※この作品はR-18です。

凡人の在り方-Alternative-   作:空薬莢

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代償は選択と表裏一体。
だが、支払う義務は必ずしも当人とは限らない。




憎悪で歪む過去-中編-

 

 

 

 

拷問代行から数日後ーー

「……やっぱりか」

スマートフォンに送られた指示を一瞥し、吐き捨てる。

次の任務が決まった。

Окровавленная акула(赤鮫)の殲滅。

ゲヘナの不穏分子と結託して被害を出した以上、治安維持組織たる風紀委員会に下る指令としては当然。

とはいえ、私にまで出動指示が回るのはおかしい。

今回の案件は“戦争“ではない。

予想される戦闘規模を考えても後方支援要員に整備版は不要。

……そもそも、今まで一度たりとも(私を除いた)保守管理部が現場に駆り出された事は無いのだが。

(万魔殿(あの政治屋共)の策謀か……)

学園上層部からの受けが良くないのは知っている。

元スラム育ち故、それも至極当然の懸念事項。

ゲヘナでなくとも監視対象リストには挙がるだろう。

大方、事故(チープキル)で私を入院させて風紀委員会の稼働率を下げたい――と言った所か。

脳味噌に蛆が集るくらいに陳腐な……腐った発想。

そういうのは特定政治屋だけで充分……いや、万魔殿も似たようなものか。

「また厄介事?」

おそらく、顔に出ていたのだろう。

メグリが話しかけてくる。

「……鮫の駆除要請。私とメグリも強制参加」

「ハユハはともかく私も?嫌な予感しかしないよ」

「だろうね」

毒吐きつつ、ロッカー開放。

(今回は……火力支援以外も考慮しよう)

ほぼ確実に、最前線の露払いも含まれるだろう。

何しろ空崎先輩(最高戦力)は仕方無いとしても、銀鏡さん(鉄砲玉)すら出させない上に作戦指揮は件の万魔殿(クズ)。

どう足掻いても碌な事にならないフラグが立っている。対人地雷(サクス)並みに見えてる地雷。

とはいえ、曲がりなりにもゲヘナ自治区の管理団体は万魔殿であり、風紀委員会はその下部組織。体系的にも拒否権は無い。

型に嵌って生きる事に慣れるのも”大人”である。私達はまだ子供だが、10代後半(ハイティーン)は大人とも言える。

好きに生き、好きに死ねる時間はとうに過ぎているのだ。

故に、役割を果たそう。

(AL型とCS型、基数はそれぞれ1基ずつでいいか……)

携行装備構成の結論を出し、ロッカー内から該当するMPUと各種ホルスターを取り出す。

MPUのスリングを肩に掛け、両脚と腰に火器を収めたホルスターを巻く。

「「「部門長?」」」

待機中の部下数名が戦闘準備中の私に気付き、疑問を浮かべると共に、硬直。

その何れもが今年からの新入りである。

「あー……部門長が出るのかぁ……」

一方で、中等部時代からの古参勢(ふるかぶ)は遠い目。

「……黒花先輩、どうして目を逸らすんですか?」

当然、新参者は古参勢の一人である黒花(クロハナ) エリカに理由を問う。

「いや、部門長は元々武闘派でね……。本来は実働部隊の方にいるべき人員なんだ」

「武闘派?ただの社畜ですよね?」

聴こえてるよ。

しかし社畜扱いか。……間違ってはいないけど。

学生も広義の意味では職業の一種。学ぶ事が職務であり、金を払っている以上、一般的に想起される“社畜”以上に学生は社畜となる……かもしれない。

屁理屈だって?それはそう。

誰も聞いてない解説を脳内で繰り広げる私を尻目に、同僚達の会話は続く。

「……去年の中等部夏季定例訓練の事は知ってる?」

「あの“極限のウラー”事件の事ですか?噂程度は……」

あぁ、アレってそんな蔑称が付いていたのか。しかも大分昔のライトノベル由来って……。

「そう、それ。……あの時の教官、部門長と救急医学部のフロナ」

「嘘でしょ……」

「いや、本当」

「…………何なの……部門長……っ!?」

そこまで驚くものだろうか?

