の集団でも下位の存在は“捨駒”として使い潰される。それが“宿命”であり、“運命”であり、屑が屑たる存在価値」

吐き捨てるように言うと共に、私達はM.S.S.自治区へと辿り着く。

 

 

 

数十分後ーー

M.S.S.に着くと共に、フロナと別れる。

曰く、届くであろう死体の受け入れを手伝って来るとの事だ。

腐っても医療従事者。当然と言えば当然の行動。

咎める理由は無かった。

故に私は学生寮に戻り、引き払い作業を済ます。

大して私物が無い部屋はすぐに片付き、荷物をケッテンクラート(愛車)の荷台に積載。

暫し校内を走り、実習棟の駐機場にケッテン・クラートを停める。

残る作業はエンジニア部から私物を回収する事だけ。

更衣室に入り、割り当てられていたロッカーから私物を抜き出す。

とはいっても、作業工具を収めた物を含めた数基のMPUだけ。

充分持って移動できる数であるし、ケッテン・クラートの荷台にも当然収まる。

纏めて担ぎ、退出。

(……此処ともお別れか)

漸く慣れてきた所だったが、状況的に戻る事も無いだろう。

だが、何故か感じる寂しさ。

(……それだけ、M.S.Sでの生活が楽だった?)

ゲヘナに比べれば、それは当然。

今更何を考えているのか。

実習棟からも出た所で、こちらに歩いてくる集団を確認。

部長達だ。

「今日は早いですね」

真っ先に話しかけてきたのはコトリ。

若干の隈が確認できる。

大方、オンラインゲームで睡眠時間を削ったのだろう。

青春の健全な過ごし方だが、素直に惰眠を貪れば良いものを。

「用件は済んだのかい?」

「えぇ」

続く部長の言葉に曖昧な返答を返し、横切る。

当然と言えば当然だが、部長達は作戦の事は知らない。

大方、セミナー側で情報を隠蔽しているのだろう。

在校生徒の心理面を考えるならば妥当な判断だと思うし、部外者が口を挟む理由も無い。

そもそもM.S.Sに居続ける理由も無いのだ。知る必要も無いだろう。

担いでいた荷物をケッテン・クラートの荷台に降ろした直後ーー

「………その荷物は何だ?」

ーー部長が口を開く。

すれ違い様に聞けばよかったものを。

それともわざとか。

「私物です」

「そういう事じゃない。私が聞きたいのはーー」

「本日付でエンジニア部を退部します」

部長も、直接言わないと駄目なのか。

「ーー退学処分を受けましたので」

それらしい理由を添えて。

既に退学願をセミナーに提出済みであり、仮に却下されようとも……今後の予定を鑑みて、良くて不登校。最悪、大規模破壊行為によって矯正局へ収監ーーつまりは犯罪者ーーになるのでどの道退学処分だ。

過程はどうあれ退学処分は退学処分。

“自主的”か“不名誉”かだけ。

未来を必要としなければ大差は無い。

荷締ベルトを締め、積載した荷物を固定。

後は部長達の問答が終わらせるだけ。

さて、どう出るのかは分からないが……手早くして欲しい。

「……嘘だな」

暫し間を置いた部長の結論はそれだった。

嘘と断じるには、表面上は正解であり、本質的には間違いだ。

「少なくとも輪廻は問題のある生徒ではない。退学処分を受けるような理由が無い。本当の理由は何だ?」

現状、部長達の知り得る情報を鑑みれば、そういう結論に達するのは必然。

だが、それは飽くまでも“通常は”の話。

ヴェリタスと関わりがあるエンジニア部に、先のセミナー及びC&Cとのデブリーフィング内容が漏れていない筈が無い。

……倫理観はどうした、と言いたい所だがキヴォトスにそんな物は無い。

「言う必要がありますか?」

「そう言うだろうと思ったよ。…………既にシャリーから事情は聞いている。……英雄にでもなるつもりかい?」

“英雄”。

実に空虚な言葉だ。

政治屋の思惑で作られた“偶像”に過ぎない存在に私がなるとでも?

「いえ、ただ“運命”に従うだけですよ」

全くお笑い草だ。……失笑を禁じ得ない。

やはり恵まれた存在には理解できないのだろう。

自身の限界の先は知り得ない。

当然だ。

「運命だって?」

ほらね。

部長の生きた十数年程度の人生が形成した自身の限界内でしか“輪廻 ハユハ”を解釈できない。

逆もまた然り。

私も私の限界でしか“エンジニア部”ーー“白石 ウタハ”、“猫塚 ヒビキ”、“豊見 コトリ”という存在を理解できない。

歩み寄り、理解し合い、学ぶ時間はとうに失われた。

「とにかく……もう部長達とも会う事は無いでしょう。短い間でしたが、お世話になりました」

結局、私は穢れた世界でしか生きていけなかった。

一時の夢は醒めた。

現実に向き合う時間。

決別の意思を込めて吐き捨てよう。

「……良い人生を。死を背負う人柱を以て叡智が救われん事を」

それが部長達が聞く、私の最後の言葉である事を願って。

 

 

 

 

 






以上、第9話でした。
通常版(Pixiv版)ではC&Cとの共同作戦である為、セミナーメンバーを交えたデブリーフィング回となっていますが、Alt版たるこちらはほぼフロナとの状況確認となっています。
また、トリニティ統合前にはミレニアムの前身もトリニティ分派の一つである、というのが本作の設定です。現実に於ける米国の建国経緯と似た面がありますね。
ですが、史実に於ける太平洋戦争の原爆2発と朝鮮戦争に於けるブチ切れマッカーサーの逸話は本作に於いてはトリニティがやった事になっている為、ある意味でトリカス度が増しています。
さて、では今回はこの辺で終わりましょう。
拝読ありがとうございました。
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