ごく普通の演習だった筈であり、何なら外の世界に於ける即席兵養成課程の丸パクリと言っていい。

何故そうしたかといえば、短期間で新入りの練度を上げる事を考えればアレが適当だったから。

まぁ、現行の倫理観では児童虐待やら洗脳教育の範疇である事は確か。

だが、ならば教官役にスラム育ち(私とフロナ)を据えた風紀委員会上層部の落ち度である。

苦情はそっちに言え。

(さて……そろそろ終わりにしよう)

時計を一瞥。

休憩は終了だ。

雑談を続けようとする同僚達へと向き直る。

刹那、黒花を含む古参勢の雰囲気が変わった。

「次の出動でも修理品は大量に出る。今回は万魔殿の私兵連中(バカ共)の装備品も含まれる。全員、覚悟は出来てるの?」

地獄(ハードワーク)だと察した古参勢は僅かに顔を顰めるが、すぐさま何時もの事だと諦観する。

慣れた者達の反応。

ある意味頼もしい限りだ。

「骨董品が来るって事ですか?銀鏡先輩のアレ以上の?」

だが、新入りの一人は未だに事の重大さに気付いていない。……いや、フリかもしれないが。

「アンタねぇ……。何処まで頭アッパラパーなの?万魔殿(連中)なら儀仗用の“GWS-88”を用いる可能性もあるし、何なら“ニードルガン”すら有り得るよ」

流石に見兼ねた黒花が呆れ交じりに嗜める。

他校ではマスケットの運用例もあるらしいから、ゲヘナもまだまだと言える。張り合う利点は無いが。

「嘘でしょ!?あんな物を?補修部品のストック無いですよ!?」

あると思っていたのか。

GWS-88が風紀委員会の制式装備であった時代は80年以上前の事。ニードルガンに至っては世界最初のボルトアクションライフルだ。

どちらも(純正の)補修部品がある訳が無い。

仮に残っていても近代化改修キットか山海経製の粗悪模造品であり、順当に考えれば近代化改修キットを組み込む方が定石。

とはいえ、それは出来ない可能性がある。

難癖が日課の万魔殿の事だ、完全に同じ見た目で無ければ“整備不良“として風紀委員会を吊るし上げる材料とするのが目に見えている。

「インゴットとオーク材の在庫は確保済み。砂、炉、型、金床(アンヴィル)もある。自作」

その為、部品の自作が必須。

テセウス問題は起こりうるが……どうだろうか。言い掛かりを付けそうだが。

面倒臭い。

「保守整備部門(ウチ)は鍛冶屋じゃないんですよ部門長!?」

「残念だけど出来るよ。部門長に扱かれた私達は。ね、皆?」

黒花が確認するように視線を向けた古参勢は皆一様に首肯。

中等部からずっと万魔殿による有形無形の”嫌がらせ”を捌いてきたのだ。このぐらいは出来て当然。

「嘘でしょ…」

「それが現実。ゲヘナでマトモを演じる以上、無理は必要経費」

……まぁ、そういう事が罷り通るのは本来、百鬼夜行自治区の方である。所謂“KAROSHI”だ。

「今の内に技量を磨いておけばいい。実践しなければ技術は習得できない。……それにーー」

振り返り、メグリを一瞥。

まだ準備中。

向き直る。

もう少しだけ……下らない問答を続けよう。

「後……念の為、私が帰って来れない場合も想定して。死ぬ可能性だってある」

「部門長が死ぬ状況って何です?……空崎先輩とトリニティの戦術兵器と暴力チビメイドとピンクの剃刀が徒党を組んで敵対するぐらいじゃないですか?」

……それは誰にとっても絶望だよ。

「仮定の話。……早々死ぬ事は無いけど」

寧ろ死ねるなら死にたいが。

「ですよねー。部門長が寿命以外で死んでる姿なんて想像できませんよ」

「……だろうね」

自嘲気味に吐き捨て、背後を再度一瞥。

「メグリ、終わった?」

「大丈夫。……今回も観測手(スポッター)をやればいいでしょ?」

「……それだけが可能ならね。短機関銃(Maschinen Pistole)ぐらい装備したら?」

メグリの得物を指して言う。

銘は“ルニコ・フィナーレ”。

ワイルドハント自治区製リボルバーをベースにしたマグナム弾仕様。

熊や像を撃ち殺す用な物故に、対人用では過剰火力な上に、継続火力に難がある。予備兵装(バックアップ)としても無理がある。

“GWS-05/MP”くらいなら簡単に入手できる。何故使わない?

「ハユハ程場馴れしてないのに、最前線で戦えないよ。精々、ハユハのサポートに徹するのが関の山」

……なるほど。自分の実力を理解したが故の選択か。

無理強いは出来ないし、どうせ先達(ポイントマン)は私だ。

盾と矛になればいい。簡単な事じゃないか。

「だろうね。……後は任せた、黒花」

「皆、留守番お願いね?」

「「「「「了解!」」」」」

部下達の号令を背に、私とメグリは作業場を後にする。

 

 

 

数時間後ーー

「目標地点に到達」

朽ちたコンクリートジャングルの一角に身を潜めた私は無線機に呟く。

周囲に友軍は存在しない。

当然だ。

……私達が先達なのだから。

『こちらの展開にはまだ時間が掛かる。別命あるまで待機せよ』

「了解」

無線切断。

(あの無能共……)

偉ぶりやがって。所詮は“バターバー”だろうに。

だが、仕事は果たそう。

人として。何より、仕事人として。

MPU展開。

“GWS-24AS/AMR”を取り出す。

2脚架(バイポッド)展開。

フリップアップカバーを跳ね上げ、膝立ち姿勢(ニーリングポジション)に移行。

鮫の群がる家屋を覗き込む。

(装備は”AR-974”と“974-U”、”S-12”か)

S12持ちは手早く潰した方が良さそうだ。

「建物正面から向かって2時方向、3000m先に機関銃手3、狙撃手2」

流石に支援火力も有り。

「装備は?」

「RPRとSVRw」

とはいえ、分隊支援火器止まりか。

有効射程はそこそこだが、脅威度は充分に高い。

減音器(サウンドサプレッサー)を装着。

気休め程度……一応の隠蔽。

対物ライフルかつ射距離3マイル以下の条件なら……どうせ1発でバレる。

「すぐに移動出来る準備を」

「了解」

メグリも膝立ちに姿勢変更。

『展開完了。敵に動きはあるか?』

直後に入る無線。

「現状、変化は確認出来ない。だが、敵対勢力に数名の火力支援要員を確認」

『種別は?』

「狙撃手2、機関銃手3。何れも装備は分隊支援火器の域を出ない」

淡々と返し、狙点の調整を進める。

『そちらで対処できそうか』

こういう風な指示が来るだろうからね。

「可能」

『火力支援要員を排除せよ。貴官の発砲を合図にこちらも攻撃を開始する』

「了解」

短く応え、呼吸を止める。

発砲。

結果を待たずに、照準修正。

もう一人の狙撃手に合わせ、発砲。

同時に跳ねるように大地を蹴る。

「ポイントβへ移動」

「命中。対象ダウン。……もう一人ダウーーって、早いよハユハ!?」

非難しつつも、メグリは問題無く追随している。

そうでなければ意味が無い。

実際、数瞬後に元いた地点を弾雨が通り過ぎる。

反応が速い。

やはり有象無象の不良共とは出来が違う。

面制圧で薙ぎ払う。

狙撃手相手の対抗策としては教本通りの行動。

腰に提げていたリモコンスイッチを握りーースイッチを押下。

遠くで栓の抜けるような軽い音が断続的に響く。

事前に設置していた迫撃弾の発射音である。

装弾は催涙ガス弾。

脚を止める事が主目的故、狙いはそこまで正確じゃない。

そもそも、精度の低い迫撃砲の急造趣きの強い迫撃弾に精度を求める事自体が間違いではあるが。

響く弾着の音。

位置的に考えると迫撃弾の配置場所。

(掛かった)

もう一つのスイッチを押下。

発射器を爆破処理。

これで奴らは脅威を潰せたと考えるだろう。

ポイントβに着き、勢いそのまま伏射姿勢に移行。

照準器を覗く。

暗視機能(NVモード)起動。

立ち昇る煙の中に潜んでいるであろう機関銃手を探す。

(見つけた)

掩蔽体に隠れ、周囲を警戒している。

息を吸いーー止める。

発砲。

すぐさま照準修正。

息を止める。

発砲。

片手を地面に付け、ハンドスプリングの要領で立ち上がる。

「ポイントΓに移動。最後の機関銃手を排除し、継続して火力支援」

「了解」

次の狙撃地点へと急ぐ。

追撃の弾雨は明らかに沈静化する。

有効射程を鑑みれば、私達を狙える火器はほぼ残っていないのだ、当然の結果。

(とはいえ……油断は出来ない)

飽くまで私達の任務は露払い。

[[rb:万魔殿>お客様]]が快適な“狩り”を出来るように環境を整える役割。

目標地点は目前。

到着と共に身を投げ出し、“GWS-24AS/AMR”を構え、照準。

発砲。

「目標ダウン。任務クリア」

効果判定を告げたメグリがそのまま指揮官への報告も済ませる。

『了解。全隊、突入!選択を後悔させてやれ!』

無線の先で銃声と罵声が鳴り響く。

始まったか。

「支援射撃の準備だけはする」

「了解」

マグキャッチ開放。

空弾倉を抜き、予備と交換。

コッキングレバーを引き、初弾装填。

構え直した直後ーー

「っ…ぐっ!?」

突然の衝撃。

口と腹から血と肉片が噴き出す。

(射角は……背後か…っ!)

確認出来た所で、もう遅い。

腹に大穴が開いたのだ。

心臓と肺は勿論、内臓の大半が消し飛び、致命傷。

もう……助からない。

(不味いなぁ……)

視界と思考が緩やかに暗転する。

死神の“お迎え“にしては随分と早いなぁ……。

 

 

 

朱と黒に染まった視界。

“死”

万人に訪れる最後。

個として自我が失われ、また新たな“個”となる転換点。

それが普通。それが真理。

……その筈だった。

「ーーじゃねぇかーーだがーー悪くーーってーー?」

何処か下卑な男の声。

朧げではあれど、何を言ったのかは理解できる。

何度も何度も繰り返し刻み込まれた現実。

だからこそ、“私”が取る手段は1つだけ。

「あ"っ!?」

色と光を取り戻した視界。

中央に映る、薄汚れた男。

その首には白い細腕ーー私の腕ーーが伸びている。

「触れるな」

力を込める。

盛大に破砕音を響かせ、男の頚椎が砕け散る。

即死だ。

立ち上がり、死体を投げ捨てて周囲を見回す。

メグリの姿は見えない。

だがーー

(やっぱりか……)

私からやや離れた場所に、肉片の浮かぶ血の池が出来ている。

考えるまでもない。

メグリ“だった物”。

証拠というべきか、赤く汚れた“ルニコ・フィナーレ”も転がっている。

ソレを拾い上げ、血を拭う。

(……分かっていたのにな)

こうなった主因は想像に難くない。

万魔殿だ。

(…………帰ろう)

そして愚行の代償を払わせよう。

 

 

 

 







ーー以上、第12話でした。
特段、解説する事も有りませんね。
実質今回もPixiv版からの加筆修正修整は誤差レベルだし。
……とはいえ、致命的なミスを放置していたわけですが。
マイルとヤードを間違えていた、という点です。※修整済み。
本文中で3“マイル”(約4.8km)の所を3“ヤード”(約2.1m)と誤記していたわけです。
とんでもないミスですね。……指摘してくれよ。

では今回はこの辺。
拝読ありがとうございましたーー


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